REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
浮かび上がる美意識と歴史…初春の京都を開放F2の標準ズームレンズ1本で散策
RF28-70mm F2 L USM
2022年3月29日 08:00
本企画「REAL FOCUS(写真家の眼差し)」は、風景に潜む鮮やかな色や美しい造形を1本のRFレンズで見出すことを目的としている。
RFレンズはその眼差しを写真として昇華させてくれる。旅の中で表現の可能性を切り拓いてゆく写真家の軌跡(ルート)を、そのままトレースしながらローケションと撮影テクニックを解説する。注目すべきは各スポットで撮影した記録枚数だ。撮影に対する写真家のこだわりを感じとれるだろう。
REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/realfocus2/
第6回目の旅人は、「極彩色の京都」をテーマに京都の撮影を続けている稲田大樹さん。セレクトしたレンズはかつてない機動力の望遠ズームレンズRF28-70mm F2 L USMだ。
京都府宇治市生まれ。地元・京都をテーマに府内全域を撮影し、SNSで発信している。2022年に『極彩色の京都』という表題で写真集とカレンダーを出版。株式会社500Gに所属し、カメラマン兼京都写真家として活動している。@usalica(Twitter)
※本ページは「デジタルカメラマガジン2022年4月号」の「REAL FOCUS RFレンズと行く小さな旅 写真家の眼差しとその軌跡」を再構成したものです。
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唯一無二のレンズで京都の魅力を引き出す
京都を撮り始めて6年。何度同じ場所を撮りに行っても、いつも新しい発見がある。初春の京都を巡ると、河津桜や梅が咲き、春がやってきたことに心が躍る。
手にした機材はRF28-70mm F2 L USMとEOS R5。同じ場所でたくさんバリエーションを撮りたがる欲張りな僕は標準ズームを重用するが、RF28-70mm F2 L USMは別格だ。単焦点の明るさを持つ標準ズームレンズ、まさに自分がずっと求めていたスペックを具現化したようなレンズだからだ。
RF28-70mm F2 L USMを使い続けて早1年、もう手放すことができないほどに愛用している。愛機EOS R5との相性も最高で、約4,500万画素のポテンシャルを遺憾なく発揮してくれる最高のレンズだ。広角から望遠、ボケを生かした立体感から絞り込んだ高解像な写真。京都の魅力を余すことなく引き出せる。
今回の旅路も唯一無二の標準ズームの性能にあらためて驚かされる旅となった。
何よりも驚いたのが、その描写性能だ。開放F2でもズーム全域で優れたシャープさを見せてくれる。
F2のボケ具合も素晴らしく、広角から望遠までボケを自在に使えるので、このレンズさえあれば表現の幅が格段に広がる。通常は大口径単焦点レンズをいくつも使い分けて行なう撮影が1本でこなせることは、風景撮影において最高のアドバンテージとなる。
雨や雪が降りしきる中や海風が吹き付ける海岸、暗い時間の撮影など、レンズ交換そのものが高いリスクを伴う場合にレンズ交換をしなくて済むことは、時間やリスクの軽減だけでなく心理的な余裕ももたらしてくれるだろう。
SPECIFICATION
レンズ構成:13群19枚
絞り羽根枚数:9枚
最小絞り:F22
最短撮影距離:0.39m
最大撮影倍率:0.18倍
フィルター径:95mm
最大径×全長:約103.8mm×139.8mm
質量:約1,430g
オープン価格
※キヤノンオンラインショップ参考価格:41万5,800円(税込)
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撮影地01:淀水路の河津桜(99枚撮影)
京阪電車淀駅から少し歩いた場所にある淀水路には春の訪れを告げるかのように2月下旬から3月頃にかけて河津桜が咲き誇る。京都の色彩美を描くための最初の出発点に淀水路の河津桜を選んだ。
撮影地02:城南宮(303枚撮影)
京都の南方に位置する城南宮は、方除の大社として親しまれている場所。春のひと時、庭にしだれ梅が咲き誇る様は「梅のシャワー」とも言われ、多くの観光客を集める。
09:31|F2のボケ味を生かして春の色彩を柔らかく表現(268枚目)
