交換レンズレビュー
富士フイルム フジノンレンズ XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR
軽快かつ高画質 近距離撮影にも強い“新”標準ズームレンズ
2024年5月30日 07:00
富士フイルムの「XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR」は、同社のAPS-Cサイズミラーレスカメラ、「X」シリーズ対応の標準ズームレンズになります。
富士フイルムには、比較的よく似たスペックの標準ズームとして「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」がラインナップされており、これが長らくX-TシリーズやX-Sシリーズのキットズームレンズとなっていました。しかし、同時に発表された「X-T50」は、どうやら本レンズ「XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR」がキットズームレンズとして採用されるようです。事実上の後継モデルと見なして問題ないと思います。
サイズ感と使用感
本レンズの外形寸法は約φ65.0×71.4mmで、質量は約240gとなっています。標準ズームレンズとしては、非常にコンパクトで軽い部類です。今回はXシリーズのフラグシップである「X-H2S」との組み合わせで試用しましたが、キットズームとして設定されているだけに、X-TシリーズやX-Sシリーズとの組み合わせでも、まったくバランス上の問題を感じることはないと思います。
というところで、前モデルと見做しうる「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」のサイズはと言うと、こちらは外形寸法が約φ65.0×70.4mmで、質量は約310gとなっています。レンズの太さは同じで、長さこそわずかに増えていますが、質量は約70gも減っていますので、かなりの減量に成功していると言えるのではないでしょうか。まあ、レンズ内の光学式手ブレ補正機構「OIS」が省略されたことが一因かもしれませんが、その代わりに防塵・防滴の「WR」が付加されていますので、良くも悪くもと言った感はあります。ちなみに、現行のXシリーズカメラボディは、そのほとんどがボディ内手ブレ補正機構を搭載しています。
また、本レンズが「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」と大きく異なるのが、インナーズーム方式を採用しているところ。ズーム操作によってレンズの長さが変化することはありません。ズームすると鏡筒の内側で前玉が前進/後退するタイプですので、後退時にはレンズフードと合わせて有害光を効率よくカットしてくれます。
リング類はレンズ先端からフォーカスリング、ズームリング、絞りリング。絞りリングは絞り値の表示がレンズに刻印されているタイプでなく、ファインダーやモニターの情報表示で確認します。
絞りモードスイッチも備えられており、絞り値の設定をオートにするかマニュアルにするかを選べます。
本レンズに備えられたスイッチは上記のみで、AF/MFの切り換えなどは基本的にカメラ本体で設定するようになっているのは、Xシリーズ全般に共通する仕様です。
専用のレンズフードが同梱されています。ゴーストやフレアの抑制、レンズ先端付近の保護のために、キチンと装着して使用したいところです。
解像性能
次世代キットズームと言ってもよいであろう、本レンズの解像性能を確認してみました。使用者も多くなると考えられるキットズームだからこそ、解像性能はシッカリしていてほしいものです。
まずは広角端の焦点距離16mm(35mm判換算24mm相当)、絞り開放F2.8で撮影してみました。
画面の中央から周辺まで、絞り開放から大変素晴らしい解像感があることが分かります。周辺部ではわずかに解像感が低下してはいますが、像が乱れたり、色収差による色ズレが見られたりと言ったことはほとんどなく、自然に緩やかに低下しているので不自然さがありません。
つづいて、望遠端の焦点距離50mm(35mm判換算76mm相当)、絞り開放F4.8で撮影した画像です。
画面中央の解像性能が素晴らしいのは広角端と同様ですが、それが周辺に至っても安定して維持されています。広角端も良い写りですが、望遠端はますます高画質で、これはちょっと嬉しくなってしまいました。
