ミニレポート
普及するのかデジタルカメラの「HEIF」
EOS R5とα7S IIIのデータで現状を探る
2021年3月2日 06:00
HEIFはキヤノンのEOS-1D X Mark III、EOS R5、EOS R6やソニーα7S IIIで採用された新しい画像ファイルのフォーマットだ。ヒーフと読む。iPhoneなどではiOS 11、macOSではSierraから採用されており、すでにお馴染みという人も多いだろう。3月に発売されるソニーα1にも採用が決まっている。
もちろん現在のデジタル写真において、保存形式のデファクトスタンダードはJPEGだ。画像を扱うソフトウェアのほぼすべてが対応しており、何をやるにしても対応状況を意識しなくて済み使い勝手がいい。実際のパソコンでのワークフローとして肝心なのは、OSも含めて自分が普段使うソフトウェアが対応しているかどうかだ。
HEIFの仕様決定や開発が完了したのは2015年だから、比較的新しいファイル形式といえる。そのため、対応は進んではいるけど万全とはいいづらいのも事実だ。もちろんカメラで採用したキヤノンやソニーは使えるような手段を用意している。本稿では、キヤノンEOS R5およびソニーα7S IIIで撮影した写真がどの程度パソコンで使えるか確認していく。
HEIF自体は、ファイルの箱(コンテナ)であり、圧縮方法としては通常HEVC/H.265が使われる。JPEGが8bit階調なのに対して、12bit階調での保存も可能で、広い色域も使えて、静止画でも同じ画質ならJPEGの2分の1のファイルサイズになるといわれている。同じファイルサイズならより高画質に、同程度の画質なら多くのファイルを記録できるということになる。なお、HEIFには一つのファイルに複数の写真を含められ、iOSでは深度などの情報を含めるなどしているが、現状キヤノンもソニーも1枚の写真を保存するにとどめているようだ。HEIFの詳細については僚誌AV Watchの記事を参照頂きたい。
カメラ側でのHEIFの記録設定
HEIFで記録するには、もちろんカメラ側で設定が必要になるが、キヤノンもソニーもJPEGとHEIFの同時記録はできない。
キヤノンEOS R5では、HDR PQ設定時のみHEIFでの記録が可能になる。これは、ITU-R BT.2100およびSMPTE ST.2084で定義されたHDRの規格だ。HDRの規格にはピーク輝度が表示デバイスによって変わるHLGもあるが、PQは最大1万nit固定で、人の目に近いガンマカーブを持つとされている。HDR PQをオンにすると、JPEGの代わりにHEIFで記録されるようになる。HDR PQオンではJPEGで保存できないし、前述のようにJPEGとHEIFの同時記録といった使い方もできないが、RAW+HEIFの記録は可能だ。基本的にダイナミックレンジの広いHDR PQのための保存形式として使っている。もちろんJPEG同様にサイズと画質を選べるようになっている。最高画質で比べたとき、ファイルサイズはJPEGと比べて変わらないか2割程度大きくなるようだ。拡張子は.HIFが使われる。
ソニーα7S IIIでは、JPEGで記録するかHEIFで記録するかという選択になる。EOS R5のようにモードを選ぶということはない。やはりJPEGとHEIFとの同時記録はできないが、RAW+HEIFという使い方は可能だ。HEIFは4:2:0か4:2:2で記録するか選べる。こちらもJPEG同様にサイズと画質の選択も可能。ファイルサイズを見ると、JPEGと比べたとき4:2:0で4割程度、4:2:2で5割程度に抑えられる。拡張子はキヤノン同様.HIFだ。
ファイルの読み込み
EOS R5にしても、α7S IIIにしても、JPEGやRAWと同じフォルダに記録されるから、パソコンのエクスプローラーやファインダーでメモリーカードからコピーする方法に違いはない。では、画像の表示はどうだろうか。
Windows 10の場合
Windows 10ではMicrosoft Storeから「HEIF画像拡張機能」をインストールすれば、HEIFファイルに対応することになっている。iPhone等で撮影した写真であれば、プロパティでExifは見られるし、フォトで開くこともできる。大きめのアイコンにすればサムネイルで表示される。ただし、EOS R5やα7S IIIの拡張子が.HIFのままだと、それはかなわない。
