特別企画
なぜ野鳥撮影で「ビデオ雲台」が主流になったのか?
戸塚学さんがベルボンの新型三脚&雲台で解説!
2016年6月10日 07:00
なぜ野鳥撮影に「ビデオ雲台」なのか?
野鳥カメラマンの間ではずいぶん前からビデオ雲台が使われている。昔々、フィルム時代では2ウェイタイプの雲台が人気だった。理由は3ウェイタイプは風景やマクロなどの場合縦位置にしたいときにはとても便利だが、超望遠レンズは本体を回転させることである程度水平が出せる。したがって余分な動きをする部分は「ブレの元」ということで敬遠されていた。実際機材が重く、自重でネジが緩み指を挟む事故も多発した。
また一時期、ボールヘッドタイプが上空を飛翔する野鳥には使いやすいということで人気が出たものの、ここ最近あまり見ることが無くなった。理由は、当時はかなり高額なものでなければ超望遠レンズを使用した際に使いづらいことが原因だと思われる。
安価なボールヘッドの場合、超望遠レンズを装着するとかなりきつくロックをしないとすぐお辞儀してしまう。またきつくロックをすると動かしたい時には逆になり、力をかけないと動かせないため意外と使いづらく敬遠されてしまったのだろう。現在ではジンバルタイプも見かけるが、主流はビデオ雲台と言ってもいい。
ではなぜビデオ雲台が野鳥写真では人気なのか? それは油圧機構で滑らかな動きを実感できるからだと思う。日本国内における野鳥撮影では超望遠レンズが主となる。日本では野鳥に近づいて撮影できる場所がほとんどなく、だいたい500〜600mmが野鳥撮影では標準レンズとなる。
超望遠レンズの場合、画角が非常に狭いのでガタつきによるブレが撮影の大敵になる。しかし油圧機構の雲台ではこのガタつきがないのでいつの間にか口コミで広がっていった。
ただほとんどのビデオ雲台やそれを支える大型三脚が海外の物で、国内メーカーの物はあまり見たことがなかった。このビデオ雲台、レンズを付けていない時はパン棒で動かしても動きはとても重く緩慢に感じるが、レンズを付けると意外にスムーズに動かすことができる。超望遠レンズの画角の狭さがキビキビと動くよりも逆に緩慢な動きにより滑らかさを感じる。
もともと動画を撮るために開発されたものなのでこれは当然のことだと思えるが、一度使うとこの滑らかな動きは手放せなくなる。また最近は一眼レフカメラに動画機能が標準搭載になっている。普段はスチル撮影がメインでも、動画も撮れる時は撮るという人も多い。ちなみに著者もこのタイプだ。そのような理由もあって、最近ビデオ雲台の利用者が多くなっている気がする。
今でこそ、高感度での撮影時にノイズが低減されているのでブレは感度を上げれば手持ちでいい、という人も増えてきたが、三脚を使って、できれば低感度のノイズの少ないきれいな写真が撮れるに越したことがない。
重量級の超望遠レンズでも安定して撮影
今回ベルボンの新製品「プロフェッショナル・ジオV840BWセット」を持って、長野県の戸隠植物園へ撮影に出かけた。
5月中旬の戸隠植物園は例年なら野鳥たちが多く日本中から野鳥カメラマンたちが集まるベストシーズンなはずだったが、今年は冬が暖かかったせいか非常に植物の生育が早く、葉が視界を遮るだけでなく、鳥たちのさえずりや姿も少ない。モデルになってくれる鳥を探すのに苦労をしてしまった。それでも小鳥たちが繁殖のために巣作りやさえずりをする姿を見つけることができたので無事テストをすることができた。
戸隠植物園では基本的には歩いて探し、見つけたら撮影。またはさえずりが聞こえる場所で待ち双眼鏡で探して撮る。もしくはその場所で姿を現すまで待って撮影をするというスタイルだ。
ジオV840BWは3本の脚すべてにウレタングリップが使ってあるのでとてもごつく見えるが、カーボン製なので実際は見た目よりも軽く、このウレタングリップがあることで(あくまでメーカー非推奨の行為だが)重量がある機材を載せた状態で担いで歩いてみても肩への負担が少ないのは好印象だ。
