新製品レビュー

キヤノン EOS R1

継承と進化を体現したフラッグシップモデル…スペック表では見えない真の実力は?

本格的なカメラの代名詞は既に「一眼レフ」から「ミラーレス」へと完全に移行したと言っていいだろう。

そのなかで2021年にはソニーがα1を、ニコンはZ9を発売し、これらがラインナップ上の「フラグシップモデル」「プロ向けモデル」としていた中、キヤノンはフラグシップモデルを発売していない状況が長く続いていた。

その中でこの5月に突如開発発表、7月の正式発表を経てついに11月29日(金)に発売されたのが待望のキヤノンフラグシップミラーレスカメラ「EOS R1」だ。

まず話題になったのがその価格。オープン価格だがキヤノンオンラインショップでの参考価格は108万9,000円。「ついに100万円越え!」というのが取り沙汰されたのだがこちら、消費税を抜いた価格で考えればちょうど99万円。確かに高価なのだが、この価格は精一杯100万円を切るように務めた努力の価格であろうと考えたい(笑)

今回は、キヤノンのフラグシップデジタル一眼レフカメラ“EOS-1Dシリーズ”を最新のEOS-1D X Mark IIIまで5世代と、ミラーレスカメラのEOS R3(以下、R3)を仕事でメインカメラとして使い続けている、人物撮影のカメラマンから見たEOS R1(以下、R1)をレポートしてみよう。

継承と進化

歴代のEOS-1系を踏襲した曲線を多用した縦位置撮影グリップ一体型のボディ。EOS R3との連続性を強く感じさせるがグリップ部からの貼り革(エラストマー)のパターンはR3の丸型ディンプルから金属製非常階段の滑り止めパターンを連想させるクロスパターンに。貼られる範囲もレンズマウント上部にまで及んでいる

本モデルのスペック的な概略は、裏面照射の積層型2,420万画素フルサイズセンサーを搭載した、最高約40コマ/秒の連写が可能なプロ向けモデルだ。

映像エンジンにはこれまでと同じ「DIGIC X」に加えて、新プロセッサーの「DIGIC Accelerator」を搭載したデュアルプロセッサー構成の「Accelerated Capture」エンジンシステムを採用。画素数はこれまでとほぼ据え置きであるうえにコマ速も中級モデルのEOS R6 Mark IIと数値上は一緒。エンジンシステムも夏に発売されたEOS R5 Mark IIと同じということで、数値上のスペックで他機種との差をアピールする製品ではないことは明らかだ。

実際に手にして感じるのは、これまでのキヤノンのトップモデルであったR3とそっくりであるということ。重量こそ100gほど増加しているものの、一眼レフカメラのEOS-1D X Mark IIIより325gも軽量。多くのボタン/ダイヤル配置はほぼ同じで持ち替えたことに違和感を覚えない。「新しさがない」といえばそうかもしれないが、仕事の道具として手にした瞬間から安心を覚え、操作に迷わないというのはかなり重要なポイントだ。

そして、似ている中で明らかに良くなったポイントも多い。

第1に感じたのはグリップの良さ。新しいパターンが表面に施されたグリップ部のラバーはこれまでよりも滑りにくく感じ、何よりも人差し指と中指の間に挟まる部分の張り出しがより薄く、指に引っかかる形状になって「掴める」感覚がアップした。僕は外で歩き回るロケ撮影の時以外はカメラにストラップをつけない運用をしているのだが、より確実な握りで安心感が増した。

ボディ右側面。1系ではお馴染みであったがR3になかったものとしてカードスロットカバーのロック機構と回転式の縦位置ボタンのロックスイッチがどちらも復活。カードスロットカバーはスライドレバーを下にスライドしてから、左にスライドするロック機構で安全性を高めている

次に感動したのがファインダー。こちらはR3の約576万ドット/倍率約0.76倍から、R1では約944万ドット/倍率約0.90倍へとスペックがアップした。実際に覗くととにかく大きく見えることに感動させられる。一眼レフカメラ時代のEOS-1系と比べてもその大きさに驚くほどだ。

これまでも十分であったことから、ドット数アップによる解像感の向上はさほど感じられなかった。その一方で、大きく見えることによる気持ちの良さと、細部までしっかり見渡せる安心感は格別だ。

ただし、あまりにも大きく見えるために、たとえば画面の隅を確認したい時などは明らかに視線の移動が大きくなり、これを却ってストレスに感じる人もいることは想像に難くない。アイポイントも約25mmと十分に長いが、メガネを使用する人などは余計に気になることだろう。

