新製品レビュー
ライカQ(実写編)
サクサク撮れる気持ちよさと、シーンを問わないレンズの力
Reported by藤井智弘(2015/6/29 11:57)
35mmフルサイズの2,400万画素CMOSを搭載し、大口径広角レンズのライカ ズミルックス f1.7/28mm ASPH.を固定装備したライカQ。ライカMやライカXを踏襲するライカらしいデザインと共に、368万ドットのEVFや、ライカTから受け継ぐタッチ操作、さらに無線LAN機能も装備。ライカの伝統と最新技術を同時に味わうことができる。
ライカQは、とにかくサクサク撮れて気持ちいい。筆者はレンズ固定式のライカでは、APS-Cセンサーのズーム機「ライカXバリオ」を使用している。起動時間やAFは決して速いとはいえないものの、大きな不満は感じていなかった。しかしライカQは、これまでのライカTやライカXシリーズと比べて、驚異的にレスポンスが向上した。AFはとても速く、スパッと合焦する。しかもマクロモードに切り替えてもAFが迷わず、速度も落ちない。新画像処理エンジン「LEICA MAESTRO II」の性能の高さもあるだろうが、エレクトロニクス技術全般が大きく向上したように感じる。
それでは実写した結果はどうだろうか。前回にもお伝えした通り、画質を突き詰めるとレンズは交換式より固定式の方が有利だ。ボディと最適化でき、マウントによる制約がないのでベストなレンズ構成ができる。おかげで画面周辺まで解像力の高い描写だ。絞り開放では、中央と周辺部に解像力の差がやや見られるものの、フルサイズでF1.7と考えると驚くほど描写性能が高い。また周辺光量は絞り開放のF1.7でわずかに落ちるが、F2に絞っただけで解消される。またF1.7でも不自然な落ち方ではないため、F2以降と比較しない限りほとんど気にならない。
絞りによる変化
絞り開放のF1.7と、F2から最小のF16までは1段ずつ絞りを変えて撮影した。開放ではわずかに周辺光量が落ちているが、フルサイズのF1.7としては優秀だ。また解像力も画面周辺でやや甘いものの、とても大口径レンズの絞り開放とは思えないほど高い解像力を持つ。
そして逆光にも強い。画面に太陽が入るようなシーンでも、フレアがほとんど出ずにコントラストの高い写真が撮れる。またゴーストも発生しにくい。広角レンズは画面に太陽が入りやすいが、逆光でも安心して撮影に集中できるのは心強い。
広角レンズとはいえ、35mmフルサイズセンサーでF1.7の大口径。ボケ味も気になるところだ。ライカ ズミルックス f1.7/28mm ASPH.は、ボケの形が崩れず、自然な雰囲気で浅い被写界深度が楽しめる。さらに絞っても点光源のボケがカクカクしない。ピントが合った部分が立ち上がり、スーっとアウトフォーカスになる。そのため立体感のある写りだ。
以前、ライカカメラ社のレンズ開発責任者であるピーター・カルベ氏が「ライカレンズは解像力と同時にボケ味も意識して開発しています。そのため、ピントが合った部分が際立ち、立体効果(3D effect)が得られるのです」と語っているのを聞いたことがあるが、まさにそれを感じさせる写りだ。
ライカというと、これまでレンズよりボディが注目されるケースが多かった。しかし、かつて大判カメラが当たり前だった1914年に、オスカー・バルナックが35mm判の小型カメラ、ライカを発明し、1925年に市販されるとあっという間に35mm判が普及したのは、ボディが小さいからだけではない。画質も良かったからだ。その高画質の鍵を握るのがレンズである。
これには現在でも名前が残るエルマーの生みの親、マックス・ベレクの存在が大きい。オスカー・バルナックとマックス・ベレクがいたからこそライカが誕生し、「最高のボディと最高のレンズによる、最高の画質が得られる小型カメラ」として成功したのだ。そのフィロソフィーは、ウル・ライカの誕生から100年が経った現在のライカにも受け継がれている。ライカQでの撮影は、その姿勢を感じることができた。
