TAMRON SPシリーズ40周年企画 〜 “究極”のレンズを求めて

タムロンの「SP 35mm F/1.4 Di USD」をミラーレスカメラで試す!

EOS R、Nikon Zそれぞれでの使い勝手は?

左から中原一雄さん、水咲奈々さん

タムロン渾身のレンズとして登場した「SP 35mm F/1.4 Di USD」(Model F045)。キヤノン用、ニコン用の一眼レフ機で採用されているマウントでそれぞれラインアップしているが、マウントアダプターを使えば、キヤノン・ニコンのミラーレスカメラ(EOS Rシリーズ・Nikon Zシリーズ)でも使用できる。はたしてこのレンズ、ミラーレスカメラでの使い勝手はどうなるのだろうか。今回は一眼レフカメラとミラーレスカメラ双方を使用している2名の写真家に、それぞれミラーレスカメラでのインプレッションを語ってもらった。

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中原一雄
なかはら かずお
1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催。

水咲奈々
みさき なな
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。(社)日本写真家協会(JPS)会員。フェイスブック


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2名の写真家はSP 35mm F/1.4 Di USDをどのように使っていったのか

――まず、今回「SP 35mm F/1.4 Di USD」をどのような場所、シチュエーションでお使いになったのかお聞かせください。

水咲さん :インドネシアのバリで撮影してきました。主にジャティルウィのライステラス(棚田)やジンバランの浜辺に行ってきました。

ライステラスの撮影は細かい葉の多い場所で撮りたいなと思って。あと、浜辺では夕日や海鮮のバーベキューのシーンを撮りたいと思って撮影してきました。

ジンバランは、涼しくなった夕方に夕日を眺めながら海鮮のバーベキューをいただくイカンバカールが有名です。オープンスペースで食べる海鮮のバーベキューなのですが、日本の浜辺でやるバーベキューのように明るい場所ではなくて、すごく暗い場所なんですね。そこで瞳AFを利用したりとか。

このシーンは絞り開放で撮っているんですが、カメラに近いほうの瞳のまつ毛にばっちりピントがきていて。カメラとの相性もあると思うんですけれども、全体にふんわりしている中で、ピントのあっているところはシャープに、というように、レンズの性能がすごく試されるシチュエーションだったと思います。

撮影:水咲奈々
Nikon Z 6 / TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD+マウントアダプター FTZ / 絞り優先AE(F1.4、1/200秒、±0EV) / ISO 1600

中原さん :私は、日常的なスナップ用途でつかっていて、夜景と子どもを撮ったりしました。夜はF1.4の開放F値がいかせる玉ボケがたくさんできるのと、EOS Rはボディ内手ブレ補正が搭載されていませんので、そうした点でも明るいレンズの利点がいきると思ったためです。スナップでは寄るシーンが多いんですけれども、ズームレンズだと40cmくらいしかいけないところで、ちょっと合わないかなという場面でも、SP 35mm F/1.4 Di USDは最短撮影距離が30cmなので、ぐっとあってくれて、使いでがありました。

撮影:中原一雄
Canon EOS R / TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD+コントロールリングマウントアダプター EF-EOS R / 絞り優先AE(F1.4、1/125秒、-0.3EV) / ISO 4000

――ちなみに、お2人とも一眼レフカメラとミラーレスカメラをお使いなんですよね。使い分けはどのようにされているのでしょうか?

水咲さん :私はD850とZ 6を使用しています。D850はダブルスロットなので、かなり枚数を撮る時やバックアップをとったりするシーンで使用することが多いんです。ただ最近は出番が少なくなってきていますね。いまは水族館のシリーズで作品をつくっているのですが、館内はとても暗いので高感度画質が高いZ 6の使い勝手がまさっています。

館内は背景が黒とか紺になることが多いんです。高感度でノイズがのってくるとすぐにわかってしまうようなシーンですね。ですがZ 6はそうしたこともなく、ISO 12800とかを常用で使っているんですけれども、見づらい使いづらいと感じたことはないんです。

