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REAL FOCUS CrossOver

秋から冬へと移ろう各地の風景をハイブリッドRFレンズで描く

朝日に照らされる晩秋の湿原を1両の気動車が駆ける。50mm F1.4という仕様ゆえに開放時のボケが注目されがちだが、絞り込んだときの繊細かつ階調のバランスが取れた解像力も注目したい
キヤノン EOS R5 Mark II/RF50mm F1.4 L VCM/50mm/マニュアル露出(F13、1/400秒)/ISO 1600/WB:オート

写真と動画の境界を越えた表現力を求めて、さらなる進化を遂げたRFレンズ。写真画質を磨きあげながらも、アイリスリングの搭載やフォーカスブリージングの抑制、鏡筒サイズの統一など、動画撮影にもしっかりと対応するRFレンズが、キヤノンから相次いで登場している。今回はその中でも最新モデルの「RF70-200mm F2.8 L IS USM Z」「RF24mm F1.4 L VCM」「RF50mm F1.4 L VCM」をピックアップ。

日本各地の絶景を求めて撮影を続ける柄木孝志さんに現地へ向かってもらった。新たな挑戦を想起させる3本を手にした写真家の旅の軌跡をお届けする。

柄木孝志

株式会社LANDSCAPE DESIGN代表。写真家として、JR西日本の広告宣伝をはじめ、企業の撮影業務を数多く担う一方、写真を通じた地域活性化業務にも注力。鳥取県在住。東京カメラ部10選

※本企画は『デジタルカメラマガジン2025年1月号』より転載・加筆したものです。

写真と動画の境界を越える新たなる表現を求めて

暖色の彩りが鮮やかな秋の撮影も楽しいが、個人的には、紅葉が見頃を終え、その中で必死に生き残ろうとする晩秋の風景に魅力を感じる。今回は、キヤノンから新たに発売される3本のレンズを携え、秋から冬へ、変わりゆく季節を撮影すべく旅に出た。写真だけでなく動画撮影にも優れた性能を持つこのレンズトリオで、日本の原風景に加え、ローカル線、野鳥や野生動物などの被写体を通じて、日本の風土を克明に描写したいと思った。

全長固定と高速AFが魅力の新望遠ズーム

RF70-200mm F2.8 L IS USM Z
発売日:2024年11月29日
キヤノンオンラインショップ価格:49万5,000円

●SPECIFICATION
レンズ構成:15群18枚
絞り羽根枚数:11枚
最短撮影距離:0.49m(70mm時)、0.68m(200mm時)
最大撮影倍率:0.2倍(70mm時)、0.3倍(200mm時)
フィルター径:φ82mm
最大径×全長:約88.5×199.0mm
質量(三脚座含まず):約1,110g(ブラック)、約1,115g(ホワイト)

写真にも動画にも対応するRF70-200mm F2.8 L IS USM Z。アイリスリングの搭載やブラックモデルの存在など動画への配慮に注目が集まるが、写真における画質の向上も個人的にはそれに匹敵するトピックだと感じる。開放絞りからズーム全域で四隅までの高い解像力はもちろん、開放絞り時のナチュラルなボケ、明暗のコントラストのバランス、どれを取ってもRF70-200mm F2.8 L IS USM以上の仕上がりと言って良い。

鮮やかな緑のシダのリフレクションは、上下均等に撮影することが作品力アップのポイント。シダの葉1枚1枚が美しく描写されている点に、このレンズの解像力の高さがうかがえる
キヤノン EOS R5 Mark II/RF70-200mm F2.8 L IS USM Z/200mm/マニュアル露出(F7.1、1/8秒)/ISO 400/WB:オート
200mmながら1/80秒で手持ち撮影。レンズ単体で5.5段という強力な手ブレ補正効果で、霧氷に覆われた赤いナナカマドの実が繊細に描かれた
キヤノン EOS R5 Mark II/RF70-200mm F2.8 L IS USM Z/200mm/マニュアル露出(F2.8、1/80秒)/ISO 50/WB:オート
200mm側で68cmまで近寄れば、最大撮影倍率0.3倍という能力を有し、開放F2.8のボケを生かしたマクロ撮影が楽しめる。コケの上に顔を出すハート形の葉が何ともかわいらしい
キヤノン EOS R5 Mark II/RF70-200mm F2.8 L IS USM Z/200mm/マニュアル露出(F2.8、1/250秒)/ISO 100/WB:オート

