特別企画

クラス最小最軽量の望遠ズーム タムロン「70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD」を試す

手ブレ補正はボディに任せて鏡筒をスリムに 描写力にも自信あり

フルサイズブームが押し寄せていると言っても良いミラーレスカメラ。この波に乗りソニーαシリーズのボディでフルサイズの世界に足を踏み入れた人も多いはず。特にキットレンズの標準ズーム1本で始めたならばそろそろ2本目の交換レンズを手に入れたくなった頃ではないだろうか?

「望遠レンズがあれば遠くの被写体も⼤きく写せて楽しそうだけど、⼤きく重いレンズは扱うのがたいへん!」なんて⼆の⾜を踏んでいた⼈にもしっくりくる、α⽤⼩型望遠ズームレンズがタムロンから発売された。

今回試した「70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD」は、交換レンズメーカーとして定評のあるタムロンがソニーのフルサイズミラーレス⼀眼αシリーズEマウント専⽤に開発した最新の望遠ズームレンズ。

タムロン、Eマウント望遠ズーム「70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD」。税別7万円
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/1278950.html

「気軽に楽しむ、望遠300mm」のコンセプトの通り、焦点距離300mmを有するレンズとは思えないほどの⼩型軽量設計により同クラスでは世界最⼩・最軽量を達成している。

ソニーαシリーズの⼩型ボディの軽快さを⼀切損なわないマッチングの良さが秀逸だが、それだけでなく描写⼒に関しても⻑年に同社が得意としてきたズームレンズ開発で培った技術を惜しみなく投⼊。フィルター径67mmのスリムな鏡筒に詰められた特殊硝材を含む優れた光学設計やコーティング技術により、エントリークラスのお手頃な価格のレンズでありながらαシリーズの魅⼒をじゅうぶんに堪能できる解像⼒を有している。

外観と特徴をおさらい

左から上面、底面
α7R IVに装着した状態

本製品の鏡筒は⻑さ148mm、最⼤径77mm、重さ545gの⼩型軽量でありながら
70〜300mmの焦点距離をカバーする望遠ズームレンズ。

スリムで軽量な鏡筒はホールドしやすく、⼿の⼩さなユーザーにも扱いやすい。専⽤フードを着けてカメラに装着した状態でテーブルなどの上に置いても鏡筒がスリムなためすわりが良い。

鏡筒の操作系はフォーカスリングとズームリングのみのシンプル設計。ズーム操作に応じてレンズが繰り出し、テレ端では70mmほど全⻑が伸びる。

フォーカシングで前玉枠が回転しないためPLフィルターも使用しやすい。またフィルター径は同社ミラーレス用レンズラインアップにDiⅢシリーズの共通仕様として積極的に採用している67mm径。今後同社の他レンズの所有が増えていった時にもフィルターが共有できる。

AF駆動には⾼速かつ静粛なステッピングモーターユニットRXD(Rapid eXtra-silent stepping Drive)を搭載。ファストハイブリッドAF、瞳AF検出などソニーαシリーズのAF機能が利⽤可能。

エントリーユーザーにも向くお手頃な価格設定ながら鏡筒には簡易防滴構造を採⽤。⼿を抜かずしっかり作りこまれた取り回しの良さと安⼼感で⼿軽に望遠撮影を楽しむことができる。

撮影で使ってみて

届いたレンズを箱から取り出してまず驚いたのは、手違いでAPS-C用のレンズが届いたのかと思ってしまうほどのスリムな鏡筒。フルサイズ機で300mmをカバーするレンズの大きさには見えなかったからだ。

300mmをカバーする望遠レンズともなると、開放F値の明るい⼤⼝径レンズほどではなくともそれなりに⼤柄になる。ましてフルサイズミラーレス機のなかでもコンパクトなαシリーズに装着するとアンバランスにもなりがちだが、本レンズをα7R IVに装着した組み合わせは⾒た⽬の印象も実際に保持したバランスもとても良く、これならば⼿持ち撮影である程度の時間カメラを構え続けることもでき、被写体追従など取り回しも良い。

