REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
秋の鉄道風景と色鮮やかな紅葉を求めて…コンパクトな望遠ズームレンズと行く福井県〜京都府の旅
RF70-200mm F4 L IS USM
2021年12月20日 12:00
本企画「REAL FOCUS(写真家の眼差し)」は、風景に潜む鮮やかな色や美しい造形を1本のRFレンズで見出すことを目的としている。
RFレンズはその眼差しを写真として昇華させてくれる。旅の中で表現の可能性を切り拓いてゆく写真家の軌跡(ルート)を、そのままトレースしながらローケションと撮影テクニックを解説する。注目すべきは各スポットで撮影した記録枚数だ。撮影に対する写真家のこだわりを感じとれるだろう。
REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/realfocus2/
第5回目の旅人は、鉄道風景や自然風景を追っている写真家・三吉勇基さん。セレクトしたレンズはかつてない機動力の望遠ズームレンズRF70-200mm F4 L IS USMだ。
週末などを利用し、主に四季折々の鉄道を絡めた風景を撮影し、SNSで発信している。企業依頼撮影やカメラ誌、写真集、カレンダーなどさまざまな出版物へのデータ提供を中心に活動している。@7djet(Instagram)
※本ページは「デジタルカメラマガジン2022年1月号」の「REAL FOCUS RFレンズと行く小さな旅 写真家の眼差しとその軌跡」を再構成したものです。
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届かないものを引き寄せ、美を凝縮した世界を描く
望遠レンズは人の目では見えない圧縮された世界を見せてくれる写真的な表現の1つを可能にする。手の届かない遠くのものを引き寄せ、そこに至るプロセスを極端に凝縮した世界は否が応にも心を奪われてしまう。鉄道風景は、そんな望遠レンズが得意とするジャンルの1つだ。町を走る車両をジオラマのように画角に収めたり、あるいはボケの表現で日常を絵本のように描き出す。
今回は福井県大野市を走る越美北線と風景で、RF70-200mm F4 L IS USMが描く表現の幅に迫る旅に出た。翌日は勝手知ったる京都の紅葉に挑んだ。標準レンズで撮り慣れた光景に望遠レンズで挑む。京都の寺院のコンパクトな作りを、望遠レンズなら、いつもと違った世界に見せてくれるのではないだろうか。霧が包む京都の町に色づいた紅葉の木々が白いベールに見え隠れしていた。初めて訪れた友人を案内するときに感じるように、新鮮な視点を楽しみながら撮影は進んでいった。
大口径マウントとショートバックフォーカスの恩恵で70mm時は約119mmと短くなり、質量も約695gと軽量・コンパクトな望遠ズーム。最短撮影距離は0.6mと被写体に迫った撮影ではとろけるようなボケ表現を可能とする。ナノUSMによる高速かつ正確なAFを実現し撮影チャンスを逃さない。搭載されたコントロールリングでは任意の設定を割り当てファインダーから目を離すことなく操作を可能としている。手ブレ補正は200mmでEOS R5/R6と組み合わせた場合、カメラ・レンズの協調で最大7.5段分ととても強力。UDレンズ4枚を使用した描写は全域で高画質だ。
SPECIFICATION
レンズ構成:11群16枚
絞り羽根枚数:9枚
最小絞り:F32
最短撮影距離:0.6m
最大撮影倍率:0.28倍(200mm時)
フィルター径:77mm
最大径×全長:約83.5mm×119.0mm
質量:約695g
オープン価格
※キヤノンオンラインショップ参考価格:214,500円(税込)
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撮影地01:牛ヶ原駅周辺(41枚撮影)
最初に訪れたのは牛ヶ原駅を俯瞰で望めるスポットだ。早朝に到着するともやに包まれた山間部に朝日が差し込み、神々しく輝いていた。新しい1日が始まる様子を望遠ズームで切り撮る。
撮影地02:一乗谷朝倉氏遺跡(72枚撮影)
朝霧に包まれた大野市は、あちこちで水滴がキラキラと輝いていた。一乗谷朝倉市遺跡周辺の山々に付いた水分が山霧を生み、光が差し込む。大きな銀杏の木が背景の淡い緑に一際明るい。車を停めて吸い込まれるようにレンズを向けた。
撮影地03:越前田野駅周辺(5枚撮影)
見落としてしまいそうな小さな駅にも沢山の物語があるのだろう。近くの小さな祠には1本の銀杏が鉄道を見送るように植えられている。赤い車両がやって来るまでの待ち時間は銀杏の見てきた物語に、そっと耳を澄ませたくなる。
撮影地04:龍双ヶ滝(34枚)
市街地から山を隔てて県道34号線を進む。やがて道が狭くなり、林道の様相となると細い道の側とは思えない程の立派な滝が現れる。近くの駐車場に車を停めて数分歩くと広角でも望遠でも楽しめる龍双ヶ滝が待っている。
撮影地05:柿ヶ島駅周辺(7枚)
日の短い秋冬には、日中は往復4本ほどしか撮れない越美北線。撮影ポイントをいかに回るかが重要となるが、柿ヶ島駅付近の俯瞰ポイントは、川沿いを走る車両と森林を抜けて田園へ向かう車両の2つの撮り方ができる貴重な場所だ。
撮影地06:牛ヶ原駅周辺(34枚撮影)
