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動物好き・コンテスト初参加の高校生がグランプリを受賞
第73回ニッコールフォトコンテスト授賞式が開催
2025年12月11日 10:24
第73回ニッコールフォトコンテストの最高賞であるグランプリに、高校1年生の眞野瑞己さんが輝いた。年齢に加え、初めてコンテストに応募したというから驚きだ。12月6日(土)には、東京・西大井のニコン本社/イノベーションセンターで授賞式が盛大に開かれた。
今回からWeb部門が復活したこともあり、若い応募者が増えた。会場にはU-18部門の入賞者である高校生をはじめ、若い世代の参加が目立った。
冒頭、株式会社ニコンイメージングジャパン代表取締役兼社長執行役員の上村公人氏が登壇。
「私たちが伝えたいのは写真の優劣ではなく、撮ることの喜び、人の心を揺さぶる写真の力です。さらに挑戦しやすく、楽しいコンテストにしていきたい」と語った。
会場のアトリウムには大型モニターが設置され、受賞作と受賞者の姿を投影しながら部門ごとに表彰が行われた。
自由部門・単写真
「火華(ひばな)」で金賞を受賞した古川夏子さんは写真を始めて5年。2025年3月にニコンプラザ大阪 THE GALLERYで開かれた別所隆弘さんの花火の写真展「煙か闇か爆ぜ物」を見た時、別所さんからニッコールフォトコンテストのことを教わったそうだ。
「初めて1点を応募した。数ある作品の中から見つけて、選んでくださり感謝しています」と古川さん。今回の入賞者には、彼女のように初めて応募した人が少なからずいるようだ。
審査員の秋山華子さんは「火華」について、強風という撮影条件をそのまま受け止め、現場で起きた変化を作品に転じた作者の力量を指摘。「光の動きと人々の静かなたたずまいの対比が独特の世界観を作り出した」と評価した。
「自由部門は技術だけでなく、日常から広い世界まで多様な眼差しが作品に現れる。その視点の成熟や解釈の深さが感じられた」
自由部門・組写真
金賞には藤吉修忠さんの「実存の証明」が選ばれた。
この写真は写真仲間から受け入れられなかったと明かし、「だから、より受賞が嬉しかった」と藤吉さん。街で奇抜な服やアクセサリーを身にまとう若者たちに声を掛け、会話した後で撮影を行った。その結果、「人生相談を受けることもあり、そのたびに私は若返っている。86歳だが、今後続けることで80歳を切るかもしれない」と話す。
審査に当たった中藤毅彦さんは「技術だけでは入賞することはできない。型にはまらない視点、新たな表現へのチャレンジがあるかを評価の基準にした」と語る。さらに組写真は、核となる1枚を中心に展開するか、全カットを等価に共鳴させるか。
「いずれにせよ、全体を俯瞰する冷徹な目が大切だ」
金賞受賞作は「身体のクローズアップのみで組んだ力強さ」を評価。特に指の間から覗く眼は「この年代特有の複雑な心情の見事な表現となった」と指摘した。
ネイチャー(自然・風景)部門・単写真
金賞を受賞した「魅惑の大地」は夕刻の蔵王で樹氷原を捉えた。荒田拓さんは「写真を始めて試行錯誤ばかりでしたが、その積み重ねが少し形になったようで嬉しい」と喜びを語る。
「自然が生み出す奇跡を素直に表現したい。失敗を恐れず、チャレンジしながら自分の写真を育てていきたい」
審査員の三好和義さんも去年の2月に蔵王に行ったという。3日間通ったが、天候が悪く撮影できたのはトータルで15分ほどだったそうだ。
「樹氷はかなり大きいはずだが、見ているとサイズ感がわからなくなる。見たことのない世界観を作り出している」
この部門では「機材の進化が表現を豊かに広げていることを実感した」と指摘。「技術の進歩を生かし、豊かなカメラ表現を試みましょう」と話す。
ネイチャー(自然・風景)部門・組写真
金賞を得た峯田翔平さんの「陽変幻」は、広島県北部の芸北地域で撮影したもの。四季それぞれで光を意識し、目覚め、躍動、移ろい、眠りをイメージした。
「地球温暖化の影響で撮れる写真が変わってきた。一瞬一瞬その場にいる大切さを改めて感じています」
選考委員の熊切大輔さんは作品について、「何度も通い、場所の条件、光の読み方などいろいろな技術、センスがあった上での4枚だと思う」と評した。
風景写真で重要なのは「その瞬間、その場にいること」。どこにフォトジェニックな場所があるのか、下準備を入念に行い、撮影に挑む。
「労力や知識、経験値が試される。応募された多くの力作にその痕跡を感じた」
U-18部門・単写真
「突き進む」で金賞を獲得した幸地今梨さんは「沖縄特有の力強い波と、サバニを操る人たちのカッコよさを残したかった」とこの1枚への想いを吐露する。サバニは海人が漁に使っていた木造帆船で、その歴史は琉球王朝時代に遡る。
