イベントレポート

ソニーが“クリエイター支援”を強化するワケ。カスタマーマーケティングで描く未来像とは

実践型ワークショップ「CREATORS’ CAMP」に密着

東京都中央区を舞台に開催された「CREATORS’ CAMP」の参加者たち

まだ暑さの残る9月中旬、ソニーマーケティング株式会社が企画・運営する映像制作の実践型ワークショップ「CREATORS’ CAMP」が、東京都中央区を舞台に開催された。

「クリエイターとの共創」をグループミッション/ビジョンとするソニーだが、近年、それに合わせてクリエイターの支援活動を活発化させている。なぜクリエイターへの支援を強化するのか。今回取材した「CREATORS’ CAMP」を題材に、その思いを深掘りしていく。

プロから学ぶ、実践型のワークショップ

CREATORS’ CAMPとは、第一線で活躍するプロの映像クリエイターを講師に招き、撮影や編集の技術について、3日間で直接レクチャーを受けられるという有料のワークショップだ。

ポイントは“実践型”であるということ。「チームで地域のPR映像を制作する」という課題があたえられ、構想、撮影、編集、納品といった一連のワークフローに取り組む。参加者は3~4人で1チームとなり、そこに講師としてプロのクリエイターが1人加わり、専属でサポートするかたちになる。

会場に集合した参加者。まずはオリエンテーションで注意事項を確認していく
3人1組でチームを組んだ。そこに講師のプロ映像クリエイターと、ソニーのスタッフが専属でつくため、かなり手厚いサポート体制といえる

ここでいう“地域”として、実際に自治体や観光施設などがこのワークショップに協力している。これまで、福島県福島市、千葉県いすみ市、和歌山県アドベンチャーワールド、愛知県岡崎市、北海道函館市、熊本県熊本市がCREATORS’ CAMPの舞台となった。

自治体などからの発注を受けて映像制作をするという想定となるため、単なる技術習得に留まらない、リアルなクライアントワークを経験できるのがこのワークショップの強みとなっている。最終的には優勝チームを決めるのだが、その映像作品は実際に地域のPRで活用される場合もあるという。

今回の舞台は東京都中央区
地域の魅力や、依頼者の抱える課題感をもとに動画制作の構想を練っていく。リアルなクライアントワークが体験できる

3日間という、ある意味で参加に対するハードルが高く感じられるイベントだが、有名講師の力などにより想定以上の応募があるという。映像制作を「生業とするため」に必要な経験や知識を得たいという、高い意識を持った参加者が多いのだそうだ。

講師陣の紹介シーン。一線で活躍する有名クリエイターが講師として集まる。講師側も、後進の育成や、クリエイター同士の交流を楽しみに参加しており、ソニーとの間に信頼感が培われているという

動画需要の高まり

そもそもCREATORS’ CAMPという企画は、「動画需要の拡大」に端を発しているという。写真に比べて学ぶ機会が少ない本格的な映像制作を、一連の流れで習得したいというニーズに応えるために企画した。

単なる座学ではなく、泊まり込みのキャンプ形式で、撮影から編集、納品に至るまでのクライアントワークを実践的に学ぶパッケージとして提供。またそこに地域のPR映像制作というテーマをとりいれることで、参加者と協力地域に対してウィンウィンとなる構造も目指している。

企画発足の当初こそ協力自治体を探すことに苦労したが、回を重ねるごとに評判が高まり、今では自治体からの引き合いも増えているのだとか。

チームで動画の構想を練る
スケッチブックを使いながらイメージを共有していく
撮影候補地の画像を見ながらイメージを作っていくチームも
付箋を使いながらイメージを形にしていく

実は今回の“東京都中央区”は、これまでのCREATORS’ CAMPとは少し趣向の違う特殊な回だった。参加者を写真学生に限定した特別回で、普段、芸術系の大学や専門学校などで写真を専攻している若者たちが集まった。

これまでソニーとしても学生への取り組み支援は行ってきたが、どちらかというと“動画を志す”学生との接点が強くなっていた実情があるという。カメラが持つ機能も静止画と動画の垣根が低くなってきたなかで、写真学生に対して「写真だけじゃなく動画も」というアプローチはあまりできておらず、そこにまだソニーが提供できる価値があるのではないかと考えた。

表現者として研鑽を積む彼らに、動画を作品表現の「武器」として提供したい。今回の実践的なキャンプで映像制作のノウハウを集中的に学ぶことで、表現の幅を広げてもらいたいというのが狙いだ。

