REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
被写体に寄ることで生まれるドラマ…明るいマクロレンズが活躍した長崎ポートレート撮影
RF24mm F1.8 MACRO IS STM
2022年8月24日 11:00
本企画「REAL FOCUS(写真家の眼差し)」は、風景に潜む鮮やかな色や美しい造形を1本のRFレンズで見出すことを目的としている。
RFレンズはその眼差しを写真として昇華させてくれる。旅の中で表現の可能性を切り拓いてゆく写真家の軌跡(ルート)を、そのままトレースしながらローケションと撮影テクニックを解説する。注目すべきは各スポットで撮影した記録枚数だ。撮影に対する写真家のこだわりを感じとれるだろう。
第7回目の旅人は、陰影や物語性をテーマに撮影を続けているkanakoさん。セレクトしたレンズは大口径かつ近接性能に優れるレンズRF24mm F1.8 MACRO IS STMだ。
1995年生まれ、長崎県生まれ。2020年、Canon fotomoti×CURBON主催の次世代スター発掘キャンペーンにて次世代スターに選出。陰影をテーマとしたポートレートを中心に独自の世界観を演出している
※本ページは「デジタルカメラマガジン2022年9月号」の「REAL FOCUS RFレンズと行く小さな旅 写真家の眼差しとその軌跡」を再構成したものです。
長崎の海辺を巡る心象的ポートレートの旅
RF24mm F1.8 MACRO IS STMは、軽量で旅に持ち出しやすく、ハーフマクロにも対応するため、引きから寄りまでを1本でこなせる万能レンズだ。このレンズとEOS R6を手に、長崎らしさを感じられる場所を巡った。
ポートレートを撮るこの旅のテーマは1枚の写真から物語を作り出すこと。24mmらしいワイド感を生かすために、撮影地にはこだわった。
1カ所目は片島公園。ここは映画「バケモノの子」の舞台のモデルになったともいわれ、かつては海軍の施設があった場所だ。さらに、沈む夕日と特徴的な形のりんご岩が有名なかきどまり白浜海岸、長崎らしく坂道が特徴的な丸善団地を巡る。
24mmという画角はその場の雰囲気を余さず写し込むのに最適だ。
撮影時間は昼下がりから夜のはじめまで。刻々と変化する光と影を帯びる人物の心境に迫るようなカットでは、レンズの近接性能と明るさが役立った。いつもより人物に迫る撮影行で、新たな作風を得られていく感動を覚えた。
最大撮影倍率0.5倍のハーフマクロ撮影が楽しめる広角単焦点レンズ。大口径F1.8のボケ味と、24mmの広い画角を生かしたワイドマクロ撮影もでき、スナップやポートレートなどで幅広く活用できる。
全長約63.1mm、質量約270gと、小型・軽量な点も大きな特徴で、気軽に持ち運ぶことができる。
光学式手ブレ補正の効果はレンズ単体で5段。さらに、ボディ内手ブレ補正機構を搭載したEOS R5/R6に装着した際は、協調制御により最大6.5段もの手ブレ補正効果を得られる。
暗所や夜の手持ち撮影時も画質を落とさず撮影することができ、とても魅力的だ。
SPECIFICATION
レンズ構成:9群11枚
絞り羽根枚数:9枚
最小絞り:F22
最短撮影距離:0.14m
最大撮影倍率:0.5倍
フィルター径:φ52mm
最大径×全長:約φ74.4×63.1mm
質量:約270g
発売予定日:2022年8月26日/オープン価格
※キヤノンオンラインショップ参考価格:9万6,800円
【撮影地01】片島公園(459枚撮影)
海軍工廠の遺構が残る海辺の公園。廃墟となった建物には木々が生い茂り、木漏れ日の注ぐ公園には静かな時間が流れている。
14:25|涼やかな木陰への誘い(123枚目)
映画「バケモノの子」の舞台のモデルとなった片島公園。RF24mm F1.8 MACRO IS STMは程よく広い画角で大きな木も建物も思い通りに写し込むことができ、異世界に迷い込んできたかのような演出ができた。
14:30|青々しい葉の香り(180枚目)
