特別企画

中華レンズの味わい深い世界(その1)

格安系からプチ高額系まで 描写と使用感をチェック

今回は“お手頃にレンズの楽しさを体験できる”という部分に着目して、リーズナブルに手に入る中華レンズを紹介したいと思います。使用するカメラボディは筆者自身が愛用している富士フイルムのAPS-Cミラーレスカメラ2機を使用しています。

編集部注:参考として記載している価格は、各レンズの代理店をつとめている焦点工房の取り扱い価格(オンラインストア。税込)としています。

性能とコストバランスの難しさ

過去の話をしても仕方のないことなのだけれど、以前は純正品にいくつかのラインがあるのが一般的でした。でも最近は「凄い」か「超凄い」という二択を迫られていることが多く、性能向上にともない最近の製品は皆高価です。もちろん性能対コストで言えば間違いなくリーズナブルですが、一方で凄さが判り難いという事もまた事実です。

例えば「AF機構を組み込みつつコンパクトに作る」というのは、事実、設計と製造の面でとても難しい事をやっています。その上である程度の衝撃に耐え、カメラに対して低ノイズである必要があり(デジタルカメラは電子精密機器です)、製品によっては防塵防滴構造になっています。これらはとてもハイレベルな技術によって成り立っているわけです。こういった話はどこかでインタビューする機会があった時にでも。

ところで開発コストは製品のクラスに対して必ずしも比例関係があるというワケではありません。新規の要素が多ければ開発コストは嵩み、開発期間が長ければ人件費がかさむので高コストになります。在り物を上手く組み合わせて現在の基準で評価してソコソコの性能のモノを適価で……、というのが筆者の希望ですが、そういったコンセプトのモノは色々な事情で製品化されにくい傾向にあります。

さて、今回は比較的リーズナブルな価格で手にすることができるMF中華レンズより、APS-C富士フイルム機に対応する製品をいくつかピックアップして紹介していきます。趣旨としては細部を観察して画質性能を云々するのではなく、あくまでも「こういう製品がある」という紹介に軸足をおいています。AF性能やシーンを選ばない使い勝手など、トータルバランスでは、各メーカー純正のレンズが最良です。

中一光学:CREATOR 35mm F2(1万8,900円)

外観は一眼レフカメラ用のレンズをミラーレスカメラのフランジバックに合わせて仕立て直してきた、というニコイチ感(継ぎ接ぎ感)は否定出来ませんが、金属鏡筒のクオリティは申し分なく、ピントリングと絞りリングの操作感も良好。総じて「お値段以上」感の高い仕上がりです。中一光学の製品は同じスペックの他のメーカーよりも少し高めの価格設定という印象がありますが、触れてみれば納得の、“その理由が分かる仕上がりである”と言えばわかりやすいかと。

X-H1 / CREATOR 35mm F2.0 / 絞り優先AE(F2・1/320秒・-0.3EV) / ISO 400

富士フイルム純正のレンズとは絞りリングの回転方向は同一(絞りリング右端が開放絞り)だけど、ピントリングの回転方向が逆(ピントリング右端が無限遠)。絞りリングには1段ずつのクリックストップがあります。絞り羽根の枚数は9枚で、ワリとキレイなカタチをしていました。

このくらいのボリュームがあるならX-Pro2などのレンジファインダースタイルのカメラよりもグリップのある一眼レフスタイルのX-H1の方が使用感は良いように思いました。

気になったのは絞りリング手前にローレットパターンが刻まれているところ。どうしても絞り操作時にそちらを回してしまいそうになりました。この辺りに一眼レフカメラ用レンズをやりくりしてミラーレス用にしている名残りが認められます。

ピントの山は掴みやすく、X-H1のように369万ドットクラスのEVFであれば拡大表示させずともMFで精密にピント合わせが出来ました。作例は全てX-H1で撮影し、どのカットもEVFで拡大表示させずにフォーカスをあわせています。

X-Pro2などの236万ドットクラスのEVFでは拡大表示したほうが良さそう、という印象です。また背面モニターで合わせる時は、ドット数によらず拡大表示したほうが良いと感じました。

描写面ですが、クラシックレンズのような特徴や癖のある写りを期待していると、良い意味で裏切られます。元々が35mm判フルサイズ用のイメージサークルに対応するレンズをAPS-C機で使っているので、「レンズの美味しいところを使っている」という点も少なからず影響しているのかも知れません。どちらにせよ“普通に高性能なレンズ”という印象です。

