交換レンズレビュー

RF24-105mm F2.8 L IS USM Z

幅広いレンジをF2.8通しで これまでなかった大口径標準ズームレンズ

キヤノンの「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」は、フルサイズミラーレスカメラ用の大口径標準ズームレンズです。さながら望遠ズームレンズのような迫力の外観ですが、24mmから105mmのズーム全域において開放F2.8を実現しているのが特徴になります。

本レンズは、業務用途での動画撮影を大きく視野に入れた製品。例えば専用のパワーズームアダプターが別途用意されているところからもそれがうかがえます。ただし静止画撮影の用途でも、プロユースの高い要求に応えてくれるだけの高性能レンズに仕上がっています。

外観・使用感

最大径×長さは約88.5×199mm、質量は約1,330g(三脚座除く)。同じくキヤノンのフルサイズミラーレスカメラ用の大口径望遠ズーム「RF70-200mm F2.8 L IS USM」が約89.9×146mm、質量が約1,070g(三脚座除く)ですので、まさに大口径望遠ズームレンズ並み、質量に関してはそれ以上と言ったところでしょうか。

本レンズはズームしても長さが変わらないインナーズームタイプですが、「RF70-200mm F2.8 L IS USM」はテレ端までズームすると、長さは本レンズより少し長くなる仕様です。

リング類は、鏡筒前方から順にコントロールリング、フォーカスリング、ズームリングの順に装備され、ここまではキヤノンの他の交換レンズでもよく見られる仕様です。が、さらに後方にアイリス(絞り)リングを備えているのが特徴的です。

鏡筒左側下方にはそのアイリスリングをロック/解除するレバーが設けられています。

このレバーは、アイリスリングを「A」に設定するとき、または「A」の位置から「F22」以降の絞り値に設定するときに使います。

アイリスリングを廻してもクリックはなく、またその有無を設定するようなレバーやスイッチもありません。静止画で使おうとすると無段階過ぎて直ぐに絞り値の設定がずれてしまい、正直言って使い良いものではありません。主にアイリスを無段階でスムースに変更したい動画撮影向きのもので、静止画撮影はこれまで通りコマンドダイヤルで設定した方がよさそうだと思いました。アイリスリングという名称も動画撮影を意識してのことかもしれませんね。

スイッチ類は、上から撮影距離範囲切り替えスイッチ、フォーカスモードスイッチ、手ブレ補正スイッチ、手ブレ補正モード選択スイッチの4種類が並びます。先端付近に搭載されたレンズファンクションボタンも同じですが、これらも業務用などの本格的な現場で、動画撮影と静止画撮影の両方を滞りなく操作するための万全な装備なのだと思います。

動画撮影という使用目的もあってか、またそれなりの重量級レンズということもあってか、標準で三脚座が付属するのも特徴のひとつ。この三脚座はロックボタンを押してスライドさせるだけで簡単に着脱できます。三脚座を外した状態での静止画撮影は思ったよりも撮りやすく、実際今回の試用でもポートレート撮影は三脚座を外して撮影しており、「案外これはこれでアリだな」などと感じたものです。

レンズフードは標準ズームレンズらしい形状の「EW-88E」が付属します。

右側面の鏡筒にはパワーズームアダプター「PZ-E2/PZ-E2B」を取り付けるための穴や電子接点があります。「PZ-E2/PZ-E2B」は別売りですが、撮影スタイルに合わせて工具不要で着脱できるとのこと。

作例

ワイド端24mmでの撮影です。絞りを開放F2.8にして平面的な建築物の撮影をしてみました。周辺部分では実用上気にならない程度の解像感の低下が認められますが、中心部分をはじめとした画面の広範において、シャープでコントラストの高い非常に優れた解像感があります。ここはさすがLレンズといったところでしょう。

EOS R6 Mark II/RF24-105mm F2.8 L IS USM Z/24mm/絞り優先AE(1/400秒、F2.8、±0.0EV)/ISO 100
ワイド端(F2.8)

同じく、絞りを開放F2.8にしてのテレ端105mmでの撮影です。ワイド端で見られた周辺部の解像感低下は、画面の四隅以外ではほとんど見られなくなり、やはりLレンズらしい高い解像感が画面のほぼ全域で確保されています。

EOS R6 Mark II/RF24-105mm F2.8 L IS USM Z/105mm/絞り優先AE(1/1,250秒、F2.8、±0.0EV)/ISO 100

RAWデータを純正の現像ソフト以外で確認すると、ワイド端・テレ端とも周辺光量の低下や歪曲収差が見られます。つまり、本レンズはボディ内での、あるいは補正情報を取得した現像ソフトでのデジタル的な補正を前提として設計されているということなのだと思います。ミラーレスカメラ用レンズは、多かれ少なかれデジタル補正を前提とした設計がされていることが多いものですが、それはLレンズにおいても例外でないようです。静止画撮影でもほとんど問題はないと思いますが、必ず画像処理エンジンの補正が適用される動画撮影ではまったく問題のないとことと言えます。


F2.8通しの明るさをもつ、24-105mmの幅広いズームでポートレートを撮ったら、どんな素敵な世界がまっているのでしょう、などとワクワクしながら撮影してみました。