その場合でもファインダーの表示倍率が3つの大きさから選べるので、好みに応じて小さめに表示することも可能。表示倍率を最適化することでよりストレスを感じない撮影が可能になるだろう。

ボディ左側面は接続端子を集中配置。5つに分かれたゴム製カバーは、R3では指などで押さえていないとカバーが端子を覆ってしまっていたが、R1ではご覧の通り、すべての端子をきちんと開放できる。
右上から充電と給電が可能なPD対応USB Type-C、HDMI、2.5GBASE-T対応Ethernet、左上から3.5mmステレオマイク、3.5mmステレオヘッドフォン、シンクロ端子。中でもHDMI端子は標準サイズのAタイプを採用。信頼性と耐久性の高いものでこれまでのミニやマイクロに比べて歓迎されるところだ

視線入力・ブラックアウトフリーなどファインダーが向上

また、このファインダーにはR3より進化した視線入力機能が搭載されている。R5 Mark IIと同世代のバージョンだ。この機能はファインダーを覗くユーザーの視線をカメラが検知し、AF枠を視線に併せて動かせるとういもの。カメラの機能としてはキヤノンが独自に採用している技術だ。

この視線入力機能、ユーザーによりかなり好き嫌いの分かれる機能と言える。R3時代からかなり精度高くAF枠を動かすことができたのだが、R1のそれではより精度が上がっている。確かにファインダー内での視線に合わせてフォーカスポイントが自由に動き、動きのガタつきも減ったように感じられた。

ただ、「あれ? 思った位置にポインターが動かないな?」と感じる場面も。これは僕の使い方の悪さもあるとは思うが、長時間撮影していると意外とファインダーを覗くときの顔の角度、ファインダーと顔面の密着度というのは変化してしまっており、これをしっかり覗き直すとまた精度良く視線入力が可能になった。

また、撮影ジャンルによっての向き不向きも明らかにあると感じられる。たとえばこちらに向かってくるレーシングカーを集中して追うといった撮影であれば、被写体の狙いたい位置に視線を集中していられることだろう。

だが僕のような人物写真の撮影の場合、1シチュエーションで1シャッターということはなく、次々とシャッターを切っていく中でモデルの顔に集中している時には視線入力は有効。だが人物撮影では意外と構図を確認したり、画角に入れたくないものが入っていないかといったチェックで画面の四隅に目を配っていたりするもので、そういった時には視線入力が却って邪魔に感じられてしまうのだ。デフォルトで「OK」ボタンを押すとすぐに視線入力をOFFにできる設定になっているので、こういったシーンでは機能を切って使うことになる。

この場合にとても役に立つと感じるのがEOS-1D X Mark IIIとR3、そしてR1にしか搭載されていない「スマートコントローラー」。これは背面のAF-ONボタンの表面がタッチコントローラーになっているもので、測距点選択用としては一般的なジョイスティック形状のコントローラーに比べ、指のスライド量でポインターを自在に動かせ、画面の端から端へでも一瞬の移動が可能なためにとても便利に使える。

視線入力搭載モデルであるR3/R5 Mark IIとこのR1はどれもファインダー部分の後方への張り出しが長く、バッグなどへの収納で不便に感じる場面も多いため、この機能の採用は賛否が分かれるところではないだろうか。

ボディ背面。モニターの下部に並ぶボタンはR3の3つから4つに増え、左上部にあったレーティングボタンがこちらに移動した形。さらに左下には何らかのセンサーのようなものが装備されているが現時点でこれは何も機能せず、将来のファームウェアアップデートで機能が追加されると考えられる。縦位置グリップ時にも使えるINFOボタンの追加と、電源スイッチはレバーの角度がR3から変更されている。さらに暗い場所で見やすい自照式ボタンは左肩の2つ、液晶下の4つに加えて今回はINFOとQボタンも光るようになった。また、バリアングルモニターを引き出す指の引っ掛かりの凹み部分はR3の2本指で挟む必要のあった上下から、左側1つになったので指1本で素早く開くことができる

ファインダーについてもうひとつ特筆しておきたいのは真の「ブラックアウトフリー」が達成されていること。R3でもカタログ上の表記は「ブラックアウトフリー」なのだが、実際には連写をした場合、1コマ目がブラックアウトし、それ以降の連写時だけがブラックアウトなしに連続して表示、撮影がなされるしくみだった。

R1はデフォルトでは前述のR3と同様のブラックアウトフリーだが、メニューから切り替えれば1コマ目からブラックアウトが一切ない、文字通りのブラックアウトフリー撮影が可能になったのだ。これは連写でなく、1コマずつの撮影でも設定可能なので好みによって切り替えたい。

