交換レンズレビュー

16-300mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD MACRO

世界最高倍率レンズの描写は?

 「16-300mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD MACRO」は、高倍率ズームレンズのパイオニアであるタムロンが満を持して発売した、約18.8倍の新型レンズである。

今回はEOS 70Dで使用した。キヤノン用とニコン用は4月に発売済み。ソニー用も順次発売する。実勢価格は税込7万7,000円前後

 APS-Cセンサーのデジタル一眼レフ専用であり、従来は18mm止まりだった広角端の焦点距離を16mmという本格的な超ワイド域まで拡大させたのが最大のウリ。望遠端も超望遠域の300mmまで伸ばし、1本の交換レンズがもつ守備範囲の広さはライバルの追従を許さぬ勢いだ。

 非球面レンズやLDレンズなどの特殊硝材をふんだんに採用した最新設計により倍率を上げながら、常用レンズとしての高画質を維持。超音波モーター「PZD」による速く静かなAFや、全域で効果を発揮する手ブレ補正機構「VC」など、もちうる技術を全て投入して完成した最強のオールマイティーレンズといって過言でない。

デザインと操作性

 従来の「18-270mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD」からデザインは一新され、直線を基調としたズーム・フォーカスリングなど、各部の質感がより高くなり、スタイリッシュで高級感のあるものとなった。

新たな設計によって小型化と高画質の両立を図った光学系を採用

 特に、これまでタムロン製レンズの外観的特徴となっていた金色のブランドリングがタングステンシルバーに変更されたのは、外観上で重厚感を演出する重要なポイント。デジタル一眼レフボディとのデザイン的なマッチングは良好で、この変更を喜ぶユーザーはきっと多いことだろう。

 本レンズ最大の特徴は、世界初となる約18.8倍のズーム倍率であり、今回使用したキヤノン EOS 70Dの場合だと、35mm判換算で広角端が焦点距離25.6mm相当、望遠端が480mm相当となる。ファインダーを覗きながら、広角端から望遠端まで一気にズーミングした時の画角変化はまさに圧巻。

望遠端(300mm)に鏡筒を伸ばした状態。ズーミング操作はスムーズかつ正確に行える。

 目下のところ超広角域から超望遠域までを1本で楽しめる最高の交換レンズといって間違いない。ズーミング操作はリングを約1/4回転させることで伸縮できるが、鏡筒は精巧でガタつきなどもなく、スムースかつ正確に好みの焦点距離にセットすることができる。

 超音波モーターPZD(ピエゾドライブ)が採用されているため、AFは大変に速く、静かである。例えがよくないかも知れないが、超音波モーターを搭載した各種純正レンズと比較しても、通常の撮影条件でその差を感じることはまずないだろう。像面位相差AFによるキヤノン EOS 70Dのライブビュー撮影でも、AFの挙動に問題は見られず快適であった。

鏡胴にはAF/MF切替スイッチ、VCスイッチが並ぶ。AFのままでもフルタイムMFが可能

 PZD自体は前モデルにも搭載されている機構であるが、本レンズではさらにフルタイムMFが可能となり、AF/MF切替スイッチをAFにしたままでもピントリングを回して手動でピントを合わせができ便利である。

 また、鏡筒の距離目盛が透明の樹脂でカバーされた窓タイプとなり、高級感が増すとともに目測での距離合わせの利便性が向上した。ピントリングの感触は適度なトルクで滑らかであり、MFでの操作性にも十分な配慮がなされている。

距離目盛は窓の中に表示されるタイプになった

 大きさは、最大径が75mmで長さが99.5mm、重量が540gとなっている(大きさ、重量はニコン用)。従来モデルが最大径74.4mmで長さ96.4mm、質量450gなので、実はやや大型化している。フィルター径も62mmから67mmとアップしているが、約18.8倍のズーム比をもつ光学系とさまざまな機構を収めながら、このサイズは決して大きいものではない。

 実際に使っていても、大きさや重さを苦に感じることはまったくなく、本レンズの便利さに対して、コンパクトにまとめられていることにただただ感心するばかりだった。

花形フードが付属する

遠景の描写は?

