新製品レビュー

Nikon Z 5(前編)

撮影者と距離感の近さや手馴染みの良さが軽快感を生む

ニコンが8月28日に発売したフルサイズミラーレス「Z 5」。既に登場しているZ 7/Z 6の下位モデルとなり、多くの部品を共用することで低価格化を図りつつ、Z 7/Z 6にはないSDダブルスロットやUSB給電などに対応。大容量となった新バッテリーを採用しながら、より低価格になるなど、フルサイズZシリーズ導入へ向けたハードルを下げた意欲作だ。

ファーストインプレッション

Z 5の外観デザインは、Z 7/Z 6によく似たものとなっている。Zシリーズから受ける印象から大きく外れることがないのと同時に、操作感についてもZ 7/Z 6とほぼ同じ。それもそのハズで、外装部品の多くをZ 7/Z 6と共用化しているのだ。

使用感は基本的に同じ。例えば握り心地と指掛かりの良い形状のグリップと、こちらも指掛かりのよいサムレスト兼メディアスロットカバーのお陰で、筆者の中ではミラーレス機で一番グリップが良い機体という印象。グリップの良さによって疲労感が少ないっていう利点や、シャッターボタン同軸にある電源スイッチのスムースな操作感、押下時に引っかかりやスレ感の一切ない心地の良いフィーリングのシャッターボタンなど、使い手との距離感の近さを感じます。

ボディ背面のボタン配置はiボタンより上は自然な配置と立体感となっていて、とても快適に操作出来る一方で、マルチセレクターより下はやや窮屈なのもZ 7/Z 6と同じ。このあたりはボディサイズが小さい事による弊害でしょう。

また、Z 6では左肩にあったモードダイヤルが右肩に移設されているけれど、個人的にはZ 5の位置が操作しやすく感じます。というのも、カメラを構えた状態でも右手だけでモードダイヤルの操作が出来るから。これについては筆者の手が大きいから、ってのもあるかも知れません。

ダイヤル類の操作感についても、とってもスムース。クリック感がもう少しシットリしていたら言うこと無いのだけど、おそらくZ系は明瞭感を重視して「パキッ」としたクリック感にしているのでしょう。

EVFの覗き心地も極上。四隅までクッキリハッキリ見渡せるし、歪みのないクリアな表示が気持ちいい。並のOVFを超える覗き心地があります。

ただキヤノンのEOS R5/R6を体験した後だと、起動から表示までのレスポンスの遅さが気になるところ。でも、不満はそれくらい。非常にハイクオリティなEVFを有しています。“Z 7/Z 6とほぼ同じEVF”と謳うだけのことはあります。Z 7/Z 6からの変更点といえば、接眼保護窓が変更されていることくらい。この違いが実写フィールドでどのくらいの影響があるか、室内で触れる限りはよく分からなかったので、後編にて検証結果をお伝えしたいと思います。

カタログ値には表れない快適さがある

ところで、Z 5ではキットレンズの「NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3」と組み合わせた際の重量バランスも大きなトピックとなっています。このキットレンズのサイズと軽さはまさに衝撃的。不安になるくらい軽いです。沈胴状態から伸ばした時の操作トルクは、「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」などと比べて1/3くらいになっていて、スコッと軽やかに操作出来ます。

キットレンズを装着した状態

外観は沈胴状態ではそれほど気にならないんだけど、フード無しで使用位置まで鏡筒を伸ばすとイマイチに感じます。すごく“盛って”表現すると、ふた周り大きくて真っ黒な、Leica Elmar 50mm f/2.8ってところなんだけど、流石にそう言っちゃうのはどうかと思いました。しかしこれは、絶対にフードつけたい感が高まります。

使用位置まで鏡筒を伸ばした状態
使用位置にセットしてフードを装着した状態

キットレンズをつけて、バッテリーと記録メディア(SDカード×2枚)も入れた状態で900g以下。数字でみるとそれほど軽いって印象はないんだけど、グリップが良いから500mlのペットボトルを持つよりも軽く感じます。

記録メディアはSDカード。ダブルスロットになっている

グリップってやっぱり大事。ストラップで肩がけにしたりバッグに仕舞えばもちろんスペック通りの重さに感じるわけではありますが、手に持っていたくなるから、お散歩カメラとしてとても魅力的な組み合わせだな、と思いました。

Z 5について正直に告白すると、スペックや製品ページをジックリと読み込んでみてもイマイチ心に響くものがなかったんです。でも、ちょっとでも実機に触れてみると「おっ、良いぞ」と思わせる質実剛健な感じがあって、例えば、「あの人ってどんな人なの?」って聞かれて「良い人なんだけど、うーん……」って感じで、良いところがパッと浮かばなかったり分かりやすく説明出来ない感じのキャラクターっていう印象を持ちました。実際に使ってみてその印象がどう変わるのか? 以下、画質の話に続きます。