さてライカQは、ライカのフルサイズ機で初めてISO100~50000という広い設定を可能にした。高感度ノイズは、ISO1600までは常用できる。ISO3200はややノイズが目立つものの、拡大しなければ気にならないレベル。ISO6400からノイズが目立ち、ISO12500以上は緊急用だろう。ただDNGでも撮影し、Lightroomなどで現像時にノイズ除去の処理を行うと、ISO6400でも十分常用できる画質になる。
ISO感度
感度設定範囲はISO100からISO50000。拡張設定は設けていない。ISO800まではほぼISO100と同じ感覚で使用できる。ISO1600から拡大すると高感度らしさを感じるが、ISO3200までは常用できる範囲内。ISO12500からシャドーの締りが弱くなる。実用的なのはISO6400までだろう。
これまでのライカは高感度がやや厳しいところがあり、ライカQでも極端に強いわけではないが、従来と比べると飛躍的に良くなったといえるだろう。また高感度でも被写体のディテールがしっかり残っているのもライカらしさを感じた。
APS-CセンサーのライカTとライカXシリーズは、初期設定でのJPEGは彩度が低く、ヨーロピアンテイストとも呼べる落ち着いた色調だった。だがライカQは彩度が低すぎず、高すぎもしない、見た目の印象に近い色再現だ。パラメーターがデフォルトのままでも色が地味と感じることはないだろう。これは新採用の画像処理エンジン「LEICA MAESTRO II」によるところが大きいのかもしれない。JPEGをメインにする人には扱いやすい色調といえそうだ。
大口径レンズと聞くと、浅い被写界深度と暗所に強いイメージがある。ライカQはISO100が選べること、そして電子シャッターで最高1/16,000秒の撮影が可能で、光学式の手ブレ補正機構を内蔵し、ISO50000まで感度を上げられる。つまり明るいところから暗いところまで大口径レンズを楽しめるということだ。しかも絞り開放から高い描写性能を持つ。
さらに35mm相当や50mm相当にもクロップができ、画素数も実用になる。このようなカメラは他にはない。しかもカメラの造りはライカのハイクオリティ。ライカQはライカMユーザーをはじめとするライカファンだけでなく、他社ユーザーにとっても注目の1台だ。
35mmクロップ撮影
35mmといえば、50mmと並ぶライカのメインともいえる焦点距離。この画角を標準にしている人も多い。ライカQは35mm相当にクロップしても約1,500万画素あるので、実用上は不満のない画質が得られる。
50mmクロップ撮影
50mm相当にクロップすると約800万画素。現在では少ないイメージだが、A3ノビにプリントしても鑑賞できるほどの画質は得られる。見た目に近い、自然な遠近感で撮りたい場合に効果的だ。また近接撮影にもより強くなる。
モノクロモード
JPEGの設定をモノクロにした。ライカQでは赤や黄色などのフィルター機能もなく、「モノクロ」ひとつのみだ。とはいえコントラストは適度で、階調も豊か。さすがモノクローム専用機を発売しているライカだ。ISO800やISO1600にすると、ノイズが粒子のような雰囲気になる。
作品集
錆びたビスや扉の質感がリアルに再現されている。扉の塗装が剥げた様子もよくわかる写真だ。マクロモードで近づき、シャッター速度は1/40秒だが、手ブレ補正機構のおかげでブレずに撮れた。
28mmは強い遠近感を手軽に楽しめる焦点距離だ。しかもディストーションは抑えられていて、不自然な歪みは感じられない。
マクロモードで靴をクローズアップ。靴の質感が見事に再現されている。近接撮影でも描写力が落ちない。被写体に寄りながら遠近感も誇張できるのため、ライカMシステムとは異なる表現ができる。
風に揺れる草を、シャッター速度は1/13秒でブラした。しかし手ブレ補正機構のおかげで、止まっている部分はシャープに撮れている。ライカQは高速シャッターにもスローシャッターにも強い。
夕暮れの河原。シャドーは潰れているように見えるが、トーンはしっかり残っている。空の階調も申し分ない。