被写体に迫りながらも背景を広く写すことのできる焦点距離24mm。西日が複雑な陰影を作っているなか、ちょうどよいと思った位置にモデルに立ってもらい撮影しました。ワイド端での撮影とはいえ、フルサイズのF2.8ということもあって、思ったよりも大きく背景をぼかすことができ印象的になったと思います。

EOS R6 Mark II/RF24-105mm F2.8 L IS USM Z/24mm/絞り優先AE(1/320秒、F2.8、+0.3EV)/ISO 100

標準画角付近の57mmでの撮影です。大柄なレンズではありますが、やはり標準域の画角は多用するところ。ピントを合わせた眼の前後はキリリとシャープで、そこからスムースに柔らかなボケがつづいていくという、非常に優等生な写りに感激しました。ワイド端やテレ端ばかりでなく、中間域での描写性能も抜群に優れたレンズです。

EOS R6 Mark II/RF24-105mm F2.8 L IS USM Z/57mm/絞り優先AE(1/100秒、F2.8、+1.3EV)/ISO 100

ポートレート撮影に最適とされることの多い85mmでの撮影です。合焦面がキリリとシャープなのは他の焦点距離と同じですが、それでいてどこか切れ込み過ぎない優しさが感じられるのが本レンズの魅力のような気がします。克明に細部まで写しとめるというよりは、すべてを温かく描き分けると言ったところでしょうか。85mmで、特にそれが際立っていたように感じました。

EOS R6 Mark II/RF24-105mm F2.8 L IS USM Z/85mm/絞り優先AE(1/100秒、F2.8、+1.3EV)/ISO 125

テレ端105mmでの撮影です。バストアップ以上のポートレート写真を、ちょうどよい距離感で綺麗に撮ることができました。105mm・F2.8といいますと、通常なら大口径望遠ズームレンズの守備範囲なのですが、それが標準ズームレンズで撮れてしまいます。大口径ズームレンズを2種類用意しなくてよいのですから、なるほどこれは便利だなと納得したものです。

EOS R6 Mark II/RF24-105mm F2.8 L IS USM Z/105mm/絞り優先AE(1/640秒、F2.8、+1.0EV)/ISO 160

スナップ撮影での適用性はどうかと思い試してみましたが、正直言ってやっぱり重く、お世辞にも気軽に使えるとは言えませんでした。しかし、描写性能は間違いなく一級品ですので、ここぞというときの大切な撮影で活躍してくれることは間違いないでしょう。前述した「優しさを伴った高い解像感」のおかげで、質感の表現がとても格調高く、印象的に写せます。

EOS R6 Mark II/RF24-105mm F2.8 L IS USM Z/44mm/絞り優先AE(1/800秒、F5.6、−0.3EV)/ISO 400

正確に焦点距離を35mmにセットして撮影しました。動画撮影に比重をおいた仕様だからか、ズームリングもフォーカスリングもトルクはほとんどなく、軽い力で簡単に動かせるため重量級レンズを操作するうえではある意味楽に感じるかもしれません。ファインダー/モニター上には現在の焦点距離が表示されるので、ファインダーを覗いたままで目的の焦点距離を選べます。

EOS R6 Mark II/RF24-105mm F2.8 L IS USM Z/35mm/絞り優先AE(1/640秒、F4.0、−1.3EV)/ISO 125

最短撮影距離はズーム全域で45cm。ワイド端では最大撮影倍率0.08倍となるため、あまり寄れない印象ですが、テレ端での最大撮影倍率は0.29倍と十分に被写体に寄って大きく写すことができます。この時の、被写体にまとわりつくような柔らかなボケ味は独特な美しさがあって、なかなかクセになりそうな魅力がありました。

EOS R6 Mark II/RF24-105mm F2.8 L IS USM Z/105mm/絞り優先AE(1/400秒、F2.8、−0.3EV)/ISO 400

まとめ

基本的には業務の現場で動画撮影と静止画撮影をシームレスに使い分けるために登場したレンズだと思います。リング類のトルクが軽かったり(静止画用機材に慣れているとスカスカに感じるかも)、パワーズームアダプターの取り付け部がむき出しだったりと、どちらかというと動画撮影に比重をおいた仕様で、静止画専用として使うと残念に思う部分があるかもしれません。

しかし、逆を言えば、動画撮影での需要も見込めるからこそ登場したレンズでもあります。デジタル的な補正を前提とした光学設計であるのは間違いないと思いますが、そこはさすがにキヤノンのLレンズだけあって、描写性能は驚くほど高性能で、特に独特なボケ味の美しさは本レンズならではの特長と言えると思います。

F2.8通しの大口径ズームであることを前提として、これまで70mmでは足らずに望遠ズームレンズに交換していた”あと少しの距離”を、本レンズ1本で賄ってくれると考えれば、サイズにしてもむしろ小型に抑えてくれている方だと思います。価格にしても、直販で49万5,000円(税込)でしたら案外良心的なのではないでしょうか。

モデル:進藤もも(イエローキャブ)

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。