新製品レビュー
GoPro HERO12 Black
“キング・オブ・アクションカメラ”がGP-Log機能を搭載して降臨
2023年11月15日 07:00
アクションカメラの代名詞「GoPro HERO」シリーズが、毎年恒例のアップデートを実施。最新機種として「HERO12 Black」が登場した。
アクションカメラとして成熟の域に達している「GoPro HERO」だが、「HERO12 Black」では新たにGP-LogやHDR機能を搭載し、色作りの面を強化。独自の色彩を追求したい派には嬉しいアップデートといえるだろう。
今回のレビューではGoPro初心者にも魅力が伝わるように、基本的な面白さも含めて「HERO12 Black」を紹介したいと思う。
※レンズ焦点距離の表記はいずれも35mm判換算
“普通”のユーザーには「HERO11」がお得かも
結論からいうと、普通の人が普通に使う分には「HERO12 Black」と「HERO11 Black」(以下、「HERO12」、HERO11)は変わらない。
イメージセンサーのサイズもチップセットも同じだし、レンズの画角、F値、4K120fps撮影や、最大解像度5.3K60fpsで撮れる点も同じ。5.3Kから生まれる高い解像感と先鋭な描写は「HERO11」も引けを取らない、というか見比べて違いが分かるかどうか怪しいところだ。
「GoPro HERO」シリーズ最大のウリでもあるビデオブレ補正に関しては、「HERO12」になりHyperSmooth5.0から6.0に進化している。
しかしながら、「HERO11」の段階でほぼパーフェクトな出来だっただけに、多くのユーザーは「HERO11」で十分と考えるのではないだろうか。少なくとも、「HERO12」の映像を見て「こちらのほうがブレは少ない」といい当てることは難しいかもしれない。
早い話が、画質も映像ブレ補正の効果もほとんど同じということ。
HERO12 | HERO11 | HERO10 | |
---|---|---|---|
イメージセンサー | 1/1.9型 | 1/1.9型 | 1/2.3型 |
記録解像度 | 5,599×4,927 | 5,599×4,927 | 5,599×4,223 |
レンズ | 12-39mm F2.5 | 12-39mm相当 F2.5 | 16-39mm F2.5 |
トップビデオモード | 5.3K/8:7 5.3K/16:9 | 5.3K/8:7 5.3K/4:3 5.3K/16:9 | 5.3K/16:9 5K/4:3 |
ビット深度 | 8-bit 10-bit(4K以上) | 8-bit 10-bit(4K以上) | 8-bit |
Log/HDR | 〇/〇 | ―/― | ―/― |
ビデオブレ補正 | HyperSmooth 6.0 | HyperSmooth 5.0 | HyperSmooth 4.0 |
水平ロック | 360度回転 | 360°回転 | ― |
水平維持 | 最大27度 | 最大27度 | 27~45度 |
防水性 | 10m | 10m | 10m |
ちなみに、下記の映像は「HERO12」に搭載されたHyperSmoothビデオブレ補正機能の例。「オン」と効果のより強い「自動ブースト」のほか、選択するフレームレートにより「水平維持」や「水平ロック」(360度の水平維持)が用意されている。
以上を検討すると、普通に撮る分には「HERO12」よりも安価に入手できる「HERO11」や「HERO10」がおススメといえるのではないだろうか?
