交換レンズレビュー

RF10-20mm F4 L IS STM

圧倒的な小型化と高度な手ブレ補正を実現した超広角ズームレンズ

キヤノンの「RF10-20mm F4 L IS STM」は、フルサイズ対応のミラーレスカメラ用として登場した超広角ズームレンズです。特徴は何と言っても、レンズ交換式カメラ用の交換ズームレンズでは世界初となる、焦点距離10mmを実現したことにあります(魚眼レンズを除く)。

スペックの傾向が比較的似ているレンズとしては、同じくキヤノンの一眼レフカメラ用レンズとして、2015年2月に発売された「EF11-24mm F4L USM」があります。本レンズはそれよりもさらにワイド端を広げるとともに、大幅な小型・軽量化に成功しており、レンズ設計技術の進歩をみるうえでも興味深い1本だと思います。

外観・特徴

本レンズの最大径×長さは約φ83.7×112mmで、質量は約570gとなっています。これだけだと小型・軽量と言われてもいまひとつピンとこないと思いますが、冒頭で紹介した「EF11-24mm F4L USM」が約φ108mm×132mm、質量が約1,180gであることと比べると、驚くほど小さく軽くなっていることが分かります。

非球面レンズ2枚に、UDレンズ3枚、UD非球面レンズ1枚を含んだ12群16枚という、非常に豪華なレンズ構成とのこと。前玉は超広角ズームレンズらしく、前方に大きく突出したいわゆる出目金タイプなのですが、その前玉を除くと内側が非球面になっていることが良く分かり、ふんだんに盛り込まれた高度な光学設計技術の凄味を垣間見ることができます。

操作系としては前から順に、コントロールリング、フォーカスリング、ズームリングが並んでいます。RFマウントのLレンズとしては標準的な並びで構成されており、それぞれのリングは高い精密感を保ちながらスムースに動かすことができます。操作感触も良好で、さすがはLレンズと言ったところでしょうか。

鏡筒左側に装備されたスイッチ類は、上からフォーカスモードスイッチ、手ブレ補正スイッチ、レンズファンクションボタンとなっています。

フォーカスモードスイッチと手ブレ補正スイッチは標準的な装備と言ってよいと思いますが、好みの機能を割り当てられるフォーカスモードスイッチの搭載は、超広角ズームレンズとしてはなかなか粋な計らいですね。静止画撮影だけでなく動画撮影で重宝すると思います。

いわゆる出目金レンズですので円形フィルターは装着できませんが、代わりにレンズ後部にゼラチンフィルターホルダーが設けられています。

同じく、いわゆる出目金レンズのうえにレンズフードが固定式となるため、通常の形状のレンズキャップが装着できない代わりに、専用の被せ式レンズキャップが同梱されています。被せ式でもロック機構の付いた優れもの。

作例(絞り開放での解像性能)

テレ端20mm、絞り開放のF4.0で解像性能を見てみました。テレ端と言っても焦点距離20mmですので、十分に超広角の範疇です。

テレ端F4.0(絞り開放)
EOS R5/RF10-20mm F4 L IS STM/20mm/絞り優先AE(1/800秒、F4.0)/ISO 100

さすがにLレンズと言ったところでしょうか、絞り開放でも解像感は画面全体で非常に高く、コントラストや質感の再現性なども見事なほどに優秀です。厳密なことを言えば、画面の四隅で解像感がわずかに低くなっていますが、本当に些細な程度で範囲も極一部でしかないため、実用上はまったく問題なく優れた描写性能だと考えてよいと思います。

次にワイド端10mmにして同じく絞り開放F4.0で撮影してみました。ワイド端にズームしたとたん構図づくりに戸惑うなど、焦点距離10mmの強烈な広さに驚いてしまいました。思わずテレ端20mmが標準域に感じられてしまうほどです。

ワイド端F4.0(絞り開放)
EOS R5/RF10-20mm F4 L IS STM/10mm/絞り優先AE(1/640秒、F4.0、±0.0EV)/ISO 100

そして解像性能はと言いますと、これまたさすがにLレンズだけあって、テレ端時と同様に四隅で解像感がいくらか低くなる程度で、全体的には大変良好な高い解像感を示してくれます。ただ、テレ端時と比べると中央付近であってもわずかに解像感の甘さが見られます。やはり10mmという焦点距離で万全な解像性能を確保するのは非常に難しいということなのかもしれません。

もちろんこれは、比較して見ればと言う程度のことですので、実際の撮影では気にするほどのことでもなく、今までにない超々広角の世界を体験することができるはずです。

さらに言いますと、絞り開放F4.0での四隅における解像感の甘さは、1段絞っただけでほとんど完全に解消されます。

ワイド端F5.6
EOS R5/RF10-20mm F4 L IS STM/10mm/絞り優先AE(1/400秒、F5.6、±0.0EV)/ISO 100

作例(その他)

