特別企画

野鳥用三脚で飛行機を撮る?超望遠レンズ初心者の写真家が挑戦してみた

ベルボン「バーダーズプロ638」はどこまでアシストしてくれるのか

筆者は一応写真を撮る仕事をしているものの、飛行機の撮影が専門外である。というよりシロウトだ。しかしながら、多くの男の子がそうであるように、飛行機に興味がないということは決してない。というより見ればワクワクするくらいには好きだ。

飛行機といえば超望遠レンズである。先入観かもしれないが、きっとよく使われるレンズであることは間違いないはず。ところが、超望遠レンズって使い慣れないひとには意外に難しいんだよね。針の孔を探すみたいに遠くの被写体をピンポイントで狙い撃ちする必要がある上に、構えがなっていないからフラついて被写体を見失いがちになってしまう。

というわけで、シロウトはシロウトらしく素直に三脚を使い、ビシッと大きく飛行機を撮ってやろうと考えた矢先、なんともピッタリな機材があることを知ることになるのだった。

高機能オイルフリュード雲台を装備した、ベルボンのカーボン三脚「バーダーズプロ638」である。

バーダーズプロ638

今年9月に発売されたばかりであるが、名前が示している通り、この三脚は本格的な野鳥撮影を志す入門者に向けて造られた意欲作だ。比較的やさしい価格設定ながらも、超望遠レンズをつかった野鳥の撮影を強力にサポートしてくれる、数々の機能を搭載しているから心強い。

え? 野鳥!?

なぜ三脚を?

というわけで、飛行機の撮影に野鳥撮影向けのバーダーズプロ638を使ってみようということになったわけであるが、当然、これは深い思惑があってのことだ。

今回、飛行機の撮影に使おうと考え用意したレンズは、タムロンの「SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2」。

SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2

超望遠レンズの経験値がないに等しい筆者にとって、400mm F2.8だの600mm F4だのは論外である。いきなり挑戦するには、大きく、重く、高価すぎる。一方、焦点距離が最長600mmありながら比較的小型、使いやすく写りもよいと評判の本レンズなら気負いせずに行けるというもの。そして初心者の筆者がよりよい構図を決めるためには、単焦点よりズームの方が安心だ。

実はここがポイントで、バーダーズプロ638は、主に150-600mmクラスのレンズとのバランスを考慮して設計されている。「野鳥撮影入門者」に向けて、人気の「150-600mmの使用」を考慮しているというあたり実に心憎い。

また、飛んでいる飛行機を三脚に据えて追いかけるとなると、雲台は一般的な自由雲台やスリーウェイ雲台などでは難しい。というのも、雲台のロックを解除すると自由に動きすぎて構図が定められなくなるからだ。もちろん、慣れればそれもできるだろうけど、それならばいっそのこと手持ちにするか一脚を使ったほうが良いと思う。あくまで飛行機撮影のシロウトでも慣れない望遠撮影で構図を安定させたい、というのが今回の主目的なのである。

バーダーズプロ638とは

そんなこんなで、三脚にベルボンのバーダーズプロ638を、レンズにタムロンのSP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2をチョイスして、ドキドキの飛行機撮影に臨んだのは、成田国際空港きってのビュースポットである「成田市さくらの山」と「ひこうきの丘」の2か所。加えて帰り際に「ゲジポイント」を教えてもらって立ち寄った。

撮影地に到着してさっそく三脚・カメラ・レンズといった機材を慎重にセットし、あとは飛行機の到来を辛抱強く待つのみ……のはずが、そこは屈指の離着陸数を誇る成田空港、心の準備もできないうちに次から次へと空の向こうから飛行機が向かってきた。やばい!

