気になるデジカメ長期リアルタイムレポート
ライカM【第5回】
手頃な現行ライカレンズ「SUMMARIT-M」を試す
Reported by藤井智弘(2013/10/21 08:00)
ライカMマウントが誕生したのは1954年。M型ライカ1号機、ライカM3に採用された。そのライカMマウントは、約60年経つ現在も受け継がれているのはご存知の通りだ。ライカMマウントは互換性のあるものも含め、多くのレンズが発売されてきた。それらの多くがライカMに装着することができる。
とはいえ、できるなら最新のデジタルボディには現行レンズを使用したい。デジタルで使用することを考慮した設計のレンズの方が、当然デジタルカメラのパフォーマンスを最大限に発揮できるからだ。
あえてオールドレンズの味わいを楽しむ、という方法もあるが、まずはデジタルに合ったレンズによる写りを知らないと、どれだけの味わいなのか判断できない。デジタルカメラは、あくまで現行レンズをベースと考えたい。これはライカに限ったことではなく、日本メーカーのレンズ交換式デジタルカメラでも同じことだ。
だが現行のライカMレンズは高価だ。「新品で買うのは難しい」と思っている人も多いだろう。ところがライカ純正レンズにもコストパフォーマンスを重視したシリーズがある。それがSUMMARIT-Mシリーズだ。
SUMMARITはもともと、1949年にシュナイダーが当時のライツ社に向けて製造したクセノン50mm F1.5をベースに、ライツ社が改良を加えたSUMMARIT f1.5/50mmが最初だ。大口径標準レンズとして1959年にSUMMILUX f1.4/50mmが登場するまで製造された。当初はスクリューのLマウントだったが、ライカM3が登場した1954年にライカMマウントに変更されている。
SUMMARIT f1.5/50mmは、絞り開放ではフレアや収差でコントラストが低く、まるでソフトフォーカスレンズを思わせる写り。しかし絞ると急激にシャープになる個性的なレンズだ。当時は「クセ玉」、「ボケ玉」などと言われ、もっぱら絞り開放から安定しているSUMMICRONに人気があったが、近年ではその写りが“味”として受け入れられている。
SUMMILUXの登場で姿を消したSUMMARIT。だが1995年に高級コンパクトのライカMINILUXにSUMMARIT f2.4/40mmを搭載したことで、SUMMARITの名前が復活した。そしてM型ライカ用に、現行のSUMMARIT-Mシリーズが登場したのは、デジタルのライカM8がすでに発売されていた2007年。6bitコードも持ち、デジタルでの使用を意識している。焦点距離は、35mm、50mm、75mm、90mmの4本。明るさはすべてF2.5だ。ここでは筆者がM型ライカで常用することが多い焦点距離である、35mmと50mmを使用した。
SUMMARIT-Mシリーズは、先に述べた通りコストパフォーマンスを重視している。外観は35mmも50mmもほぼ同じ。前玉の大きさが異なるくらいだ。おそらくパーツを共通化しているのだろう。ちなみに75mmと90mmも同じ外観だ。明るさをF2.5と抑えていることで、とてもコンパクト。どことなく、かつてのSUMMICORN f2/35mmのデザインを思わせるクラシカルなスタイルだ。
しかもクラシカルなのはデザインだけではない。鏡筒に刻まれた絞りや距離などの数字や文字は、現行の角張ったフォント(通称:コンピューター)ではなく、1970年代頃まで使用されていた「ライツ・ノルム」という丸みのあるフォントを採用している。ライカの伝統が感じられるのも、ライカ好きには嬉しいところだ。
現行のライカMレンズは、多くが非球面レンズやアポクロマートレンズを使用している。だがSUMMARIT-Mレンズは、そうした特殊なレンズは一切採用していない。通常の球面レンズだけで構成されている。では肝心の写りはどうなのか。
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SUMMARIT-M f2.5/35mmは、ライカの35mmらしいデザイン。SUMMICORN f2/35mmの初代である8枚玉と、2代目の6枚玉の両方を彷彿させる形だ。描写は、絞り開放ではわずかに柔らかい印象もあるが、解像力は高い。周辺光量低下もほとんど目立たず優秀な写りだ。絞りをF4に絞ると、さらにシャープさが増す。逆光や強い点光源が入っても、フレアやゴーストが出にくいのも好感が持てた。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
- 作例はすべてRAW(DNG)で撮影し、Adobe Lightroom 5でストレート現像しています。
SUMMARIT-M f2.5/50mmは、現行のライカMレンズの50mmで最もコンパクト。沈胴式以外でこれだけ小さい50mmは、ライカM4をベースにアメリカ軍用に製造された、ライカKE-7Aに装着されていたELCAN f2/50mmくらいだろう。描写は絞り開放から安定している。解像力は高いが、カリカリではなく、角が取れたような印象。球面レンズのみの構成だからかもしれない。ボケも形が崩れず綺麗で、ライカの伝統を感じさせる写りだ。
SUMMARIT-Mレンズは、35mmも50mmも球面レンズのみながら、しっかりデジタルに合った写りをしている。決して描写力に妥協はしていない。35mmも50mmも最短撮影距離が0.7mではなく0.8mなのが残念だが、もしかしたら近接撮影時の描写性能を意識した可能性もある。もちろん写りも造りも最高のSUMMICRON-MやSUMMILUX-Mが購入できれば、それに越したことはないだろう。
しかしSUMMARIT-Mレンズを選択してシステムを構築するという方法も、十分魅力が高いことを感じた。しかもコンパクトなので、最初の1本としてだけでなく、SUMMILUX-Mのような明るいレンズを持っている人にも、携帯性を重視した軽快に撮れる2本目としておすすめできる。
【10月22日】記事初出時、ズマリット35mmおよびズマリット50mmの価格を改定前(2013年7月以前)のものとしていたため、該当部分を修正しました。