交換レンズレビュー
ソニー FE 50-150mm F2 GM
画質にも妥協が見られない、F2通しの望遠ズームレンズ
2025年7月31日 07:00
ソニー「FE 50-150mm F2 GM」は、35mmフルサイズセンサーに対応したEマウント用の大口径ズームレンズです。ズーム全域で開放F2という大口径もさることながら、50-150mmというユニークな焦点距離にも注目すべきでしょう。
主にポートレート撮影を想定した新しいタイプのレンズと思われますが、G Masterの中でも特に優れた描写性能は、他の撮影ジャンルへの活用も期待させます。
サイズ感
外形寸法は約φ102.8×200mm、質量は約1,340g(三脚座除く)です。同社のF2.8望遠ズームレンズ「FE 70-200mm F2.8 GM OSS II」と比較すると、やはり重く、大きい印象を受けます。
しかし、50-150mmという特徴的なズーム域と、ズーム全域で開放F2という大口径であることを考えれば、むしろ小型・軽量なレンズといえるかもしれません。実際に使用してみても、レンズのスペックから想像するよりも自由に取り回せる、というのが正直な感想です。
さらに、本レンズはズーミングによって全長が変化しないインナーズーム方式を採用しています。望遠端にしてもレンズの全長が変わらない仕様は、使い勝手が良いだけでなく、どこか得をした気分にさせてくれます。
操作性
リング類はレンズ先端から順に「フォーカスリング」「ズームリング」「絞りリング」という標準的な配置です。いずれのリングも適度なトルクで滑らかに動き、非常に上質な操作感を味わえます。こうした作り込みは、ソニーの最上位レンズブランドであるG Masterならではです。
スイッチ類は、「フォーカスモードスイッチ」や「フルタイムDMFスイッチ」の他に、絞りリングを「A」ポジションでロックできる「アイリスロックスイッチ」も備わっています。本格的な望遠レンズのように、機能を割り当てられる「フォーカスホールドボタン」※を3箇所に搭載している点も魅力です。横位置撮影はもちろん、縦位置で左右どちらを上に構えても快適に操作できます。
絞りリングのクリックの有無を選択できる「絞りリングクリック切り換えスイッチ」も搭載。静止画撮影ではクリック感のある操作を、動画撮影ではクリック感のないスムーズな操作を、といったように状況に応じた切り換えが可能です。
望遠域をカバーする本レンズらしく、三脚座も標準で装備されています。上方へ回転させてリング操作との干渉を避けることも、クイックに着脱できる機構を利用して取り外すこともでき、高い利便性を備えています。
高機能で本格的な丸型レンズフード「ALC-SH183」が付属します。フードを固定するロックスイッチに加え、先端には保護用のラバープロテクターも施されています。
さらに、PLフィルターなど回転式のフィルター操作を容易にするスライド窓も用意されています。ワイド端の50mmに合わせているためフードは浅めの形状ですが、一般的にズームレンズは望遠側よりも広角側の方が有害光の影響を受けやすいため、理にかなった設計です。
解像性能
あえて開放絞り値のF2.0で、平面的な建築物を広角端で撮影したのが下の画像です。
広角端の50mmは標準域にあたり、使用頻度の高い焦点距離だけに画質の破綻は許されません。その視点で画像を確認したところ、ズームレンズの開放絞りとは思えないほど良好な解像感に驚きました。画像の四隅にわずかな像の甘さが見られるものの、それを補って余りある高い解像性能があるといえるでしょう。
望遠端の150mmも同様に、画面全体で驚くほど高い解像性能が実現されています。
ピントが合った手前の建物に目を移せば、隅々まで完璧と言えるほどの解像感が得られていることに気づきます。150mmはもはや立派な望遠域であり、それでいて絞りF2.0という明るさでこの描写性能を実現しているのは見事の一言です。
近接撮影性能
本レンズの最短撮影距離はワイド端で0.4m、テレ端で0.74m、最大撮影倍率は0.2倍(焦点距離は非公表)です。
広角端50mmの最短撮影距離で撮影したのが下の画像です。
焦点距離50mmで最短撮影距離0.4mというスペックは、現代のミラーレス用レンズとしては少し物足りなく感じるかもしれませんが、本レンズが人物撮影を重視して開発されたことを思えば納得のいく仕様です。描写性能もG Masterらしい高画質を維持しています。
次に、望遠端150mmの最短撮影距離で撮影したのが下の画像です。
最大撮影倍率の0.2倍というのは、この望遠端での性能のようです。主要被写体である花の写るサイズはワイド端とさほど変わらないため、最短撮影距離は変化しつつ、撮影倍率はある程度一定に保たれる設計なのかもしれません。
ポートレート撮影において、ズーミングによる背景イメージの変化は、撮影者の表現意図を大きく左右します。いずれの焦点距離においても、G Masterならではの美しいボケ味はさすがです。
作例
望遠端に近い焦点距離145mmで撮影しました。長焦点ならではの圧縮効果は圧巻で、クセになるほどの魅力があります。F2の明るさがもたらす大きなボケ味により被写界深度は非常に浅くなりますが、α7R Vの優れた瞳AFのおかげで、ほとんどの場合、正確にピントを合わせることができました。
ワイド端の50mmもポートレートで多用される焦点距離です。ここでも大口径である効果は絶大で、背景を大きくぼかすことができます。単焦点レンズに匹敵する描写性能とボケ味を持ちながら、レンズ交換なしで多彩な画角を選べるのは、非常に贅沢な撮影体験といえます。
望遠端150mmでの撮影です。絞り値をF4に設定したことでボケ量が落ち着き、周囲の状況を適度に取り込むことができました。カメラを縦に構えて中腰になるというやや不安定な姿勢でしたが、レンズの重さでバランスを崩すことはありませんでした。大柄なレンズですが、取り回しは見た目の印象以上に良好です。
中望遠となる焦点距離94mmでの撮影です。ピント面は変わらず高い解像感を保ち、そこからなだらかに続くボケ味も同様に上質です。広角端や望遠端だけでなく、どのズーム域でも良質な描写性能が得られるレンズであることがよく分かります。
ポートレートだけでなく、もちろん他のさまざまな被写体も最高の描写性能で捉えてくれます。大口径ズームのためフォーカス群はさぞかし重いだろうと想像しますが、4基のリニアモーターによる高精度な制御により、AFは驚くほど速く、正確かつ静かに駆動します。感覚的には、意識する間もなくピントが合っているほどです。
カルガモが柵の上に佇んでいたので撮影しました。かなり近づけましたが、これ以上寄ると逃げられてしまうという絶妙な距離感。ズームレンズならではの画角調整のおかげで、最適な構図で捉えることができました。ネイチャー撮影などでも威力を発揮してくれそうなレンズです。
まとめ
少々意外なズーム域を持つレンズですが、F2通しというスペックを考えれば、ポートレート撮影を主眼に置いた新しいタイプのズームレンズであることは容易に想像できます。
最上級と言っても過言ではない解像性能と、それを引き立てる自然で上質なボケ味の融合は、G Masterレンズの真骨頂と言えるでしょう。やや過言に聞こえるかもしれませんが、決して的外れではないと実感しています。
“大三元ズーム”という従来のカテゴリーが存在しますが、本レンズの登場は、もはやそうした枠組みにとらわれず、ユーザーが自らの撮影スタイルに合わせて焦点域を自由に選ぶ時代の到来を予感させます。
モデル:明日香