タムロン“新SP”レンズの実力に迫る
写真家2人による実写レビュー!まずはスナップ編
河田一規・藤井智弘の作品集&インプレッション
(2015/9/30 13:58)
タムロンから9月29日に発売された2本の単焦点レンズが「SP 35mm F/1.8 Di VC USD」と「SP 45mm F/1.8 Di VC USD」だ。
35mmフルサイズセンサー対応の大口径F1.8ながら、手ブレ補正機構「VC」を搭載するなどスペックも上々。何よりも、タムロンがフルサイズ単焦点レンズを投入したことに、驚かれた読者もいることだろう。
その誕生秘話と設計のこだわりについては、前回の「2つのプレミアムレンズ、誕生の秘密とは?」でお伝えした。
今回は35mmと45mmをそれぞれ別の写真家がインプレッション。その魅力を探ってみた。(編集部)
挑戦的なスペックをさらりと実現(河田一規)
タムロンが9月2日に発表したSP35mmと45mmは、同社としては久々の本格単焦点レンズ、そして次世代SPシリーズの幕開けを予感させるモデルとして大いに注目を集めたことと思う。今回は2本の新レンズのうち35mmを使う機会を得たのでレポートしてみたい。
まずはデザインだが、これまでの同社製レンズに比べると非常にシンプルな外観意匠となっている。よくある「デザインのためだけに存在するアクセントライン」のようなムダな飾りは皆無であり、個人的にはとても好感を持てた。といってもデザインの受け取り方は人それぞれなので、中にはもっとデコレイティブな方が好きという人もいるだろう。
ただ、レンズの外観はシンプルな方がボディとのデザイン的なアンマッチを起こしにくいのは事実である。今回はEOS 5D Mark IIIと組み合わせて使用したが、ボディとの見た目のマッチングは決して悪くなかった。
鏡胴サイズはF1.8クラスとしては大きめで、特に太さ方向はかなりボリュームがある。最初にこのレンズを見たときは、正直「デカい」と思ったものの、今後の高画素化にも対応する解像性能を持たせつつ、さらに手振れ補正機構や複雑なフローティング機構を内蔵していることを考えると、どうしてもこの大きさは必要だったのだろうと納得せざるをえない。また、見た目ほど重量はヘビーじゃないので、フルサイズ機と組み合わせたときの可搬性は決して悪くない。
次に操作性だが、こちらは文句なしに良好。鏡胴横に設けられたAF-MF切り替えスイッチと手ぶれ補正ON-OFFスイッチは大きめで実に操作しやすいし、ピントリングの回転フィーリングも上々。最前面レンズへの防汚コーティングや、簡易防滴機能など、ユーザーの使い勝手に配慮した気配りも嬉しいところだ。
しかし、操作面で何よりも特筆すべきなのは最短撮影距離が20cmと極めて短いことによる利便性の高さだ。20cmまで寄ったときの最大撮影倍率は0.4倍と、ひと昔前のマクロレンズ並みの高倍率さである。
もちろん、レンズ設計において単に寄れるように作るのはそれほど難しいことではない。原理的にはフォーカシングの可動域を広げればいくらでも寄れるようにすることができるのだ。問題は寄ったときの画質をどれだけ担保、あるいは確保するかということだ。本レンズではフローティング機構により近接時の画質をちゃんと確保しており、画面中央だけでなく、周辺までかなりフラットで均一感のある解像性能を見せてくれる。決して「ただ寄れるだけ」のレンズではない。
近接以外の描写も立派で、最新レンズらしいヌケのよさと解像力の高さを併せ持っていることが実感できた。逆光でもフレアによるコントラスト低下はほとんど起こさないし、合焦部分のピントの立ち上がり方も実にシャープだ。アウトフォーカス部のボケ描写は過度に柔らかくなりすぎない、わずかながらに芯の残ったものに感じたが、その印象はかなりいい。