“軽い”ということもあるのですがZ 6の出番が9割近くになってきていますね。

中原さん :私は一眼レフカメラではEOS 5D Mark IVを使用しているんですが、水咲さんもおっしゃったように、失敗できない仕事で、大三元のような大きめのレンズを中心に使う場合はダブルスロットの安心感もあってEOS 5D Mark IVを選択しています。今回のようにスナップ撮影がメインとなる場合はEOS Rを使う、といった感じですね。

ピントの精度はミラーレスでも違いはないと思います。ミラーレスならでは、という点では今回F1.4というとても明るいレンズでしたが、圧倒的にマニュアルフォーカスがやりやすかったですね。ピーキング表示や被写体との距離目盛が表示されるので、合焦したところでしっかりと撮れました。

水咲さん :もう1点補足すると、D850のライブビューはほとんど使わないので、ファインダーを通して集中して撮りたいといった時や、日の強い時などではD850を、ファインダーとライブビューを両方使いたいときはZ 6といった使い分けです。

――今回はマウントアダプターを介して試用していただきましたが、画質や操作感に関してはいかがでしょうか?

水咲さん :ふだんはZ 6にマウントアダプター「FTZ」をつけて60mmマイクロを使っているのですが、AF性能についてもマウントアダプターでAF性能が落ちるかといわれれば、絶対に落ちないと自信をもって言えます。2cmくらいの魚の目にピントを合わせてもしっかりと合焦しているので。今回も純正同様問題なく使えていました。画質に関しても、純正と色再現の傾向が近くて違和感がありませんでした。

中原さん :画質についていえば、一眼レフカメラもミラーレスカメラも違いはない印象ですね。それとRFマウントの場合はマウントアダプターにコントロールリングがついているので、操作性はEOS 5D Mark IVよりも機能的にはむしろ良くなると思います。ちなみに、コントロールリングにはISO操作を割り当てて使用していました。

描写能力について

――画質面について、お聞きしていきます。解像性能についてはいかがでしたか?

中原さん :画質的には夜景の逆光のシーンがよかったですね。車のヘッドライトががっつりあたっているシーンとかですね。弱いレンズですとフレアでぐちゃぐちゃになってしまうことが多いのですが、この場合は乱れていない。プラス補正してオーバー目で撮っているのですが、ダメかなと思ったシーンでもかなり撮れていて。やるな、と思いましたね。

撮影:中原一雄
Canon EOS R / TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD+コントロールリングマウントアダプター EF-EOS R / 絞り優先AE(F1.4、1/160秒、+0.7EV) / ISO 4000

水咲さん :絞りはいくつくらいですか?

中原さん :F1.4です。あとおどろいた点もあって。

水咲さん :なにがおどろきだったんですか?

中原さん :先ほどもポイントとしてあげたのですが、ともすると、ゴーストやフレアでぐちゃぐちゃになってしまうことが多いシーンなんですが、オーバー目の露出で撮っていても破綻していない。しっかりと描写されていて、解像力も全然問題なかったですね。

水咲さん :これは、けっこう難しいシーンですよね。

中原さん :逆光のシーンでいうと、太陽光をがっつり入れると角度によってはフレアがでるシーンはありますが、それもよっぽどいじわるなシーンでなければ出ない印象でした。

EOS Rは約3,030万画素ですが、どこをみてもちゃんときれいで。F1.4の開放で撮っても、しっかり人も写っています。

撮影:中原一雄
Canon EOS R / TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD+コントロールリングマウントアダプター EF-EOS R / 絞り優先AE(F1.4、1/6,400秒、+2.0EV) / ISO 100

水咲さん :ほんとだ。ちゃんと見えている。

中原さん :これなんかは、光条もきれいで。

撮影:中原一雄
Canon EOS R / TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD+コントロールリングマウントアダプター EF-EOS R / 絞り優先AE(F8.0、1/1,600秒、-1.0EV) / ISO 100