さらに、ミラーレスカメラは一眼レフカメラと違い、ファインダーは光学式でなくEVF(電子ビューファインダー)となる。これは撮像センサーに入った光を映像エンジンで処理し、OLEDなどのディスプレイに表示するため、原理的にディレイ(表示の遅れ)を全くのゼロにすることはできない。しかしR1はディレイをほぼ感知できないほどに少なくしており、素早く動く被写体もしっかり追えるという印象を得た。

上面右部分にはWBボタンが追加。ホットシューカバーは外れにくいロックボタン付きに変更された。このカバー、外れにくくて困るという声をよく聞くのだが、ロックボタンはごく軽い力で押し(ここが大きなポイント!)、Canonロゴ上の2本線の部分を後ろにスライドすれば簡単に外せるので、同様のカバーが付いているR5 Mark IIユーザーも試していただきたい

注目の「クロスAF」

そして、注目の進化ポイントとして挙げられるのはAF。ミラーレスカメラの高速位相差AFとしては初の「クロスAF」を実現している。

キヤノンの従来機種に採用されている像面位相差AFは「デュアルピクセル CMOS AF」と名付けられたもので、撮像面の画素全てが左右別々に信号を読み出せる構造になっており、画面全体で位相差検出をしてAFに使うことができる。左右のずれを認識するので縦線は検出可能なのだが、横線は難しい。

だがR1では4画素ごとにひとつずつ上下検出の画素を配置し、縦線/横線ともに検出してAFできる「クロスAF」が可能になっている。

実際に窓のブラインドを撮影してみると従来のAF方式と差が出たことはもちろんだが、無地の壁などコントラストが極端に低いものへの合焦確率も上がったことはすぐに実感できる。

さらに夜景の中で人物を撮影してみたが、こちらでもR3に比べてピントの合う確率が大きく上がったことを実感した。暗く、背景に点光源が無数にあり、さらに人混みで通行人が横切るような状況だが、モデルに合わせたピントの食いつきもよく、背景の点光源に引っ張られてピントが大きく外れるといったこともほとんど感じられなかった。

また、「Accelerated Capture」という処理能力の高い新しいエンジンシステムと、ディープラーニング技術の融合により、被写体の認識と動きの追従/予測が向上。AF性能が大きく進化した。そこで試してみたのは十数人が同一ステージで踊るアマチュアのダンス発表会と公園で練習をしているスケートボードのスケーターたち。

以下はスケートボードの撮影例。3人のスケーターに代わるがわるカメラに向かって滑ってきてもらったが、1コマのハズレも迷いもなくピントが追従。ファインダーのディレイも少なく、ブラックアウトフリーなのでアクション撮影に慣れていなくても被写体を追うのがとても簡単だった。

約40コマ/秒、2枚のCFexpressカードにRAW記録で撮影してみた。印象的だったのは、1度誰かにピントを合わせると、その前を別人が横切るような場面があってもAFが最初の人に食いついたままで離れにくいこと。

さらに画面の中で人物がかなり遠くても、顔認識ではなく瞳認識が働く。また顔を後ろに向けても、頭部認識で追い続けてくれたことが印象的だった。

このカメラは、サッカー/バスケットボール/バレーボールの3種目についてあらかじめディープラーニングにより選手の動きを学習した撮影モードがある。また、特定の人物の顔を指定してそれを優先的に追いかけたりといった細かな設定も可能となっている。しかし、何も覚えこませないデフォルトの状態でも、被写体追従能力はR3を上回るものが感じられた。

メモリーカードスロットはCFexpress Type Bカードのデュアル仕様。これによってバックアップ用に2枚同一書き込みをしてもパフォーマンスは低下しない

連続撮影可能枚数の向上

約40コマ/秒というのは下位機種であるEOS R6 Mark IIとカタログスペック上では同一に見えるのだが、全く違うのは連写継続枚数。EOS R6 Mark IIはRAW撮影時に連続75枚、R1は今回のテスト状況で連続475枚だった。つまりR6 Mark IIはこの条件で連続撮影できるのは2秒足らず、R1ならば12秒近くも最高速度での連写が可能というわけで、この差はとても大きい。

また、この枚数を撮影してバッファフルで一旦撮影が止まってしまっても、CFexpressカードに対応するR1なら、3秒ほどあればまたバッファが解放される。一方、EOS R6 Mark IIのメモリーカードスロットはSD対応のみなので、バッファ解放にも少し時間がかかる。実際の使い勝手は大きく変わっていると言えるだろう。

ここでスペックシートを読み込んでいる読者はこのテスト結果に「?」と思うかもしれない。R1は連続撮影可能枚数がRAW撮影時に1,000枚以上と発表されているからだ。