 まず広角端を見てみよう。絞り開放での描写はいくぶん解像感が甘く周辺減光も大きいが、わずかに絞ってF4にするだけで大きく改善される。特に四隅の画質改善は顕著で、F5.6~F11でその差が解消され画面全体がほぼ均質となる。F16からは回折の影響が強く解像感は低下してゆく。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。

広角端

以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F3.5
F4
F5.6
F8
F11
F16
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F3.5
F4
F5.6
F8
F11
F16
共通設定:EOS 70D / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 16mm

 望遠端ではF6.3が開放F値となるが、やはりこの場合も少し絞った方が画質はよくなる。開放から中央部の画質は安定しており、解像感にはさほど大きな違いは見られないが、1段絞るとコントラストが格段に向上し、F8~F11の間でメリハリの効いた画を得ることができる。

 ただし、周辺部は中央部に比べると描写が弱く、被写体によってはいくらか倍率色収差が目につくこともあった。

 F16以降はやはり回折の影響で画質は低下する。

望遠端

以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F6.3
F8
F11
F16
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F6.3
F8
F11
F16
共通設定:EOS 70D / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 300mm

 さすがに単焦点レンズのように、シャープで収差のほとんどない画質を望むのは無理があるが、小さなボディで18.8倍の高倍率の常用レンズであることを考慮すれば、申し分のない画質だ。

また、広角端に至っては高倍率ズーム初の16mmということもあり、十分使える画質に仕上がっていることをむしろ評価したい。

ボケ味は?

 最短撮影距離はズーム全域で39cm(撮像面から)と、かなり被写体に近寄って大きく写すことができ、名称に「MACRO」が表記されている所以である。そのため、開放F値こそ広角端でF3.5、望遠端でF6.3と大口径ではないものの、高倍率ズームとしては大きなボケを得ることのできるレンズといえるだろう。

 広角端16mmでのボケ味は、前ボケ、後ボケともやや硬めな印象。特に、後ボケは条件によって二線ボケが発生してうるさく感じることもあるかも知れないので、それを避けたいのであれば、主要被写体と背景の距離・撮影条件に注意をした方がよいだろう。

 ただし、ズームレンズとしては決して悪い部類のボケでなく、ボケ味に特段のこだわりがなければ通常問題となるレベルではない。

広角端

絞り開放・最短撮影距離(39cm)で撮影。EOS 70D / 1/750秒 / F3.5 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 16mm
絞り開放・距離数mで撮影。EOS 70D / 1/250秒 / F6.7 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE / 16mm
絞りF5.6・距離数mで撮影。EOS 70D / 1/180秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 16mm

 被写体との距離が1m以上になると、広角端16mmでは絞り開放でも被写界深度はかなり深いため、大きなボケは期待できなくなる。それでも撮影距離が1~2mであれば前後はそれなりにボケる。やはりわずかに硬さを感じるボケ味ではあるものの、超広角といってよい画角を考えれば違和感は特に気にならない。

 広角端16mmで2段ほど絞ると、被写界深度はいよいよ深くなり、被写体との距離が数mも離れるとほぼパンフォーカスとなる。

 望遠端300mmでは、F6.3といえども被写界深度が非常に狭く、そのぶん大きく溶けるような後ボケを得ることができる。合焦部からのボケのつながりも悪くない。

望遠端

絞り開放・最短撮影距離(39cm)で撮影。EOS 70D / 1/90秒 / F6.3 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE / 300mm
絞り開放・距離数mで撮影。EOS 70D / 1/180秒 / F6.3 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE / 300mm
絞りF11・距離数mで撮影。EOS 70D / 1/90秒 / F11 / +0.5EV / ISO400 / 絞り優先AE / 300mm

 超望遠の被写界深度の浅さを生かすことで、被写体と数m離れてもまだまだ大きなボケを得ることが可能だ。ボケ味もなかなか素直で乱れも少ないので、被写体と背景との距離を工夫すればさまざまなボケの演出を楽しむことができる。

 ただ、望遠端の最短撮影距離ではワーキングディスタンスを大きく取ることができず、レンズ先端と被写体との間に別の被写体を入れることが距離的に難しいため、前ボケに関してはそれを見る機会自体が少ないのが実際のところだ。作例のようにレンズに接触するくらいで入れれば、大きく綺麗なボケを画面に配置することができる。

 望遠端では、2段絞ってもまだある程度ボケ効果を得ることができる。本レンズは円形絞りを採用しており、2段絞り込んだ状態までは絞りの形が円形を保つようになっている。背景の玉ボケは円形を保ちボケは質もよい。絞ることで合焦部の画質も向上するため、ボケの中に浮き上がった被写体との対比をバランスよく写すことができる。

逆光は?