水咲さん :光の筋がきれいにでていますね。

中原さん :F8くらいに絞っても、単焦点らしい細くてきれいな光条がすっとでてくれて、よかったなと。夜景をしっかりと絞って撮ってもきれいな光条がでそうだなと思いました。

――水咲さんの作品も見てみましょう。

水咲さん :このライステラスを撮ったカットでは、F11まで絞っています。手前から奥まで葉の細かい稲穂があって、真ん中あたりにある木を見ても細かい部分までしっかりと解像しています。それとコントラストがヌメッとせずに、しっかりと絞った時にシャープに色味が出るところがいいです。バリは日の光が強いので、日が当たっているところと陰になっているところまで、しっかりとコントラストを描き出してくれている描写の良さを感じました。

撮影:水咲奈々
Nikon Z 6 / TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD+マウントアダプター FTZ / 絞り優先AE(F11、1/50秒、±0EV) / ISO 100

中原さん :Z 6との組み合わせ、めっちゃ写りますね!

水咲さん :この時はフェイスブックでライブ配信しながら片手で撮ったりしていたのですが、Z 6の手ブレ補正の効果もあってしっかりと像が止まっています。もちろん35mmなのでブレにくいというのもあるとは思うんですが。

中原さん :1/50秒ですもんね。

水咲さん :そう。でも手持ちで絞りF11で撮っているんです。手前だけ変にボケてしまったりだとか、端のほうだけ画質が悪いとか、どうしても全体を見た時のシャープさがなくなってしまうレンズもあるので、そういった目で見てもSP 35mm F/1.4 Di USDは大合格のレンズでした。

あと、ライステラスは一面が緑なので、ヘタすると嫌な写真になってしまうんですね。ねむい感じの陰も日向もない感じに。でも、そうならなかったのはレンズの描写の良さですとか解像感の高さがあるんだと思います。

中原さん :けっこう細かく写ってますよね。この右下半分とか。すごく近くで見ている感じがする。

一部を拡大

水咲さん :細かい葉とかは特に解像しているかどうかというのが、すごく目立ちますね。

中原さん :2,400万画素ですよね。こんなに見えるんですねぇ。

――タムロン史上最高傑作と謳われているんですが、そういったところって感じられたりしましたか?

水咲さん :シャープさは強かったですね。私が使ったことのあるレンズの中では、いちばん強いくらいでした。この写真は更紗に絵付けをしている場面を写したものなんです。何回も描いては水で洗ってという作業を繰り返している場面なのですが、目や針のところ。まつ毛のしゃきっとしたところやメガネの質感とか、絞りを開けても絞っても、“キリッとシャープな描写が得やすい”レンズだなと思いました。

撮影:水咲奈々
Nikon Z 6 / TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD+マウントアダプター FTZ / 絞り優先AE(F1.4、1/500秒、±0EV) / ISO 1600

中原さん :ISO 1600ですけど、まつ毛の部分とか、かなりシャープに描き出されていますね。

水咲さん :高感度での画質の良さや瞳AFにも助けられました。質感の描写も、やわらかいものはやわらかく写してくれますし、先ほどのライステラスで見たように、シャキッとした触ったら痛そうな葉も、ちゃんと痛そうなイメージで写してくれますし。コントラストもべったりせずに豊かに描きだしてくれています。

ミラーレス機ならではの機能やAF速度は

――ミラーレスならではのメリットを感じたシーンはありますか?