では、「HERO12」のメリットはどこにあるのかというと、「色調整」の自由度の高さといえるだろう。
もし撮影後に明るさや色を調整しているのなら、「HERO12」にすると階調を荒らさずにイメージする色彩が再現しやすくなるはずだ。
“色にこだわり”をもつなら「HERO12」がおススメ
本腰を入れて「HERO12」について紹介すると、おススメできる人は「色へのこだわり」をもつタイプだ。
その理由となるのが、新たに搭載された10bitの「GP-Log」モードの存在。
Logとは、ハイエンドなデジタルカメラでお馴染みの撮影形式(映像の色調)のこと。階調のつぶれや色飽和を抑えるため、あえてメリハリのないローコントラストな状態で記録し、編集ソフトを使って「色を復元」したり、「イメージする色」を作り出すスタイルだ。
アクションカメラに色調整のしやすさを求めるユーザーは少数派かもしれないが、デジタルカメラの動画と色が合わせやすいというメリットもあるので、サブカメラとして「HERO12」を使うのもアリかもしれない。
これまでのHEROシリーズの色は「完成された色調」という感じで、後から補正できる余地はそれほど大きくはなかった。いうなれば「撮って出し」で使う色だ。
しかしながら、GP-Logモードが搭載されて一転。撮影後の色調整で階調感(シャドウやハイライトの見え方)をコントロールしたり、自分のカラーが出しやすくなった。
これが、「HERO12」最大のポイント。
この点に共感できないのなら「HERO11」で十分だし、「HERO11」ユーザーが乗り換えるメリットは少ないだろう。
GP-Logとは別に、個性的な色彩を作り出す機能として「HDR」モードも新たに搭載。
映像の分野でHDRというと、ハイ輝度&ハイコントラストな映像で対応したモニターが必要な形式を指すが、「HERO12」のHDRはデジタルカメラのHDR写真の動画版。暗い部分を明るく、色の薄い部分を濃くすることで、シャドウからハイライトまで見やすい映像にするというタイプだ。
いろいろと撮影してみたが、手応えとしてはデジタルカメラのHDR写真のように安定した撮影は難しそうという印象。シーンによっては効果が強過ぎてエッジにフチが出たり、標準モードとそれほど違いが生じなかったりと、意図した映像が撮りにくいモードに感じた。
映像制作に重宝する縦横自在の8:7映像
「HERO11」から実現しているため新機能ではないが、便利に思えたのが8:7の比率で撮影できるモード。
これは、「HERO12」が「8:7」という正方形に近いイメージセンサー(アスペクト比)を搭載しているからこそ実現できるアスペクト比で、このモードで撮影しておけば編集時にクロップすることで横動画も縦動画も「4K画質」で作ることができる。
昨今の動画配信サイトは通常の動画以上にショート動画(縦撮影の動画)が重要視されているが、1つの映像をクロップして「横動画の本編+本編に誘導するショートの縦動画」が作れるのだから効率がいい。
さらに「HERO12」では、8:7のイメージセンサーの比率を活かし、「横に構えたまま縦動画」が撮影できるようになった。
アクションカメラは「自撮り棒にスクリューねじ」でマウントするという構造上、横/縦の変更に意外と手間がかかる。そもそも縦位置にセットできないカメラもあるので、この仕様はとても便利。
しっかりと構図を決めて縦動画を撮りたいときに便利なモードだし、なにより「カメラを回転して構え直す」必要がないためスピーディーに撮影できる。
快適に縦撮影できる動画カメラは意外と少ない。しかも強力な手ブレ補正機能搭載となると、縦位置にセットできるジンバルにカメラを載せたり、ライバルのOsmo Action 4のように縦撮影できるケースに入れたりなど、機材や手間がかかってしまうのが実情だ。
縦動画の撮影は意外と盲点なので、頻繁に撮影するのなら「HERO12」は検討したい一台といえるだろう。
GP-LogやHDRの効果で夜に強くなったのか?
GP-LogやHDRモードが追加されたということで、気になったのが暗所性能に関して。
どちらも暗い部分の階調感(見え方)をよくする効果があるため、夜間撮影でもその特性が発揮されるのかを試してみた。
他機種と直接比較をするわけではなく、「HERO12」で夜間撮影を行った率直な感想としては、「条件付きで使えそう」な手応えだ。条件とは、夜間のビデオブレ補正には期待しないという点。
映像自体は暗い部分が明るく写るわけではなく、暗い部分は黒、光のある範囲は明るくて解像感の高い色調で映し出される。
シャドウ部の再現性としては、光が弱くなると徐々に暗くなるという明暗の変化ではなく、ある程度まで暗くなるとバッサリと黒になる感じ。そのため、極端にハイコントラストな映像に見えてしまう。
シャドウ部に階調感のある映像ではないものの、明るい部分の映りがよいのでそちらに目が向き、その描写から夜の映像もきれいに感じる、という印象だ。ただし、歩いて撮影するとブレが吸収しきれないため、全体的な評価を下げてしまう。
したがって、ブレを抑えるためにていねいに歩くことで、夜景のシーンなどもそれなりに映せるだろう。もちろん、街灯などの光があることが前提だ。
または、三脚に載せて撮影する方法もある。「HERO12」はとてもコンパクトなので、ポケットサイズの軽量三脚でも十分に高さが稼げるし、「水平維持」や「水平ロック」機能を使えば角度微調整が難しいミニ雲台でも十分にイケる。