このスペックはよく見ると「メカシャッター/電子先幕」時との注意書きがある。つまり、約12コマ/秒で撮影している限りは1,000枚以上なのだが、デフォルトで設定されている電子シャッター約40コマ/秒撮影においてのスペックは別表に記されていてなかなか気がつきにくい。

EOS R1製品ページの仕様表より。キヤノンは通常のスペックとは別表で電子シャッターでの連続撮影枚数を公表しており、それは以下のリンクから参照できる。
【ミラーレスカメラ】eos-r1メモリーカードに記録可能な枚数(静止画)、総記録時間(動画)

今回はISO 200・シャッター速度1/250秒でのテストだったが、ここで注意したいのは使用カードがNextorage社のスタンダードモデル「NX-B2SE512G」であること。これは書き込み1,950MB/秒のカードだが、例えばプロ向けなど、書き込み速度の速いモデルであれは、もう少し長く連続撮影ができる可能性が高い。

今回のテストではもう1つ、注意したい問題を感じた。それは、休み休みの連写撮影を始めてから15分ほどでファインダーに高温注意のマークが表示されたことだ。実際にはそれからも数十分のあいだ撮影を続けられ、本当に危険な赤の警告マークの表示にまでは至らなかった。

これは発熱が比較的大きいTLCタイプのCFexpressカードを使ったことも要因かもしれない。今回はテストできなかったが発熱が少ないpSLC NANDフラシュメモリー採用のCFexpressカードを使うことによって、熱注意のアラート発生をもっと遅らせることができた可能性もある。CFexpress 4.0には対応していないR1だが、連写を多用する運用ではできるだけ高速で低発熱のカードを選ぶのが良さそうだ。

プリ連続撮影機能も

いかに約40コマ/秒の撮影が可能とはいっても、決定的な瞬間にシャッターを押すのが遅れてしまったら元も子もない。そこでR1はプリ連続撮影機能を搭載。シャッターを半押ししている間、常にバッファに連写画像を溜めておき、全押しした瞬間に20コマまで遡って記録が可能となる。シャッターを押すタイミングがずれても確実に決定的瞬間が撮影できる。

また、これをRAW記録したい場合、1枚ごとにRAW/HEIF/JPEGの好きなファイル形式で記録できるので運用もとても楽だ。例えばEOS R7などでは「RAWバーストモード」で0.5秒まで遡った画像が記録できるが、これは連写分がひとつの「ロール」と呼ばれるファイルとして記録されてしまい、後から1枚1枚を切り出さないと普通の写真として楽しめなかった。

イメージセンサーの画素数はどう?

先述したように、撮像素子は裏面照射積層型の有効約2,430万画素CMOSセンサーだ。これは3年前のモデルであるR3とほぼ変わらない。特に報道ジャンルなどのプロカメラマンからはこの画素数はとてもいいと評判だが、ソニーやニコンのハイエンドモデルに比べると画素数が少ないことに疑問を唱える人が多いのも事実だ。確かに画素数が多ければクロップ撮影などでも解像度劣化が少なくて済むし、望遠撮影の機会が多いスポーツや野鳥撮影などでも優位性はあるはず。

だが考えて欲しいのは、画素数は縦と横の乗算であること。「3,000万画素は欲しかった……」といった声をたくさん耳にしたが、その解像度でプリントした場合のプリントサイズの差を実際に比べるとさほどでもない。人によってこの差を大きい、あるいは小さいと見る場合もあるとは思うが、少なくとも「これまでA3サイズでプリントしていたが、A4サイズでないときめ細かさで満足できない」といった差にはなり得ないことも理解できるだろう。

2,400万画素と3,000万画素の違いわかりやすくするため、同じ解像度設定でプリントした場合のプリントサイズを図で表してみた。サンプルにしたのは同社のEOS R(有効画素数約3,030万)。画素数は基本的に縦と横を掛け合わせた数字であることから数値は大きくとも、実際の差はそれほどではないと感じる人が多いのではないだろうか

また、解像度の面では「ローパスフィルターが採用されているから数値以上に解像度が足りないのでは?」と見る向きも多い。だがR1は同社で1系にしか採用されていなかった「GDローパスフィルター」を採用。これにより、解像感の劣化を最小に抑えながら、衣類の撮影などで目立ちやすいモアレの発生を効果的に防いでいる。そのうえでレンズの設計値などをもとに失われたディテールの多くは、「デジタルレンズオプティマイザー」で補償するというのがこの機種でのキヤノンの考え方のようだ。