中原さん :マニュアルフォーカスがとてもやりやすかったです。この例は、茎の部分にMFでピントを合わせているんですが、AFだと葉と茎の部分で迷ってしまって。でもミラーレスのMFですと、F1.4の開放からでもピーキング表示があったり、拡大表示でピントを追い込めるので、そうした点がひとつの利点になってきます。

撮影:中原一雄
Canon EOS R / TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD+コントロールリングマウントアダプター EF-EOS R / 絞り優先AE(F1.4、1/500秒、±0EV) / ISO 100

中原さん :あと、EOS Rで搭載されているバリアングルモニターと顔/瞳認識機能を併用することで撮影の幅がひろがるシーンとして、下の写真のような場面でも利点を感じました。

撮影:中原一雄
Canon EOS R / TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD+コントロールリングマウントアダプター EF-EOS R / 絞り優先AE(F1.4、1/320秒、+0.7EV) / ISO 2000

中原さん :実は子どもが私の上に乗っているところを、画面を見ながら撮影したのですが、ちょっとへんな体勢でも、この35mmの画角や重量バランスであれば、フレーミングさえしっかりすれば、カメラ任せで撮れるというのもミラーレスならではの安心感かなと思います。

水咲さん :子どもを撮るときはミラーレス機が便利ですよね。あと、カメラに集中できない状況では、顔/瞳認識が使えるというのは、やはり大きな強みです。

冒頭で紹介したシーンなのですが、下のカットは誕生日ケーキを前にした子どもを写しているんですが、周囲はもう真っ暗な状態で、光源はろうそくの灯だけという。そうしたシーンでもしっかりと撮れているのは、やはり瞳AFの強さがあるのだと思います。

冒頭の1枚。撮影:水咲奈々
Nikon Z 6 / TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD+マウントアダプター FTZ / 絞り優先AE(F1.4、1/200秒、±0EV) / ISO 1600

水咲さん :画面の奥側にはお店が、手前側には海があります。スタッフの方やまわりのお客様にお祝いして頂いている状況なので、お店の方に声をかけながら子どもにも声をかけてと、撮影に集中できるような状況ではないんですね。それでも撮れているのは、明るいレンズであることと瞳AFの組み合わせが片手で扱える重量に収まっていること、そうした様々な利点が総合して撮れている一枚なのだと感じています。

中原さん :子ども撮るときはミラーレスが圧倒的に便利ですよね。

水咲さん :便利。とくにカメラ慣れしていない子どもを撮るときなどは、大きいカメラだと、みんな引いてしまって。“なんか怖いの来たー”という感じで。Z 6くらいの大きさだとカメラで顔が隠れてしまうこともありませんし。

中原さん :ファインダーではなく背面モニターを見る方が子どもを撮りやすいことが多いですよね。

水咲さん :そうそう。そういった意味ではミラーレスならではのポイントかなと。大きい一眼レフだと顔が隠れてしまったりするので。

中原さん :まわりの状況を見ながら撮れる。

水咲さん :アダプターを介していても片手で持てる重量バランスですし、アダプターをつけて使える一眼レフ用レンズという感覚で使いましたけれども、違和感や操作でも問題なかったです。

水咲さんにモデルとなってもらい、EOS Rとの組み合わせで瞳AFでの撮影を実演してもらった。顔が検出され、瞳の左右選択ができる状態になっていることがわかる。

35mm F1.4というスペックを作品づくりにどういかしていくか

――35mm F1.4のレンズとしては、最後発に位置づけられるレンズです。この時代ならでは、と感じられる部分はありましたか?

中原さん :タムロンのSPシリーズではSP 45mm F/1.8 Di VC USDも使っているんですが、それと比べると解像感は別モノですね。開放で優しい表現をするタムロンのイメージとはちょっと違っているかなと。ピントがあっているところはキリッとシャープな描写で、開放からしっかり使っていけるところですね。

でも色味自体は今までのタムロンらしく素直な発色で自然な描写でしたね。

水咲さん :ニコンの描写でも違和感がないのは、その辺もあるんだと思います。ニコンもボディ・レンズともに忠実な色再現をするものが多いので、タムロンも色を乗せすぎないところが似ているから使いやすかったのかな、と思います。

――このレンズを作品撮りに使うコツや、ミラーレス機で使う際の注意点などがあれば教えてください。

水咲さん :ぜひ旅先などで使ってみてほしいと思います。35mmという焦点距離でF5.6でスナップしてきましたが、とても使いやすかったです。35mmの手ブレしにくい焦点距離と大口径で明るいレンズなので、F5.6まで絞って自然な描写のスナップを撮影するのにすごく使いやすいレンズでした。