X-H1 / CREATOR 35mm F2.0 / 絞り優先AE(F2.8・1/1,900秒・-0.3EV) / ISO 400

撮影距離や光線状態によらず安定した描写性能があり、苦手なシーンが少ない現代的な性格です。約450gとやや重いですが、例えば中古のXF35mmF1.4 Rと比べても約半分の値段で新品のレンズが手に入るという事実はナカナカに魅力的です。安価にMFレンズを楽しみたいけれど、写りにもある程度コダワリたいという人に検討してほしい1本です。

X-H1 / CREATOR 35mm F2.0 / 絞り優先AE(F2・1/2,400秒・-0.3EV) / ISO 400

中一光学:SPEEDMASTER 35mmF0.95 II(5万8,500円)

F1.0を超える口径(明るさ)ということもあり、気になっている人も多いかと思います。外観はスペックから想像するよりもずっとコンパクトですが、手に持ってみるとズシリとした重みが心地良く感じられます。

X-H1 / SPEEDMASTER 35mmF0.95 II / 絞り優先AE(F0.95・1/500秒・+1.0EV) / ISO 400

工作精度は非常に高く、上述のCREATOR銘の製品と比べて明らかに格上の質感がありました。筆者の感覚で言えばデザインも秀逸で、富士フイルムの純正レンズよりも素敵なデザインです。

絞りリング・ピントリングはどちらも富士フイルム純正レンズとは回転方向が逆。絞りリングはレンズ先端に配置されていて、クリック感の無いタイプです。

ピントの山は非常に掴みやすく、X-Pro2のEVFでも拡大ナシで不満のないMFが楽しめました。絞り開放から十分な解像力が出ていることは勿論ですが、CREATORと比べて開放口径が約2段大きくボケ量が大きいことも効いていると感じました。

撮影前は「どうせスペック重視で無理した写りなのでは?」という偏見に満ちた予想をしていましたが、撮影画像を見ると「最新の高性能単焦点レンズで撮影しました」と言われればそのまま信じてしまいそうな、ハイレベルな描写性能だと感じました。

作例では全て開放絞り近辺で撮影していますが、非常に美しい描写です。フィルム世代から写真をはじめた人であれば「絞り開放から十分にシャープという」感想を持つと思います。厳密には開放F0.95からF1.4の手前くらいまではやや球面収差の甘さがありますが、F1.4辺りからグッとシャープになり、デジタルカメラから写真をはじめた人やニコン「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」などの最新世代の高性能単焦点レンズがもたらす描写を知っている人でも「おっ!」となる写り。「中華レンズ」という前置きの必要が無いほど高性能なレンズだったので、思わず言及してしまいました。

X-H1 / SPEEDMASTER 35mmF0.95 II / 絞り優先AE(F0.95・1/400秒・-0.7EV) / ISO 400

新品のXF35mmF1.4 Rよりも少し安価に手に入る本レンズは、個人的にはかなり魅力的だと感じました。XF35mmF1.4 Rも素晴らしいレンズで撮影していて楽しいですが、絞りに約1段の余裕があることに加えて、こけおどしではないハイレベルな光学性能とクオリティの高い鏡筒などから、高い満足感が得られる魅力が本レンズにはあります。

X-H1 / SPEEDMASTER 35mmF0.95 II / 絞り優先AE(F1.4付近・1/2,900秒・-1.3EV) / ISO 400

銘匠光学:TTArtisan 35mm f/1.4 ASPH(ブラック)+マウントアダプターセット(5万8,800円)

鏡筒は中一光学のSPEEDMASTERと同様で非常に高品位。このクオリティの工業製品がこの価格帯で手に入るというのは称賛に値すると思いました。

Mマウントレンズとマウントアダプターの組み合わせで撮影しています

絞り・ピントのどちらのリングも富士フイルム純正レンズとは回転方向が逆で、絞りリングはレンズ先端に。絞りリングは半段毎にクリック感があるタイプ。操作感はどちらも素晴らしく、特にレバーつきのピントリングに普段慣れ親しんでない身としては指を引っ掛けて楽にピント合わせが出来るという新鮮な驚きがありました。

X-H1、X-Pro2との組み合わせではEVF上でピントの山が少し掴みにくく感じました。レンズの解像感自体に不満はないので相性の都合かも知れません。

使用上の注意点は寄れない事。最短撮影距離が70cmなので画角から想像するよりも、1歩半程度寄れません。

撮影してみた感想は“モノクロモードで撮影したいレンズ”、というものでした。F5.6あたりまで絞れば収差はほぼ解消されて非常にシャープに写りますが、F2.8までは少し収差が残っています。基本的には高性能なレンズでクリアな描写ですが、それでも純正レンズと比べると収差は多めなので、絞りを開け気味で撮影すると、カラーでは「滲んでるな」という印象が強く残ります。一方で、モノトーンだと見え方が変わってきて、エッジの立っていない「柔らかな」という印象になります。冬の晴天時のベタ光線よりも、曇天や斜光線、室内光等の方が得意なレンズだなと感じましたが、このあたりは人それぞれに意見があるところだと思います。