近頃のキヤノンやニコンでは、APS-Cセンサー搭載カメラのキットズームが非常に良く写るので感心していましたが、富士フイルムのこの新しいキットズームはそれに負けず劣らず、あるいは上回るくらいの高い解像性能があることを、今回の試写で確認できました。
近接撮影性能
キットズームでもうひとつ期待したいのが近接撮影性能の高さだと思います。被写体に寄って写せばそれだけ大きく写すことができますので、花などのネイチャーフォトや、身近なものを撮るテーブルフォトなどでも便利に活用できます。
大きく被写体を写すための性能、最大撮影倍率は望遠端の焦点距離50mm(35mm判換算76mm相当)で0.3倍となり、この時の最短撮影距離は24cmです。個人的には最大撮影倍率0.25倍あれば近接撮影性能に優れていると考えていますので、最大撮影倍率0.3倍と言うのはかなり優秀な方だと思います。
広角端16mm(35mm判換算24mm相当)の最短撮影距離で、同じ花を撮影したのが下の画像ですので、いかに本レンズが望遠端で小さな被写体に寄って大きく写せるのかが分かると思います。
近頃は、広角端において最大撮影倍率となるズームレンズをよく見ますが、そうした場合、レンズ先端から被写体までの距離がわずか数cmとなり、被写体にレンズ先端が接触しそうになることが多いです。望遠端において、ワーキングディスタンス(レンズ先端から被写体までの距離)にある程度の余裕がある本レンズは、近接撮影が実用的で撮りやすいと言えると思います。
広角側にしても決して最短撮影性能が劣っていると言うことはないので、適度な撮影サイズと撮影距離を保ちながら、適切な広さで背景を入れて画面を構成すると言ったことも、比較的自由にこなせるレンズだと言えるのではないでしょうか。
作例
本レンズが地味にスゴイと思えるのが、逆光耐性が非常に高いところです。試用期間中にあらゆる条件で強い光源をさまざまな位置に置いて撮影してみましたが、ついにゴーストやフレアの類が現れることはありませんでした。何らかの条件によってはゴーストが出る可能性も否定できませんが、正直、この逆光耐性の高さには驚かされます。
筆者も普段から愛用しているフジノンレンズは、モノによって背景のボケ味がギスギスしくなることがあるのが玉にキズでした。しかし、本レンズは決して高性能ラインでないキットズームの類でありながら、納得できるだけの自然で綺麗なボケ味を見せてくれます。何と言いますか、次世代に向けた富士フイルムのレンズ設計に対する意気込みを感じます。
AF性能については前モデル(とも見なせる)「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」と同じく、速く、高精度で、とても静かです。これは本レンズも引き続きリニアモーター(レンズ名称中の” LM”)を採用しているため。小型・軽量なキットズームにリニアモーターを採用しているあたりも、富士フイルムの意気込みなのかも知れません。
35mm判換算で24-76mm相当という焦点距離のズーム域だけあって、スナップ撮影ではすこぶる快適に画角を選ぶことができます。下の作例は30mm(35mm判換算約46mm相当)での撮影ですが、ちょうどよい画角を自由に気持ちよく選べるところに「標準ズームレンズかくあるべし」と感じました。
解像性能が素晴らしく良好なことから、風景写真にだって十分に対応できると思います。小型・軽量なこのキットズームを中心にして、お気に入りの広角ズームや望遠ズーム、あるいは単焦点レンズを揃えていけば、隙のないシステムが構築できるはず。
まとめ
恐らくは、Xシリーズにおいて、これからのキットズームとして重要な役割を担うことになる「XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR」ですが、その性能はあらゆる意味で次世代の名に相応しい出来でした。
サイズ感はほとんど変わらないまま質量は軽くなり、インナーズームが採用されたことで、これまでよりも随分と使いやすさが増しています。画質についても非常に素晴らしい進化を遂げており、前のキットズームである「XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR」はもとより、上位モデルにあたる「XF16-80mmF4 R OIS WR」より上々なのではないかと言うのが、今回の試写での感想です。
これからXシリーズのカメラを選ぶとしたら、本レンズがセットになっている製品を選ぶというのも、決して悪くない選択だと思います。セットとしてではなく、単体での価格がどれほどかにもよりますが、他の標準ズームレンズからの買い換えだって十分に検討に値することと思います。