ちなみに三脚+雲台+レンズ+カメラで10Kg弱の総重量となる。驚くかもしれないがだいたいこの重さは野鳥撮影では普通。これに加えてザックを背負うことになる。
また植物園内では木道での撮影も多くなるので、多くの人が歩く木道でのフル開脚撮影はNG。他の歩行者の邪魔にならないように開脚角度を調整して撮影をしなければいけない。今回初めてセミオートラチェット式の開脚を使ってみて調節が楽なことを実感し、驚いた。
私はものぐさなので重いカメラ機材を雲台に載せた状態で脚の高さ調整をすることが時々ある。その際バランスを崩して結構危険な目にも合っている。三脚の高さ調整は通常は脚の伸長で行うが、+αとして急斜面では開脚角度も併せて調整することがあり、このセミオートラチェット式は使いやすくとても気に入った。
現在、ビデオ雲台の主流はボールレベリング機構になっている。これは水平に近い場所で使用する場合はあまり便利さを感じないが、でこぼこした地面や斜面で使用する際に雲台の下についている締め付けグリップ緩めることで雲台の水平を素早く出すことができるので、慣れてしまうと一般的なカメラ雲台での撮影が非常に煩わしくなる。
ボールレベリング機構が無いと、脚の長さで水平を取らなければならず、完全な水平を出すにはとても難しく時間がかかる。しかし、これができていないと水平線が傾いた写真を量産する危険性もはらむのでとても重要なのだ。
ちなみに「フラット台座プレート」も梱包されているので、以前から使っていた一般的な雲台も装着できるのも、使用者に優しい配慮と言ったところか。
また水準器には照明装置が付いているので、水平を取る作業がとても楽になる。今回は明るくなってからの撮影だったのでこの恩恵を感じられなかったが、通常野鳥は早朝から午前中にかけて最も動きが活発になる。なので早朝の暗い中、足場の悪い場所で三脚の水平を出す際には照明装置が無いと苦労する。
滑らかに動く雲台が使いやすい
ジオV840BWセットの雲台「FHD-81」は特殊スプリングが内蔵されており、一定範囲内で自由にカウンターバランスを微調整できる。併せてクイックシュープレートの長さがが120mmと大型なので、レンズの三脚座に仮装着させてから雲台上でも比較的大きく移動できる。
ここでカウンターバランスが取れたなら、シュープレートの固定ネジをしっかりと閉めればいい。たとえばレンズにテレコンを付けた場合や重さの違うカメラを付けた変えた場合、この±40mmのスライド幅があることでカウンターバランスの調整がしやすい。
またカウンターバランスさえしっかりと取れていれば、重く長い超望遠レンズを付けた状態でもロックしていなくても機材がお辞儀をしなくなる。
またパン/ティルト動作のトルク切り替えが3段あるが、これもあるとなしでは大きな違いが出る。たとえば500mmレンズに2倍のテレコンを装着した場合としない場合や、重量の違うカメラを現場で付け替えて撮影する際にこのトルクの調整が大きく関わってくる。「そんなに変わるのか?」と思うかもしれないが超望遠にすればするほど画角は狭く、ブレやすくなるのでトルクを上げた方が安定するのだ。
ちなみにしっかりとカウンターバランスが取れている場合、パン/ティルト時に軽くロックをすることで手を放してもしっかりと止まる。変な言い方だが、手を離せば「ぴたり」と止まり、軽く触れれば「すーっ」と滑らかに動く。まさに「すーぴた」を実感できる。これがどの角度でも決まるのでとても気持ちが良く思わず「おおお!」と声が出てしまった。今まで使ってきた雲台でこれほど気持ち良く「すーぴた」を実感したことがなかったからだ。
木の枝でさえずることが多いこの時期の小鳥の撮影ではどうしても「見上げ」の状態での撮影スタイルが多くなる。これは非常に態勢が悪く、撮影の大敵である「ブレ」を起こしやすい姿勢となる。しかし今回は全くそれを感じずに撮影することができた。理由は上記のとおりだが、カウンターバランスが良いこととパン/ティルト動作のトルク切り替えができることでブレのない、悪い態勢でありながらも「いい姿勢」並みの撮影ができた。
