交換レンズレビュー
タムロン 90mm F/2.8 Di III MACRO VXD
ミラーレス時代に復活した中望遠マクロレンズ「タムキュー」の実力は?
2024年12月31日 12:00
「タムロンの90マクロ」といば花写真、昆虫写真など、クローズアップをメインとする写真家に長く愛用されてきたレンズです。私の周りの花写真家仲間でもユーザーが多く、タムロンといえば、まずこのレンズが思い浮かぶほど。マクロだけでなくポートレートなどにも多く使われ、高い評価を得てきました。
初代の「SP90mm F/2.5」は1979年に発売。この45年間にモデルチェンジを繰り返し、ついに2024年、35mmフルサイズミラーレスカメラ対応する「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」が発売されました。
90mmマクロレンズの特徴
焦点距離90mmのマクロレンズは、マクロレンズの中でも「中望遠マクロレンズ」というカテゴリーに分けられます。50mm付近の「標準マクロレンズ」よりも焦点距離が長いことから背景のボケを大きくでき、ワーキングディスタンス=被写体との距離も比較的長くとれます。一方、200mmクラスの「望遠マクロレンズ」よりもコンパクトな設計になるので、持ち運びしやすく便利です。
中望遠マクロレンズは大きさ、重さ、撮影距離、ボケの大きさで比べた時、いずれも程よいレベルでまとまっているため、マクロレンズの中も頻繁にモデルチェンジされる、人気のレンズなのです。
外観と操作性
外観はピントリングに加え、フォーカスリミッタースイッチ、フォーカスセットボタンだけとシンプル。歴代モデルに備わっていた撮影距離を示す表示窓はなくなり、すっきりとした作りになっています。
ピントリングは幅広く、マニュアルフォーカスでも細やかに連動してくれる感覚があります。実際、微調整がしやすくスムーズでした。ほとんどの撮影はAFで行いましたが、花マクロの撮影ではマニュアルフォーカスで合わせたい場面も多々あります。フォーカスリングの操作感の良し悪しはとても重要でしょう。
フォーカスリミッタースイッチにより、フォーカスの合う距離を「〜0.7m」または「0.7m〜無限遠」に設定できます。AFでクローズアップ撮影をするときは「〜0.7m」にしておくとピント合わせがスムーズになります。今回はバラの花びらに迫るシーンなどで利用しました。
レンズフードにはスライド窓が備わり、PLフィルターを装着したときに回転操作がしやすくなっています。例えばバラやツバキの葉のテカリを抑えるためPLフィルターを使いますが、そんなとき、レンズフードを外したり、指を差し入れなくても操作できるので便利です。
仕様など
最短撮影距離は0.23m、最大撮影倍率は等倍です。花びらに迫ったり、水滴の存在感を引き出すなど、通常のレンズでは迫れない拡大撮影が可能です。最近は標準ズームレンズや望遠ズームレンズでもけっこう被写体に寄れるようになりましたが、本製品は接写に特化したマクロレンズだけに、近接撮影時の画質に期待できます。
また、このレンズはタムロン初の12枚羽根の円形絞りを採用しています。原理的には絞り羽根の枚数が多いほど、点光源をぼかしたときに現れる丸ボケを真円に近づけることができます。このレンズの場合、F5.6付近まで絞っても点光源のボケに丸みが残るため、木漏れ日や水面、イルミネーションの輝きといった丸ボケの表現で有利に働くことでしょう。
作品
バラが咲くガーデンの小径。バラの葉の光の反射が丸いボケになります。煌めきを感じる要素として背景に入れてみました。中距離のボケも自然で、立体感がありますね。
絞り開放のF2.8で撮影。12枚羽根の円形絞りを採用しているためか、遠距離のボケの形がとても素直な真円に見えます。しべの部分の解像感はさすがです。
バラの花びらを等倍付近で撮影しました。ボケの中からシャープな部分だけがすっと浮き出てくるようです。被写界深度が極めて浅いので、ブレやピントのズレに注意して、多めに撮っておくと安心です。
テーブルフォトなど被写体が花以外でも、マクロレンズが活躍します。拡大してみると、羽毛の細かな繊維までくっきりと解像しているのがわかります。
ラズベリーの手前にピントを合わせているのですが、拡大してみると、その質感の再現性に驚かされます。肉眼だとここまでのディティールは見えません。このレンズの性能の高さを感じました。
水滴の表面ではなく、中に映り込んでいる草葉にピントを合わせました。前後の水滴がボケると、ここにも丸ボケが現れます。マクロレンズの魅力はクローズアップが容易なことと、美しいボケです。マクロレンズを持つことで、撮れる世界が広がり、見過ごしがちな小さな被写体にも目を向けるきっかけになることでしょう。
まとめ
各社の標準ズームレンズや望遠ズームレンズの近接撮影性能が上がり、マクロレンズの出番が減りつつある中、「よくぞ出てくれた」という1本です。私を含め多くの方にとって、常に等倍までの撮影倍率が必要というわけではないでしょう。しかし、本レンズの近接時の解像力やボケをみると「さすが本職のマクロレンズ」とうならずにいられません。今回は試せませんでしたが、被写体が中距離になるポートレートでも実力を発揮できる設計とのこと。ミラーレス時代となったいまでも、意義のある90mmマクロレンズの復活に拍手を贈りたいです。