撮影:水咲奈々
Nikon Z 6 / TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD+マウントアダプター FTZ / 絞り優先AE(F5.6、1/200秒、±0EV) / ISO 100

水咲さん :いまスナップレンズでは、35mmを使われる方が多いので、最近のレンズとしてはとても良いところに画質と価格を落とし込んでいるなと。

これ1本で、旅行に行って、広大な景色を撮ろうとすると、手持ちでF11くらいまで絞ると思うんですね。その時に、先ほどのライステラスのように手ブレ補正をいかして、三脚なしでF11まで絞りこんでも“バシッ”と撮れる重量バランスや、レンズそのものの描写・解像力がしっかりあるところがポイントだと思います。

あと、最近のデジタル対応設計のレンズだとシャープさが求められている傾向にあると思います。さきほど中原さんがおっしゃったように“しっかりと写ること”に重きを置いているように思えます。絞り開放でもピントが合っているところはしっかりシャープに写っている。でもそれ以外のところは優しくボケていく、このあたりはすごく考えたんだろうな、と思いました。

いつもレンズのレビューをやるときは1段か半段程度ずつ絞って描写のテスト撮影をするんですけれども、本レンズでも同じように撮ったところ、開放のときの描写が水彩絵の具を水で溶いたかのような、カクカクしていない柔らかなグラデーションが、すごくきれいなボケになっていたのが印象に残りました。

またF2.8で自然な円形のボケ形状になったので、室内で自然光のときにF2.8で描くテーブルフォトなどにも使えるかなと思いました。例えば旅先などでテーブルの上の料理を開放F1.4で撮るとボケすぎてしまうので、F2.8くらいにしてメインのグラスごしに文字をボカして撮るといった使い方も楽しかったです。

撮影:水咲奈々
Nikon Z 6 / TAMRON SP 35mm F/1.4 Di USD+マウントアダプター FTZ / 絞り優先AE(F2.8、1/40秒、+0.3EV) / ISO 800

中原さん :実は35mmはちょっと難しい焦点距離だなと思っていて。35mmだと写るものが多くなってくるので、やっぱり自分が動いて撮らないと何を撮っているのかわからなくなってしまうところがあります。一歩踏み込んで撮りにいかないといけないというか、ちょっと工夫が求められる距離なんですよね。

でもF1.4という明るさは夜景スナップで、やはり使いやすかったです。AFも速いですし描写も良い。ユーザー視点でSP 35mm F/1.4 Di USDをオススメできる人を挙げると、単焦点を今まで使ったことがない人は、やはりぱっと撮ったシーンでも見えかたが全く違うので、新しい世界に気づくことができると思います。ボカせばいいってもんでもないんですが、やはり絞りを開けて撮れる世界は楽しいです。

水咲さん :私は普段いちばん多く使っているのが58mmや60mmマイクロなんですが、今回35mmと聞いて、即座に“スナップだ”と思ったんですね。35mmだと人物+背景を入れ込みやすい焦点距離なので。

私はふだん人物を撮るときは縦位置が多いのですが、今回は横位置が多くて。それというのも、どういった場所で人物を撮ったのかを入れたかったんだと思うんですね。お店とかだととなりの店員さんをボカして入れてみようとか。旅行先ということもあって、ポートレートでモデルさんだけというのではなくて、少し引いて背景をボケとして入れるときに35mmってちょうどいいんだなと再確認できました。

私は望遠好きなので、35mmはあまり使っていなかったんですが、被写体が人物という状況でしたら、少し絞ってどこに行ったかわかるように背景を写し込んでもいいし、もちろん開放で思いっきりボカしてもムードのある画になる。一粒で二度おいしい楽しみ方をしてもらいたいです。ミラーレスなら、瞳AFなども使えますしね。

中原さん :旅行だと確かに35mmはいいですね。55mm F1.8とかをよく使うんですが、それだとバリエーションをつくるのが難しいというか。子どもの写真ばかりになってしまうんです。

水咲さん :旅先にこのレンズ1本で、というのでも十分にいけます。しかも寄れるのでテーブルフォトなどでも十分に使えます。しかも描写がいいので、写真がうまくなったと感じるだろうと思います。

モノとしての魅力も

――レンズのデザインや質感、つくりやサイズバランスはどうでしょう?