クリアな画質が楽しめる

ISO 400まででアレコレ撮ってみた印象は「このキットレンズ、スゲー写るな!!!」です。いきなりボディと関係ないですが。

Z 5 / NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(44mm) / プログラムAE(F9.0・1/320秒・-0.7EV) / ISO 400
Z 5 / NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(35mm) / プログラムAE(F6.3・1/200秒・±0EV) / ISO 100

背面モニターで軽くチェックしただけでも、やたらクリアに写るし、逆光にも強いしで、とても好印象。ズームの倍率を頑張ってないキットレンズでは、メーカー各社の中でもニコンが頭一つ抜けているってのが筆者の過去約10年の経験からくる評価なので「今回もどうせ良く写るんだろう」みたいな予想はしていたのですが、それでもちょっとビックリしてしまいました。

高感度画質については後編でZ 6と比較していますので、そちらをお待ち下さい。

実写での使用感

Z 5で撮影してみた感じは、ほぼZ 7/Z 6と同じでした。シャッターのフィーリングは、両機と少し異なっていますが、おそらくシャッター幕の動作シーケンスがZ 7/Z 6と比べてゆっくりなので、その分シャッター音が低めで静音になっている、という感じ。連写速度が遅いのはこの動作シーケンスだからでしょう。

動作速度を落とすことで耐久パーツのコストを下げているとか、そういった工夫がシャッターユニットには施されているように思いました。動作速度を上げるとコストに跳ね返るからです。E=mv2/2ってあるでしょ? エネルギーは速度の2乗に比例するので、高速化には高強度が求められ、強度を上げつつ重量とサイズを維持するには材質を上げる必要があって、そのために高価な部材を使用するしかない、ってのが一般論です。

【2020.9.30修正】エネルギー表記について「E=mc2」と記載していましたが、運動エネルギー「E=mv2/2」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。

Z 5だけを使っている分には、そもそものコマ速が4.5コマ/秒だから「連写頑張ろう!」という気分にならないのも大きいと思います。普段小気味よく撮影出来る最低限必要な要素が凝縮されているって感じで、不満はありませんでした。

使っていて気になったのは主にAFに関する動作。暗所や低コントラストになるシーンで、明らかにAF合焦時間が伸びたり、AFが迷ったりすること。Z 6と比べなくても「あれ?」と思います。

あとオートエリアAFの動作。他誌でも筆者は「ZのオートエリアAFはイマイチだ」と述べきましたが、Z 5でもそれは改善せず。表現が難しいのだけど、距離情報よりもより明るくコントラストが明瞭なものを重視して、積極的にフォーカスを合わせたがる傾向が強いように思いました。

またAF開始時に被写体側にピントが来ていれば被写体に合焦することもあるけど、前述の癖の影響か、被写体の方が暗ければ高確率で背景に合焦します。背景側にピントがある状態だとやはり基本的に背景に合焦します。これまでDシリーズを使ってきた人は多分ビックリすると思います。なので、AFエリアモードはワイドかシングル、ピンポイントを多用することになります。

またEOS R5/R6やソニー、パナソニックのカメラに比べて、顔認識や動物AFの検出精度は今一歩と感じられる部分があります。ピント精度って意味じゃなくて検出精度ね。誤検出が多く、画面内に人物や動物がいなくても検出枠が出てきます。これはもっと頑張って改善させてほしいところ。

スナップでのインプレッション

スナップ撮影での印象は抜群で兎に角撮影が楽しい! って思いました。

この楽しさはどこからくるんだろう? と暫く考えましたが、やはり道具としての仕上がりの良さが、その根底にあるのだと思います。つまり、手に触れる部分のクオリティに優れている点が撮影の楽しさに繋がっているのだと感じました。

繰り返しにはなるけれども、やっぱりグリップの良さからくる軽快なハンドリングと、軽量に仕上がったコンパクトなキットレンズの組み合わせはマジで快適だし、電源スイッチのON/OFFの操作感が良いところもそう。直近でレビューしたEOS R5/R6は電源スイッチが左肩にあり、片手で操作することが出来ませんが、Zシリーズは片手で操作できるので必要に応じて迅速に電源操作が出来ます。こまめにオンオフできるので、バッテリーの持ちもちょっと良くなるハズ。

今回のテスト条件は単写のみとしていましたが、EVFをメインとした撮影では800コマも楽勝でした。筆者の撮り方だと平均してバッテリー消費1%に対してだいたい8.8コマ(単写のみ)という感じ。単写と連写の割合が7:3で1日撮り歩いてみた時は942ショットで残30%だったので、かなり撮れるという印象。先に述べた通り、電源は小まめにオンオフしています。