そして次に感じたのは鏡筒まわりがシンプルなこと。本レンズはタムロン独⾃のVC(⼿ブレ補正機構)を搭載していないので、それに関するスイッチ類がないのは当然だが、ズームレンズによくある⾃重落下を防ぐズームロックも省略されている。だからと⾔ってレンズを下向きにしたとたんにズームが伸びてくるようなユルさはない。無理⽮理振ってみると少しずつ伸びてくる程度なので⾃重落下が全く無いとは⾔えないが、神経質になるレベルでも無さそうだ。もちろんズーム操作が重いということもなく適度なトルクでスムーズにズーム操作が可能だ。

話しを少し戻すが、本レンズにはタムロンのお家芸とも⾔われている⼿ブレ補正機構「VC」が搭載されていない。従来のVC搭載のタムロンレンズでシャッターボタンを半押しすると同時に強⼒な⼿ブレ補正機構の効果でピタッと安定するファインダー像に慣れていると、撮影時にあの安⼼感を得られないことは少々不安ではある。⼿ブレ補正はα本体に任せるという割り切りをもって、VCを省略することでコンパクトな鏡筒を実現しているということでもあるが、実際にボディ内⼿ブレ補正のみでどの程度の効⼒が発揮されるのか、多くの⼈が気にする点でもあるだろう。そこで今回は本レンズの望遠端300mmの使い勝⼿をレポートしてみたい。

なお、センサー駆動式⼿ブレ補正を搭載しているαボディでは、メニューから機能のオンオフ設定が可能。通常は機能オンのままで良いが、三脚使⽤時など敢えて⼿ブレ補正をオフにして撮影したい時に設定画⾯を素早く呼び出して設定できるようにマイメニューに登録しておくのがオススメだ。

手ブレ補正のON/OFFをメニューで設定する
※画像はα7R IVのメニュー画面です。

撮影1:300mm手持ち撮影はボディ内手ブレ補正のみでOK?

⽇没後、まだ空に明るさが残っているが刻々と暗くなってくる時間帯。ボディはα7R IVを使用。300mmで撮影したが、結果的に1/5秒で⼿ブレの影響がない撮影ができた。さすがに300mmでは厳しいだろうと思っていたが、拡⼤すると看板の⽂字もクリアに読める⼀⽅で、画⾯左ではトラックのライトが流れて低速シャッターで撮影したことがわかる。単純に焦点距離分の1というセオリーに照らして手ブレ限界速度を1/320秒とすると、1/5秒なので単純計算で6段の補正効果があったという計算になる。あくまでも今回のテストにおいての結果だが、これは驚きだ。

ボディ内手ブレ補正OFF
α7R IV / 70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD / 300mm / 絞り優先AE(1/13秒・F8・-0.7EV) / ISO 800
ボディ内手ブレ補正ON
α7R IV / 70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD / 300mm / 絞り優先AE(1/5秒・F8・-0.7EV) / ISO 800

撮影は少し⾵のアタリを感じる橋の上から⾏ったが、レンズを保持する左腕の肘を欄⼲でしっかりささえ、シャッターを切っている。もちろん百発百中というわけにはいかなかったが、これがもし重量2kg級の望遠ズームレンズだったなら、⼿持ちで何度も試すのは苦痛を伴っただろう。なお、絞り開放でも良いが解像感をさらにあげたくてF8まで絞って撮影している。

⼿ブレ検証のため、あえて低速シャッター設定で撮影したが、⾼感度設定にすればもっと歩留まりは良くなる。望遠で切り撮る夜景撮影でも「気軽に楽しむ」を実感できるすはずだ。

AF性能も問題なし!