城南宮の「しだれ梅と椿まつり」で見られる梅は桃源郷のような美しさだ。RF28-70mm F2は最短撮影距離が短く、小さな花にも寄れる。開放F2で撮るボケ味はとろけるような美しさで、後ろの花がぼけ、立体感を生み出してくれた。
F2の開放F値を生かすことで、背景は大口径単焦点レンズのようにとろけるようにぼけて、主題を浮き上がらせることができる。背景を滑らかに処理できるので、構図の選択肢が大きく広がる。
F5.6では背景がぼけきらず、主役の梅が埋没しているが、開放F2で撮影したカットでは主役が引き立っている。ボケによって背景のピンクも広がり、画面が華やかな印象になった。
09:45|梅と椿が共演する桃源郷(286枚目)
城南宮の神苑内に梅と椿が咲き、桃色の花びらと赤い落椿が桃源郷のような情景を見せてくれた。F8で全景をしっかりと写すと、明暗差のある梅と落椿の両方の色が、美しい色合いで描かれた。
撮影地03:楊谷寺(158枚撮影)
京都・西山三山に数えられる楊谷寺は、十一面千手千眼観世音菩薩が祀られ、眼病の快癒を祈願する柳谷観音として親しまれてきた。花手水や名勝庭園など、見どころも多く、毎月17日午前のみ特別公開される上書院からの光景も美しい。
10:46|色彩あふれる花手水(115枚目)
明るいレンズは開放時の描写が甘かったりするが、このレンズは開放絞りからキレキレで、少し絞るとさらに凄まじい描写を見せてくれる。花手水発祥の楊谷寺の龍手水で、薔薇と菊が敷き詰められた花びらの1つ1つを余すことなく描いた。
11:01|四季の色を告げる額縁(535枚目)
書院から見る名勝庭園、浄土苑。赤い毛氈と襖で額縁構図を作り庭を写した。F4時のシャープな画質と、屋内と庭園の明暗差をものともしないセンサー性能だからこそ描けたお寺の風景だ。
撮影地04:勝林寺(188枚撮影)
毘沙門天が安置される東福寺塔頭 勝林寺は1550年に創建された古刹。ボリュームたっぷりの花手水は時期ごとに内容も変わり、訪れる人の目を楽しませている。坐禅や写経体験もおこなえる。
撮影地05:金戒光明寺(293枚)
京都市左京区にある金戒光明寺は、法然上人によって開山された寺院。幕末には京都守護職として任命された松平容保がこの地に本陣を構え、新選組発祥の地ともなった歴史のある場所だ。
15:17|静寂に包まれた湿度のある寺(841枚目)
金戒光明寺の鎧池。秋には紅葉が色づく美しい池だ。池と本堂の全景を写すため、F5.6まで絞って解像感を高めた。画角は40mmに調整して、池と本堂のバランスを撮って撮影している。
15:27|奥へと誘われるような小径(345枚目)
紫雲の庭に続く石畳の道から撮ったもので、石畳がくっきり解像し、手前の緑がぼけることで写真の奥行きが増している。28mmで撮影しているが、広角でもこれだけぼけるのは大口径F2だからこそだ。
京都の歴史と美意識に向き合うための最高の選択肢
京都の美しさを余すことなく撮るために、このレンズは最高のパートナーだ。
花手水や少し暗い書院の中ではボケ味や明るさが欲しくなるため、レンズの開放F値がものを言う。計算された造形美を持つ庭園は隅々まで解像させて写したい。どこか異世界へと誘われるような小径の撮影には、大口径レンズならではの立体的な描写が役に立つ。京都撮影で必要となる描写力のほとんどをRF28-70mm F2 L USMがサポートしてくれる。これにEOS R5のダイナミックレンジと手ブレ補正が加われば、まさに盤石。境内では三脚を使用できないことがほとんどだが、開放F2の明るさと手ブレ補正でほぼすべてのシーンを手持ちでカバーできた。
また、寺社仏閣を巡る旅の荷物は少ない方が望ましい。たしかに、RF28-70mm F2 L USMは標準ズームと考えるとやや大きく重たいかもしれない。それでも、28、35、50、70mmとF2以下の単焦点レンズをそろえて持ち出すことを考えると、それが1本のレンズに凝縮されているのだから、とてもコンパクトではないだろうか。
何より、このレンズの描写力は、スペックで表されるパフォーマンスを凌駕する凄みがある。それは論理的な部分を超えた、感覚的なものかもしれない。しかし、京都という地が磨き上げた美意識と積み上げてきた歴史に対峙するには、まず自分が納得のいく機材を選びたい。自分が最高だと思う機材で最高の京都写真を撮ることは幸せだ。
合計撮影枚数:1,041枚
現場写真:小形一平(500G)
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社
※寺社の撮影には許可が必要な場合があります。本企画は撮影許可を得ています。