新製品レビュー
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO
マイクロフォーサーズを活かす望遠ズーム ぐぐっと寄れてボケも自然
2022年4月19日 11:00
「OMデジタルソリューションズ」(以下OMDS)というカメラメーカーの名称もだいぶん慣れてきたなあ、と思っていたところ、そのOMDSが展開する“OM SYSTEM”から魅力的な新しい交換レンズが出るという報を聞きました。その名も「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO」です。
このレンズのイイところは、とても分かりやすいです。
・35mm判換算で300mm相当に届くF4通しの超望遠レンズ
・OMDSが誇る高性能ラインの“PROレンズ”
・超望遠のPROレンズであるにもかかわらず驚くほど小さく軽い
今回は最新ボディの「OM SYSTEM OM-1」と組み合わせて試用しましたが、かなり期待してもらって良いレンズですよ。
本当に高性能レンズなの? と感じる驚きの小ささ
本レンズは4/3型の撮像センサーを搭載したミラーレスカメラである、マイクロフォーサーズ規格カメラ用の交換レンズです。マイクロフォーサーズ規格のシステムは、そのフォーマットの小ささを活かして全体的に小さく軽く設計されており、本格的でありながら、機動性や携行性に極めて優れているところが特徴です。
本レンズは、全長約99mm(収納時の値、後述)、重さ約380gと、普及タイプの望遠レンズ、あるいは、それ以下のサイズ感に収められており、まさに機動性や携行性の高さを重視した、マイクロフォーサーズ規格に相応しい1本なのではないかと思います。
どうですか、この小さなサイズ。とても300mm相当まで届く超望遠ズームとは思えませんね。ちなみに、OMDSのアナウンスによると、F値固定の300mm相当望遠ズームレンズにおいては、世界最小最軽量だそうです。
というのは収納時の話。実はこのレンズ、収納時には鏡筒を縮めることができ、使用時には鏡筒を繰り出して使う、いわゆる沈胴式と呼ばれる方式のレンズなのです。それで、上の写真が使用時の形態になります。繰り出さずに写真を撮ろうとすると、ちゃんと鏡筒を繰り出して使うようカメラボディに注意されます。
斜めから見るとこんな感じ。いちいち鏡筒を繰り出して使うのは面倒と思われるかもしれませんが、OMDS(旧オリンパス)は、レンズ交換式のデジタルカメラ初期から普及型標準ズームを中心として、積極的に沈胴式を取り入れてきたメーカーでもあります。今回、いよいよ高性能ラインのPROレンズにも「携行性を重視して沈胴式を採用してくれた」と考えれば、これは善意といえるのではないでしょうか? カメラバッグ内の機材容量を減らせて助かりますし。
馴染みがない方には少しややこしい沈胴式ではありますが、沈胴状態を解除して通常使用形態にすれば、あとは40mm(80mm相当)でも150mm(300mm相当)でも、鏡筒が伸びたり縮んだりすることのないインナーズームとなります。一眼レフカメラ用の高級レンズなどでも好まれてきた仕立てです。
同梱のレンズフード(LH-66E)を装着したイメージ。まあ、一般的な樹脂製の丸型フードなわけですが、これで撮影している時に、周りの人はまさかこんなに“普通”な見た目のレンズで、本格的な超望遠撮影をしているとは全く思わないでしょう。
ここまでメリットと特徴をお伝えしてきましたが、ちょっと残念なのが、このレンズ、PROレンズの多くが採用する「マニュアルフォーカス(MF)クラッチ機構」が省略されているんですよね。
MFクラッチ機構とは、フォーカスリングをレンズ先端側か後端側かの位置にスライドさせることで、即座にAF状態とMF状態を切り替えられる機構のことです。被写界深度の浅い望遠レンズの場合、AFで大まかに合わせた後、あるいはAFが合焦に迷ってしまった時など、厳密なピント合わせを自力のMFで完了させたい場合に、迷うことなく直感的に操作できるので大変便利なのです。
PROレンズでMFクラッチ機構を搭載しないズームレンズは「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO」につづいて2本目になります。ズームレンズ以外でも、単焦点レンズの「8mm F1.8 Fisheye PRO」や「M.ZUIKO DIGITAL ED 20mm F1.4 PRO」がラインナップされているように、ここのところ、MFクラッチ機構非搭載のPROレンズも増えています。これは想像するに、OMDSがこれまで以上に“小型軽量化の徹底追求”に本腰を入れてきた結果なのではないかと思います。
そう考えると、描写性能に優れた小型軽量の超望遠ズームという、本レンズの個性がいっそうハッキリと見えてきますね。MFクラッチ機構の省略は筆者のようなコアなファンには残念なことですが、本レンズにおいては、この小型軽量な仕上がりを何より喜びたいです。
※4月22日22時30分追記:記事初出時に「MFクラッチ非搭載のPROレンズは3本目」と記載していましたが、正しくは4本目でした。これを踏まえて上記文章に修正を加えました。
“PRO”だけあって、さすがの解像性能
さて、実写結果に移りたいと思います。
まずは、テレ端150mm(300mm相当)の描写。絞りは開放のF4になります。
ピント面の解像感が素晴らしい! しかも、PROレンズ登場の初期の頃は、目に痛いほどキリキリしていたのが玉にキズでしたけど、OM-1と組み合わせた本レンズはとても素直に毛の1本1本を自然に分解しているところに好感がもてます。柔らかくも際立っている、そんないかにも高性能レンズらしい「分かっている」写りに感心していまいました。
