ミニレポート
風景撮影でのポテンシャルに迫る
(SIGMA dp2 Quattro)
Reported by 礒村浩一(2014/9/1 08:00)
Foveonセンサー新世代となるFoveon X3 Quattroセンサーを搭載したシグマの「dp2 Quattro」。今回はその高精細な描写を存分に活かせそうな北海道の風景を撮影することで、ポテンシャルに迫ってみたい。
dp2 Quattroで撮影した画像の最大の魅力は、やはり驚くほどに高精細な解像力にある。これはFoveon X3 Quattroセンサーの精細さと同時に、固定式である単焦点レンズの、周辺までキッチリと描写することができるレンズ性能の高さに依るところも大きい。また固定レンズであるからこそ可能となる、ボディとレンズ一台一台の完璧なマッチングの成果でもある。これによって得られる解像力は、風景撮影において絶大なる強みとなるだろう。
自然風景における多くの被写体は、木々の枝であったり葉であったりと細やかな造形物である。これらの造形は実に幾何学的でもあり、かつ独創的な配置となっている。風景撮影を多く行なっているとこれらの図形的な面白さに気が付くはずだ。実はこれこそが、自然が織りなす不可思議なパターンとそれに支えられた生命力の根源なのだ。
一見ランダムに思える葉の生え方にさえ数学的な配置があり、それは葉と葉の重なりを最小限にするという自然の知恵なのである。葉で日光を最大限受け取り光合成を効率よく行なうためだ。そのパターンを明確に分離させ表現できる解像力を持つdp2 Quattroは、まさに自然により創り出された造形美を捉えるにはうってつけな描写力を持ったカメラだといえる。
今回の撮影地は夏の北海道だ。北緯にして41度から45度前後の間に位置する北の大地の夏はとても短く、7月の後半にようやく夏らしい気温になったかと思うと、お盆明けの8月半ばを過ぎると一気に秋の気配が迫ってくる。さらに今年の夏は例年以上に雨天が続き、およそ20日間にわたり滞在した撮影期間の大半が雨天もしくは曇天という状況であった。
ただ、雨に湿る北海道の景色も決して悪いものではなく、草木の瑞々しさや湖や川に湛えられる豊かな水など、自然の深い懐を感じ取る事ができる。これらが発する厚い色味や層を織りなす膨らみを、dp2 Quattroは余すところなく表現してくれる。くっきりと描くべき箇所はまるで自分の眼で見ているかのごとくクリアに、そこから離れゆく背景は柔らかでありながらも、そこにある気体をも写し出すかのような現実感へと繋げてくれる。写真とはそこにあるすべてのものを紡ぎ合わせる作業なのだという事に、あらためて気付かさせられるのだ。
決して万人に奨められるカメラとは言えないが、この感覚に気が付くことさえできれば、dp2 Quattroは撮影者が感じる時間と空間をまるで「くり抜き樹脂で固める」ことができる秘密の函のようにさえ思えてくるはずだ。