風景写真ではその描写力が役立つが、フォーカシングも高速なので、野生動物や鉄道などの動体撮影時においても抜群の威力を発揮してくれる。

望遠端の200mm、開放F2.8で撮影したエゾシカ。手前のとろけるようなボケに対し、立派な角までもシャープに捉えるピント部の描写力がこのレンズ最大の魅力。AFも速く、動体撮影でも安心して使える
キヤノン EOS R5 Mark II/RF70-200mm F2.8 L IS USM Z/200mm/マニュアル露出(F2.8、1/200秒)/ISO 320/WB:オート
全長が変化しないインナーズーム方式を採用。重心が変わらずフレーミングが安定する。さらに別売のパワーズームアダプターPZ-E2を装着すれば、一定速度でのズーミングも可能
三脚座はダイヤルを緩めてロックボタンを押しながらスライドさせるだけで着脱できる。簡単に取り外せることで、三脚未使用時にじゃまにならず、撮影シーンごとに使い分けがしやすい

待望のエクステンダー対応であらゆるシーンを1本でカバー

RF70-200mm F2.8 L IS USM ZはEXTENDER RF1.4x、EXTENDER RF2xに対応している

RF70-200mm F2.8 L IS USMはエクステンダーの装着ができなかったが、本レンズは装着可能。最大400mmまでカバーできる上、その際の開放絞りはF5.6と私が愛用するRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMよりも1/3段明るい。夕暮れや夜明けのタイミングでの動体撮影など、これまではあきらめていた撮影にも取り組めるメリットがある。しかも、AFのレスポンスは高速のまま。望遠ズームに期待するポイントが全方位で押さえられている。

EXTENDER RF2xと組み合わせて400mmで撮影。装着しない場合と遜色ないほどにAFのレスポンスも高速で、朝日の下を神秘的に舞うタンチョウを見事に捉えてくれた
キヤノン EOS R5 Mark II/RF70-200mm F2.8 L IS USM Z+EXTENDER RF2x/400mm/マニュアル露出(F6.3、1/1,000秒)/ISO 800/WB:オート
警戒心の強いエゾシカ。RF70-200mm F2.8 L IS USM Zに2倍のエクステンダーを装着し400mmで撮影。400mmでも開放F5.6と明るく、安心して動体撮影で勝負できる点が魅力の1つだ
キヤノン EOS R5 Mark II/RF70-200mm F2.8 L IS USM Z+EXTENDER RF2x/400mm/マニュアル露出(F5.6、1/500秒)/ISO 1600/WB:オート

広角で自然風景を余すことなく写し撮る大口径F1.4

RF24mm F1.4 L VCM
発売日:2024年12月20日
キヤノンオンラインショップ価格:25万3,000円

●SPECIFICATION
レンズ構成:11群15枚
絞り羽根枚数:11枚
最短撮影距離:0.24m
最大撮影倍率:0.17倍
フィルター径:φ67mm
最大径×全長:約76.5×99.3mm
質量:約515g

風景写真家にとって広角の24mmは頻繁に利用する画角なだけに、F1.4という明るさとボケ、そして約515gという小型・軽量なコンパクト設計は私にとって非常にありがたい。実際に撮影して感じたのは、開放時におけるゆがみのないシャープな表現が際立っていたこと。特に星空撮影において、開放絞りでも周辺部が絵崩れを起こすことなく精彩に描写される点は特筆すべきであり、夜の撮影に関してだけでも十分に“買い”に値した。