中原さん :スイッチ類がAF/MFだけでシンプルなので、そこは使いやすいポイントかなと思います。無駄なスイッチがないというか。あと大きめなところもいいですね。カメラを構えながらでも親指でしっかりとカチッと切り替え操作ができました。

水咲さん :ちょっと固めなところもいいですよね。バッグの中で動いてしまっていて、いつのまにかマニュアルフォーカスになっていたということもなかったです。

中原さん :しっかりかちっと。

水咲さん :この形状とちょっとの固さと、私はかなり好きですね。

中原さん :スイッチの位置もマウントアダプターでちょっと伸びている分、親指で使いやすくなっていると言えるかもしれないですね。あと、測距の窓も大きめで見やすいなと思いました。星撮るときとか、よく見ますけど、この窓は見やすいなと思いましたね。

――水咲さんはかなり暗い環境でも使われたんですよね

水咲さん :冒頭の写真のように真っ暗な環境とかもありましたね。そうした状況でも、ほぼほぼオートフォーカスで撮っていましたが、しっかりと重みもあるスイッチなので途中でAFとMFが切り替わってしまっているということもありませんでした。

あと、デザインについてなんですが、上品なスルッとした、ゴテゴテしていないデザインなので女性が持っていてもスマートに見えると思います。フードもロックボタンが備わっていてしっかりととまるところもいいですね。ロックがないと、暗闇とかでいつのまにかフードが外れていた、というケースもありますので。

中原さん :ロックボタンもひろくて良いですよね。ちゃんとカチッととまる。スイッチもしっかりカチッと操作できる。

水咲さん :はめやすいですよね。使い手のことをしっかり考えてくれている気がしますね。とりあえずフードつけました、じゃなくて“落ちないように”とか“つけやすいように”とか。

中原さん :おまけじゃなくてちゃんとしたフードですよね。あと、フォーカスリングも幅がひろくて、扱いやすさにつながっていますね。それと近年のタムロン製品は、鏡筒デザインもすっきりとしていて街中でのスナップでも積極的に使っていきたいと思わせてくれるところもいいと思います。

水咲さん :AF/MFスイッチやフードのロックなどは、本当に使い手のことを考えてくれている気がしますよね。これほどのつくりの良さで価格は10万円ほどですから、かなりコストパフォーマンスが高いレンズだと思います。

水咲さん :レンズのつるっとした感じが純正と似ていますので、そうした点でも違和感はないですね。ポートレートを撮る人は望遠側のF1.4は揃えるのですが、広角側となると手が回らないことが多いんです。ちょっと狭いところでモデルさんの上半身を撮りたいと思った時に85mmしかない、ということもあって。そういった人にとっては、手頃な価格だということや一眼レフ用のマウントだということもありますから、追加の1本としても手にしやすいかなと思います。

まとめ

「35mmのレンズではすごくキレイなボケ」と絶賛する水咲さん。今回はマウントアダプターを介してミラーレス機で試用してもらった上で、画質や使い勝手、ミラーレスならではの機能に、レンズがどのように応えてくれるのかを中心に聞いてみた。

2人が口を揃えて絶賛していたのが、絞り開放からしっかりと使っていける画質だ。キヤノン、ニコンともまだミラーレスカメラにおいてレンズラインアップの拡充が途上にある今、35mm F1.4というレンズ性能は気軽なスナップや、旅行の記録、もちろん作品撮りにもしっかりと応えてくれる、有力な選択肢の一つになっていると話していたことが印象に残った。

制作協力:株式会社タムロン
撮影:曽根原昇

デジカメ Watch編集部