交換レンズレビュー
XF 56mm F1.2 R APD
“滑らかなボケを生みだす”アポダイゼーションフィルターの実力は?
Reported by澤村徹(2015/1/23 08:00)
富士フイルムから個性的なポートレートレンズが登場した。「XF 56mm F1.2 R APD」は、既存のXF 56mm F1.2 RにAPD(アポダイゼーション)フィルターを搭載したレンズである。
APDフィルターは滑らかで階調豊かなボケを生み出す特徴があり、ボケ味に期待のかかる大口径中望遠レンズだ。今回はベースとなる「XF 56mm F1.2 R」との違いを意識しながら、XF 56mm F1.2 R APDの魅力を探ってみよう。
デザインと操作性
本レンズは35mm判換算85mmに相当し、開放F1.2という大口径を誇る。レンズ構成は8群11枚で、EDレンズ2枚、非球面レンズ1枚を採用し、基本構成はXF 56mm F1.2 Rと同様だ。
もっとも大きなちがいは、非球面レンズの手前にAPDフィルターを搭載している点である。APDフィルターは周辺部の透過光量を抑え、柔らかいボケを生み出す。APDフィルターを搭載したAFレンズは世界初だという。
このAPDフィルター搭載にともない、絞りリングの刻印が変更されている。通常の白い絞り値の下に、赤い数字が刻印されているのがわかるだろう。APDフィルターを搭載すると、非搭載レンズに比べて透過光量が減少する。
この減少分を加味したものが赤い絞り値だ。そして、白い絞り値と赤い絞り値の差が大きいほど、APDフィルターの効果が大きく現れるという。
単純に引き算してみると、開放絞りがもっともAPDフィルターの効果が大きいということになる。なお、本レンズには約3段分のNDフィルターが同梱されており、明るい場所でも開放撮影しやすいように気配りしている。
鏡胴外装は金属製で、ブラックペイントの輝きが美しい。ピントリングはやや重めのトルク感で、開放でのMF操作も微調整しやすかった。絞りリングは1/3段のクリック感があり、こちらも滑らかで心地良い操作フィーリングだ。
遠景の描写は?
開放F1.2の大口径レンズだが、開放近辺で滲みはさほど感じられず、周辺部もしっかりと解像している。周辺減光もほぼ気にならない。F4~F5.6を境に、シャープさがぐいぐいと増していく。
ポートレートレンズというとやわらかい描写をイメージしがちだが、シャープさといいコントラストといい、思いの外硬派な描き方のレンズだ。
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ボケ味は?
さて、お待ちかねのボケ味はどうだろう。今回はXF 56mm F1.2 R APDとXF 56mm F1.2 Rを用意し、同一シーンで1段ずつ絞りながら撮り比べてみた。
逆光耐性は?
逆光条件での撮影は、フレアはさほど気にならない。ただし、光源を写し込むと赤斑状のゴーストが見受けられる場面があった。ゴーストの有無はライブビューで確認できるので、逆光条件ではこの点に留意しながら撮影したいところだ。
作品
頬骨のあたりからボケはじめ、ナチュラルに背景の大きなボケへと続いていく。
肌の明るさに合わせてハイキーで撮影した。ハイライトにもう少し粘りがほしい。
前ボケとなった膝に着目しよう。輪郭が自然にやわらかくボケている。
開放寄りのF1.4での撮影だが、合焦部が実にシャープだ。
褪せた黄色を褪せたまま再現してくれた。華美になることなく、自然な色再現だ。
通常だとザワつきそうな背景だが、APDフィルターが功を奏し、なだらかにボケている。
F5.6で壁を撮影してみた。周辺部まで確実に結像し、平滑性の高い描写力だ。
シャープでハイコントラストな描き方なので、オールラウンドなスナップレンズとしても活躍してくれるだろう。
まとめ
実写からもわかるように、APDフィルターは開放近辺でこそ効果的だ。そのため、XF 56mm F1.2 R APDは開放メインで使っていくことになるだろう。その点、本レンズは開放からシャープでコントラストの付き方がよく、積極的に開放撮影できるレンズだ。
ただし、女性ポートレート撮影に関しては、コントラストが強すぎる印象を受けた。肌の明るさを基準に露出を合わせると、ハイライトが白飛びする場面が多い。
女性ポートレートは開放のやわらかい描写を活かすことが多いと思うが、そうした撮り方をしたい場合は、XF 56mm F1.2 Rの方が使いやすいだろう。XF 56mm F1.2 R APDは絞り値を問わない描写の安定感、そして開放近辺のボケの美しさが魅力と言える。
(モデル:Alex)