葉っぱの奥に立ってもらい撮影。F1.8で作った手前の前ボケがアクセントとなっている。背景もしっかりとぼけていることで、被写体の力強い表情に視線を誘導する効果を得ることができる。
14:37|寄りと引きのバリエーション(250枚目/269枚目)
広く撮れるだけでなく、至近距離まで寄れることがRF24mm F1.8の特徴。寄りと引きを使い分けると、アクセントが生まれる。引きのアングルは対角線を生かした構図に、近接時は上からのアングルでデフォルメ効果を生かした。
14:59|水滴越しに見る世界(345枚目)
アクリル板に付いた水滴にフォーカスを当て、レンズ先端から約4cmの距離で撮影。1つ1つの水滴が呼吸をしているような世界を写し出した1枚だ。確実に水滴にピントを合わせるため、MFを使用したが、EVFの視認性も高く、しっかりとフォーカスできた。
【撮影地02】かきどまり白浜海岸(293枚撮影)
長崎市街地から近い、美しい白砂の浜辺。そびえ立つ波の浸食がすすむ独特の形状の岩は、「りんご岩」と呼ばれ長崎の人たちに親しまれている。
18:03|日暮れが迫る空の色(467枚目)
晴れてほしいと思い空を見ていたときの1枚。ずっと携行していられるサイズだから、撮りたい瞬間を見逃さずに撮れた。サイド光で撮影したことで、雲の立体感も生まれ、絵に書いたような質感が出た。
18:33|波の音を聴く時間(701枚目)
りんご岩へ歩いて向かっている途中、振り返り際の1枚。被写体に近づいて撮影しダイナミックな写真に。あえて少し絞って撮影し、背景と被写体との距離感が分かるように演出をした。
【撮影地03】丸善団地(160枚撮影)
丸善団地のあるこのエリアは、長崎らしい坂のある町。ちょうど日暮れの時間に訪ねると、空が暗くなるにつれて、街明かりが灯りはじめた。
19:37|迫る夜を待つ(854枚目)
階段の手前に立ってもらい、モデルにピントを合わせて眺めている景色を開放F1.8でぼかした。24mmでは近くにいる被写体は大きく、遠くの被写体は小さく写せるので、写真に奥行きを出しやすい。
19:50|街に灯る光(897枚目)
街灯がつくまで数十分待った。指にピントを合わせ、奥の街灯や街の景色を玉ボケにする。近接性能を生かして指に近づいていくと、玉ボケはどんどん大きくなる。程よいサイズになったところでシャッターを切った。
寄り引きを柔軟に切り替えて描き出す物語のある1枚
坂が多い街として知られる長崎は、どこかノスタルジックで、暖かみを感じる。カメラを始めたばかりのころ、友達に誘われて行った片島公園。夕日と言えばよく撮影をしているかきどまり白浜海岸。ずっと行きたかった丸善団地。思い出と期待を詰め込んで、3点をつなぐ小さな旅へと向かった。
手にしたのはRFレンズに加わったRF24mm F1.8 MACRO IS STM。小さなレンズだが、開放絞りでは人物が滑らかなボケに浮き上がり、絞ると精緻に描かれる大口径レンズらしい描写を存分に楽しめる。画面の情報量をコントロールしながら、撮影地と人物の物語を紡いでいくというアプローチにピタリとはまるレンズだ。
引きの写真ばかりでは物語が止まってしまうので、時折F1.8らしいボケやハーフマクロ機能を使った演出で、ドキッとするような写真を盛り込んでいく。普段常用しているレンズではもっと寄りたいと思うことも多々あるが、このレンズなら、寄れるどころか肉眼では見えないような水滴の中まで写し出せて、驚きを隠せなかった。写真を演出する引き出しが、さらに広がりそうだ。
影が伸びる時間から日が暮れるまで、カメラを持って物語のある1枚を追い求めた小さな旅。その写真には、現実と想像の狭間にあるかのような、イメージが写し込まれていた。
旅先に行く際、持ち出すレンズ選べず悩むことがよくあるが、このレンズは軽量で、寄りも引きもマクロ撮影も可能なので、旅のレギュラーメンバーになりそうだ。
合計撮影枚数:912枚
モデル:koharu(@khrn_photo)
現場写真:大西悠仁
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社