特別企画
“APS-C機でフルサイズ撮影”のマウントアダプターを試す
〜NEX-6+Speed Booster EF-NEXで実写
(2013/1/23 00:00)
メタボーンズから唯一無二の個性派マウントアダプターが登場した。スピードブースターと名付けられた本製品は、APS-C機に付けると35mm判レンズでフルサイズ撮影でき、さらにレンズが1段分明るくなるという。
なぜフルサイズで撮れるのか。明るくなるのは本当か。画質への影響、装着可能なレンズはどうなっているのか。かつてないタイプの製品だけに、気になることが山ほどある。ソニーNEX-6とスピードブースターEF-NEX版を組み合わせ、早速試写してみた。
※この記事を読んで行なった行為によって生じた損害はデジカメWatch編集部、澤村徹および、メーカー、購入店もその責を負いません。また、デジカメWatch編集部および澤村徹は、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。
“APS-C機でフルサイズ撮影”の原理
ソニーNEXシリーズ、富士フイルムXシリーズといったミラーレス機は、APS-Cサイズのイメージセンサーを搭載している。フルサイズ機よりもイメージセンサーのサイズが小さいため、レンズの焦点距離は1.5倍になる。レンズを楽しむにあたり、35mm判レンズ(フルサイズ用レンズ)を本来の画角で使えないのは、やはりAPS-C機の弱点といわざるを得ない。これを克服するのがメタボーンズのスピードブースターだ。
スピードブースターは補正レンズを内蔵したマウントアダプターだ。本製品にレンズを装着すると、補正レンズによって焦点距離が0.71倍になる。この状態でNEXのようなAPS-C機に装着すると、ほぼフルサイズで撮れるというわけだ。
50mmレンズを例にとると、スピードブースターに装着した状態で50mm×0.71倍=35.5mmとなる。さらにNEXに付けると35.5mm×1.5倍=53.25mmとなり、50mmレンズをほぼ本来の画角で使えるわけだ。
このように焦点距離を短くするレンズをレデューサーレンズという。APS-C機でフルサイズ撮影できるのは、まさにスピードブースターがレデューサーレンズを搭載しているおかげだ。今回はEF-NEXのスピードブースターを取り上げるが、これ以外にアルパ-NEX、ライカR-NEX、アルパ-フジX、ライカR-フジXをラインナップしており、今後も対応マウントを増やしていくという。日本国内ではデジタルホビーで取り扱いがあり、すでに予約販売はスタートしている。
補正レンズの役割をもう少し詳しくみていこう。このレンズはCaldwell Photographic社が設計した4群4枚構成だ。かつてフランジバック調整するための補正レンズ入りマウントアダプターがあったが、それらと比べるとかなり本格的なレンズ構成になっている。この補正レンズの役割は、端的にいうと光の集約だ。本来フルサイズのイメージサークルをカバーする光を、より狭いAPS-Cサイズのイメージサークルに集約する。光量は変化しないため、ひとまわり小さいエリアによりたくさんの光が集まり、結果として1段分明るくなるという。
50mm F1.4のレンズを例にとると、スピードブースターに装着することで35.5mm F1相当となる。NEXに付けると53.25mm F1相当となるが、マスターレンズよりもボケ量が大きくなるのかというと、そうではない。画角、描写傾向ともに、マスターレンズをフルサイズ機で撮影したのとほぼ同等となる。
- ・作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
NEX-6+EF 50mm F1.4 USM+Speed Booster EF-NEX
本製品はEFレンズ用なので、まずはキヤノン純正のEF 50mm F1.4 USMを試してみた。EF-NEXのスピードブースターは、キヤノンEFレンズのAF動作、絞り制御、IS動作が可能だ。ただし、AF動作は2006年以降のEFレンズにかぎられるため、本レンズはMFで撮影することになる。