選考委員の佐藤倫子さんは「突き進む」について、「サバニという文化を伝承したいという幸地さんの沖縄に対する想いが伝わってきた。私自身、このレースを見に行きたいと思った」と話す。
「この部門への応募作はそのときしか感じない『今』、その瞬間をとらえた写真が多かった。写真は今が二度と戻らないことを教えてくれる。その今をずっと撮り続けていってほしい」
U-18部門・組写真
「覚悟」で金賞を受賞した小上馬杏南さんは制作の狙い、その過程について明瞭に解説する。
「前に進むための最初の一歩をテーマにした。決断を下す時には誰しも迷いがある。その迷いがやがて決意へと移り変わる様子を表現したかった。形のない感情を表現するために1枚目と2枚目にかけてストーリーを持たせることを意識した。どんな光が差せば決意と迷いが混ざった瞳を写し出せるか、どれぐらい強く足を踏み出すべきか難しい点もあった。これからも心動く瞬間を撮れるように、柔軟な心を忘れず写真を続けていきます」
選考委員の上田晃司さんは応募作から「純粋に撮ることを楽しむ心を感じた」と話す。組写真部門は4枚を上限としているため、多くの人が情報を多く盛り込み、かえってテーマが散漫になることが多い。「覚悟」は敢えて2枚に絞り「シンプルながら大胆な構図で、見る人の記憶に残る作品になった」と賞賛する。
「U-18の世代は世界の見え方が大きく変化していく。感情も豊かになり、不安定さもある。これからも自由な発想と初々しい視点を大切に、写真を楽しんでほしい」
Web部門
「厳冬期の光と風」で金賞を受賞した深澤明彦さんは、偶然ニッコールフォトコンテストがWeb応募を新設したことを知って応募した。登山をきっかけに写真を始め、独学でカメラを学んできた。
「山からもらった景色が自分にとっては素晴らしい贈り物。今後、山や自然に何か恩返しできないかを考えています」
選考委員の藤井利佳さん(雑誌『GENIC』編集長)は「応募者が書いたコメントを重視して審査を行なった」と話す。写真から受け取るものもたくさんあるが、添えられた言葉から広がる物語も大切にしたいと考えるからだ。
「厳冬期の光と風」には「この光と風を待っていた。この瞬間の感動は忘れない」と書かれていたそうだ。
「それを読むと、作者が登ってきた道のりや、この後、その光に向かってずっと歩いていくのかなど、前後のストーリーが浮かび、写真の中に入ることができる」
写真は自由に表現できるメディアだが、一方でそれを阻む常識やセオリーも存在する。
「自分らしい、自分がやりたい表現を続けてほしい。そういう表現をこれからも期待して待っています」
グランプリ
眞野瑞己さんは写真を始めて2年弱。幼い頃から動物が好きで、中学3年の時に望遠レンズとカメラを手にした。
家の近くにある森林公園をフィールドに、散歩感覚で散策し、出会った動物たちを撮影する。去年、ニコン「Z8」と「NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S」を揃えたことで、ニッコールフォトコンテストを目標に据えた。
受賞作を撮影したのは2025年2月。いつも通り、園内を歩いていると、目の前に珍しいルリビタキが舞い降りてきた。
「万全に防寒していても凍えるような日で、その環境下でも強く生きている姿に感銘を受け、『寒暁の舞』とのタイトルに想いを込めました」
自分が感じた感動をきちんと表現したいと考え、現像も独学で勉強した。この写真では色相と明るさを調整し、部分的に露出や色を補正した。
今後も小動物、鳥をメインに、楽しみながら撮影していきたいと話す。
総評・小林紀晴さん
「良い写真とは何かをいつも考える。見る側との心のコミュニケーションが成立するかどうか。審査をする時、自分の中で3つの約束を決めている。新鮮であること。新たな価値観が提示されているか。問いかけがあるか。それは主観で行う審査にできるだけ客観性を保ちたいからだ。
写真が誕生してから、表現の潮流はさまざまに変わってきた。今、若い応募者や、初めての方が増えてきていて、ニッコールフォトコンテストも大きな変革期を迎えているような気がしています」
第73回ニッコールフォトコンテスト入賞作品展
ニコンプラザ東京 THE GALLERY
2025年12月2日(火)~12月15日(月)
10時30分~18時30分(日曜日休館/最終日は15時00分まで)
ニコンプラザ大阪 THE GALLERY
2025年12月25日(木)~2026年1月14日(水)
10時30分~18時30分(日曜日、12月27日~2026年1月4日休館/最終日は15時00分まで)

