結論としては、「HERO12」は夜に強いわけではない。
それを十分に承知の上で、夜間もできるだけきれいに写したいというのなら、素直にカメラを三脚に載せて撮ろう。光さえ当たっていれば「HERO12」特有の解像感の高い描写が得られるので、「夜の映像は使えない」とはならないだろう。
もっとも、この場合「アクションカメラ」の本質を失うことになってしまうが。
以下の映像は薄暗い歩道から明るい地下道に入るまでのシーンだが、「HERO12」のビデオブレ補正(HyperSmooth 6.0)の特性がよく分かるサンプルといえる。明るい地下道に入った途端、貼り付くように映像が安定する点はさすが。
やはり、「HERO12」は明るい場面で使うものなのだなと改めて実感。
Maxレンズモジュラーで4K撮影が可能に
「HERO12」のレンズは「デジタルレンズ」と呼ばれる単焦点レンズだが、5.3Kの高解像度を活かしてクロップすることで、4Kを維持しつつさまざまな画角を作り出している。
選択できる画角は「HERO11」と変わりはなく、HyperView、SuperView、広角、リニアとなる。リニアはさらに、フレームレートに合わせて水平ロックか水平維持が選択可能。
ちなみに、公式のスペックではHyperViewとSuperViewの焦点距離は同じだが、写る範囲は結構違う。
8:7比率の正方形に近いイメージセンサーから16:9の映像を切り出したのがSuperView。しかし、まだ上下には「使っていない映像」が残っている。その部分の映像を強引に16:9の比率に押し込め、上下方向を広げたのがHyperViewだ。
要するに、8:7の映像を16:9の比率に変形したものと考えると分かりやすい。
HyperViewが搭載されたのは「HERO11」で、以来、その個性的な映像はトレードマーク的な存在となっている。
ただし、写真愛好家には個性的過ぎて、“まじめ”に撮ろうとするともて余してしまう設定かもしれないが、それを踏まえて「どこまで遊べるか」が「HERO12」の楽しさといえるだろう。
レンズ周りでいうと、「HERO12」に合わせて新しい「Maxレンズモジュラー2.0」が発売された(HERO11も対応)。
Maxレンズモジュラーとは交換レンズのようなもの。既存のレンズ部分を外して付け替えることで、最大177度(Maxレンズモジュラー1.0は155度)の範囲が写せるようになる。いわば、「HERO12」の魚眼レンズだ。
通常のレンズでは、水平ロックや水平維持を使うと画面がクロップされて狭くなるが、Maxレンズモジュラーを使えばそれが回避できる。「HERO11」では不可能だった4K撮影も可能になるなど、「HERO12」+Maxレンズモジュラー2.0の組み合わせは制限なく使える点が嬉しい。
Bluetoothヘッドホンマイクで音声のワイヤレス化が簡単
そのほかの新機能を簡単に紹介すると、写真系の機能として搭載されたインターバル撮影がある。
設定した時間の間隔で写すという点はタイムラプスフォトと似ているが、こちらはシャッター速度が手動で設定(1/125~1/2,000秒)できるタイプ。HDRやSuper Photo(自動補正を施した写真)が選択できる点も異なっている。
Bluetoothヘッドホンマイクに対応した点も「HERO11」からの大きな進化だ。
たとえば、AppleのAirPodsで音声収録や音声コントロールができるし、それ以外でも、スマートフォンとつながるBluetoothマイクなら使うことができる。
地味に嬉しかったのが、本体下部のフォールディングフィンガー(マウント部)に三脚穴が付いた点。「HERO11」でも市販品と交換すれば実現できたが、最初から付いていると余計な出費がかからなくて助かる。
また、個人的に気になる新機能が「タイムコードシンクロ」。
偶然にも最大のライバルDJIのOsmo Actoin 4もタイムコード機能を搭載し、USBケーブルで接続した本体同士が同期できるようになった。
対して「HERO12」は、スマートフォンアプリを用いるタイプ。
設定の手軽さではAction 4がよさそうな気がするが、どちらも試せてはいないので「同期できる」という事実だけを紹介。
反対に、残念な点はフロントスクリーンにタッチ機能が搭載されなかったこと。
自撮り中に設定を変えたい場合、カメラを回転して背面モニターにアクセスしなければならないのは少々面倒だ。
以上が「HERO12」の大まかな特徴となる。
GoPro HEROシリーズは常にトップ・オブ・アクションカメラ的な存在で、最新機種の「HERO12」はハードウェア/ソフトウェアともに頂点にあるといってよい。
高い解像度から生み出されるクッキリ・ハッキリ・高精細な映像をブラさずに映すのは「HERO12」の得意技だ。それにプラスして「撮影後の色調整」がしやすくなるなど、これまでの弱点に対処した進化といえる。
対してライバルたちはというと、GoPro HEROシリーズと差別化できる個性をアピールしているので、それが気に入ればそちらを選択すればよい。GoPro HEROシリーズがマイルストーン的な存在になっているおかげで、アクションカメラ選びは意外とシンプルなわけだ。