新製品レビュー

キヤノンEOS R10

上級者も見逃せない、充実仕様の小型ミラーレス

キヤノンが7月28日に発売した「EOS R10」は、APS-Cサイズセンサーを搭載したミラーレスカメラで、RFマウントを採用するEOS Rシリーズにおいて最も小型軽量です。同時に発表されたEOS R7とともに、EOS Rシリーズでは初めてのAPS-Cサイズセンサー搭載機となります。

ただ同社Webサイトでは、フルサイズ機や一眼レフも含む中で「ミドルクラスモデル」に分類されているカメラだけに、軽くて小さいとは言っても、なかなか侮ることのできない高性能なカメラであることも確かです。

EOS Rシステム最軽量モデル

EOS R10の大きさは幅が約122.5mm、高さが約87.8mm、奥行きが約83.4mmで、重さ(質量)は約429gとなっています。これはバッテリーとカードを装填した場合の重さで、本体だけの場合ですと約382gです。

RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STMを装着
参考:左からEOS R7、EOS R10。手ブレ補正機構を持つEOS R7は約612g(電池/SD込み)・約530g(本体のみ)

おまけにキットレンズも非常に軽く小さく仕上げられているので、携行していても、重さが苦になるようなことはほとんどありません。

レンズキットのひとつに設定されている、APS-C用の高倍率ズームレンズ「RF-S18-150 IS STM」を装着

小柄なカメラとは言っても、EOS Rシリーズの上位機種に通じる精悍なデザインを継承していることが感じ取れますね。

ここまで小型軽量なパッケージングを実現できたのは、やはり35mmフルサイズではなくAPS-Cサイズの撮像センサーを採用したことが大きいでしょう。有効画素数は約2,410万画素。35mm判換算での画角はレンズに表記された焦点距離の約1.6倍相当になります。撮像センサーがAPS-CサイズになってもRFマウントの大きさに変わりはないので、マウント内部はかなり余裕があるように見えます。

ただし残念ながら、撮像センサーが動くボディ内手ブレ補正機構はEOS R10には搭載されていません(EOS R7は搭載)。手ブレが心配な場合はレンズ内手ブレ補正機構(IS)を搭載したレンズを使ったほうが良いでしょう。キットレンズに設定された2本のズームレンズは、いずれもISを搭載しています。

小さくても優れた操作性能

このEOS R10、小さくても十分な操作性をもっていますので、順を追って見ていきたいと思います。まずはシャッターボタン周辺から。

キヤノン機ではお馴染みのスプーンカットを取り入れ、とても押しやすいシャッターボタンです。エントリーモデルまで共通した造形ですが、EOS Rシリーズに属する本機は一味違った本格的なものに感じられます。

立派なローレット加工が施されたメイン電子ダイヤルも回しやすい。その横にはちゃんと「M-Fn(マルチファンクション)ボタン」が装備されています。AFエリアの選択をはじめ、ISO感度やドライブモードの選択などを、メイン電子ダイヤル、サブ電子ダイヤル、マルチコントローラーと組み合わせて行うボタンです。

サブ電子ダイヤルを備えてくれているのも、さすがEOS Rシリーズのカメラです。例えば、エントリーモデルのように、マニュアル露出で絞りとシャッター速度を設定したいときに、いちいちボタンを押して設定項目を切り替える必要がありません。

モードダイヤルには、EOS Rから続く「Fv(フレキシブルAE)」モードもあります。「シャッター速度」、「絞り値」、「ISO感度」、それぞれのオートと任意設定、および露出補正を自由に組み合わせて撮影することができます。

よくぞ省略せず搭載してくれたと言いたいスティック状の「マルチコントローラー」もあります。AF可能エリアが広く、AFポイントも多点・高密度化したミラーレスカメラにとっては、なくてはならない存在だと思います。中央をプッシュすればAFポイントがセンターに復帰してくれるところも便利です。

「LOCK」ボタンは、うっかりボタン類に触れて、知らないうちに設定が変わっていた! なんていう誤操作を防げる機能。メニュー画面の「マルチ電子ロック」で、メイン/サブ電子ダイヤルやマルチコントローラーなどの中から操作を禁止したいものを選択しておけば、LOCKボタンを押すだけで一時的にそれらを無効化できます

面白いのがボディ前面に備えられた「フォーカスモードスイッチ」の存在。要するに、AFとMFを切り換えるためのスイッチなのですが、EOS Rシリーズでこのフォーカスモードスイッチを搭載しているのは、本機EOS R10と、同時に発表されたEOS R7の2機種だけです。

