新製品レビュー

Panasonic LUMIX TX2

薄型高倍率コンパクトに久々の新モデル 15倍ズームレンズを搭載

LUMIX TX2(以下TX2)はパナソニックが3月15日に発売したばかりの、新型コンパクトデジタルカメラで、2016年に発売されたLUMIX TX1(以下TX1)の後継モデルにあたる。

大型の1型センサー、35mm判換算24-360mm相当の高倍率ズームレンズ、EVFを搭載するなど、現時点でコンパクトデジタルカメラに求められるあらゆる機能が惜しみなく盛り込まれていることが大きな特徴。

それでいて普段使いによさそうなフラットタイプの小型ボディなのだから嬉しくなる。

スマートフォンやタブレットなどに付属するカメラに押され、すっかり縮小してしまったコンパクトデジタルカメラ市場の中にあって、久しぶりに登場したプレミアムな新製品はむしろ貴重な存在と言えるだろう。

ライバル

1型センサーを搭載したコンパクトデジタルカメラと言えば、まっさきに思いつくのが人気の高いソニーのサイバーショットRX100シリーズ。しかしこれらの搭載レンズは標準ズームであり、TX2のような高倍率ズームではない。よってライバルと言うことにはならないであろう。

同じくソニーのサイバーショットRX10シリーズは高倍率ズームモデルであるが、TX2のようなフラットタイプでなく一眼レフカメラ風のデザインである。

そうなると、次に思いつくのがキヤノンのPowerShotシリーズのうち1型センサー搭載のモデル。なかでも、PowerShot G3 X(以下G3 X)は24-600mm相当の高倍率ズームを搭載したフラットタイプなので、TX2と真っ向競合しそうだ。しかし、G3 Xはズーム倍率こそTX2を上回るものの、サイズは1回り大きく、重量は倍以上である。その上、EVFは内蔵していない。

となれば、ズーム倍率、サイズ、EVFの有無、さらには実勢価格を考慮しながらTX2とG3 Xのどちらにするかを悩むことになるだろう。

もし、これらのライバル機を考慮しないと言うなら、TX2は個性あふれる唯一のコンパクトデジタルカメラと言うことになる。

ボディデザイン

ボディデザインは前機種TX1を概ね踏襲しているが、ボディ上面と前面が完全一体成型となったおかげで、より精悍なイメージが上がった。

前面グリップに沿うようにあしらわれた赤ラインは、ミラーレスカメラのLUMIX G9 Pro(以下G9 Pro)やLUMIX GH5sのようなフラッグシップ感を漂わせている。

TX1に比べ、プレミアムコンパクトカメラと呼ぶに相応しい、高級感と個性が向上したのは間違いないだろう。

サイズは幅が約111.2mm、高さが約66.4mm、奥行が約45.2mmとなっている。TX1が幅約110.5mm、高さ約64.5mm、奥行約44.3mmだったので、わずかに大型化しているものの、ズーム倍率が拡大したことを考えればよく小さく抑えていると言える。

このクラスのカメラは小型であることが命であるが、スペックを考えれば並み居るライバル達と比べても妥当なサイズを維持している。

実際に試写する際には、ポケットに入れて持ち運び、被写体を見つけたら電源を入れて撮影するということを繰り返していたが、大きさが邪魔になるようなことはかった。小さなカメラながら高倍率ズームであることからくる、自由で気楽な撮影を存分に楽しむことができた。

小さなカメラだが、ポップアップ式のストロボも内蔵。ガイドナンバーは公表されていないようだが、ISO感度をオートに設定した場合、ワイド端で約0.6~6.8m、テレ端で 約1~3.9mの範囲で適正なフラッシュ撮影ができる。

操作部

カメラ上面のボタン・レバー類のレイアウトは前モデルTX1から変更がない。モードダイヤル内の撮影モードの配列も同じ。

ズームレバーと同軸上にシャッターボタンが配置されている点、動画ボタン、後ダイヤルの位置などもほぼ全く変わらない。

同様に、カメラ背面のボタン、ダイヤル類のレイアウトも変更がない。ただ、EVFボタン(Fn4ボタン)とAF/AFロックボタンの表面には、新たにメッシュパターンの凹凸が施されたために、指がかりがよくなりEVF(EVF)を覗いたままでも操作がしやすくなった。