北海道の東の果てに存在するトドワラの木道。開放F1.4による撮影でも周辺までシャープな仕上がりで、星がゆがむことなくしっかりと表現されている
キヤノン EOS R5 Mark II/RF24mm F1.4 L VCM/24mm/マニュアル露出(F1.4、13秒)/ISO 2500/WB:オート

もちろん、日中の風景も精細に描写されることは言うまでもない。小さいながらもその中に大きな可能性を秘めた、まさに注目の1本だ。

吹雪の後に突然の晴れ間。描き出された虹のアーチを捉えるため慌てて車から飛び出し、全体が入る場所まですぐに移動して撮影。小型・軽量設計の利点が生かされた瞬間だった
キヤノン EOS R5 Mark II/RF24mm F1.4 L VCM/24mm/マニュアル露出(F9、1/640秒)/ISO 125/WB:オート

シャープとボケの2面性が風景を一層に引き立てる

RF50mm F1.4 L VCM
発売日:2024年12月20日
キヤノンオンラインショップ価格:23万6,500円

●SPECIFICATION
レンズ構成:11群14枚
絞り羽根枚数:11枚
最短撮影距離:0.4m
最大撮影倍率:0.15倍
フィルター径:φ67mm
最大径×全長:約76.5×99.3mm
質量:約580g

EOSのフルサイズ用レンズにおいて50mm F1.4の新レンズが登場するのは31年ぶり。RF24mm F1.4 L VCMと同じく小型・軽量、動画撮影にも配慮された仕様だ。50mmという画角は、広角でも望遠でもない焦点距離ゆえ、少し変化を加えた撮影で使うことが多い。その際に必要な描写が、開放絞りのとろけるようなボケやピントの面のシャープさ。

このレンズはそれを高次元に満たしてくれているので、自然とズームレンズとは異なるアプローチで構図を組み立てたくなる。まさに、表現の幅が広がるレンズだ。もちろん、豊かな階調再現と高い解像力も申し分ない。

気嵐(けあらし)が立つ阿寒湖の朝。目の前にそびえる雄阿寒岳にフォーカスした。開放絞りのF1.4でローポジションから撮影することで、湖に向かって伸びるレールを前ボケとして表現し、写真に奥行きを生み出した
キヤノン EOS R5 Mark II/RF50mm F1.4 L VCM/50mm/マニュアル露出(F1.4、1/1,250秒)/ISO 50/WB:オート
水面に映る空をベストな位置で撮影するため海に浮かぶ木道を右往左往。リフレクションによって水面が輝く1枚をF9と絞って撮影。雲の立体感ある仕上がりに、このレンズの持つ描写力を再確認した
キヤノン EOS R5 Mark II/RF50mm F1.4 L VCM/50mm/マニュアル露出(F9、1/640秒)/ISO 250/WB:オート
-8℃まで冷え込んだ北海道の朝は、すでに冬の装い。近接撮影時もしっかりと解像力が発揮され、ガラス窓にデザインされた無数の氷晶の1つ1つをこんなにも繊細に表現してくれた
キヤノン EOS R5 Mark II/RF50mm F1.4 L VCM/50mm/マニュアル露出(F1.4、1/640秒)/ISO 50/WB:オート

シリーズ共通のコンパクト設計

使用した24mmと50mmに発売済みのRF35mm F1.4 L VCMを加えた3本は、いずれも同じ鏡筒サイズを採用。ジンバルを用いた動画撮影で重心が一定になるほか、コンパクトなので機動力にも優れる。

アイリスリングの搭載やブリージングの抑制など動画撮影に強い3本

3本のRFレンズは、いずれも動画撮影を意識した設計だ。アイリスリングは回転させるだけでF値を自在にコントロール可能。クリックレスなのでナチュラルにボケ具合が変化していく。フォーカス移動時のブリージング(画角変化)も抑制され、質の高い動画が撮影可能。ぜひ動画で確認してみてほしい。