画角から見ていくと、一般的なマウントアダプターとスピードブースターで明らかに異なっているのがわかる。一方、スピードブースターとフルサイズ機(EOS 5D Mark II)の写真を比べると、画角、ボケ量ともにほぼ同様だ。厳密にはフルサイズ機は35mm判換算50mm、スピードブースターは35mm判換算53.25mmとなるが、標準域のレンズだとその差はほとんど感じられない。周辺の流れや極端な色の変化もなく、補正レンズによる画質劣化はほぼ気にならなかった。
なお、EFレンズをNEX-6に装着した際は、スピードブースター側で自動絞りと実絞りを選択できる。この切り替えを担っているのが側面のボタンだ。レンズとスピードブースターを装着してボディの電源を入れると、レンズは自動絞りで動作する。一方、ボディの電源を入れた状態で、側面ボタンを押しながらレンズ付きのスピードブースターを装着すると、レンズが実絞りで動作する。さらに実絞りの状態で側面ボタンを押すと、一時的に絞りを開放にすることが可能だ。
NEX-6+MC Flektogon 20mm F2.8+Speed Booster EF-NEX+Rayqual M42-EOS
EFマウントは様々なマウントアダプターが用意されている。これらを使うと、スピードブースターでオールドレンズのフルサイズ撮影が可能だ。ここではレイクォールのM42-EOSを介して、定番広角オールドレンズのMCフレクトゴン20mm F2.8で撮影してみた。
スピードブースター経由でNEX-6に付ける場合、MCフレクトゴン20mm F2.8は35mm判換算21.3mm相当となる。フルサイズ機で撮った写真と比べると、フルサイズ相当とはいえ、やはり1.3mmの差を感じさせる結果となった。広角レンズは1~2mmのちがいでも画角やパースの付き方に大きく影響する。そうはいっても一般的なマウントアダプターの画角と比べれば、超広角レンズの迫力を十分に感じられる試写結果となった。
作例の周辺部を見ると、いくぶん甘い描写になっている。これはそもそもこのレンズの周辺描写が甘いためで、スピードブースターの影響ではない。むしろ中心部に目を転じると、オリジナルの状態よりもいくぶんシャープネスが向上した印象を受けた。スピードブースターの補正レンズは当然ながら現行レンズであり、しっかりとコーティングも施されている。こうしたレンズを光が通過することで、画像が引き締まったと考えられるだろう。むろん、マスターレンズのテイストを損なうほどの変化ではなく、オールドレンズファンも安心して使えるはずだ。
EF-NEXのスピードブースターにオールドレンズを装着する際、ふたつほど注意すべき点がある。ひとつは内部干渉だ。補正レンズの組み込み位置が浅いため、レンズ側の絞り連動レバーやレンズガードが干渉しやすい。基本的にEOSのフルサイズ機に装着できないオールドレンズは、スピードブースターでも装着不可と考えた方がよい。EOSフルサイズ機に装着できるものであっても、後玉近辺に突起物がある場合は慎重に作業しよう。なにしろ干渉時はスピードブースターのレンズにダイレクトに接触してしまうので、非常にリスキーだ。
ふたつめは無限遠についてだ。今回テストしたスピードブースターの個体は、別途マウントアダプター経由でオールドレンズを付けると、開放でわずかに無限遠に達していなかった。F5.6まで絞れば無限遠が出るものの、おそらくスピードブースターのフランジバックはほぼジャスト調整になっているのだろう。組み合わせるマウントアダプターはオーバーインフ気味のものが確実かもしれない。
まとめ
補正レンズ入りのマウントアダプターというと、古くからのオールドレンズファンはFD-EOSマウントアダプターを思い出すだろう。FDマウントはフランジバックが短いため、通常であればEOSに付けても無限遠が出ない。そのため補正レンズで無限遠撮影を可能にしたアイテムだ。ただし、レンズの質がよくないため、無限遠撮影こそ可能だが、画質劣化は否めなかった。こうした経緯があるだけに、補正レンズ入りマウントアダプターに抵抗感をおぼえる人は少なくないはずだ。
しかし、スピードブースターは従来の補正レンズ入りマウントアダプターと一線を画している。4群4枚の本格的なレデューサーレンズを搭載したおかげで、画質劣化はほぼ感じられなかった。フルサイズミラーレスが登場するまでのつなぎとして、大いに実用的なアイテムである。むろん、フルサイズミラーレスが登場した以降も、APS-Cユーザーの必携アイテムとして定番化しそうなクオリティだ。