望遠レンズを手にすれば例えば運動会など動く被写体などを撮影する機会もあるだろうし、普段撮らなかったような被写体にチャレンジしてみたくなるはず。そこで重要なのはカメラのAF機能にきちんと対応し動体撮影をこなせるか否かという点。試したのは個人的にはあまり経験のない鉄道写真だ。

α7R IV / 70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD / 300mm / 絞り優先AE(1/200秒・F6.3・+0.7EV) / ISO 400

正面から一直線上のレールを進んでくるローカル線の顔でもあるフロント部分にしっかりピントを合わせたいので、動く被写体に追従してAFを合わせ続けるコンティニュアスAFに、AFエリアはゾーンAFを選択した。

特急列車のように速くはないが、仮に時速40km/hとしても1秒間に11m移動する計算。まして焦点距離は300mmに固定して、構図のバランスのベストな所に差し掛かったタイミングを狙っている。

この場合シャッターボタン半押しでAFエリアが被写体に食いついて追従開始してからレリーズする瞬間までのAF追従がキモとなるが、本レンズのAF駆動は全く問題なく瞬時に合焦し滑らかに追従をつづけてくれた。

撮影結果はご覧の通りガチピンを得られた。なお、撮影は線路をまたぐ歩道橋上から。持参した踏み台に乗っても背丈を超えるフェンスがあったためカメラを頭上に掲げてのライブビュー撮影をしている。縦位置構図で真正⾯のシンメトリで撮影できたのは軽量で撮影体勢のキープが容易な本レンズだからこそと言える。奥⾏感がぎゅっと詰まったような圧縮効果も望遠300mmの焦点距離のなせる業だ。

気軽に得られる望遠効果

焦点距離300mmの醍醐味で筆頭に挙げられるのが、遠くの被写体をまるで間近で撮影したかのように見せる引き寄せ効果。あまり近づくことのできない動物園の⼈気者達の表情やしぐさなどもはっきり見ることができるし、⼤胆にアップして切り取れば、迫⼒のある写真を撮ることもできる。

また、背景との距離があれば、大きなボケを得られるのと、写す範囲(画角)が狭いため背景の整理が容易になる。カメラ位置やアングルを少し工夫してすっきりとした背景になるように心がけることで、被写体を引き立たせた写真にできる。特に動物園などではメインの動物以外の構造物などを画面から追い出せるのでぜひトライしてもらいたい。

そのためにも臨機応変フットワーク軽く被写体に対峙できる小型軽量の本レンズはありがたい存在だ。また、望遠レンズの撮影テクニックはなにも動物園だけでなく、ファミリースナップやペット撮影などでも応用できる。標準ズームレンズとは一味違う写真を撮影できるのだ。

α7R IV / 70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD / 300mm / 絞り優先AE(1/320秒・F6.3・+0.3EV) / ISO 320

千葉県袖ヶ浦の「ダチョウ王国」で、ダチョウの顔を300mmで狙う。このダチョウ、人間が近づくとソワソワして落ち着かなくなるので、画面内に捉え続けるのはけっこう大変。ましてここまでアップにすると眼に合わせるピントの精度も重要になる。

「α7R IV」のフォーカスエリアをフレキシブルスポットMに設定し、あらかじめ想定した瞳の位置に移動させておいてからファインダーで狙い撮影。ゴワゴワした⽑の質感や、⼈間のまつ⽑のような細い⽑も⼀本⼀本きちんと解像できた。お手頃価格のレンズと侮るなかれ、かなり描写性能を有していることがわかる。

撮影距離は10m弱。さらに10mほど離れた背景の花が大きくボケている。こうした背景ボケを活かした撮影は人物ポートレートなどでも活かしたい。

α7R IV / 70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD / 300mm / 絞り優先AE(1/320秒・F6.3・±0.0EV) / ISO 200

同じく千葉県袖ケ浦のダチョウ王国から。数10m先にいる群れの中でこちらに⽬線を向ける⼀匹とその隣の⽺。300mmの画角で切り取ることで、まるで⽺の会話が聞こえてきそうな写真に。ただ漠然と撮るのではなく、望遠の画角でドラマを感じるシーンを見つけて写真にしていくのも楽しい。