絞り開放でプレーンな明るさの被写体を撮影したときの周辺光量低下は最小限で、画面全体に周辺落ちが被さってくるようなものではなく、本当に周辺部だけがちょっと落ちる程度によく抑えられている。総じて画質面での満足度はかなり高いといえるだろう。
実のところ、35mmレンズをF1.8で手ブレ補正付き、しかも最短20cmというのはかなりチャレンジングなスペックだったはずだ。こうして製品化されてしまうと作れて当たり前のように感じてしまうが、技術的な難易度はかなり高い。それを何事もなかったように実現できた背景には、同社が得意とする高倍率ズームなどで蓄積された光学的、機構的な技術力があってこそと感じた。
自然な画角に加えて、多彩な表現力も(藤井智弘)
タムロンといえば、高倍率ズームレンズやマクロレンズで有名だったが、新「SP」シリーズの第1弾は、35mmフルサイズセンサーに対応した35mm F1.8と45mm F1.8の単焦点レンズだ。
35mmも45mmも、外観の基本的なデザインは同じ。45mmの方がやや全長が長い。私は45mmのSP 45mm F/1.8 Di VC USD (Model F013)を使用した。
50mmではなく、45mmというのは珍しい。これまで45mmの単焦点レンズは、薄型のパンケーキレンズ、もしくはシフトレンズのイメージが強い。おかげで他社の50mmとは異なる個性が光る存在だ。
外観はこれまでのタムロンレンズから大きく変わり、シンプルながら重厚感がある。新「SP」レンズのシンボルとなる、金属でできたルミナスゴールドのブランドリングとのコントラストも美しい。ピントリングの幅も広く、光学製品らしさが伝わってきた。さらに「TAMRON」のロゴも新しくすべて大文字になり、タムロンの新「SP」レンズへの気合いが感じられる。
ボディはニコンD750を使用した。45mm F1.8としては大柄に見えるが、その分、描写力にこだわっているように感じる。重さは520g(ニコン用)。D750とのバランスはよく、安定して構えることができた。
AFには超音波モーターのUSDを採用しているため、駆動はほぼ無音。滑らかにスーっと合焦するのは心地いい。合焦後には切り替えなしでMFが可能。ピントリングもスムーズに回転する。そして手ブレ補正機構のVCも搭載(ソニー用を除く)。単焦点標準レンズで、手ブレ補正機構を内蔵しているのはこのレンズだけだ。3.5段分の手ブレ補正効果が得られるとのこと(CIPA基準)。
レンズ構成は8群10枚。そのうちガラスモールド非球面レンズを2枚、異常低分散レンズを1枚採用。描写は絞り開放から高い解像力が得られる。また絞り開放の画面周辺部でも甘さがとても少ない。周辺光量はわずかに低下するものの、気にならないレベル。フルサイズF1.8としては驚くほど周辺光量が豊富だ。F2.8に絞るとほぼ均一になる。ボケも被写体の形を崩さず、自然な仕上がりだ。F1.8のボケを存分に楽しむことができる。
新「SP」レンズは、近接撮影が得意なのも特徴だ。45mmの最短撮影距離は0.29m。被写体に思い切って近づくことが可能だ。ここまで近づくと、手持ち撮影では手ブレしやすくなるが、このレンズにはVCがあるのが心強い。実際撮影してもVCの効果は高く、近接撮影や薄暗い屋内での撮影など、通常では確実に手ブレする条件でも確実に止まっていた。
コーティングには従来のBBARに加え、超低屈折率のナノ構造膜、eBAND(Extended Bandwidth & Angular-Dependency)コーティングも採用。逆光にも強く、厳しい光の条件でも抜けの良い、クリアな写真を撮ることができた。
45mmは肉眼に近い、自然な雰囲気の写真が撮れる。しかもF1.8の大口径は、大きなボケが狙え、近接撮影にも強い。描写性能も申し分なく、街のスナップでも幅広い表現が可能だ。ズームレンズとは異なる視点が確実に楽しめる。
協力:株式会社タムロン