筆者が過去にZ 6で撮影した時のデータと比べてみると少なくとも20%以上撮影コマ数が増えているので、カメラの高効率化はもちろん容量が約20%増えた新バッテリ(EN-EL15c:2,280mAh)の影響も大きそうです。

これはもはや予備バッテリーいらないんじゃない? という勢い。Z 7/Z 6ユーザーで撮影枚数が物足りない人は新バッテリーを使うと良いんじゃないかな? 少なくとも増えた容量の分だけ撮影枚数は増えるハズです。

自由作例

平面を撮ってもベタッとした再現になってない。なんだか立体感があって、「キットレンズで撮りました」って言われても素直には信じたくない感じ(笑)

Z 5 / NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(38mm) / プログラムAE(F6.3・1/160秒・+0.3EV) / ISO 100

絞り開放(と言ってもF4だけど)からでも写りに全く問題なし。もうこれだけで撮影が楽しくなることが確定しています。絞り値気にしなくていいじゃん。

Z 5 / NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(24mm) / プログラムAE(F4・1/100秒・+0.3EV) / ISO 100

ピクチャーコントロール「モノクロ」でISO 400時の粒状感がとても好み。ボケ部分の粒状をチェックしてみて下さい。コレだけで、もうZ 5が好き。

Z 5 / NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(34.5mm) / プログラムAE(F5・1/100秒・-0.7EV) / ISO 400

ZシリーズのAE制御は筆者の好みのどストライクで、Dシリーズから大きく進化したと感じている部分。露出を気にせず撮影しても「きっと大丈夫」という安心感が嬉しい。

Z 5 / NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(24mm) / プログラムAE(F9・1/1,250秒・±0EV) / ISO 400

水平垂直をすごく取りやすいEVF、という感触。接眼光学系が良いから、なのかな? 奥の柱と天井が直角になるよう合わせています。そういった労力が少なくて「思い通りに撮れるぞ」という感覚が信頼感に繋がる。

Z 5 / NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(50mm) / プログラムAE(F6.3・1/50秒・-0.3EV) / ISO 180

AF-Sで咄嗟にエイヤッと流してみたら撮れた1枚。厳密に言えばちょっとピンぼけだけど、開放がF4だとそれでも合って見える。なにも明るいレンズだけが正義じゃない。

Z 5 / NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3(24mm) / プログラムAE(F4・1/160秒・±0EV) / ISO 100

前編のまとめ

Z 5を使用した最初のインプレッションは、キットレンズと組み合わせた際のパッケージングの良さが非常に印象的、というものでした。一言で表現するなら、「ちょうど良いんだよ!」ってカメラです。

スペックならα7 IIIみたいな絶対王者が既にありますが、筆者の感覚だとZ 5の方が、より撮影者との距離感が近くて手に馴染む感じがします。こういったところは実際に触れてみないと分からないところだし、言語化するのがとても難しい部分です。

だから、機会があれば2時間でいいからお散歩カメラとして使ってみて欲しい。「百聞は一見に如かず」という言葉が、Z 5を語る上でとても重要になります。ふらっと外にでてパッと撮る。そのリズムが実に心地良いんです。

その印象を後押ししているのが新しいキットレンズの存在。試しに従来のキットレンズであるNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sと組み合わせてみましたが、ソコまでの感動はありませんでした。約300gの重量差と、大きなフードによるマシマシの存在感によって軽快さが薄れてしまったことが理由です。

今回のキットレンズは写りも本気。操作やAFの癖に慣れるまでは撮影時に「はぁ?」と思うことが少なくないZシリーズだけど、画像を見たらきっと一発で「Z様ぁ♡」となること請け合いです。

連写速度についても、小気味よく撮影できるだけの十分な性能があります。ちなみにZ 5の最高約4.5コマ/秒というスペックは、フィルム時代の名機と誉れ高きF100と同じ数値だし、デジタル一眼レフの名機であるD800でも約4コマ/秒(FX時)だったから、実際問題としてそこまで悪い数値じゃないです。もちろん連写を多用したいって人は他を検討した方が賢明です。

撮影していて、少しだけ「あれ?」と思ったのは、シャッターを押してから実際に撮影するまでのラグが安定しないシーンがあること。暗いシーンや低コントラストシーンでは顕著です。キットレンズの開放F値が暗めなこと(F4-6.3)も少なからず影響していると思います。後編ではZ 6と比べてどうなのか、テストをしているので少々お待ち下さい。

とにかくZ 5で撮影を楽しんで思ったことは、「パンケーキっぽい薄さで明るめの単焦点レンズが登場すると、Z 5はミラーレス界のRICOH GRみたいなカメラになるかも!」というものでした。それくらいにZ 5のハンドリングの良さが印象的。だから公開リクエストします。広角で寄れるレンズとかパンケーキレンズ、待ってます!

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。