交換レンズレビュー

ニコン NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR

1本で様々なシーンをカバー フルサイズセンサー対応の高倍率ズームレンズ

ニコンの「NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR」は、同社のフルサイズ(FXフォーマット)ミラーレスカメラ「Z」シリーズ対応の高倍率ズームレンズです。

特長は何と言ってもテレ端が超望遠域の400mmであること。ワイド端が28mmですので、ズーム倍率は驚きの約14.2倍になります。最大撮影倍率もかなり高いため、これ1本でさまざまな撮影シーンに幅広く対応します。

サイズ感と使用感

本レンズは持ち運びのしやすい小型・軽量設計に仕上がっている、とニコンがアナウンスしています。小型・軽量であることは、いまどきのミラーレスカメラ用高倍率ズームとしては、当然のように求められるスペックと言っていいでしょう。

ではありますが、実物を「Z 8」に装着してみると、思ったよりも大柄なサイズであることに少し戸惑ってしまいます。実際に、本レンズの最大径×長さは約84.5×141.5mmとなっており、いわゆる高倍率ズームとしてはボリュームがある方だと思います。

ただし、これはフルサイズで400mmまで届く、約14.2倍というクラス初の高倍率ズームであるため。テレ端が400mmであることを考えれば、確かにコンパクトなズームレンズであることが理解できます。

約14.2倍の高倍率ズームレンズだけに、テレ端までズームすると鏡筒は長く伸長しますが、重量バランスが良いためか実際に手にして操作してみると、意外に軽快感があることに気づかされます。約725gという質量も、この幅広い焦点距離域からくる実用性の高さに対しては、むしろ軽いとすら感じられてきます。

スイッチ類はほとんど搭載されていませんが「ズームロックスイッチ」は搭載されています。複雑なズーム機構をもつ本レンズは、ストラップを肩にかけての移動中に鏡筒が繰り出してしまうことがあるため、何気に大切な装備だと思います。

スイッチ類は少ないのですが、Z マウントのレンズらしく「コントロールリング」は備えています。「フォーカス(M/A)」「絞り」「露出補正」「ISO感度」といった好みの機能を割り当てることができます。

レンズフード「HB-114」が同梱されています。丸型でなく角型というところに、ちょっとした粋を感じることができますね。

解像性能

28mmから400mmまで、約14.2倍もの高倍率ズームですので、その描写性能に問題はないか気になるところです。広角端と望遠端で解像性能を確認してみました。

広角端の焦点距離28mm、絞り開放F4.0で撮影しました。全体的にシッカリとした解像感の高さがあり、コントラストやシャープネスについても申し分がありません。ただ、周辺部ではわずかながら倍率色収差による色ズレが見られ、そのせいかいくらか鮮鋭性が低下しているように感じられます。

ニコン Z 8/NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR/28mm/絞り優先AE(1/640秒、F4.0、±0.0EV)/ISO 100

つづいて、望遠端の焦点距離400mm、絞り開放F8.0で撮影した画像です。超望遠域で遠景を撮影したため、わずかに陽炎の影響を受けていますが、それを差し引いても及第点と言えるだけの解像感があります。周辺部では、やはりわずかな解像感の低下が見受けられるものの、問題となるほどではありません。

ニコン Z 8/NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR/400mm/絞り優先AE(1/160秒、F8.0、+0.7EV)/ISO 100

広角端でも望遠端でも、全体的に解像性能は良好で、十分に実用的だと感じました。約14.2倍の高倍率ズームレンズでこの画質を実現しているのは、大変に立派なことだと言えるでしょう。

近接撮影性能

近頃のミラーレスカメラ用として発売された高倍率ズームレンズは、近接撮影性能が高いものが多いです。本レンズもご多分に漏れず、高い近接撮影性能をもっています。

広角端での最短撮影距離は0.2mで、レンズフードをしていると被写体に接触してしまいそうになるくらい寄ることができます。この時の最大撮影倍率は0.35倍となっており、ハーフマクロとまではいきませんが、かなり被写体を大きく写すことができます。テーブルフォトや花の撮影など、身近なものを大きく写したいときに便利ですね。