500mmレンズでも余裕の動作
今回、日本でも一番い小さいと言われるミソサザイがさえずりながら目の前に現れてくれた。小さい身体で、さえずりながら木の枝を上下に移動するので追うのが大変であったが、スムーズなパン/ティルト動作のおかげで見事撮影できた。とはいえ、しっかりとホールディンができていないといくら優秀な雲台であろうとダメなことは書き加えておきたい。
突然現れたミソサザイ。近すぎると被写界深度が浅くなるので身体全体がボケずに写り、慌ててしまった。ソングポストの上では大きく動かないので雲台を固定。1/500秒でもブレを抑えた撮影ができた。
さてこの気持ちのいい動きだが、なんと気温-40度でも滑らかさに違いが出ないという。ということは-20度以下になる冬期の北海道などでも問題がないということになるではないか! これはとても心強い限りだ。
今回は無茶を承知でEOS 7D Mark II(910g)+EF500mm F4L IS II USM(3,190g)+エクステンダーEF2×III(325g)でコゲラの巣穴堀りを撮影してみた。
コゲラが巣穴を一生懸命掘っていたので、新緑の葉を手前に前ボケで入れて季節感を出してみた。続いて1.4倍のテレコン(エクステンダー)を装着して縦位置で狙う。さらに、巣穴に近づかずアップで狙うため2倍のテレコンを装着。ちなみにテレコンを装着した際はシュープレートをスライドさせることでバランスを保ち、安定した撮影ができる。
雲台FHD-81の推奨積載重量が10Kgなので総重量が4,425gではまだ5,575gも余裕がある。通常このような撮影ではかなりバランスが悪くブレを拾いやすいが、推奨積載重量に余裕があることに加えて、カウンターバランスやパン/ティルト動作のトルク切り替えを合わせることで、とても安定した撮影ができた。
枝の上をちょんちょんと跳ねながら移動をするニュウナイスズメ。見上げで非常に悪い態勢での撮影になったが、パン/ティルトが滑らかかつ、ロックは軽い力で効く。これによりニュウナイスズメの止まった瞬間を捉えることができた。
カルガモが水中に首を突っ込んだり、水面の餌をくちばしでこしとったりとなかなか顔を写すのが難しい。超望遠レンズを付けた場合、雲台は軽く動きすぎるよりもある程度トルクがかかった方がスムーズに撮影ができる。
超望遠になればなるほど画角が極端に狭くなりほんの少し動かすだけで、いや触れただけで被写体がフレームアウトしかねない。しかし油圧機構ならではで無駄なガタつきがないため、このような難しい状況下でも撮影をすることができた。
こうなれば同じ状態でフルHD動画の記録もしてみたくなる。そこで池で泳ぎながら採餌をするカルガモを狙ってみた。ちなみにEOS 7D Mark IIはAPS-Cなので35mm判換算だと1,000mmは1,600mm相当になる。超がつくような超望遠での動画だが、とてもなめらかにカルガモを追うことができた。レンズの焦点距離にもよるが、パン棒の長さも調節ができるので、テコの原理でより滑らかな動きを出すことも可能だろう。
裏ワザではないが雲台FHD-81のクイックシューはワンタッチで雲台からカメラ機材を脱着できる。たとえばだが、止まっている鳥を撮影中に突然猛禽類などが上空に出ることがある。そんな時は三脚に装着していては撮り逃がしてしまうことになる。また頭上を飛翔されると角度的に追うことが難しくなるが、クイックシューがワンタッチで脱着できれば、すぐさま飛翔する鳥に手持ちでの撮影対応ができる。
逆の場合もしかりで、手持ちで飛翔する鳥を撮影中に腕が疲れた場合は三脚に載せて休憩することもできる。この時もカウンターバランスを取っておけばお辞儀をせず、安心してほったらかしにできる。脱着させるコツだが、まず雲台を少し前に倒してロックする。右手はしっかりとグリップを握りレンズを支える左手で雲台後ろにあるロックを押し、そのままスライドさせて雲台から外して飛翔する鳥を追えばいい。