実際に人物・アパレル・タレント撮影の20以上の現場で、50種類以上の衣装を撮影してみたが、スーツ生地などで目立ちやすいモアレを感じることはこれまでになかった。また、発色やノイズの傾向などR3に似た画質という印象だが、よりすっきりしたディテールで線の再現が細くなったように個人的には感じている。

このイメージセンサーは読み出し速度が高速化されており、ほぼメカニカルシャッターと同等のスピードと思っていい。そのため、高速で動く被写体の縦線が曲がって写ってしまう「ローリングシャッター歪み」もとても少なく抑えられている。一眼レフカメラ時代のメカニカルシャッターにもこの歪みは存在していたがそれほど話題にならなかったわけで、実質的にはあまり考えなくても良いレベルになったと言える。

さらにこの高速化でストロボのシンクロ速度も速くなった。メカシャッターで1/200秒、メカと電子併用の電子先幕では1/250秒というのはR3と同等だが、電子シャッターならば1/320秒まで同調が可能になった。これはR3の1/180秒に比べれば大きな進化だが、日中シンクロの自由度などを考えればさらなる高速化を期待したい。

そしてデフォルトが電子シャッターになっている本モデルでは、前述の通りメカニカルシャッターもきちんと搭載していることにちょっと驚きを覚える人も多いだろう。

これは近年のLED照明やデジタルサイネージなどが多用される競技場などにおいて、電子シャッターでは防ぎきれないフリッカー(照明の高速な明滅によって画面に現れてしまう明るさのムラ)が、メカニカルシャッターならば防げる場面がまだ残っているというのが大きな理由だとのこと。ニコンZ9のように完全電子シャッターでメカシャッターを廃してしまった機種もあるが、この辺りは各社のポリシーの違いが出るところだろう。

カメラ内アップスケーリング機能について

再生時の機能として大きくアピールされているのが「カメラ内アップスケーリング機能」。JPEG最大サイズの画像に対して、ディープラーニング技術を使って縦横2倍、9,600万画素相当の高解像度を実現する機能だ。他社で見られる画素ずらしなどに比べ、動く被写体でも適用可能なところが大きなメリット。

カメラ内アップスケーリングをした9,600万画素相当
晴天の公園での撮影。カメラ内アップスケーリングをした9,600万画素相当の画像と並べてみる。2,400万画素モデルの中でもディテールの再現性が高いと感じられるR1だが、アップスケーリングでは鴨の羽のディテールなど、さらに細かな部分が精密に再現されるのがわかる(画像クリックでオリジナルサイズが展開。以下同)
元の2,400万画素

そして同じく再生時の機能でちょっと便利に感じたのが「ブレ・ボケ判定」。これは再生画面にアイコンでブレやボケのあるなしをカメラが自動判定してアイコンで表示してくれるもの。ブレやボケの判定レベルはシビアなものからゆるいものまで3段階で指定できる。

また、PC上でも純正現像・閲覧アプリの「DPP(Digital Photo Professional)」でブレやボケ判定レベルに応じた並べ替えや絞り込みが可能。ただし判定できるのは人物の顔だけで、RAWやRAWから現像したJPEG/HEIF画像では判定できないなどちょっとした制約もあるので注意したい。

このどちらの機能も撮影してからPCに移さず、すぐにクライアントに渡したり送ったりという職業カメラマンのニーズに応えたものだと言えるだろう。アップスケーリングはトリミングと併せて特定の部分を拡大して渡したいときの解像度劣化防止に、ブレ・ボケ判定は本体液晶の小さな画面でOKショットをセレクトする場合の判定基準に便利だ。

まとめ

長い間、デジタルカメラの高級機といえば画素数と連写のコマ速をどれだけ増やしてくるか? というところに注目が集まってきた。

だがカメラは性能的に進化を重ね、そういった単純なスペックだけで比べることが難しくなってきた。自動車を最高時速だけで選ぶ人が稀なように、求められる価値観も変化してきているということだ。

EOS R1はカメラメーカーとして数十年にわたって報道や厳しい条件下で結果を残すプロのためにキヤノンが歴代、リリースしてきた「1」を冠したプロ向けモデルの最新型。「スポーツ/報道専用」と見る向きもあるが、ストレスと失敗をなくして撮影と結果に集中したい人であれば1度は手にしてもらいたいモデルだ。

吉村永

東京生まれ。高校生の頃から映像制作に目覚め、テレビ番組制作会社と雑誌編集を経て現在、動画と写真のフリーランスに。ミュージックビデオクリップの撮影から雑誌、新聞などの取材、芸能誌でのタレント、アーティストなどの撮影を中心とする人物写真メインのカメラマン。2017年~2020年カメラグランプリ外部選考委員。