カメラ本体の扱いやすい位置にAF/MF切り替えスイッチを配置し、レンズ鏡筒からは省略するというのは、操作性にもコスト的にもメリットありそうです

なぜこの2機種にフォーカスモードスイッチが搭載されたのかと言うと、それはキットズームである「RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM」と「RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM」にAF/MF切り換えスイッチがないためだと思われます。と言うことは、今後登場するかもしれないAPS-C対応のRF-Sレンズは、AF/MF切り換えスイッチをもたないレンズが多くなるのかもしれませんね。

続けていきます。EVFは、画面サイズ0.39型、視野率約100%、倍率約0.95倍の約236万ドットOLEDカラー電子ビューファインダーです。

倍率約0.95倍というスペックはEOS R7の約1.15倍に譲りますが、この小さなボディでよくここまで頑張ってくれたなと感じる十分なクオリティ

背面モニターは、画面サイズ3.0型、約104万ドット。バリアングル式なので、縦位置撮影や自撮りはもちろん、動画配信などでも便利に使えるでしょう。もちろんタッチ操作可能です。

「おっ!」と思ったのが、EOS Rシリーズとしては珍しく内蔵ストロボを搭載しているところ。上位機種では別途クリップオンストロボなどを用意するのがお約束となっていますが、ここはエントリーユーザーも見越した配慮かもしれません。ポップアップが手動というのは、カメラに慣れた方にはむしろ好都合ですね。

バッテリーとメモリーカードは、裏蓋を開けたバッテリー室の中に共存するタイプです。メモリーカードはシングルスロットで、SDXCメモリーカード・UHS-IIまで対応しています。

外部インターフェースは、マイク入力端子(3.5mmステレオミニプラグ)、リモコン端子(RS-60E3対応)、HDMI出力端子(タイプD)、USB(Type-C)を備えます。USB Type-CはPCやスマートフォンとの通信のほか、USB充電とUSB給電にも対応しています。

APS-Cでも高画質なEOS Rシリーズさすが!

EOS R10の有効画素数は約2,410万画素。APS-Cサイズセンサーとしては、十分かつ実績のある画素数です。基準感度とされるISO 100、絞り値F8で撮影したのが以下の写真。

EOS R10 RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM(40mm・F8・1/20秒)ISO 100

解像感は全く問題なく、階調再現性も全く問題がない、というよりむしろ素晴らしいと言えます。ボディ側とレンズ側、本来の解像性能を活かした自然な画作りにも、現代の上質なデジタルカメラらしい品の良さを感じることができました。

常用最高感度はISO 32000で、ここはさすがに35mmフルサイズセンサーを搭載した上位機種に譲るところですが、実用的という観点で言うなら、それほど心配することもないでしょう。

常用最高感度のISO 32000で撮影したのが下の画像。

EOS R10 RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM(27mm・F5・1/125秒)ISO 32000

意地悪に拡大しなければ全く問題なく、綺麗な写真だと思います。PCやタブレット、スマートフォンのモニターで見るのなら本当に問題なく“綺麗な画像”でしょう。2LサイズやA4サイズなら、プリントしたって問題ないと思います。

比較的使用頻度の高いISO 6400で撮影した画像が以下です。

EOS R10 RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM(27mm・F5・1/25秒)ISO 6400

ISO 100と比べればノイズの具合や階調再現性に違いがありますが、実用性や鑑賞に問題ないかを基準にするなら「APS-Cの画質もここまで来たか!」と思えるほど、納得の画質だと思います。

APS-Cサイズセンサーを搭載したEOS Rシリーズ。フルサイズと比べれば、当然のように画質の違いに差があるものの、実用上の画質においては問題なく高画質だと言えます。

連写性能と被写体検出機能

EOS R10の連写速度は、メカシャッター(電子先幕シャッター含む)時で最高約15コマ/秒。これは兄弟機ともいえるEOS R7と同等で、キヤノンのこれまでのAPS-Cカメラの中で最速、またEOS Rシリーズの中でも最速となります。

一方で、電子シャッター時は最高約23コマ/秒と十分に速くはありますが、EOS R7の最高約30コマ/秒には及びません。約2,420万画素のEOS R10が約3,250万画素のEOS R7に及ばないというのは不思議な気もしますが、そこは搭載された撮像センサーと画像処理エンジンの組み合わせの違いなどによるものでしょう。