ダチョウの作例よりも遠景だが、拡大すると毛の質感はしっかり再現されている。有効約6,000万画素の「α7R IV」との組み合わせでも問題ない描写性能だ。

α7R IV / 70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD / 300mm / 絞り優先AE(1/1,000秒・F6.3・-0.3EV) / ISO 200

撮ってくれと言わんばかりの⼦ヤギが⼩屋から身を乗り出して⼀生懸命アピール……しているように見えたのは、私の後ろから餌の⼊ったバケツを持った⼈が近づいてきていたから。このポーズはほんの数秒の間だけだったが、AF駆動と測距も純正レンズと何ら遜色なく軽快な速度で合わせくれたので、かわいい表情をゲットできた。

左側に写っている板の木目などを見ても、周辺画質で流れるような収差も認められず絞り開放も安心して使えることがわかる。

近接撮影にも活躍

α7R IV / 70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD / 300mm / 絞り優先AE(1/320秒・F6.3・+1.3EV) / ISO 250

コスモスを撮影した経験のある⼈ならお分かりと思うが、茎が細いためにわずかな⾵でも⼤きく揺れてしまいがち。望遠レンズの近接撮影となれば被写界深度が浅いため、AFでも花芯にドンピシャのピントを合わせるのは難儀するものだった。

それが今時のミラーレス機ではトラッキングAFを使うことで高確率で良好なピントを得られるようになった。それももちろんカメラの高速なAF検出にしっかり対応できるレンズであることが絶対条件だ。

本レンズに搭載されているステッピングモーターユニットのAF駆動系は、揺れるコスモスの動きに問題なく対応できている結果を得られた。花弁を透かすために逆光ポジションでの撮影を多用したが、輝度差のある部分での滲みもない。この作例では画⾯周辺の反射光のボケに⼝径⾷が見受けられるが、価格を考えると十分優秀な写りだと思う。

まとめ

お手頃価格のレンズと侮ることのできない描写⼒。

当初⼼配していた⼿ブレ補正なしの思い切った設計に関しては、カメラ内⼿ブレ補正で十分対応できる。カメラボディに依存するところは⼤きいものの、場合によっては⾼感度に設定することも視野に⼊れれば問題無いだろう。

また、VC省略で得られた軽快な撮影フィーリングは、様々なシーンで製品コンセプト通りの気軽に楽しめるメリットを与えてくれた。撮影時の取り回しもよく、携⾏時の重量負担もすくない。またカメラバックなどでもスペースを⼤きく取ることがないため気軽に持ち出せる。あえてズームとフォーカスの2つのリングだけに絞ったシンプルな操作系で、だれでも容易に扱える。ズームロックが無いことも、ファミリーユースでカメラ操作に慣れていない家族が使用する際にも安⼼だ。

望遠ズームレンズでは定番の100-400mmクラス、最近⼈気のあるさらに⻑焦点距離の150-600mmクラスなど、重量級のバズーカレンズを敬遠してきた⼈には特にオススメ。望遠端が少し短いときが出てきた場合は、いまどきのミラーレスカメラの有効画素数を生かして撮影後のクロップでカバーするのも良いだろう。もちろん、これまで望遠ズームレンズを持っていなかった読者には、望遠撮影の楽しさを気軽に体験できるこのレンズを強く勧めたい。

協力:株式会社タムロン
撮影協力:ダチョウ王国袖ケ浦ファーム

宇佐見健

(うさみ けん)1966年東京生まれ。日大芸術学部写真学科卒業後、専門誌出版社、広告代理店を経てフリー。カメラ雑誌などで新製品のインプレッション記事をはじめ、カメラボディやレンズの全機種比較撮影といった特殊なメカニカル記事やHOW TOなど広いジャンルの特集記事の撮影・執筆を多数担当。カメラグランプリ外部選考委員(2010〜2020)。