小型化に勤しんだレンズだけに、画面の周辺では多少の口径食も見られますが、それはそれ。ミラーレスカメラの特性を活かしたデジタル的な画像補正によって、周辺光量の低下は気にすることなく撮れます。この辺りは、いまどきのデジタルカメラのお約束といってよいと思います。
つづいて、ワイド端40mm(80mm相当)の描写。絞りは同じく開放F4になります。
テレ端と変わりなく、目の覚めるような素晴らしい解像感です。いや、むしろワイド端の方が、被写界深度が広くなることもあって、解像感の高さを画面の隅々まで如実に感じやすいのではないかと思います。スコーン!と目の覚めるような気持ちいいヌケの良さは、旧オリンパスからOMDSになっても変わることありませんね。しかし、本当に見ていて気持ちいい。
40mm(80mm相当)で撮ったヤマアラシ。絞り値はF8になります。マイクロフォーサーズは、35mm判フルサイズに比べて被写界深度が2段ほど深くなるイメージだと言われていますので、それを信じればフルサイズ換算でF16相当になります。シャッター速度を稼ぎながら深い被写界深度で撮れる、というメリットを活用できます。
実際、画面の隅々まで絞り込んだ、パンフォーカスというに相応しい、極めて詳細な解像感を得ることができました。それでもISO感度は推奨のISO 200にしてシャッター速度は1/640秒です。詳細な画像を得るのに最適なシステムというわけです。
同じF値でテレ端の描写はどうなのか?というのがこちらの画像。比較的近場(撮影距離2~3m)なので、ボケるところはボケ始めているものの、全体的にはイイ感じの解像感を与えつつ、安心感を覚えるような立体感を含んだリアリティを表現してくれています。
そして、こうなってくると、俄然威力を発揮するのが、OM SYSTEM得意の「ハイレゾショット」撮影になります。ハイレゾショットは、連続撮影した複数枚の画像を合成することで、より大きなフォーマットを持つデジタルカメラでの撮影に匹敵、あるいはそれ以上の高画素かつ高解像な画像を取得できるという機能ですが、それだけにレンズの解像性能がダイレクトに反映されます。描写に甘いところがあると、そこが増幅されて余計に目立ってしまうという話ですが、本レンズならまったく問題なく使えます。
ボケ味も良くてこそ、の高性能レンズです
しかし、小型軽量な望遠ズームというと、解像性能は高くても、背景のボケ味が雑でギスギスしいことが間々あるので心配していました。コストを抑えながら解像性能を確保しようとすると、無理が祟ってしまうのでしょうか。
でもやっぱりPROレンズ。解像性能だけでなく、ボケ味も一級品でした。ピント面の解像感が絶妙という話は先にしていますが、デフォーカスでの柔らかさも絶妙に良いです。スムースにつながり、美しい。
なるべく二線ボケが出そうな条件を選んで撮ってみましたが、そんな意地悪をものともせず、全てのシーンで綺麗なボケ味を演出してくれます。
交じり合って色になってしまうような大ボケだけでなく、形を残した控えめなボケ味も、とても素直。主要被写体の存在感を邪魔することがありませんでした。
マイクロフォーサーズは一般的に大きなボケが得られにくいといわれます。大口径とはいえないF4通しのズームレンズなら尚更ではありますが、しかし、300mm相当の超望遠ともなるとボケ量もそれなりに大きくなるものです。そうした意味では、解像性能とボケ味のバランスが絶妙な本レンズの描写特性は、ボケを楽しむ上でも非常に使い出があるといえるでしょう。
近接撮影能力の高さはマイクロフォーサーズの特権かも
本レンズのもうひとつスゴイところはというと、それは近接撮影能力です。ズーム全域で最短撮影距離は70cm。どのズーム域でも等しく最短70cmというのは、使い勝手を考えると便利ですよね。
それで撮れたのがこちらの写真。テレ端150mm(300mm相当)なら、撮影倍率は35mm判換算で0.41倍相当になります。
0.41倍ってそんなにすごいのか?と思われるかもしれませんが、ここで少し考えてみましょう。撮影倍率1倍で35mm判イメージセンサーに投影された被写体の大きさと実際の被写体の大きさが等しくなります。一般的ないわゆる等倍マクロレンズですね。撮影倍率0.5倍だと、投影される被写体の大きさは実際より半分の大きさになり、これは“ハーフマクロ”とか1/2倍マクロと呼ばれています。撮影倍率0.41倍はハーフマクロに迫るくらい大きく撮れるレンズなのです。実際、描写性能に厳密な高性能レンズだと、0.25倍(つまり1/4倍マクロ)まで寄れれば「おお!すごい!」とされます。
高性能なPROレンズにして、ハーフマクロに迫る近接撮影能力を持ち合わせるのが、本レンズの醍醐味。使用範囲や応用範囲もますます広がるというものではありませんか。
まとめ
結論として本レンズの特徴をまとめると、“300mm相当まで届く超望遠ズームながら、驚きの小型軽量化に成功した高性能レンズ”といったところになると思います。淡々と書いてきたつもりではありますが、実際にこのレンズを使ってみると「まさかこの小さなボディでここまで良い写りを!」と驚くことになると思います。
他にも、厳しすぎるほどの試験に耐えた防塵・防滴・-10度耐低温による堅牢性や、ゴーストやフレアを徹底的に排除するZEROコーティング、傷や汚れがつきにくいフッ素コーティングの採用など、MFクラッチ機構やFnボタンこそ装備していませんが、盛りだくさんな贅沢仕様はまさにPROレンズのそれです。
大砲のような大型レンズでなければ望遠レンズらしさを感じられない、という方にオススメするものではありませんが、小さなボディをさりげなく持ち歩き、静かに、でも確実に、本格的な超望遠撮影のミッションを遂行したいという方には、これ以上ないくらい最適なレンズといえるでしょう。