余談になるが、Fn1ボタンには4Kフォト機能、Fn2にはフォーカスセレクト機能が初期設定で登録されているところに、このカメラがパナソニック製であることを感じられるような気がする。

TX1で好評だった、レンズ基部のコントロールリングは本機TX2にも継承。絞り、シャッタースピード、ステップズームなどの設定が可能で、後ダイヤルと組み合わせて使用すればより快適な撮影を楽しむことができる。

撮像素子と画像処理関連

搭載する撮像センサーは有効2,010万画素、1型MOSセンサー。かつてコンパクトデジタルカメラの主流であった1/2.3型センサーと比べ約4倍の面積をもっているため、当然、画質や高感度特性は格段に高くなる。

注目したいのが、G9 Pro以降のパナソニック製デジタルカメラに搭載されている絵作り思想「生命力・生命美」が、本機にも取り入れられている点だ。これはTX2に搭載されたヴィーナスエンジンが進化しているということに他ならない。

「生命力・生命美」の思想が、従来の忠実な色再現だけでなく、撮影する被写体の本質まで引き出す静止画撮影向けの絵作りであることは、本サイト記事「LUMIX G9 PROからスタートした『絵作り思想』とは?」でもお伝えした。

G9 Proを始めとする新型ミラーレスカメラにはいくつかの実装例があるものの、コンパクトデジタルカメラとしてはTX2が初となる。

レンズ

搭載するレンズはライカブランドの「DC VARIO-ELMAR」、24-360mm相当(35mm判換算)F3.3-6.4の光学15倍ズームだ。

1枚の非球面/EDレンズと5枚の非球面レンズ、3枚のEDレンズを含む11群13枚のレンズ構成を採用しており、独自の調心技術や新レンズ構成により高画質ながら有効な小型化と高倍率化を達成している。

さらに、従来通り光学式手ブレ補正機構の「POWER O.I.S.」も搭載しているため、手ブレを起こしやすい望遠側でも安心して撮影することができる。

前モデルTX1の搭載レンズは25-250mm相当 F2.8-5.9であった。テレ端が250mmから360mmに広がったのはわかりやすい変化であるが、実は、広角端の1mm拡大も見逃せない進化である。

広角では1mmの変化で極端に画角が変わるため、可能となるワイド表現の幅は数字以上に大きくなると思った方がよいだろう。

レンズを伸ばし切った(テレ端にした)状態が下の写真。360mm相当とは思えないサイズ感は、先に述べた新レンズ構成が利いているところである。

ちなみに、ワイド端、および収納時(電源OFF時)の状態は以下の通りである。

AF

測距点は49点(空間認識AF)となっており、こちらは前モデルTX1から変わらない。AFモードは、顔・瞳認識/追尾/49点/カスタムマルチ/1点/ピンポイントなど、多彩な方式の中から状況に応じて選択できる。

1点/ピンポイントAFなどでは、液晶モニターに搭載されたタッチパネルによってタッチAFやタッチシャッター、さらにはAF枠の大きさ変更などを、スマートフォンなどのように直感的に行うことが可能だ。

タッチパッドAFにも対応しているので、ファインダーを覗きながらのタッチ操作で自由な位置にピントを合わせることもできる。

実写して感じたのが、TX2のAFはコンパクトデジタルカメラとしては非常に速く正確なことだった。G9 Proを初めて触ったときにも感じたことであるが、像面位相差AFに頼らず、それに全く遜色のないAF性能を実現していることには感心するばかり。独自の空間認識技術など、処理システムを上手く構築している結果なのだろう。

連写性能

空間認識技術、ヴィーナスエンジンの性能向上や、イメージセンサーの読み出し高速化によって、「連写/高速」設定時には約6コマ/秒のAF追従連写を実現している。

コンパクトデジタルカメラとは言え、すばやい被写体にもしっかりと追従する能力は素晴らしい……、と言いたいところであるが、他社製で動体撮影性能に注力した1型センサー搭載機はさらにハイスペックであるので、最新型としては“及第”レベルと言わざるを得ないかもしれない。

