新製品レビュー

パナソニック LUMIX FZ85D

コンパクトなボディに60倍の高倍率ズームレンズ搭載 シンプルな操作性で超望遠撮影の入門にも

7月26日(金)に発売されたパナソニック「LUMIX FZ85D」は、1/2.3型センサーを搭載したコンパクトデジタルカメラです。

大きな特長は、コンパクトなボディに超広角20mm相当から超望遠1,200mm相当にまで及ぶ高倍率ズームレンズを搭載していること。2017年に発売された「LUMIX FZ85」の後継モデルにあたる本機ではありますが、今となっては希少なコンパクトデジタルカメラの最新機種ということで、じっくりとレビューをお届けしたいと思います。

コンパクトなボディに60倍の高倍率ズーム

35mm判換算で、超広角20mm相当から超望遠1200mm相当までの焦点距離を、1台でカバーする超高倍率ズームカメラが「LUMIX FZ85D」なのですが、同社の製品カテゴリーとしては一応コンパクトデジタルカメラに入るだけあって、かなりコンパクトに仕上がっています。

突起部分を除いた外形寸法は、幅が約130.2mm、高さが約94.3mm、奥行が約125.2mmという小ささ。奥行きにややボリュームがあるのは高倍率ズームレンズと一体型であるためですが、それを考慮すればかなり小型なカメラであることが分かると思います。もちろん質量も、メモリーカードとバッテリーパックを含めたとしても約640gという軽さです。

そんな小さくて軽いデジタルカメラが、超広角20mm相当から超望遠1,200mm相当、光学60倍というもの凄い高倍率ズームレンズと一体になっているというわけです。

高倍率ズームを搭載したコンパクトカメラは、多くの場合、ワイド端の焦点距離は24mm相当からスタートとなることが多いのですが、「LUMIX FZ85D」は超広角の20mm相当から始まります。20mm相当ですのでとにかく広い。24mm相当との差は数字の上ではわずか4mm相当でしかありませんが、実際の画角上では圧倒的な広さを感じることができます。

LUMIX FZ85D/3.58mm(20mm相当)/絞り優先AE(1/60秒・F5.6・+1EV)/ISO 125

そこから、パワーズームを使って超望遠1,200mm相当まで一気にズームインできるところが「LUMIX FZ85D」の魅力であり醍醐味でもあります。超広角20mm相当で撮った上の画像の中央付近にあるハスの花までズームインしたのが下の画像ですが、元はどこにあるのか分かりますでしょうか? 探すのが難しいほどの倍率の高さが本当にすごい。

LUMIX FZ85D/215mm(1,200mm相当)/絞り優先AE(1/125秒・F5.9・+0.7EV)/ISO 125

ズーム操作はシャッターボタンと同軸のズームレバーで行います。広角方向に広げたいときは「W」側へ、望遠方向へズームインしたいときは「T」側へレバーを引きます。ズーム操作はまさしくコンパクトデジタルカメラのそれですが、シャッターダイヤル周辺には、まるで一眼レフデジタルカメラやセンターファインダー式のミラーレスカメラのように、モードダイヤルや大型グリップが装備されています。

ちなみに、テレ側にズームレンズを伸ばした時の状態が以下の状態です。こんなに伸びるのかとちょっと驚きますが、なにしろ1,200mm相当の超望遠ですので、むしろこの程度に収まっていることに感心します。

分かりやすくシンプルな操作性

コンパクトなボディに高倍率ズームレンズを固定搭載しているため、安定して撮るための数々の工夫がなされています。

まずはファインダー(EVF)の搭載。特に望遠側では手だけでなく額にカメラをあてて(3点支持)安定させるために必須と言えるのではないかと思います。35mm判換算にすると、約236万ドット相当で、倍率約0.74倍相当という十分な視認性を確保しています。

背面の液晶モニターは、3.0型で約184万ドットと、同じく十分な見え具合。可動式モニターではありませんが、広角側でのライブビュー撮影や三脚をたてての動画撮影では重宝します。もちろんタッチパネル式ですので、スマートフォンの操作に慣れている人にとっても分かりやすいです。

ただし、アイセンサーを搭載していないため、ファインダーと液晶モニターの切り換えは自動でなく、ファインダー横にある「LVF」ボタンを押して手動で切り替えることになります。ちょっと面倒臭さを感じてしまうところですが、ここは「LUMIX FZ85D」のもうひとつの魅力である、実売6万5,000円前後というコストパフォーマンスの高さにつながるところかもしれません。

そして、1,200mm相当の高倍率ズームをもつ「LUMIX FZ85D」にとっては、とってもありがたい機能と感じたのが「ズームバックボタン」の存在。「4Kフォトボタン」の上、赤い「動画ボタン」の右隣にあるのがそれです。

「ズームバックボタン」の何が有難いかといいますと、例えば、下の画像のように焦点距離1,200mm相当でアオサギを撮ろうとした場合……。

LUMIX FZ85D/215mm(1,200mm相当)/絞り優先AE(1/125秒・F5.9・-1EV)/ISO 1000

アオサギのいる方向にレンズを向けても、1,200mm相当の超望遠ともなると、砂漠でBB弾を探すかのように、なかなか目的の被写体を画面内に収めることができないものです。アオサギはどこだ!? と。