ところが、超望遠撮影に慣れないつもの筆者ならここで画面内に飛行機を捉えるのに、まず慌てふためいて一苦労も二苦労もしてしまうのであるが、この日は難なく被写体を画面内に収めることに成功し、そのままスムーズに飛行機を追いつづけることができてしまった。というのは、雲台に固定したカメラが思った方へ、スウ〜ッと動いて、止めたいところで静かに、スッと止まってくれたからである。

撮影:曽根原昇
EOS R / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 600mm / シャッター速度優先AE(1/1,600秒・F6.3・+0.3EV) / ISO 800

そう、バーダーズプロ638の雲台はオイルフリュード式。オイルフリュード雲台とはなんぞや? となるかもしれないが、これは特殊な高機能グリスを可動部に塗布することで、パン(横方向の動き)やティルト(縦方向の動き)時に定速で滑らかにカメラを動かせるというもの。動画撮影では鉄板の仕様であるが、これが飛行機撮影でもかなり使える。

と言うとカッコイイ(?)かもしれないが、実はカメラを動かそうとしたらパン・ティルトともロックが掛かったままで動かせず慌ててしまったという、恥ずかしい一幕がその前にあったりした。しかし、バーダーズプロ638のロック機構は、大きくてパン・ティルト同軸になっているので、どうすれば操作できるかが直感的に分かる。慌てながらも直ぐに固定を解除して動体撮影に移行することができた。

パン・チルト同軸のストッパー。

この大きくて分かりやすく、パンとティルトが同軸になったロック機構はすごくいい。エストニアという寒い国に取材に行くことの多い筆者としては、分厚い手袋したままでも容易に操作できるであろう、こうした親切設計を大歓迎したい。

しかも、バーダーズプロ638はカウンターバランス機構を搭載している。カウンターバランスというのは、内蔵された特殊スプリングによって、雲台にのせたカメラのティルト方向への傾きに対し、それを打ち消す方向へ力が働く機構のこと。手を離してもカメラが不用意に傾いてしまうことがないし、上下方向の負荷が軽減されるためカメラワークが容易になる。ロックを解除したままカメラやハンドルから手を離したために、カメラが勢いよくカックンと倒れてしまう事故も防げるというものだ。

また、スライド式になっている付属のクイックシューで簡単に前後のウエイトを調整できる。

カウンターバランスの反発力は約3kgとなっているが、これは150-600mmレンズを装着したカメラの重量を想定しての設定だ(推奨積載質量は4kgまで)。軽い機材を使うのでカウンターバランスは不要、という時にはレバーで簡単に機構をオフにすることもできる。

バーダーズプロ638が備える数々の機構を一気に紹介することになったが、飛行機撮影シロウトの筆者が失敗することなく撮ることができたのは、まさにこれらの機構のおかげだったのである。自分も知らなかった才能がついに目覚めたと錯覚しそうになったが、そうではなくてバーダーズプロ638が偉かったのだ。マウントアダプター経由でEOS Rに装着したもSP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2も問題なく動作してくれたし。

見えるぞ! 私にも被写体が見えるぞ!

このように初端の撮影が上手くいくと非常に気分がよろしくなるというもの。「もっと飛んでこい」とばかりに目についた飛行機をかたっぱしから撮り続けたために、ちょっととんでもない撮影枚数になっていた。撮影が楽しくなるというのは、入門者に大切なことだ。

撮影:曽根原昇
EOS R / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 350mm / シャッター速度優先AE(1/1,600秒・F5.6・+0.3EV) / ISO 800
撮影:曽根原昇
EOS R / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 200mm / シャッター速度優先AE(1/1,600秒・F7.1・+0.3EV) / ISO 800
撮影:曽根原昇
EOS R / SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 / 250mm / シャッター速度優先AE(1/1,600秒・F5.6・±0.0EV) / ISO 1600

そうして夢中になって撮影していて気づいたのであるが、この三脚、ハンドルが雲台の左側に1本だけある。一般的な3ウェイ雲台はパン用・ティルト用の2本のハンドルを備えるが、この雲台は1本のハンドルで上下左右にカメラを動かせる。右手でカメラを操作しながら、ハンドルを握った左手で自由にカメラワークがこなせていたのである。

