新製品レビュー

TAMRON 35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD

1本で様々なシチュエーションに対応 ポートレートが楽しくなるレンズ

タムロンが“ポートレートズームレンズ”と銘打って35mmフルサイズに対応する一眼レフカメラ用交換レンズ「35-150mmF/2.8-4Di VC OSD」(MODEL A043)を発売した。

ラインナップはニコンFマウント(5月23日発売)とキヤノンEFマウント(6月20日発売)の2機種で、希望小売価格は10万円(税別)。

レンズ構成は14群19枚、絞り羽根9枚の円形絞り。LD(異常低分散)レンズや複合非球面レンズなど高性能レンズを使用し、コーティングにはBBARコーティングを採用し逆光ライティングの多いポートレート撮影でもハレーションなどを大幅に抑制。5,000万画素クラスにも対応する高い描写性能が得られるという。

静音DCモーターの搭載とデュアルMPUの制御で、AF精度と合焦スピードアップとシャッター速度5段分の手ぶれ補正効果を得られる。簡易防滴構造の鏡筒、タムロンでデフォルトになりつつあるレンズ前面の防汚コートはもちろんのこと、ズーム全域において最短撮影距離を0.45mとするなど、ポートレート撮影に欠かせない要素も盛り込まれた「ポートレート撮影を楽しむ」ためのレンズといえる。

外観

小型・軽量化を図り外装はプラスティックだが、近年発売されているモデルと統一感のあるスタイリッシュな高級感あるデザインが美しい。普段使用しているニコンD850に装着して使用したが、見た目にも手にしたホールド感も、しっくりとよく馴染む。

しっかりしたつくりのスイッチ類

他のレンズとポジションや配置が同じで操作性での不安が少ない。スイッチのポジション・大きさも適切で切替時の程良い固さもありがたい。ここがやわらかいとカメラを携えて移動する際、不用意に動いてしまうことがある。

左からVC ON/OFFスイッチ、AF/MF切替スイッチ。
ロックスイッチ

スイッチ類の近くには「DESIGNED IN JAPAN」の文字がある。この刻印は新鮮だ。つまり製造がどこであろうがタムロンの品質や基準はJAPANクオリティーであることを謳っている。

ズームリング

フォーカスリングがレンズ先端側にあるか、ボディー側にあるかはマニュアルフォーカス派にはポイントになる部分だ。このモデルではズームリング・フォーカスリング共に十分な幅を取りフォーカスリングをレンズ先端側に配置してきた。

フォーカスリングがレンズ先端側にくるとマニュアル時の安定感が抜群に高まる。マニュアル好きの僕にはここだけでも好印象だ。ズームリングも十分な幅があるので使いやすく、手持ち撮影の多いポートレートでは盤石なつくりになっている。

150mm端まで繰り出した状態

こだわりがつまった85mmの距離刻印

タムロンのズームレンズで唯一焦点距離指標に85mmの刻印がされている。これはタムロンがポートレートズームとして高い意識とこだわりを持っている証しといえる。

新しいレンズは無限の楽しみや発見がある。以下、このポートレートズームを堪能すべく僕の好きなフィールドでいつも撮っているように試写してみた。85、35、50、150mmの、それぞれの焦点距離における描写をみていった。

各カットともピクチャーコントロール(写真設定)はパラメーターなどの調整を加えていないポートレートモードで撮影している。

85mm

ポートレート撮影の焦点距離で基本とも言える85mmの中心付近の画質だ。この焦点距離での絞り開放ではF3.5を常に示していた。開放側にも関わらずコントラストも十分でシャープに描写している。

タムロンの良いところはシャープにピンを結びながら全体が硬い写りにならないところだ。ボケも85mmらしい素直さで背景のハイライト部も滑らかに表現されている。

Nikon D850 / TAMRON 35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD / マニュアル露出(1/250秒・F3.5) / ISO 500

35mm

ワイド側35mm画角で風景込みの開放絞り(F2.8)で広めな絵作りをしが、画面に比してモデルが小さいにも関わらず高い解像感で表情はもちろん髪の毛の1本1本までとてもクリアな描写だ。画面周辺部の描写も良好で新しい設計や高性能レンズ素材の性能が発揮されている。

Nikon D850 / TAMRON 35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD / マニュアル露出(1/640秒・F2.8) / ISO 100

50mm

1枚絵の勝負では85mmを多用するも、普段の撮影で最もよく使うのが50mmの焦点距離だ。極論を言えば35mm、50mm、85mmがあれば撮影のほとんどがこなせるとも言える。それだけに50mmでの描写には特に期待したが、期待通りの自然な描写でズームレンズとして高いレベルの画質にまとめあげられていると感じた。

Nikon D850 / TAMRON 35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD / マニュアル露出(1/250秒・F3.2) / ISO 200