夕方に再び牛ヶ原に戻った。長い直線は朝夕どちらにもドラマチックな光景を見せてくれる。鉄道で故郷を離れる者、あるいは帰る者は、林を抜けて市街地が見えてくるこの直線に何を思うのだろう。
撮影地07:獨鈷抛山 展望台(100枚撮影)
翌朝は丹波霧で有名な亀岡市で迎えた。まだ人々が夢の中にいるころ、雲上は絶景となる。雲の上には寺の山門と銀杏が見えていた。極楽浄土とはこのような場所だろうか。市街地から林道を登るだけで出合える絶景に朝から息を呑んだ。
撮影地08:積善寺(15枚撮影)
夜明けの絶景に後ろ髪を引かれながら「下界」に降りると寺の参道に向かった。紅葉のピークとは言え、亀岡市の朝は静かだ。近くの散歩の方と撮影者が数人。揺れる霧にシャッターを切りながら、向かう先への期待が膨らむ。
撮影地09:神蔵寺(15枚撮影)
生き物のように再び濃度を増した霧の中、オレンジが重なるように続く参道を包む。ファインダーの四角い窓をのぞくと和菓子に閉じ込めたモミジのように淡く繊細に重なっていた。神蔵寺は中央の大カエデも必見だ。
撮影地10:龍潭寺(54枚撮影)
市街地の裏山のような場所にある龍潭寺。山門をくぐり、境内に入ると大銀杏がまぶしい。本堂の先にある石段を登った先にある三十三カ所石仏と庚申堂は光が差し込むと、まるで深い山のように荘厳な光景になる。
09:15|漆黒に浮かぶ黄葉(345枚目)
紅葉スポットは、混雑などで三脚を使うのが好ましくない場合もある。本レンズは手ブレ補正効果が高く、手持ちでのアプローチも可能。柔軟に視点変更して暗い背景を選ぶと、ボケを生かした明るい写真とは異なる印象に仕上がる。
望遠端200mm時であっても、EOS R5/R6との組み合わせた場合は、レンズとカメラが協調した手ブレ補正効果が得られ、最大で7.5段分の手ブレが補正される。なお、手ブレ補正モードを切り替えることも可能で、静止した被写体に有効なMODE1、流し撮り用のMODE 2、露光時のみ補正されるMODE 3を選択できる。
光量が少ない条件下では200mmの望遠域での手持ち撮影は難しい場合があるが、補正なしではぶれてしまう1/50秒までシャッター速度が落ちても、しっかりと止めて写すことができる。
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撮影地11:龍隠寺(29枚撮影)
亀岡エリアでも一番人気の龍隠寺。雨上がりの落葉した夜明けには撮影者が集まる。しかしながら、それだけに境内へと続く参道に敷き詰められた紅葉の道を見ると圧巻の一言。枝ぶりが字の如く、龍が舞うように優雅で美しい。
11:23|境内へと誘う紅葉の道(383枚目)
龍隠寺の境内へと続く道に重なり合うようにある紅葉。浮世絵のようにレイヤーを重ねていくイメージで70mmの中望遠域で撮影すると、奥ゆかしいイメージが描かれた。
11:47|彩りの向こう側へ(399枚目)
200mmの望遠端を使って紅葉の葉とボケの表現を狙った。開放でF4通しのスペックに最短撮影距離0.6mを生かし、被写体に寄って撮影すると、背後の黄色の紅葉がとろけるような上質なボケ味を見せてくれる。
200mmの浅い被写界深度を生かすことで、とろけるようなボケを描くことができる。背景の情報量を減らすことで主役の被写体が浮かび上がり、みずみずしい印象に写真を変化させられる。
紅葉した葉に絡みつくセミの抜け殻にピントを合わせて開放絞りのF4に設定すると、背景の輪郭は見事にぼけて、柔らかくみずみずしいイメージを描くことができる。
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新しいアイデアが浮かんでくる軽快な望遠視点
小さな国土にたくさんの町があり山と海に囲まれた日本。それらをつなぐように人の想いを乗せた鉄道が今日も走っている。そんな地形を凝縮したような大野市を走る越美北線を1日目の撮影地に選び、日常にある鉄道風景を写したいと思った。70-200mmという画角は山からの俯瞰やレールが紡ぐ沿線の風景に最適だ。豊かな自然と暮らしの中に走る鉄道の姿を、制限のある撮影場所であっても表現できるズームレンズは撮影の頼もしい味方となる。また、F4通しのスペックのおかげで、どの焦点距離でも露出の変化を気にせず瞬時に画角を変えることができ、素早いAFとの組み合わせで攻めの撮影を可能にしてくれる。
2日目は通い慣れた京都府亀岡市を皮切りに丹波篠山市へと続く紅葉を追いかけた。慣れた場所ほど、各々決まった画角があるものだが、あえて望遠1本だけで挑むと、気が付かなかった切り取り方や枝葉の描く芸術的な造形を知ることができた。また、人気の撮影地である京都では三脚を据えられない場所も多いが、夜明けの雲海や紅葉風景も強力な手ブレ補正と695gの軽量さで無理なく自由な構図に決めることができる。手持ちで撮りたくさせる軽量さが、自然と新しいアイデアをリズム良く生み出してくれた。
標準ズームと変わらないサイズで、カメラに付けたままの状態でもすんなりとカメラバッグに収まり、それでいてあらゆる撮影をこなせる。このレンズをバッグに入れているだけで、次の撮影への期待が自ずと膨らむのだった。
合計撮影枚数:406枚
現場写真:三吉良典 @ryostory1124(Instagram)
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社