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COSINA NOKTON WORLD:福井麻衣子×NOKTON 50mm F1 Aspherical
キヤノンRFマウント用のフルサイズ大口径レンズ
2023年10月20日 07:00
月刊誌「デジタルカメラマガジン」と連動した本記事は、コシナ・フォクトレンダーのキヤノンRFマウント用MFレンズ「NOKTON 50mm F1 Aspherical」を、福井麻衣子さんの作品とインプレッションで紹介します。(編集部)
開放絞りF1という、これまで自分が見たことのなかった世界が広がるレンズ。テスト撮影をしてみたところヴィンテージな雰囲気が似合うと感じ、昭和の香りが残る熱海の街で撮影したいと考えた。レトロな洋食屋さん、駄菓子屋さんなど、いずれ訪れたいと思っていた場所や、好きな海、商店街などをくまなく歩いてスナップした。50mm一本勝負なので、カメラを始めた頃のように気持ちに素直にシャッターを切ることを心掛けて撮影をスタートした。
普段は使われていない2階席。お店の許可を得て、その静かな雰囲気をそっと切り取った。ボケたレトロな壁や窓の質感がいい味を出してくれている。やや引きの画でも、F1なら立体感が生まれる。印象的な周辺光量落ちも、このシーンの雰囲気作りに役立った。
歪曲した柵を前ボケにすると面白いかなと思い、チャレンジした一枚。豊かなボケのおかげで、とろけるようにボケた柵の形と青い色がグラフィカルな印象になってくれた。目で見た景色と違うものを生み出せるのも写真の楽しみの一つ。
レトロブームの代名詞とも言えるクリームソーダには、やはり心が躍る。背景は綺麗にぼかしつつもその場の雰囲気を残したかったので、建物の形が分かるアングルを選んだ。着席したままのテーブルフォト撮影には制約が付きものだが、これも逆手にとってアイデアを考えたい。
サビ感がかっこいい門をアンダー露出で。綺麗にボケるのにピント面はシャープなので、絞りを開き気味でもしっかりとした写りを楽しめる。個人的にこのレンズはアンダー目の露出で撮った時の色味がとてもしっとり美しく感じられ、こういったシーンがとても似合うと思った。
このレンズの明るさを活かせば、暗い店内でもISO 100で撮れてしまう。ジュークボックスの内部がかっこいいなと思って切り取った一枚。F1.1だとピント面のすぐ前後もしっかりボケるので、ちゃんと見せたい部分に視線を誘導できる。
レンズフードを外せば、逆光時にフレアを取り入れた表現も楽しめる。本来は敬遠されがちなフレアだが、昨今の流行りではこのためにレンズを選ぶ人もいるのかも。私も“フレア好き”なので、今回は積極的にフードを外してスナップした。フレアの中でもハイライト部分の階調が再現されている。
一つだけ切れてしまった街灯も味わい深くていいなと思う。綺麗なものでなくても、自分がいいなと思ったシーンは素直に切り取っていきたい。背景の暮れゆく街並みは、このレンズならではの湿度を感じられる大きなボケにより、情緒がある。
私が写真で一番大事にするのは、“撮りたいと思った気持ち”がそこに写っていること。こんなことを言うと怒られるかもしれないけれど、いつも「完璧でなくていい」と思いながら撮影している。先に紹介したように、あえてフードを外して逆光でフレアを発生させるような、ちょっと崩した使い方も受け入れてくれる楽しさがこのレンズにはあった。薄いピントをじわじわと合わせる喜びもMFレンズならではだ。
また、完璧を求められる仕事での撮影という視点でも、開放F1の超大口径レンズとは思えないほど周辺まで安定した描写があり、美しいボケと立体感も心地よく、とても懐の深い一本だと感じた。
制作協力:株式会社コシナ