150mm

150mmは70-200mmのズームに属する望遠効果の高い焦点距離に属した焦点距離で、その効果は200mmレンズに迫る圧縮効果やボケの大きさになる。つまり本レンズは24-70mmと70-200mmレンズの約2本分レンズのポートレートで最も使用頻度の高い焦点域を1本でカバーしているといえる。

標準域の焦点距離から望遠域へ焦点距離を変える場合のレンズ交換の省略、デジタルカメラでは特に気になるセンサーゴミ付着の軽減など、そのメリットは大きく使い勝手も良い。150mmの焦点距離でも作例の通り前ボケの素直さやボケの繋がりの美しさなど、ズームレンズでありながら単焦点レンズにせまる厚みのある作画が楽しめる。

Nikon D850 / TAMRON 35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD / 絞り優先AE(1/250秒・F4.0・+1.3EV) / ISO 200

こちらは状況を感じさせながら背景整理を狙って撮影。引きは多少必要だが、雑然とした背景の中でモデルをより引き立てることができた。これも150mmの強みだ。

Nikon D850 / TAMRON 35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD / 絞り優先AE(1/320秒・F4.0・+0.3EV) / ISO 800

逆光下でも収差のない描写

半逆光という光線状態で、振りを変えながら色々試した。レンズによっては髪の毛のハイライト部に収差の影響などが出ることがあるが、さすが逆光耐性の優れたレンズで、ストレートな現像処理でも高い品質の写真となる。

Nikon D850 / TAMRON 35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD / 絞り優先AE(1/400秒・F3.5・+1.0EV) / ISO 200

カメラは止めて被写体ブレを作品にとりこむ

西日射す薄暗い倉庫内で撮影している。周囲の雰囲気残しと、モデルの両方を引き立てるのに50mmの画角は欠かせない。

ここではISO 800でシャッター速度を1/100秒まで稼いでいる。5段分の手ぶれ補正効果でカメラは止まっていても、モデルの被写体ブレは可能性として残る。ならばいっそのこと被写体ブレを作品に取り込むほうがいい、というアプローチだ。

Nikon D850 / TAMRON 35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD / 絞り優先AE(1/100秒・F3.5・-1.3EV) / ISO 800

最短撮影距離

撮影距離は撮影の幅を広げてくれる。全域で最短撮影距離が0.45mまで寄れる余裕は、絵作り効果が非常に高い。寄りたくても寄れないレンズではストレスしか残せないが、寄れるレンズは肉眼で見た感動を残せる。

Nikon D850 / TAMRON 35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD / 絞り優先AE(1/2500秒・F3.8・-1.3EV) / ISO 800

Zシリーズでも安定して動く

昨年発売されたニコンのミラーレスカメラ、Zシリーズでも一眼レフカメラと同様に快適で精細な描写ができるか、D850と同じ有効画素数のニコン Z 7でも検証してみた。Zシリーズで使用するには専用のマウントアダプターFTZが別途必要だ。

ミラーレスカメラではボディーが小さいので、フロントヘビーな感覚は否めないが、実際に撮影してみると特に大きな違和感とはならなかった。描写に関してももちろん何の遜色もなくクリアで高い解像感だ。

Nikon Z 7 / TAMRON 35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD+マウントアダプター FTZ / マニュアル露出(1/320秒・F3.8) / ISO 200

先日ファームアップで追加された瞳AFも使用してみたが、一眼レフカメラと同様のAF精度の高さに変わりはなく、追従速度も速くモデルの瞳を動きに合わせて正確に捕捉していた。カメラのタイプの関わらず、その高い性能は発揮される。

Nikon Z 7 / TAMRON 35-150mm F/2.8-4 Di VC OSD+マウントアダプター FTZ / マニュアル露出(1/320秒・F3.3) / ISO 200

まとめ

タムロンが“ポートレートレンズ”と掲げるように、画角的にはこれ1本でこのジャンルをほぼカバーできる。絞りも2.8-4と可変式ではあるが、開放から抜群の描写性能と解像力を併せ持っている。

ポートレートといえば大口径の単体レンズを何本も持って重い思いをしながら撮影をしているユーザーも多いと思うが、一度このズームレンズ一本で身軽な撮影をしてはどうかと、勧めたくなる性能だった。特に中望遠域での描写は素晴らしく、タムロンならではのコントラストあるシャープなピント面とポートレートとしての軟らかさのバランスが絶妙で、そこがタムロンの「隠し味」だと僕は思っている。ポートレート楽しむ全てのユーザーに一度体験してもらいたいお勧めできる1本だ。

モデル:Arly

河野英喜

こうのひでき:島根県浜田市出身。中学の頃に友人の持つカメラに強く惹かれカメラを手にして独自にポートレートを習得する。人物撮影のジャンルでは媒体を問わず幅広く活躍している。公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員。

https://www.konohideki.com