X-H1 / TTArtisan 35mm f/1.4 ASPH / 絞り優先AE(F2.8・1/3,500秒・±0EV) / ISO 320
X-H1 / TTArtisan 35mm f/1.4 ASPH / 絞り優先AE(F1.4とF2の中間・1/600秒・-1.3EV) / ISO 320

逆光にも適度に弱いのでフレアが出ますが、コントラストはあまり下がらず、出方そのものもキレイで邪魔には感じません。なので、撮影していると「これこれ、この感じ」という楽しさがあります。

X-H1 / TTArtisan 35mm f/1.4 ASPH / 絞り優先AE(F1.4・1/1,900秒・±0EV) / ISO 400

本来35mm判フルサイズのイメージサークルをカバーするレンズなので、Mマウントのカメラを持っている人には勿論、アダプターを介してフルサイズ機と組み合わせることも可能で、一粒で2度以上の美味しさが味わえるレンズだと感じました。個人的にはSPEEDMASTERの方が好みですが、X-Proシリーズと組み合わせた時の、トータルでの佇まいの良さには目を見張るものがあります。

銘匠光学:TTArtisan 35mm f/1.4 C(8,910円)

今回取り上げるレンズの中で最も安価に手にすることができる1本。実勢価格にして、なんと驚異の9,000円弱(焦点工房オンラインストア)ですが、元箱を含めて安っぽさはありません。何なら35mm判フルサイズミラーレス用の最新高級レンズよりもテンションの上がる梱包で驚かされます。

操作まわりですが、レンズ先端に絞りリング、マウント近傍にピントリングが配置されていて、どちらも回転方向は富士フイルムとは逆でした。絞りリングは開放からF4.0までは半段毎にクリックストップがあり、F4.0~F8.0までは1段毎、F8の次はF11をすっ飛ばしてF16になってますが、実際問題として、F11がなくて困るシーンというのはおそらく無いだろうと思います。

中一光学のレンズと比べると、鏡筒の仕上がりはややクオリティが下がる印象ですが、値段を考えれば文句はありません。操作感も良いので「安かろう悪かろう」という感情は原稿を書いている現在も含めて全く生じませんでした。

写りを掘り下げると周辺部ガーとなりますが、そういう見方をするのはナンセンスだし、そういう不満をあげつらうなら相応の対価、つまり純正レンズを選ぶべきです。

X-H1 / TTArtisan 35mm f/1.4 C / 絞り優先AE(F4・1/80秒・-1.3EV) / ISO 400

肝心の使用感ですが、個人的には撮影を楽しめました。お値段から「トンデモナイ癖玉なのでは?」と思っていたものの、実際には70〜80年代の大口径単焦点レンズよりも癖が少ないくらいでした。MFが苦にならない人であれば、「あのメーカーのボディを使ってみたい」みたいな時にプラス1万円弱でこのレンズを選ぶというのも楽しみ方のひとつでしょう。マウントは富士フイルム(X)のほか、ソニーE、マイクロフォーサーズ、キヤノンEF-M、ニコンZ用がラインアップしています。画づくりに関してみても、富士フイルムのフィルムシミュレーションとの相性は良さそうに思います。

X-H1 / TTArtisan 35mm f/1.4 C / 絞り優先AE(F1.4とF2の中間・1/400秒・+1.7EV) / ISO 400
X-H1 / TTArtisan 35mm f/1.4 C / 絞り優先AE(F1.4・1/400秒・-1.7EV) / ISO 400

七工匠:7Artisans 35mm F1.2(2万700円)

まず驚かされるのがそのサイズ。開放F1.2という口径がにわかには信じられません。パンケーキと呼べなくもない厚みです。鏡筒のクオリティは悪くなく、価格とのバランスがとれていると思いました。

ピントリング・絞りリングは、ともに富士フイルムとは回転方向が逆。絞りリングはクリックストップがないタイプです。絞りリングの操作トルクはやや重めで、操作感自体はどちらも良好です。こういったレンズに触れてみると、最新の国産レンズは電子化・高機能化で失ったものがあるなぁ、とどうしても感じてしまいます。特にミラーレスカメラではメカニカルな機構ではなくバイワイヤによる電気的な接続で操作している製品が大多数なので余計にそう感じるのでしょう。シンプルでメカニカルな構造というのは、やはり情緒というか心地よい感触があると思います。

