交換レンズレビュー
ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.
絞り開放の味わい健在 新旧タイプを実写で比較
2023年5月17日 08:00
ライカMシステムを代表するレンズのひとつ、“ズミルックスM f1.4/50mm”がモデルチェンジした。2004年に登場した従来型は、歴代のズミルックスf1.4/50mmで初めて非球面レンズと、ダブルヘリコイドによるフローティング機構を採用し、どのF値や撮影距離でも安定した描写性能を発揮するのが特徴だった。
今回の新モデルは、その基本となる光学系を受け継ぎながら、最短撮影距離を0.7mから0.45mへ短縮し、絞り羽根も9枚から11枚に増えている。ライカMレンズは、ズミルックスM f1.4/35mm ASPH.も0.4mまで寄れるようになったり、さらに以前はズミクロンM f2/35mm ASPH.でも絞り羽根の枚数が増えるなど、光学系は大きく変更せず、より現代的なアップデートが進んでいる。筆者は従来型のズミルックスM f1.4/50mm ASPH.を愛用しているので、新型と比較していこう。
一新された鏡筒デザイン
一見してすぐ感じるのが外観デザインの違いだ。従来はどちらかと言えば細長いイメージだったのだが、新型は太くなってずんぐりした印象だ。個人的にはアポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.が大きくなったように見える。これはレンズの繰り出し量の違いがあるのかもしれない。
また新型のフォーカスリングにはローレットがなく、ピント合わせはフォーカスレバーのみで行う。そしてレンズフードも大きく変わった。どちらも内蔵式だが、従来は引き出した後にフードを時計回りに回転させてロックするのに対し、新型は反時計回りにフードを回すと伸びてくる。これは2012年のアポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.から始まった方式。新しいズミルックスM f1.4/50mm ASPH.は、そうした現行Mレンズの外観デザインと操作性を反映しているように感じる。
ライブビュー用の近接対応。最短0.7m→0.45mに
フォーカスレバーを無限遠から近距離方向へ回転させていくと、0.7mで軽いクリックがある。ご存知の方も多いと思うが、ライカMシステムのレンジファインダーは、測距できるのが0.7mまで(ライカM3は1m)。これより近距離側ではファインダーを覗いたままだとピント合わせができないことがわかるよう、クリックが設けられている。
0.7mより近距離はライブビュー撮影用で、背面モニターまたは外付けEVFのビゾフレックスを使用する。つまりライカM(Typ240)以降のライカMデジタル機に向けた機能ということになる。またライカとしては、純正アダプター経由でライカSLシステムに装着することも想定している。
実写で体感。絞り羽根が増えたメリットは?
従来型との違いを感じたのが、絞ったときのボケだ。従来型の絞り羽根は9枚だが、新型は11枚に増え、円形に近くなっている。実は筆者は従来型を10年以上使っていて非常に気に入っているのだが、唯一不満に思っていたのが、この絞ったときのボケだ。絞り羽根の開口形状が影響して、点光源のボケがギザギザになってしまう。そのためボケを意識した撮影では、あえて絞り開放にして、ギザギザのボケを出さないようにすることもある。新型は明らかにボケが改善されたので、少し羨ましく感じた。
ボディはライカM11を使用。最大の記録サイズである6,000万画素で撮影している。レンズ構成は5群8枚で従来型と同じだ。基本的な描写性能もよく似ている。絞り開放はわずかに柔らかさがあるが、1段絞るだけでシャープさが増す。“ズミルックス”の名を冠するとおり、伝統的なライカらしさを感じる写りだ。
ボケの比較
画面右上のボケに注目。新型は絞っても完全な円形ではないものの、自然なボケだ。しかし従来型はギザギザしている。特にF2.8〜F5.6が目立つ。ボケ味は新型が圧倒的に有利だ。
※サムネイルはボケの部分を拡大。クリックすると全体を表示します。