EOS R10が素晴らしいのは、ミラーレス最上位機のEOS R3のAF技術から継承された、トラッキング(被写体追尾)機能と、被写体検出機能を搭載しているところです。一度被写体を検出すれば、画面のほぼ全域で検出した被写体を高精度に捕捉し続けてくれるため、動態撮影での成功率が驚くほど高い。

EOS R7も、同じくEOS R3譲りの被写体検出・追尾機能をもっているのですが、EOS R10の軽く小さなボディで、これを実現したところに素晴らしさがあるのです。

検出の対象となる被写体は、「人物」、「動物優先」、「乗り物優先」の3種類。3種類とは言っても、「人物」は顔や瞳だけでなく頭部や胴体も認識してくれますし、「動物」の範疇には犬や猫だけでなく鳥も含まれ、主にモータースポーツを対象とした「乗り物」ではヘルメットなどの重要部位を設定した「スポット検出」も可能です。

検出精度は相当に高く、対象の被写体が画面内に入ると、すぐさま認識して検出枠が表示されます。

大きく写した猫程度なら、瞳を捉えるのは実に容易いこと。

EOS R10 RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM(125mm・F6.3・1/200秒)ISO 1600

つぶらな瞳の鳥でも高速高精度に捕捉し続けてくれます。

EOS R10 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(300mm・F8・1/1,600秒)ISO 800

動きがせわしないというか予測できない鳩であってもシッカリ追従。画面から外れるまで捕捉を止めなかった律義さにはちょっと感動しました。

EOS R10 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(156mm・F10・1/1,600秒)ISO 800

被写体が画面内に占める割合が小さすぎると検出できないこともありますが、この程度のサイズでしたら問題なく検出できました。

EOS R10 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(400mm・F16・1/1,600秒)ISO 800

今回は「動物」での作例を見てもらいましたが、「人物」や「乗り物」でも検出と捕捉は同じように高性能でした。電車や飛行機のように被写体検出の対象ではないものでも、そもそものトラッキング性能が高いので、問題を感じることはあまりないと思います。

4K 60pも選択可能な動画撮影スペック

動画撮影可能時間は、4K 30p撮影時で約1時間5分となっています。これは常温(23度)で、フル充電のバッテリーパック LP-E17を使用した場合の時間です。

動画記録サイズは、最大が4K 30pまで記録できます。小さなボディですけど4Kまでカメラ内部で記録できるなんてイイですね。

そんなEOS R10で撮影した4K 30pのサンプル動画が以下になります。

でも、実はEOS R10、よりフレームレートの高い4K 60pも撮ることができます。

4K 60pも撮れるのですが、メニュー画面で「Crop」とあるように、画面がクロップされ、4K 30pの時よりも、画角が狭くなります。

4K 30pのサンプル動画と4K 60pのサンプル動画は、同じ撮影位置から撮ったものですので、比べてみると画面が大きくクロップされていることが分かると思います。これは、4K 30p時はイメージサークルを広く使って大きく記録してから4Kのサイズまでリサイズするという、いわゆるオーバーサンプリングをしているからです。対する4K 60pは、撮像センサー内の本来の4Kサイズ(3,840×2,160)で記録しているため、結果的にクロップされることになります。

クロップと言うとなんだか損したようになりますが、動画の場合、記録サイズはどちらも同じですので、画質が落ちるということは基本的にほとんどありません。むしろ特性を理解して「望遠に強い4K」として使えば、有効に利用できるのではないかと思います。

そのほか補足を交えて作例をいくつか

APS-Cのイイところは望遠に強いところ。APS-C専用のRF-Sにこだわらず、豊富なラインナップのRFレンズを使えば、圧縮効果を効かせた憧れの超望遠撮影も手軽にできます。

例えば、最近発売された「RF100-400mm F5.6-8 IS USM」。EOS R10のコンパクトを邪魔することなく、手軽に最大で約640mm相当の超望遠撮影を楽しめてしまいます。

RF100-400mm F5.6-8 IS USMを装着
EOS R10 RF100-400mm F5.6-8 IS USM(200mm・F11・1/1,600秒)ISO 800