EOS R5で撮影した写真であれば、拡張子を.heicに変更すれば、プロパティでExifタグは見られる。ただし、フォトで開けないし、サムネイルも表示されない。
α7S IIIのほうは、拡張子を.heicに変更することで、大き目のアイコンでサムネイルが表示されるようになるが、Exifタグは見られないし、フォトで開いても小さな120×160ドットのサムネイル用と思われる画像が開くだけだ。
macOSの場合
macOSでは当然、iPhoneで撮影したHEIFの写真を扱うのに不自由はない。EOS R5で撮影した写真であれば、拡張子.HIFのファイルをプレビューで開くようにすれば閲覧できる。Big Sur(11.0)であればα7S IIIも表示できるのだが、Catalina(10.15)では一瞬表示されるような動作をするが、すぐに消えるなどして現実的には利用できなかった。ただし、いずれもプレビューのインスペクタの表示でExifデータの表示は可能だ。なお、いずれの写真も拡張子を.heicに変えるとアイコンが写真のサムネイルになるといった違いもある。
アドビ各ソフトの対応状況
Adobe製品はどうだろうか。WindowsとmacOSで、Photoshop、Lightroom、Lightroom Classic、Bridgeを試してみたのだが、いずれもまだ使用可能な状況ではないようだ。
Windows 10のBridgeではExifデータの表示はできた。またα7S IIIで撮影したものは拡張子をheicに変えることで先述のサムネイルは表示されるので、何が写っているかは確認できなくもないといったところだ。ほかの製品では、基本的に使用はできなかった。
macOSのほうはといえば、こちらもCatalinaと、Big Surで動作が違った。いずれも基本的にそのままではAdobe製品では扱えなかったが、拡張子をheicに変更することで、Big SurであればPhotoshopで開くことができた。しかし、CatalinaだとEOS R5で撮影した写真を開ける一方で、α7S IIIで撮影した写真を開こうとするとPhotoshopが落ちてしまう。BridgeでのExifデータの閲覧は共に可能だ。
アドビへ確認したところ「WindowsでHEIF/HEICファイル(iOSおよびAndroidで撮影したもの)のサポートを追加しましたが、ソニー/キヤノン製カメラのHEIFデータはサポートしておりません。ただしユーザーがキヤノンで撮影した画像の拡張子をheicに変更すると、MacのPhotoshopでは正常に開きます」とのことで検証通りだといえる。現状では、アドビ製品で扱うのには、後述の方法を使い、汎用的な形式にするか、そもそもRAWで撮影しておくほうがいいだろう。
そのほか
Caputure OneはWindows版で試したが、EOS R5、α7S IIIで撮影した写真は拡張子を変更したとしても開けなかった。
いずれにしても、JPEGのように意識せずに扱えるとは言い難い状況だ。OS側と各種画像編集/管理ソフト側での対応を待つことになるだろう。
カメラメーカー純正の方法を使う
HEIFがまったく使えないかといえば、もちろんそんなことはない。キヤノンもソニーも手段を用意している。
キヤノンの場合、カメラ内でHEIFからJPEGに変換する機能がある。手間はかかるが、普段はHEIFで撮影しておいて、必要に応じて汎用性のあるJPEGに変換するといった使い方ができる。
また、純正RAW現像ソフトであるDPP4(Digital Photo Professional)でも、「Canon HEVC Activator」を追加でインストールすることでHEIFを扱えるようになる。調整可能な項目は基本的にJPEGと同様だ。撮影した写真をDPPで管理・編集しているという人であれば十分といえるかもしれない。もちろん、HEIFのまま保存することも、JPEGやTIFFに変換して保存することも可能だ。
なお、キヤノン製カメラ以外のiPhoneやα7S IIIで撮影したHEIFファイルはサムネイルも表示されないし、編集もできない。また、DPP4同様にダウンロードには、カメラのシリアル番号が必要だった。