ニコン Z 8/NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR/28mm/絞り優先AE(1/250秒、F8.0、+0.3EV)/ISO 100

一方で、望遠端での最短撮影距離は1.2mとなっており、最大撮影倍率こそ公表されていませんが、こちらもなかなかに被写体を大きく写すことができます。ワーキングディスタンスがかなり長く撮りやすいとは言えないものの、圧縮効果を効かせたり、前後のボケを大きくしたりと言った、マクロ撮影のような効果を得られます。

ニコン Z 8/NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR/400mm/絞り優先AE(1/250秒、F8.0、±0.0EV)/ISO 100

作例

こちらを警戒して近寄らせてくれないネコを、焦点距離250mmで撮らせてもらいました。望遠端が400mmですので、同じ撮影位置でもっと大きく撮ることも可能ですが、構図のバランスを考えて選んだ焦点距離です。それでも一般的な高倍率ズームレンズの望遠域を超えていますので、応用範囲の広いレンズだなと感心します。

ニコン Z 8/NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR/250mm/絞り優先AE(1/125秒、F8.0、+0.3EV)/ISO 100

飛んでいるユリカモメを撮影しました。AFはおおむねカモメの動きに追従しながら正確にピントを合わせてくれますが、急な動きをしたときなどは捕捉しきれないこともありました。ステッピングモーター採用のため、AF速度はリニアモーターほどには及ばないものの、動物園や運動会などでの使用には申し分ない性能といった印象です。

ニコン Z 8/NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR/400mm/絞り優先AE(1/20,000秒、F8.0、±0.0EV)/ISO 6400

広角端28mmでの撮影です。スナップ撮影で持ち歩くにはちょっと大柄に感じることもある本レンズですが、実際に撮りまわっていると便利さの方が上回り、思ったよりも軽快感を覚えることができます。レンズ交換はあまりしたくないという人には結構うってつけです。

ニコン Z 8/NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR/28mm/絞り優先AE(1/500秒、F4.0、−0.7EV)/ISO 400

焦点距離84mmでの撮影です。広角端や望遠端だけでなく中望遠域での解像感もバッチリでした。ネコの毛並みをシッカリと写しとてってくれているのはもちろん、緑のボートの艶めかしい階調再現性も素晴らしい。ニコンのZマウントレンズは総じて描写性能が高いと思っていましたが、本レンズもその期待に応えてくれています。

ニコン Z 8/NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR/84mm/絞り優先AE(1/250秒、F8.0、−0.3EV)/ISO 100

焦点距離50mmでの撮影。標準域もご覧の通り良好な画質を見せてくれます。望遠域では距離によって背景のボケ味が硬くなる場合もありましたが、広角域や標準域、中望遠域ではそうした心配も少なく、高倍率ズームレンズとしてはなかなかに良いボケ味が得られるといった印象で、ポートレイト撮影などにも使ってみたくなります。

ニコン Z 8/NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR/84mm/絞り優先AE(1/320秒、F5.6、±0.0EV)/ISO 400

まとめ

高倍率ズームレンズとしては高い解像感、400mmの超望遠に達するズームレンズとしてはほど良く抑えられているサイズ感など、非常に使い出のあるレンズだと感じました。単純に、28mmから一気に400mmまでズームしたときの画角変化は圧巻そのもので、それだけでも本レンズの存在価値に意義を見出すことができるところです。これをフルサイズ用で達成しているのだから本当にすごい。

焦点距離400mmと言えばもはや超望遠の世界で、気軽に使いたい高倍率ズームとしては三脚の用意は前提としない場合が多いと思いますが、そこはレンズ内に強力な手ブレ補正機構(レンズシフト方式VR機構、最大5.0段分)をもっていますので安心です。

応用範囲の広い本レンズと、お気に入りの明るい単焦点レンズが1~数本あれば、ほとんどの撮影は有意義にこなせてしまうのではないでしょうか? まったく、ミラーレスカメラ時代に相応しい高倍率ズームレンズですね。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。