動画用のオイルフリュード式雲台なら右側に付いているものなのにな、と思いながらよくよく確認していると、ハンドルを右側にも変換可能になっていることに気づいた。今さらながらに、バーダーズプロ638が写真・動画両対応の三脚であることを知ったのである。

知ったからには普段滅多にしない動画撮影にも挑戦してみたくなる。実際に、タキシングのシーンを撮ってみたが、オイルフリュード式雲台の滑らかな動きに助けられ、動画撮影でも動く飛行機を思った通りに撮ることができた。

こちらは帰り際に立ち寄った通称「ゲジポイント」での動画。レンズを動かしていないが、三脚があってこその動画だ。

なお、ズームなどレンズ側の操作をしながら撮影したいような場合は、使わないハンドルを取り外すこともできる。自由度の高い撮影スタイルを必要に応じて選択できるというわけだ。

雲台以下の三脚部分との組み合わせも、150-600mmレンズ+カメラを使う上で非常にバランスがよく、撮影していて強度や安定性に不安を覚えるようなことが全くなかった。脚材には5層の繊維層を重ねて剛性を高めた「高精度研磨カーボンファイバーパイプ」が使われているとのこと。

カーボン製三脚だけあって質量2,590gと軽い。当日は撮影ポイントを渡り歩いて撮影していたのであるが、この軽さと縮長685mmという携帯性のおかげで移動時に、機材の重さが負担になるようなこともほとんどなかった。

それでいて、エレベーターを上げていない状態での三脚展開時の全高が143cmあるため、身長170cmの筆者がカメラを操作するのにちょうど具合の良い高さである。背の高い人なら少しエレベーターを上げれば良いだけなので、高さ的にも多くの人が使いやすさを感じられることだろう。

また、三脚の展開を繰り返しているうちにしみじみと感じたことが、ロックナットが非常に握りやすく回しやすく、なおかつ三段になった脚の伸縮動作がスムーズになっていることである。

これは、ロックナットのデザインを握りやすくコンパクトにしたことと、パイプ表面の研磨を従来より高精度にしたことによるものだ。筆者はここ7年ほど旧タイプのベルボン三脚(ジオカルマーニュN545M)を愛用しつづけているので、明らかに使いやすくなったことにすっかり感心してしまった。

まとめ

最初の目論見があっさり達成できてしまったが、やはりこれはバーダーズプロ638のおかげである。やってみると分かるが、飛行機に限らず、遠くの被写体を画面いっぱいに写すというのは、思った以上に困難なことだ。ましてや動いている被写体を捕捉しながらのことなので、オイルフリュード式雲台の効果は絶大だった。

飛行機撮影は手持ちでやるという人が多いと聞く。しかし実際には、少し小さめに写した飛行機を後からトリミングして大きくしたり、傾いてしまった画面を画像処理で修正したりするケースがほとんどのようだ。それならば、一度セットすれば水平も画角も安定して撮影し続けることのできる三脚を使った方が、高画質な写真が撮れて良いのではないだろうか?

バーダーズプロ638は野鳥撮影に向けと公表されているものの、野鳥だけでなく飛行機でも、飛行機だけでなく風景やポートレイトなど幅広い分野でも、大いに活躍できるだけの利便性をもっていることが今回の撮影で分かった。これから三脚を使った撮影をしてみたいという人にとって、有力な選択肢となる1本と言えるだろう。

ジャパンバードフェスティバル2019に「バーダーズプロ638」がお目見え

このページで紹介した「バーダーズプロ638」をジャパンバードフェスティバル2019の会場で見ることができます。気になる方はぜひ足をお運びください。曽根原さんはいません。

ジャパンバードフェスティバル2019

開催日時:2019年11月2日(土)9時30分〜16時00分、11月3日(日)9時30分〜15時00分
会場:千葉県我孫子市手賀沼周辺
公式情報:ジャパン・バード・フェスティバル公式サイト -鳥をテーマにした日本最大級のイベント-

制作協力:ベルボン株式会社

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。