ただ、望遠に強いのは良いけど、広角方向の弱めなのが玉にキズ。EOS R10との組み合わせで超広角になるRF-SレンズやRFレンズはほとんどありませんね。

そうした悩みに「EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM」などいかがでしょうか。APS-Cのデジタル一眼レフ用の交換レンズです。機能性を損なうことなくEFレンズを使える「EF-EOS R」シリーズのマウントアダプターを介せば、EOS R10で問題なく使うことができます。

EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM(+アダプター)を装着
EOS R10 EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM(18mm・F5.6・1/160秒)ISO 100 EF-EOS Rアダプター使用

モードダイヤルでは「かんたん撮影ゾーン」に含められる、「スペシャルシーン」の「クローズアップ」で撮ってみました。近接撮影に向いたボケの大きくなる絞り値、手ブレを起こさないためのシャッター速度やISO感度をカメラが自動で選んでくれます。

EOS R10 RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM(45mm・F8・1/500秒)ISO 100

多機能で高性能なEOS R10ではありますが、エントリーモデルからのステップアップも意識しているためか、全自動モードである「簡単撮影ゾーン」の案内がとても丁寧です。モードを切り換える度に親切に説明してくれます。

はじめは「簡単撮影ゾーン」で写真を撮りながら、やがてEOS R10の高機能に触れることで、「応用撮影ゾーン」を使って自分だけのクリエイティブな世界を創出していくようになる、なんてのもアリですね。


キットズームの「RF-S18-45 IS STM」を使用。AFや連写の性能に注目してしまいますが、小柄なボディを活かし日常の光景を楽しく気軽に切り撮る、なんて使いかたも得意です。そんな時には、やっぱり小さくて写りも良い「RF-S」のキットズームとの組み合わせが便利。銅像でも被写体検出「人物」が働いて、ばっちり瞳にピントを合わせてくれました。像の立体感や金属の質感もなかなかのものです。

EOS R10 RF-S18-45mm F4.5-6.3 IS STM(32mm・F5.6・1/400秒)ISO 100

もうひとつのキットズーム「RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM」を使用。35mm判換算で29-240mm相当の高倍率ズームですが、APS-C専用設計だけにとてもコンパクトで、EOS R10とよく合います。初めて見たときはこちらが標準ズームなのかと勘違いしてしまいました。小さいのに素晴らしくシャープでヌケが良いので、スカッとした心地よい写真が撮れます。

EOS R10 RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM(150mm・F7.1・1/400秒)ISO 100

同じくRF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STMで撮影。モンシロチョウの細部まで描き出す高い解像感、アカツメクサの繊細なディテールを表現する良好な階調性、レンズの光学性能とEOS R10の画作りの巧みさが組み合わさってこそ出来ることでしょう。EOS R10と新しい「RF-S」レンズの組み合わせ、個人的にかなり気に入りました。

EOS R10 RF-S18-150mm F3.5-6.3 IS STM(150mm・F6.3・1/1,600秒)ISO 800

まとめ

EOS Rシリーズでは初となるAPS-Cサイズセンサー搭載機として、EOS R7と並んで登場したEOS R10。EOS Rシリーズで最小最軽量の小型カメラでもあります。ミラーレスカメラと言うと、多くの人は軽くて小さいことを期待すると思いますので、これは正しい進化であるともいます。

しかしそこはEOS Rシリーズのカメラ。優れた操作系に高画質、先進のAF性能に連写性能といったように、上位機種が培った技術を惜しみなく受け継いでいるため、小さなボディからは想像し難いほどのハイスペックなカメラに仕上がっています。キヤノンが本機をエントリークラスでなくミドルクラスモデルに設定しているのはそういうところでしょう。

一方で、ミドルクラスモデルでありながら、本機は「初心者にオススメ」なカメラにも設定されています。確かに「シーンインテリジェントオート」や「クリエイティブアシスト」などの撮影機能、また内蔵ストロボを搭載しているなど、どちらかと言えば初心者向けの機能が充実しているのもEOS R10の特徴のひとつです。

そのような個性から本機は、初心者は初心者でも、写真を撮りながら本格的なカメラ操作にも慣れていき、やがてはEOSを自分なりに使いこなしていきたいという、先を見通した真面目なステップアップユーザーに特にオススメです。動画機能にしても、画角こそクロップされるものの4K 60pも撮れるので安心です。

ただし、初心者用として限定してしまうには、ちょっともったいないくらい高性能なカメラであることも間違いありません。すでに上位機種を所有している中級者や上級者が、サブ機あるいは普段使いのカメラとして手にしたとしても、きっと満足できると思います。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。