テレ端20mmでの撮影です。超広角のうちでも焦点距離20mmは比較的構図を決めやすい画角だと個人的に感じています。超々広角だけの単焦点レンズではよほど撮影対象が明確でないと使うのを躊躇ってしまうところですが、20mmまで届くズームレンズとなればスナップ撮影などでもそれなりに安心感を覚えます。

EOS R5/RF10-20mm F4 L IS STM/20mm/絞り優先AE(8.0秒、F8.0、±0.0EV)/ISO 100

同じ場所でワイド端10mmでの撮影です。対角130°を超える超々広角だけに画面に入り込む情報の多さが圧倒的で、なかなか最適な被写体を探すのが難しいところですが、必要な場所では大いに効果を発揮してくれます。複雑に絡み合うジャンクションの迫力を、テレ端時より強調できたのではないかと思います。

EOS R5/RF10-20mm F4 L IS STM/10mm/絞り優先AE(8.0秒、F8.0、±0.0EV)/ISO 100

本レンズの最短撮影距離は0.25mと、超広角ズームレンズとしては優秀な近接撮影性能だと言えます。近くの被写体を大きく写しながら背景を広くとりいれた、いわゆるワイドマクロの写真を撮ることができます。とは言っても、焦点距離10mmともなると近づくことはできても、撮影倍率は相対的に小さくなります。逆に言えば、いままで見たことのない世界を体験できるレンズですので、新しい表現に挑戦して見たくもなるのです。

EOS R5/RF10-20mm F4 L IS STM/10mm/絞り優先AE(1/2,000秒、F4.0、+0.3EV)/ISO 400

高性能な超広角ズームなのに小さく軽いというのは、思った以上に具合が良く、撮影中の気分までも軽やかにしてくれました。また本レンズは、超広角ズームと言うこともあって、それほど絞り込まなくても深い被写界深度が得られることも特徴のひとつです。シャッター速度を落とさずに撮影できますので、機動力を必要とする自然風景や都市風景などの撮影では心強い味方となってくれます。

EOS R5/RF10-20mm F4 L IS STM/18mm/絞り優先AE(1/250秒、F5.6、+0.3EV)/ISO 400

レンズ内光学式手ブレ補正機構(IS)を搭載し、さらにはボディ内手ブレ補正機構とも連携することで、キヤノン初となる周辺協調制御にも対応しているとのことです。周辺協調制御とは広角レンズで特有の周辺ブレを効果的に抑えてくれるというものです。補正効果は公表されていませんが、シャッター速度が2秒でも全くブレませんでしたので、かなり信頼のできる性能だと思います。撮影後に画像を拡大したところ、橋桁にサギ(鳥)がはっきり写っているのに気づいて驚きました。

EOS R5/RF10-20mm F4 L IS STM/20mm/絞り優先AE(2.0秒、F8.0、+1.0EV)/ISO 100

AF駆動にはステッピングモーター(STM)が採用されており、速く正確で静かなAFを実現するとともに、レンズの小型化にも一役買っています。もちろん、ボディ側の被写体検出機能にも対応していますので、人物や動物、乗り物などの撮影でも的確にピントを合わせることができます。

EOS R5/RF10-20mm F4 L IS STM/20mm/絞り優先AE(1/80秒、F8.0、+1.0EV)/ISO 1600

まとめ

「EF11-24mm F4L USM」は、バックフォーカスの長い一眼レフカメラ用ということもあって、F4通しでワイド端11mmが、性能・サイズ・価格の現実的な限界だったそうです。ミラーレスカメラ用として登場した本レンズ「RF10-20mm F4 L IS STM」は、それよりもワイド端を広げ、なおかつ大幅な小型化と軽量化に成功しているのですから、いうなれば限界を突破したレンズとも言えるのではないかと思います。

ミラーレスカメラは、多かれ少なかれレンズの収差をデジタル的に補正しているものですが、本レンズもそうしたデジタル補正を上手く利用することで、光学設計の限界を超えている面もあるでしょう。デジタル補正の利用と言っても、きちんとLレンズに相応しい高画質は維持されていますのでユーザーは気にする必要はありません。

あまりにも広い画角で何を撮るのか? とは誰もが思うことでしょうし、筆者も始めはそう考えたものです。ところが、今回の短い試用期間でも案外多くの被写体との出会いがありました。本文でも少し触れましたが、これまでにない新しい表現への挑戦ができるレンズであることに気づけば、おのずと本レンズの存在価値の高さに注目することになると思います。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。