そこで「ズームバックボタン」を押すと、一時的にズーム倍率が下がるため、目的の被写体を探しやすくなります。白枠は「ズームバックボタン」を押す前の画角を示していますので、白枠外の右方向にいるアオサギに合わせて構図を作り直せば良いというわけです。

超望遠レンズに慣れていないと、概ね500mm(相当)を超えるあたりから、画面内に被写体を収めるのが非常に難しくなりますが、この「ズームバック機能」のおかげで、慣れていなくても随分と超望遠撮影が楽になります。多くの人にとって使いやすい、優れた機能だなと思いました。

4K 30pが記録できる動画機能

「LUMIX FZ85D」は、最大「4K 30p」(3,840×2,160)の動画記録に対応します。

以下の動画がその「4K 30p」で記録したサンプルです。

フレームレートこそ60pに届きませんが、コンパクトデジタルカメラで、30pの4K動画が記録できるのですから大したものだと思います。フレームレートを重視したい場合は、「4K」でなく「FHD」(1,920×1,080)にすれば60pの撮影も可能ですので、実用上は十分な動画性能だと思います。

静止画の作例

ワイド端の20mm相当で撮影しました。搭載する撮像センサーは、スマートフォンなどでも採用の多い1/2.3型。そこにLUMIXではお馴染みの、高速・高性能な画像処理エンジン「ヴィーナスエンジン」の力が加わり、レンズの光学性能が高いこともあって、立体的で高い解像感を楽しむことができます。

LUMIX FZ85D/3.58mm(20mm相当)/絞り優先AE(1/1,000秒・F2.8・+0.3EV)/ISO 80

テレ端の1,200mm相当で撮影しました。1,200mm相当で手持ち撮影となると、手ブレの発生は必至といったところですが、光学式の手ブレ補正機能が搭載されているおかげで、安心してシャープな写真が撮れます。

LUMIX FZ85D/215mm(1,200mm相当)/絞り優先AE(1/125秒・F8.0・+0.3EV)/ISO 80

パナソニックが得意とする空間認識AFで一気にフォーカシングを開始した後に、コントラストAFによって微調整をするため、この手のコンパクトデジタルカメラのAF性能としては十分に高速で高精度だと思います。ただ、人物の顔・瞳以外の被写体認識機能はないため、動物や乗り物を撮りたいという場合などは、従来通り適切なオートフォーカスモードとフォーカスエリアの選択が必要になります。

LUMIX FZ85D/118.5mm(661mm相当)/絞り優先AE(1/100秒・F5.6・+0.7EV)/ISO 400

「フォーカスモード」が通常の「AF」の場合、最短撮影距離はワイド端で30cm、テレ端で150cmなのですが、「AFマクロ」または「MF」にすると、レンズ先端から1cmまで寄って撮ることができるようになります。実際に1cmまで寄る必要があるかどうかはともかく、どこまでも制限なく寄れる近接撮影性能は実際の撮影で便利に感じるものです。

LUMIX FZ85D/3.58mm(20mm相当)/絞り優先AE(1/60秒・F6.5・+1EV)/ISO 125

LUMIXのデジタルカメラらしく、好みの画作り設定を選択できる「フォトスタイル」を搭載しています。選択できるフォトスタイルは「スタンダード」を始めとして「ヴィヴィッド」や「ナチュラル」など計7種類。それぞれのフォトスタイルは、コントラストや彩度などを任意で微調整することもできます。下の作例は「ヴィヴィッド」で撮影しました。

LUMIX FZ85D/3.58mm(20mm相当)/絞り優先AE(1/320秒・F3.5・-0.3EV)/ISO 80

同じように、好みのフィルター効果を楽しめる「クリエイティブコントロール」も搭載しています。選択できるクリエイティブコントロールは「ポップ」や「レトロ」、「ラフモノクローム」など全部で22種類と非常に多彩です。何気ないシーンでもクリエイティブコントロールを適用するだけで印象的な作品になることもありますので、いろいろ試してみたくなります。下の作例はクリエイティブコントロール「トイフォト」で撮ってみました。

LUMIX FZ85D/11mm(63mm相当)/絞り優先AE(1/320秒・F3.5・-0.7EV)/ISO 125

まとめ

スマートフォンの普及にともない、数を減らしてしまったコンパクトデジタルカメラですが、本機「LUMIX FZ85D」のように高倍率ズームレンズを固定搭載したモデルは、まだまだ健在のようです。確かに、広角から超望遠までを1台でカバーするというのは、スマートフォンでは真似できることではありません。

数社から発売されている高倍率ズーム搭載のコンパクトデジタルカメラのなかにあって、新しく登場した「LUMIX FZ85D」のスペックは、実のところ最高というわけではなく、むしろ控えめだったりします。ワイド端が20mm相当というのは目を引きますが、ズーム倍率などを見ると、さらにハイスペックモデルも存在しています。

では何が「LUMIX FZ85D」のウリなのかと言えば、それはコストパフォーマンスの高さではないでしょうか。テレ端は1,200mm相当と必要十分に抑え、ファインダーのアイセンサーは省略、液晶モニターを固定式にするなど、実用上差し支えのない程度のシンプル化が功を奏しています。とは言っても、ファインダー/モニターや動画機能、接続性能、などは現代のデジタルカメラとして通用するよう進化していますので、安心して使うことができます。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。