ただし、パナソニックが得意とする「4K PHOTO」モードは本機にもシッカリ搭載されている。TX2を使うなら、その機能を使って秒間30コマの超高速連写を楽しむのが正解と言うものだ。なお、新機能として「軌跡合成」(連続撮影した被写体の軌跡を合成する)機能も搭載されているので、ぜひ試してもらいたい。

ファインダー

約233万ドット相当のEVFを搭載している。これは、前モデルTX1と比べて約2倍のドット数にアップ。さらにファインダー倍率も0.53倍(35mm判換算)と、大幅な進化を遂げている。

より大型のミラーレスカメラに搭載されるEVFよりは見え具合が劣ってしまうのは致し方ないとは言え、コンパクトなボディにこのスペックのEVFを違和感なく搭載したことは立派。

明るい日中に背面の液晶モニターが見えにくいような場合でも問題なく撮影でき、被写体を正確に捉えることができる。撮影時だけでなく、撮影した画像の再生時にも大いに役に立つのでぜひ活用してもらいたい。

液晶モニター

液晶モニターには約124万ドットの3型が採用されている。前モデルTX1は約104万ドットだったので、こちらは順当なスペックアップを果たしていると言える。

前述の通り、タッチパネルを採用しており、スマートフォンのように直感的な操作ができる。小さなコンパクトデジタルカメラにとって欠かすことができない機能はシッカリ抑えてくれているといった印象。

が、モニターが可動式でなく固定式に据え置かれてしまった点は残念。デザイン、堅牢性、小型化などの問題もあると思うが、個人的には可動式であった方がコンパクトデジタルカメラの利点をもっと活かせたのではないかと考えてしまうのだ。

動画

4K動画(3,840×2,160ピクセル、30fps)での記録に対応している。フルHD映像の4倍のきめ細やかさで、リアリティあふれる高精細で臨場感ある映像が撮影可能だ。

通信機能

Wi-Fi機能のみだった前モデルから進化し、TX2はBluetooth 4.2(BLE:Bluetooth Low Energy)にも対応した。BLEによって簡単にスマートフォンやタブレットなどペアリングすることができ、低電力でカメラ本体と常時接続しておくことができる。

もちろん、無料の専用アプリ「Panasonic Image App」をインストールすれば、リモート撮影も可能。リモート撮影中は転送速度の速いWi-Fi接続に自動で切り替わる。撮影した画像の確認・アップロードなどの使い方もでき、より省電力で効率もよくスムーズな撮影ができるようになった。

また、BLEを搭載したことによって、Image App内に追加された「Bluetoothリモコン」機能にも対応した。ライブビュー映像のない簡易式のリモコンとなるが、従来のWi-Fi接続に比べ接続も容易で、タイムラグの少ないストレスのない撮影ができる。

端子類

端子類はボディ右側面(カメラを構えた状態で)にある。カバー内には2つの端子が装備されており、ひとつがmicro HDMI TypeDで、もうひとつがUSB 2.0対応 Micro-Bとなっている。

なお、バッテリーを充電する際は、カメラ本体のUSB端子に付属のケーブルを繋ぎ行う。バッテリーチャージャー(DMW-BTC12)は標準装備されておらず、別売になっている。

記録メディアスロット

カードおよびバッテリー室はボディ底面に備えられている。記録メディアは、UHS-Iスピードクラス3(U3)規格までの、SDXCメモリーカード/SDHCメモリーカード/SDメモリーカードに対応。

バッテリー

電池はバッテリーパック「DMW-BLG10」を1個使用。静止画撮影可能枚数(電池寿命)は液晶モニター使用時で約370枚、EVF使用時で約350枚(eco30fps設定時)となっている。

作品

ワイド端24mm相当で撮影。立ち枯れたヨシや木の枝など、周辺に至っても色収差などで像が乱れることなく、秀逸な解像感を保っていることがわかる。スモールセンサーのコンパクトデジタルカメラとは一味も二味も異なる描写性能はさすがだ。