撮影してみた印象は「まるでオールドレンズのよう」でした。絞り込みによる描写変化はやや大きめで、シャープネスとコントラストが分かりやすく変化するように思います。絞り込み以外にも撮影距離によって描写変化・ボケ味の変化が大きいというのも、最近のレンズにはない特性でしょう。例えば撮影距離が1.5mを切るシーンでは絞り開放でもワリとシャープ。ボケは基本的に柔らかい印象です。

X-H1 / 7Artisans 35mm F1.2 / 絞り優先AE(F1.2・1/800秒・±0EV) / ISO 400

筆者の感覚では、F1.4~F2.0の間くらいが癖と実用の間の美味しい部分だと思いました。遠景かつ絞り開放みたいな条件では「少し遊ぶには良いけど、毎日使うにはちょっと……」という特濃な描写。しかしながら、このレンズだけの特別な描写であることは確かです。

こういったレンズで遊んでみると、そのレンズの特徴をいかした撮影や、そのレンズが得意な範囲で撮影する楽しみといった、ある意味で「縛りプレイ」にトライするような面白さもあります。

X-H1 / 7Artisans 35mm F1.2 / 絞り優先AE(F2.8・1/160秒・-0.3EV) / ISO 400
X-H1 / 7Artisans 35mm F1.2 / 絞り優先AE(F1.2・1/8,500秒・-1.7EV) / ISO 400

七工匠:7Artisans 35mm F2(1万9,800円)

十分に小型ですがF1.2のレンズと比べて開放口径のワリにやや大きなサイズなのは、前者がAPS-Cに対応するイメージサークル、本レンズが35mm判フルサイズに対応するイメージサークルという違いがあるようです。

ピントリング・絞りリングは、ともに富士フイルムとは回転方向が逆。絞りリングには1段毎にクリックストップがありますが、個体差かリングのガタが大きめ。ピントリングも姿勢変化(縦位置)によって操作感にムラがあり、総じて値段相応の印象があります。その他では付属のレンズキャップが落下し易い、というのはとても気になりました。

写りは個性あふれるF1.2に対して、本レンズは絞り開放からでも十分に実用に足る優等生な性格でした。公式ページの紹介には「意図的に収差を残し」という記述があったので、もっと特色のある写りかな? と思っていましたが、APS-C機との組み合わせでは、中一光学CREATOR 35mm F2.0ほどではありませんが「普通に使えるぞ」という印象です。もちろん純正レンズ等と比べると十分に癖のある描写なので「程よくオールドレンズの味わいがある」であったり、「扱い易いオールドレンズ」という表現が製品の性格を表現する言葉としてシックリくると思いました。

X-H1 / 7Artisans 35mm F2 / 絞り優先AE(F2.8・1/600秒・-0.3EV) / ISO 400

レンズの光学的な現象(フレアや収差という意味です)の多くがやりすぎ感なくバランス良く発現するので、“中華レンズで遊んでみたいけど普段使いとしても活用したい”というワガママな要望を叶えてくれそうなレンズ、という感触です。

X-H1 / 7Artisans 35mm F2 / 絞り優先AE(F2・1/320秒・-0.7EV) / ISO 400
X-H1 / 7Artisans 35mm F2 / 絞り優先AE(F2・1/500秒・-1.3EV) / ISO 400

まとめ

今回試用したレンズはいずれもお値段以上という感触で、どのレンズを選んでも色々なレンズの世界を楽しめるというのが嘘偽りの無い感想です。注意点としては、製造公差(個体差・バラツキ)については純正レンズよりも大きいことへの理解が必要です。ある程度その可能性を減らしたいのであれば、サポート面の手厚さに期待して正規代理店で購入することをオススメします。

こういった特色のあるレンズを知ると、所謂純正レンズがどれだけ性能を絞り出しているか?という事に気付けるキッカケにもなります。でもレンズは性能の良し悪しで評価が決まるというワケではなく「自分の肌に合うかどうか」が本当に重要です。

アバタもエクボという言葉がある通り、光学性能的には欠点であっても(例えば球面収差など)それを特徴と捉えて如何に活用して写真に落としこめるか、というのも写真の面白さです。今はよく分からなくても、ある日突然こういった「ゆったりとした」描写に魅力を感じる時もあるので、その時は純正レンズや国内メーカー、所謂ツァイス等のブランドのあるメーカー以外の選択肢にも先入観なく食指を伸ばして欲しいと思います。

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。