撮影に使うのはソニーのCinema Lineシリーズ。このワークショップにはソニー社員がたくさん参加しており、カメラの使い方もフォローしてくれるため心強い

CREATORS’ CAMPが目指すもののひとつは、もちろん参加者がクリエイターとして成功を掴んでくれること。実際に過去の実施回で、優勝チームがその自治体からPR映像の制作依頼を請け負ったという実績もあるのだそうだ。それはこのワークショップで果たした1つの成功例といえるだろう。

しかしそれだけではない。ソニーは参加したクリエイターと継続的な関係を構築していくことを重要視している。ソニーの持つ強みを生かした継続的なバックアップを通して、グループミッション/ビジョンである「感動の未来を共創」を具現化するという理想を、このCREATORS’ CAMPに掲げている。

現場でも講師からのアドバイスが受けられる

ソニーのクリエイター支援――カスタマーマーケティングに注力

ソニーが近年、クリエイター支援活動を精力的に強化している背景には、業界の長期的なトレンドと新たな成長戦略があるという。

スマートフォンの台頭により市場が縮小傾向にあるのは否めないカメラ業界で、ソニーはミラーレスカメラを中心にシェアを拡大してきたが、商品の良さを伝える競争領域だけの活動には限界があると判断。そこで焦点を移したのが「カスタマーマーケティング」だった。

それは商品ではなく「顧客」に特化し、顧客の満足度やエンゲージメントの強化を重要視するということ。

カメラという製品は、購入後にユーザーの向上心が芽生え、それがボディのステップアップやレンズの追加購入といった機材投資に反映されるという固有の動きがある。この撮影へのモチベーションを支援・サポートすることで、エンゲージメントを高め、結果的に売上につながるという発想が根幹にあるという。

ソニーが考える“クリエイター”とは

ここまで、クリエイターという言葉を何度も使ってきたが、あらためて“ソニーが考えるクリエイター”について言及したい。

ソニーにとっての「クリエイター」とは、プロや収入の有無に限定せず、作品にこだわりを持ったり、向上心を持った全ての人々を指すという。定義を広くもつことで、活動の輪への参加を促し、カメラ文化全体を盛り上げたいという考えがある。

現場での撮影を終えたら、今度は編集の時間だ

では一体、クリエイター支援として具体的にどんな活動をしているのか掘り下げたい。1つは先述した「CREATORS’ CAMP」だ。

そして2024年に新設したアワード「THE NEW CREATORS」もこれに当てはまる。これは写真だけでなく動画も対象としたもので、新しい才能を発掘して世の中に紹介する場を提供することを企図した取り組みだ。

あとは撮影関連講座を展開する「αアカデミー」、オンラインコミュニティの「αcafe」、そしてリアル拠点である「ソニーストア」もそれに含まれる。こうした活動を点と点が線で結びつくように有機的に動かすことで、顧客エンゲージメントの向上を図っているのだという。

またこれらの活動がそれぞれ単発で終わらず、先に述べたように「継続的にクリエイターと繋がり続けること」がソニーの重要なコンセプトとなっている。

特にCP+で用意した「クリエイターズラウンジ」は、その繋がりを象徴する場だという。ワークショップやソニーストアのイベントなどで接点を持ったクリエイターを全国から招待し、CP+イベント期間中に自由に利用できるようにしたスペースだ。

ここではクリエイター、ソニー社員、メディアの3者が地域や垣根を超えて交流することを目指している。この交流から、クリエイター同士の共同制作や、メディアへの露出など、ソニーだけでは生み出せない新しい発展が生まれることを目指しているのだそうだ。

CREATORS’ CAMPのクライマックスは、作品の上映・講評会だ
作品の審査も担当する講師陣

この支援の「輪」を強化できるのは、ソニーがカメラ単体のメーカーではない多角的企業である点にもその要因があるという。

カメラ製品だけでなく、テレビのBRAVIAや、スマートフォンのXperiaといった周辺プロダクトの知見を統合的に活用できる。

またソニーミュージックやソニーピクチャーズといったグループ企業が持つ撮影監督やアーティストとの繋がりも、クリエイターの目標となる最大の強みだとしている。

究極の理想像

ソニーが目指すのは、クリエイターを支援し、寄り添い続けることで、感動の未来を共創していくこと。

メーカーとして、本当に良いカメラを作ったとしても、撮る人がいないと作品は生まれない。クリエイターが生み出すコンテンツこそが、日本中、世界中の人々に感動を届ける源であるとソニーは考えている。

そのクリエイターの活動を支援していくことで、ソニーのビジネスにも繋がっていくという良い循環を世界中に広げていくことが、この“クリエイター支援”の最終的な理想像なのだという。

本誌:宮本義朗