山岸伸の「写真のキモチ」
第95回:山岸伸写真集「馬力」出版
ばんえい競馬を写した20年
2025年12月11日 08:05
2025年12月12日(金)、山岸伸写真集「馬力」が日本写真企画より出版される。約20年撮り続けたばんえい競馬に対する思いと写真集についてお伺いしました。(聞き手・文:近井沙妃)
”普通”に見れる写真集
ばんえい競馬の写真集はムック本を含めるとこれで4冊目。今回はかなり真面目にと言ったらおかしいが、撮り始めた2006年から今年までを1冊にまとめる形にした。B5サイズ、128ページでページ数は過去1番多い。庶民的な写真を撮っている私としては作品集というよりあくまでも写真集。あまり大きく重厚なものは作らない。過去2冊ほどそういうものを出したが、やはり開いて見るのは自分のものですら相当勇気がいる。箱から出し、ページをめくる。指紋をつけないように、破れないようにするなど気を遣って見なければいけない。私は皆さんが普通に見れるものを作りたい。私が写真集を作る上での気持ちだ。
近年「靖國の櫻」、「帝国ホテルの記憶」、ライカの写真集「GOKAN」とコンパクトな写真集を出版してきた。俳優やタレントの写真集はA4サイズのものが多いが自分で作る写真集ではB5サイズがお気に入り。値段も決して高いわけではなく税込み3,300円とした。
馬が持つ力
「馬力」というタイトルは私がつけた。私自身も力が欲しくて(笑)。過去は「ばんえい競馬」を前面にと考えテキストサイズも大きくしていたが今回は小さめでタイトルを最優先。どのような書体にしようか、思い切って墨字にしようと思い、日本書鏡院 三代目会長の長谷川耕史さんに図々しく依頼をして書いていただいた。デザインは三村漢さん。表紙は私の案で馬の姿はなく馬が曳いたソリの跡のカットを選んだ。
今回は帯を入れていないが、1番最初の写真集は今考えるとなんと贅沢。アートディレクターは故・長友啓典先生。一緒に競馬場に行き、ばん馬を見た上でページを作っていただいた。帯は故・西田敏行さんの直筆。西田さんがどういう思いで描いてくれたか、この帯の一言に尽きると思う。
次に以前アサヒカメラがあった朝日新聞出版から出版させていただいたムック本「ばんえい競馬」。
3冊目は「輓馬」。この表紙のような強い朝の光に恵まれることは滅多になく、超える写真はなかなか出てこない。この時のデザイナーは今回と同じく三村漢さん。帯は俳優・映画監督の斎藤工さんに依頼、彼が1番忙しいときに書いてくれた帯。ここにも価値がある。是非皆さんにもう1度見返して欲しい。
20年を1冊に
意外かもしれないが私は印刷会社や制作に関わる人を転々と変えずになるべく同じ人にお願いしている。ただ今回はとあるパーティーで東京印書館のプリンティングディレクターである髙柳昇さんと会う機会があり、彼から「私のところでも(写真集を)やらせてくださいよ」とお話しいただいた。写真集といえば東京印書館は定番のようで1度印刷をしてほしいと思っていたのでこの機会にお願いしてみた。結果はイメージ通りのあがり、更にもっと要望を出すとすれば紙質を変えたいとかぐらいで今回の総予算から見ると私としては満足。
本題に入るが、冒頭でも書いたように撮り始めた2006年から20年分の写真をまとめている。初めて出会ったのがこのスーパーペガサスだ。スーパーペガサスは重賞を20勝したばんえい競走馬。2003年から2006年にかけてばんえい記念を4連覇、NARグランプリばんえい最優秀馬を2002年から2005年まで4年連続受賞という史上初の記録を持つ。
赤い服を着て朝調教をしているのは現在リーディングジョッキーの鈴木恵介さん。若いね。彼とはほとんど話したことがなく、この20年彼が勝つ姿を何枚も撮ったが今回は私のライフワーク「KAO」シリーズに登場していただこうと思い撮影を競馬場にお願いしている。彼は遠目で見ると人を寄せ付けないオーラととてもシャイな印象を感じる。私の「KAO」シリーズでの撮影人数も1,200名を超え、なるべくお世話になった方を撮影していきたいとも思っている。果たして私のカメラの前でどんな表情をしてくれるのか、もの凄く楽しみ。
競馬場で気になる存在の1つがこのソリを運ぶためのトロッコ、これは過去に岩見沢でばんえい競馬が開催されていた頃に使用していたもの。コース横にあり、レースが終わる度にスタート地点へソリを運ぶ。とても希少で帯広競馬場でも2024年まではトロッコを使用していたが故障時の修理部品が手に入らなくなり現在はトーイングトラクターがソリの運搬を引き継いでいる。