アイリスリングはクリック感のない仕様になっていて、動画撮影用途がメイン。EOS R1やEOS R5 Mark IIに装着した場合は、静止画撮影時も絞りリングを使用できる
ハイブリッドRFレンズで描く秋から冬への境界線/柄木孝志 - YouTube

新しい表現の扉を開いてくれる3本が撮影に刺激と変化をもたらしてくれた

新しいレンズを手にするときはいつもワクワクする。晩秋から初冬に季節変わりするこの時期は、定番と言える被写体が存在しないため、「ロケーションに撮らされる」というより、自らでイメージして動き、考える必要がある。写真家にとってまさに自身の感性が試されるシーズンだ。

今回使用した3本のレンズは、そんな試練の時期にふさわしい表現力を有していた。70-200mmは1枚ベールをはいだような画質の進化と、エクステンダー対応による表現領域の拡大で、風景や生き物の繊細さをあぶりだすような撮影に取り組みたくなる。

そして、24mmと50mmのコンパクトな見た目と反比例するかのような優れた描写力とナチュラルなボケ感は、ズームレンズを使うときとは異なる視点を与えてくれる。さらに、私自身最も刺激的だったのは、アイリスリングを含めた動画撮影機能の進化だ。これまで比重を置いてこなかったことを悔やむほどに、映像制作における1つの転機になったことは間違いない。

秋から冬へとクロスオーバーする季節に手にしたこの3本の矢が、私の作品制作を新たな領域へと導いてくれるような感覚が得られた。

北海道の東の果てにある野付半島に美しい鏡面の海が隠されていた。RF24mm F1.4 L VCMは快適に手持ち撮影できる小型・軽量設計に加え、四隅まで繊細に表現される描写力も素晴らしい
キヤノン EOS R5 Mark II/RF24mm F1.4 L VCM/24mm/マニュアル露出(F9、1/2,000秒)/ISO 500/WB:オート
広大な北海道の原野をまっすぐに走る夜明けのローカル線。2倍のエクステンダーを使い400mmで撮影しているにもかかわらず、列車のトラッキングに対するレスポンスも良く、撮影時にストレスを感じることはなかった
キヤノン EOS R5 Mark II/RF70-200mm F2.8 L IS USM Z+EXTENDER RF2x/400mm/マニュアル露出(F13、1/800秒)/ISO 1600/WB:オート
秋から冬へと移行する季節の変わり目は、天気の移り変わりも激しい。みぞれ混じりの雨の後に顔をのぞかせた太陽が作り出した虹。エクステンダーを使い280mmでクローズアップすると、虹の根元までもくっきりと描写できた
キヤノン EOS R5 Mark II/RF70-200mm F2.8 L IS USM Z+EXTENDER RF1.4x/280mm/マニュアル露出(F11、1/400秒)/ISO 200/WB:オート
天空の城として有名な越前大野城。この日は、そんな呼び名にふさわしい幻想的な雲海に包まれていた。ボケの風合いだけでなく、刻一刻と変化する雲海の質感など絞り込んだときの描写力の高さにも注目したい
キヤノン EOS R5 Mark II/RF70-200mm F2.8 L IS USM Z/200mm/マニュアル露出(F10、1/25秒)/ISO 50/WB:オート
11月末とはいえ、朝の阿寒湖は氷点下の極寒。F16まで絞り込んだ描写力の高さが、霧氷に包まれた木々の一部に残る色づく紅葉を捉えた。繊細な描写のおかげで、儚さの中にある美しさを伝えられた
キヤノン EOS R5 Mark II/RF50mm F1.4 L VCM/50mm/マニュアル露出(F16、1/2秒)/ISO 50/WB:オート
柄木孝志