 作例は、焦点距離を広角端16mmとして、なるべくゴーストが発生しやすい位置を探しながら太陽を画面内に入れて撮影したものだ。

 太陽の位置によってはゴーストが発生することもあるが発生の範囲は比較的限られており、また発生の仕方も素直なのでゴーストを画面に入れた作画もしやすい。太陽の位置を変えることでゴーストの発生は抑制できるので、強い光が画面内にあるときは留意するとよいだろう。

太陽が画面内に入る逆光で撮影。EOS 70D / 1/350秒 / F5.6 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 16mm
太陽が画面外にある逆光で撮影。EOS 70D / 1/250秒 / F5.6 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 16mm

 太陽が画面に入らないが、直射光が前玉に当たっているような条件では、画面内に雲のようなフレアが発生した。しかしこれは付属の花形フードを装着することで簡単に回避することができる。高倍率ズームの広角端であることを考えれば優れた逆光耐性だといえるだろう。

作品

絞り開放、最短撮影距離、望遠端でサボテンの一部を切り撮った。目に付いた小さなものを撮るのに便利なので結果的にこの設定は多用する。サボテンの質感や針の透明感などよく描写できている。EOS 70D / 1/250秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 57mm
民家の庭先に咲いていた花が綺麗なので記念に撮影した。望遠側(この場合焦点距離173mm)の撮影では、少し絞るとコントラストが向上し、円形絞りのおかげで背景ボケも柔らかく綺麗に写る。EOS 70D / 1/180秒 / F8 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE / 173mm
巣で卵を抱く母鳥を心配そうに(?)見ているもう一羽が微笑ましく感じた。焦点距離66mmで撮影。焦点距離ごとに画質や画角はさまざまな表情をみせる。ズーム端だけでなく中間の焦点距離も積極的に使いたい。EOS 70D / 1/90秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 66mm
焦点距離16mmと18mmは、数字の差以上に画角の変化が大きい。被写体と距離があると散漫な写真になりやすいので注意したい。満開のシバザクラにグッと近寄って、ダイナミックに写してみた。EOS 70D / 1/250秒 / F8 / +0.5EV / ISO100 / 絞り優先AE / 16mm

まとめ

 高倍率ズームは根強い人気があり、デジタル一眼レフの最初の交換レンズにこれを選択する人も多いという。確かに、究極の画質を求めて頻繁にレンズ交換するのも写真撮影の楽しみのひとつではあるが、日ごろから複数のレンズを持ち歩くのは辛く面倒な話である。

 そう考えると、倍率が高く画質も必要十分、マクロ撮影もできて操作性も抜群によくなった本レンズが、多くの人にとって待望の1本であるのも頷ける。

 ただ、1つ心配なのが、望遠端での撮影を安易に考えないようにした方がよいということ。本レンズの手ブレ補正機構の能力は優秀で、常に手ブレによる写真の失敗を軽減するように働いてくれるものの、焦点距離300mmの超望遠となると撮影者自身の手ブレに対する心構えも必要。

 また、広角端にしても25.6mm相当(キヤノン機の場合)の超ワイドとなると、よほど考えて構図をつくらないと散漫なだけの写真になる危険が大きい。使いこなすにはそれなりの心構えが必要だということを理解してもらいたい。

 オールマイティなレンズだからこそ、いつでも便利に使える優しさがあり、逆に簡単には使いこなせない難しさもある。初心者から上級者まで楽しめる懐の深さ。人気に裏づけされた高いコストパフォーマンスの秘密はそこにあるというわけだ。

曽根原昇