最短撮影距離(0.45m)で撮影
最短撮影距離0.45mも、絞り開放でややにじみが見られるが、従来型からヘリコイドの繰り出し量を増やしても描写性能がほとんど落ちない。撮影距離による画質変動を抑えるフローティング機構の効果がより出ているのだろう。1段絞るとコントラストが高まり、引き締まった写りになる。
絞り開放からF5.6まで撮り比べてみた。絞り開放はわずかににじみが見られ、柔らかい写りだ。ここでは花を撮ったが、ポートレートやテーブルフォトにも合いそうだ。F2に絞るとコントラストが上がり、メリハリのある写りになった。F2.8以降はにじみも感じられず、シャープさのある描写だ。
コーティングも変化。逆光時に違いあり
また、新型と従来型のレンズ表面を見比べていて、コーティングが異なることに気付いた。新型の方がレンズ表面の反射が少なく、反射する色も赤系だ。対する従来型の反射は青緑系。もしかして逆光で差が出るのでは、と思って試したところ、案の定違いが出た。従来型はコーティングと同じ青緑系のゴーストが出て、フレアによりコントラストが低い。だが新型は赤系のゴーストでフレアが少なく、従来型より引き締まった写りだ。新型はコーティングの進化も感じられる結果となった。
味のある描写が、より使いやすく進化
近年、ライカMレンズの50mmと言えば、アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.が話題に上るケースが多いように感じる。ライカMシステムにも4,000万画素を超える機種が登場し、よりレンズの解像力を意識する人が多くなったのだろう。確かにアポ・ズミクロンは絞り開放から極めて高い解像力が得られ、現代的な写りが魅力のレンズだ。
対してズミルックスは、少し絞るとアポ・ズミクロンに匹敵する解像力になるが、アポ・ズミクロンほど絞り開放から高い解像力や均質性は持たない。しかし、絞り開放のわずかに柔らかな描写にはズミルックスならではの味があり、昔ながらのライカレンズの伝統を感じさせる。表現に合わせた絞り値を選ぶ使い方には、アポ・ズミクロンとは異なる魅力がある。最短撮影距離を縮めて汎用性が高まり、ボケも改善された。新型ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.だからこそ表現できる世界を堪能したい。
作品
遠景の描写。絞りはF5.6に設定した。窓枠がシャープに再現され、画面周辺でも甘さや流れのない高い解像力が得られた。
最短0.45mで絞り開放。ガラス越しにギターのミニチュアをクローズアップした。最短0.7mの従来型では撮れない写真だ。柔らかい描写で雰囲気のある仕上がりになった。
背景のボケに注目。従来型ではF2.8前後で点光源のボケがギザギザになったが、新型は円形に近く自然だ。これで安心して好きな絞り値を選べる。
建物の壁に反射する光に惹かれてレンズを向けた。解像感の高い、メリハリのある描写だ。従来型より鏡筒が太くなったものの軽快に撮り歩けるのは、コンパクトなレンジファインダーカメラ用レンズの楽しさだ。
絞り開放ではわずかに柔らかいのが、ズミルックスらしい味わい。色収差を抑えて究極のシャープさを目指したアポ・ズミクロンとは異なる、伝統的なライカを感じさせる描写。
50mmは肉眼に近い遠近感で撮れるので、街のスナップに使いやすい。ピントは自転車の車輪に合わせた。レンジファインダーカメラの二重像合致式距離計とブライトフレームによる構図決定は、一眼レフカメラともミラーレスカメラとも異なるクラシカルな趣。
0.7mより近くはライブビューに切り替える必要があるものの、従来型より撮影の自由度が高まり、構図決定に意識を集中させることができた。
ガラスに強い光が反射しているが、ゴーストやフレアは出ていない。具合的なアナウンスはないがコーティングも新しくなったようなので、その恩恵もありそうだ。画面に太陽が入るような条件でなければ、逆光でもコントラストの高い写真が撮れる。
住宅地を流れる川の夕暮れ。50mmのF1.4絞り開放は、街の雰囲気を感じさせるボケが得られた。またライカM11は6,000万画素ながら手ブレ補正は持たないので、F1.4の明るさはブレ防止にも使える。