ソニーのほうはといえば、「HEIF Converter」という単独なアプリケーションを配布している。α7S IIIで撮影したHEIFファイルを、TIFFかJPEGに変換して出力するというシンプルなものだ。同社純正RAW現像ソフトのImaging Edgeで扱うにしても、とにかくこのアプリケーションで変換してからということになる。
起動したら、HEIFで撮影した写真をドロップし、TIFFにするかJPEGにするかボタンをクリックすればいい。画面の表示が英語だけなのは嫌だけど、シンプルなアプリケーションなので特に問題にはならないだろう。
ただし、一度変換するごとにアプリケーションが終了してしまうのは不便。まとめて複数のファイルをドロップして変換できるものの、ファイルを一つずつ変換したり、このファイルも追加で変換しようとしたりするときは、アプリケーションを再度起動する必要がある。なお、こちらもα7S IIIで撮影したHEIF専用で、iPhoneやEOSで撮影したHEIFの変換はできない。Imaging Edgeと異なり、こちらもダウンロードにはカメラのシリアル番号が必要になる。
スマートフォンでの対応
EOS R5でもα7S IIIでも、スマートフォンに写真を転送する機能がある。少々古いスマートフォンではあるが、ここではiPhone 8(iOS14.3)と、Pixel 3 XL(Android 11)を使って確認してみた。
EOS R5では、Canon Camera Connectを使うが、HEIFで撮影したHDR PQの写真の転送には対応していない。これはiPhoneでもAndroidでも同様だ。別途iPhoneにEOS R5で撮影したHEIF写真をコピーしたところ一応は扱えた。とはいえ、Facebookに投稿するとノイズが入り、Twitterでは色が浅くなり、Instagramでも若干暗くなるように見えた。ダイナミックレンジの広いHDR PQと通常の画像とは異なる部分もあり、非対応ゆえ仕方ないといったところだろう。
α7S IIIのほうは、Imaging Edge Mobileで転送することになり、iPhoneであればHEIFでも転送・表示に問題はない。Snapseedでの編集も確認できたし、FacebookやTwitter、InstagramといったサービスへHEIFの写真を選んで投稿できた。iPhoneで撮影したHEIFファイルと同じように扱える。一方、Androidでは転送自体ができないようになっていた。
カメラとアプリケーションの採用が普及のカギ
今回改めてデジタルカメラのHEIFデータがどこまで使えるかを確認したが、現状は頼りないというのが正直なところだ。メーカー純正の使い方であれば、もちろん使えるようになっているのだが、それ以外を見渡してみれば、現状ではまだ各社独自のRAWファイルを扱うのと同様かそれ以上の手間がかかる。今回の検証でも分かるように、HEIFといってもその中身は多少異なるので、一筋縄ではいかない。
冒頭で紹介したように、画像の圧縮形式としてはJPEGよりも画質面で有利なのだが、気軽に体感できるというところに至っていない。
JPEGはその登場からすでに四半世紀を超える古い圧縮形式だ。いまどきの圧縮方法から比べると見劣りする点も少なくないが、それでも様々な環境で互換性を気にせず使えるというのは大きなメリット。一方、HEIFは圧縮に使うHEVC/H.265に特許に関わる使用料がかかる。もちろん、使用料がかかっても普及した動画圧縮形式はいくつもあるが、静止画に関してはJPEGに代わるものにはならなかった。
HEIF(HEVC/H.265)が普及するか否かは、対応するソフトウェアやカメラがどれだけ出てくるかにかかっている。そこには当然、使用料の事情は無縁ではない。利用者が多ければメーカーは利用料を払ってでも採用を進めるだろうが、そうでなければ普及は難しいかもしれない。鶏が先か卵が先かというような話だが、その流れができるかどうかにかかっている。
キヤノンやソニーが一部のモデルとはいえ採用したのは一つのきっかけにはなったと思う。他社も含めて採用カメラが増えるかが、普及のカギだ。