ミニレポート

風景撮影でのポテンシャルに迫る

(SIGMA dp2 Quattro)

Foveonセンサー新世代となるFoveon X3 Quattroセンサーを搭載したシグマの「dp2 Quattro」。今回はその高精細な描写を存分に活かせそうな北海道の風景を撮影することで、ポテンシャルに迫ってみたい。

冷たい沢に腰まで浸かりながら渓谷を撮影。岩肌と空へと伸びる木々の広がりを人の視野角に近い構図で捉えた。ISO100 / F8 / 1/15秒
沢床の岩に生える草葉に近づき絞りF2.8開放で撮影。手前の葉と奥の岩場のボケ方がとても自然。ISO100 / F2.8 / 1/60秒

dp2 Quattroで撮影した画像の最大の魅力は、やはり驚くほどに高精細な解像力にある。これはFoveon X3 Quattroセンサーの精細さと同時に、固定式である単焦点レンズの、周辺までキッチリと描写することができるレンズ性能の高さに依るところも大きい。また固定レンズであるからこそ可能となる、ボディとレンズ一台一台の完璧なマッチングの成果でもある。これによって得られる解像力は、風景撮影において絶大なる強みとなるだろう。

自然風景における多くの被写体は、木々の枝であったり葉であったりと細やかな造形物である。これらの造形は実に幾何学的でもあり、かつ独創的な配置となっている。風景撮影を多く行なっているとこれらの図形的な面白さに気が付くはずだ。実はこれこそが、自然が織りなす不可思議なパターンとそれに支えられた生命力の根源なのだ。

一見ランダムに思える葉の生え方にさえ数学的な配置があり、それは葉と葉の重なりを最小限にするという自然の知恵なのである。葉で日光を最大限受け取り光合成を効率よく行なうためだ。そのパターンを明確に分離させ表現できる解像力を持つdp2 Quattroは、まさに自然により創り出された造形美を捉えるにはうってつけな描写力を持ったカメラだといえる。

湧水地から湧き出る清水のしぶきを全身に浴びながら、森の木々の力強さにレンズを向ける。若い緑の葉と木の表皮の皺をリアルに描写。ISO100 / F11 / 1/8秒
山間をとうとうと流れる渓流を見下ろす。前日まで降り続いた雨で増水した川が上流より巨木を押し流してきた。むせるような濃い緑の深さに自然の瑞々しさを求める。ISO100 / F5.6 / 1/100秒
雲間から覗く夕陽。夕闇迫るブルーな世界とぽっかりと空いたオレンジ色の夕焼けの深く濃い色合いが郷愁を呼び覚ます。ISO100 / F5.6 / 1/15秒
山々の中腹に広がる牧場。深い緑と雲のグラデーションが景色に厚みを持たせてくれる。ISO100 / F8 / 1/100秒

今回の撮影地は夏の北海道だ。北緯にして41度から45度前後の間に位置する北の大地の夏はとても短く、7月の後半にようやく夏らしい気温になったかと思うと、お盆明けの8月半ばを過ぎると一気に秋の気配が迫ってくる。さらに今年の夏は例年以上に雨天が続き、およそ20日間にわたり滞在した撮影期間の大半が雨天もしくは曇天という状況であった。

広がる湖と夕陽に照らされる山。F8まで絞り込み画面全体を均一な描写とした。木々の細やかな部分までしっかりと描写されている。ISO100 / F8 / 1/60秒
一面のひまわり畑。深い色あいが空気感までも写し込むかのよう。そこにいた記憶を写真に定着してくれる。ISO100 / F4 / 1/400秒

ただ、雨に湿る北海道の景色も決して悪いものではなく、草木の瑞々しさや湖や川に湛えられる豊かな水など、自然の深い懐を感じ取る事ができる。これらが発する厚い色味や層を織りなす膨らみを、dp2 Quattroは余すところなく表現してくれる。くっきりと描くべき箇所はまるで自分の眼で見ているかのごとくクリアに、そこから離れゆく背景は柔らかでありながらも、そこにある気体をも写し出すかのような現実感へと繋げてくれる。写真とはそこにあるすべてのものを紡ぎ合わせる作業なのだという事に、あらためて気付かさせられるのだ。

決して万人に奨められるカメラとは言えないが、この感覚に気が付くことさえできれば、dp2 Quattroは撮影者が感じる時間と空間をまるで「くり抜き樹脂で固める」ことができる秘密の函のようにさえ思えてくるはずだ。

真っ青な海と空。静かな海面の細やかな模様の描写に眼を奪われる。ISO100 / F8 / 1/250秒
山腹より望む街の夜景と星空。暗い空の下、煌びやかな街の明かりが人の息づかいを感じさせる。ISO100 / F2.8 / 30秒

礒村浩一

(いそむらこういち)1967年福岡県生まれ。東京写真専門学校(現ビジュアルアーツ)卒。広告プロダクションを経たのちに独立。人物ポートレートから商品、建築、舞台、風景など幅広く撮影。撮影に関するセミナーやワークショップの講師としても全国に赴く。近著「マイクロフォーサーズレンズ完全ガイド(玄光社)」「今すぐ使えるかんたんmini オリンパスOM-D E-M10基本&応用撮影ガイド(技術評論社)」Webサイトはisopy.jp Twitter ID:k_isopy