LUMIX TX2 / 1/640秒 / F8 / -0.7EV / ISO 125 / 絞り優先AE

一方で、同じワイド端ではレンズ端から3cmの超近接撮影ができることも特徴の1つである。近接撮影時でもAFが迷うことなくサッと合焦し、気軽に背景ボケを活かした撮影ができるので楽しい。コンパクトデジタルカメラならではのこの自由度の高さは、スマートフォンからのステップアップ組にもうってつけだろう。

LUMIX TX2 / 1/800秒 / F5.6 / +1.3EV / ISO 400 / 絞り優先AE

テレ端の最短撮影距離は1mというオーソドックスなスペックになっている。とはいえ360mm相当の超望遠での接写なので、撮れる画像は思いのほか被写体が大きい。「生命力・生命美」の絵作り思想が活かされているため、鮮やかながらも花や葉の瑞々しい質感が表現されている点にも注目だ。

LUMIX TX2 / 1/160秒 / F6.4 / +0.7EV / ISO 125 / 絞り優先AE

テレ端360mm相当で撮影。かつてカメラ小僧の憧れだった焦点距離300mm超の撮影が、こんなに小さなカメラで、しかも高画質に撮れるのだから驚きである。このくらい大きく写せれば、ネコも警戒しない安全距離を保ちながら撮影できる。光学式手ブレ補正機構のおかげで手ブレも心配せず撮影できた。

LUMIX TX2 / 1/320秒 / F7 / -0.7EV / ISO 125 / 絞り優先AE

黄昏時の灯台の灯りをややハイキー気味に撮影した。パナソニックが昔からこだわっているMOSセンサーは高感度特性に優れるのが特徴。TX2でもその特徴は有効で、ISO6400でも不自然なノイズが乗ることなく綺麗に撮れた。コンパクトデジタルカメラとしては大型でも、ミラーレスカメラやデジタル一眼レフカメラに比べると小型である1型センサー搭載機で、この優れた高感度特性は有難い。

LUMIX TX2 / 1/400秒 / F5 / +0.7EV / ISO 6400 / 絞り優先AE

シャープで豊かな階調表現にこだわったという新搭載の「L.モノクローム」を試してみた。確かに奥深いモノクロ表現はさまざまな被写体で使ってみたくなる。パナソニックのカメラはモノクロモードが数種類あり、クリエイティブコントロールにも名前のよく似た「ラフモノクローム」があるので、よく注意して使い分けるようにしよう。

LUMIX TX2 / 1/400秒 / F5 / +1.3EV / ISO 125 / 絞り優先AE

4K動画機能も試してみた。機能説明で紹介した通り、リアリティのある高精細な映像を撮影記録することが可能だ。ただ、動画撮影時は5軸ハイブリッド手ブレ補正が有効となるものの、この機能は4K動画撮影時は無効になってしまう。むやみに望遠側で撮影して画面を揺らしてしまわないよう気を付けたい。

まとめ

コンパクトデジタルカメラに搭載される撮像センサーは、より小型の1/2.3型センサーと、より大型の1型センサーとに、2極分化が進んでいるのが現状。とは言え、プレミアム感が求められる現在にあっては、1型センサー搭載機がコンパクトデジタルカメラの主流といって言いだろう。

ただ、撮像センサーが大型になると、ボディやレンズのサイズも大きくなってしまうのが難点だった。そうした中で、高倍率ズームレンズを搭載しながらも、サイズを程よく抑えることに成功したTX2の存在は、やはり個性が際立っていると言える。

常識になるつつあるBluetoothによる常時無線接続機能などは、こうした気軽で自由度の高いカメラでこそ真に役立ってくれるものだと思う。

また、パナソニックの新しい絵作り思想「生命力・生命美」が本機にも取り入れられている点も見逃せない。地味ながらも味わい深い画質の進化は、1台のカメラを使い続けるほどにその良さに気づいていくことになるはず。

スマートフォンからステップアップしてSNSなどに高画質な写真を投稿したいという人にはもちろんのことだが、すでにミラーレスカメラを所有しているユーザーが普段使いの“携帯カメラ”として使っても、大いに活躍してくれることだろう。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。