こうして始まったばんえい競馬の撮影。写真集には私の使用機材やExifデータを全て収めている。1点ずつ見てもらえればその時代とカメラと私がどのようにばんえい競馬を撮っていったかということがもの凄くよくわかると思う。本当はお見せしたくなかったのだが版元の日本写真企画は写真に特化した出版社なので編集長からデータを入れたら面白いんじゃないかと意見をいただいた。私的には不安があったものの最後の写真集だと思い記載することに。この写真集で1番の目玉だと思う。
私がばんえい競馬で主に撮影するのは朝調教とレース。レースの撮影はいつもこのような感じ。
私が期待しているジョッキー、今井千尋さん。彼女が小学生か幼稚園生ぐらい小さいときに今井厩舎にお伺いして馬と遊んでいる写真などを撮ったが今となっては想像がつかない。彼女に当時のプリントをお渡しすると照れ笑いしていたがチャーミングでとても素敵なジョッキーになられてこれからも応援し続けたいと思う。
朝調教でのシーン。いつも優しく声をかけてくれる大河原調教師。この人がいたから朝調教なども通いやすかった。いつも「先生、いい日に来たね」「今日は寒いぞ」など声をかけてくれて、私の仕事のことも知ってくれていて「先生、俳優とかグラビアアイドルのカレンダーも頂戴よ(笑)」と言われたこともあり、そういう一言にとても力を貰った。
私をいつもソリに乗せてくれて私が歩いては入れない調教コースを回りながらいろいろと馬や調教の事を教えてくれる谷あゆみ調教師。いつも本当にありがたい。彼女がいなければ馬が曳くソリに乗って日高山脈を見ることは出来なかった。
先日インターネットに上がっている動画で今年引退された騎手の方の胴上げシーンを見ていた。阿部さんは3月に負傷し7月からレースに復帰されているが、動画の中で足を痛そうに引きずっているのを見かけたので心配。彼は何故か私のカメラの中にいつも写る方で、騎手とカメラマン、男と男という感じで心が繋がっていると今でも私は思っている。
にこやかに笑っている方は私が帯広に訪れた際にいつも全行程を車で案内してくれている役所OBの梅村さん。とかちの風景写真で彼の右に出るものはいないと思う。だが彼は謙虚。私が1番上手いと言うと「いやいやいや」と言いながら、本当に上手い、びっくりするぐらい上手い。だけど1番いい場所には決して連れて行ってくれないところはすごいね(笑)。
オレンジのジャンパーを着ている笑顔の女性はいつも私を競馬場で迎えてくれる徳田さん。彼女は私がばんえい競馬を撮り始めたころから競馬場で働いていて、今でも私が行くと顔を出しいろいろとサポートしてくれる。今回の写真集を作るにあたっても彼女に細部を確認してもらうぐらい競馬場のことをよく知っている。
時代でカメラもレンズも変化してきた。1番寒い季節には暖かい寒冷地用の服をダルマのように着て撮影している。
この写真はアシスタントの近井が撮ったもの。私の後ろで近井が何を撮っているかわからないが、この時計を撮ってくれたのはラッキー。いつも冬場は4時ぐらいから6時ぐらいまでは競馬場で馬と一緒に過ごしている。
ここに載せるのは数少ない写真だが、この1枚は練習コースの左側に並ぶ木についた樹氷。なかなか競馬場で見える景色ではなく、何十年に1度つくかつかないかだと聞いた。そして今回の表紙はこの写真に写る農協連ビルの4階中央の窓を開け撮らせていただいたもの。役所の方のご尽力と農協のご協力でこのビルの中に入ることができ感謝。
これは本当にお気に入りの2枚。今年、この2枚を含めた写真展を銀座で開催し販売したところ1番人気でもあった作品だ。
いよいよ出来上がった写真集をサンプルとして藤森編集長が届けてくれた。早速サインの練習、今回はどんなサインにするか悩んでいる。何故かというと私はあまり字が綺麗ではない。また違うサインになるかもしれないが来年の2月7日はヨドバシカメラマルチメディアAkibaにてトークイベント+サイン会を行いますのでよろしくお願いいたします。
馬力出すぞ、来年も。
トークイベント+直筆サイン会開催
日時
2026年2月7日(土)13時00分〜15時30分
場所
ヨドバシカメラ マルチメディアAkiba 第1エントランス特設会場
























