赤城耕一の「アカギカメラ」

第38回:軽さより画質に感動。2泊3日の「ライカM11」実写レポート

外観からはモデルチェンジしたのかどうかわからないライカM11。ベースプレートがなくなったのも、これでいいと思います。個人的にはブライトフレームの採光窓を復活してほしいのですが、ダメかしら。“ライカM11-P”(笑)で戻してくれんかのう。

ライカM10登場から5年、後継機のライカM11が登場しました。日本国内の発売は1月21日ですから明日ですね。いち早く新しいライカを入手しないと気が済まないあなた、118万8,000円の準備は大丈夫でしょうか? 大丈夫ですね? 明日にはライカM11を首から提げ、ニコニコしながら銀座のホコ天を歩くわけですね。とても羨ましいです。

Mシリーズがデジタル化されたのは2006年のライカM8からで、途中、製品名に数字が冠されていないライカM(Typ240)があるので、ライカM11で5世代目となりますか。開発のスタートは2018年とアナウンスされています。ライカM10と見比べて、ぱっと見はどこが変わったのかと思うほど、外観の印象は同じです。細かい仕様は本誌にも既報されていますので詳細はそちらを参照いただくとして、主な特徴だけ挙げておきましょう。

ライカM11の主なスペックの特徴は、6,030万画素の35mmフルサイズ裏面照射型CMOSセンサーを搭載していること。記録画素数は60MP、36MP、18MPの3種から選択できます。新たに電子シャッターでの撮影を可能とし、その際はシャッタースピードも最高1/16,000秒となって無音撮影ができます。64GBの内蔵メモリーや、有線接続でiOS端末との高速通信が可能になるなどの進化も注目点です。

ライカM10に続いて動画撮影機能はありませんから、そうした最新機能を使いたい方はミラーレスのライカSLシリーズに任せちゃおうという割り切りがあるようですね。これはこれでライカ全体のシステムの役割分担としてもいい方向だと思います。

普段は機能満載のミラーレス機を使用しているので、こんなにシンプルなボタンと十字キーの操作で大丈夫なのかキミはと思うわけですが、なんのことはない、筆者の撮影にはこれで十分であることがわかるんですよね。右手親指のホイールはプッシュ対応になっております。
LCD表示は色味が少なくて品がいいですね。視認性もバッチリです。タッチパネル対応ですから、必要に応じて目的のアイコンをタッチすればOKです。

先に外観の印象は大きく変わらないと申し上げましたが、すみません、大きな違いがありましたね。ライカM11からはついにベースプレートがなくなりました。

これは1954年のライカM3からの伝統、いやライカ誕生時からのお約束ごとであり、デジタルになっても踏襲されたMシリーズのお作法です。バッテリーやSDカードへのアクセスが早くなっても、少しだけ残念感があります。最も筆者は、ライカM8登場時にベースプレートを採用したことについて、「ここまでやるのか」と理解はしつつも、なんだかフィルムのMに媚びているような印象もあり、あまり評価しなかったような記憶がありますが、後にはあって当然と考えるようになりました。時は人間の価値観を変えてしまいますので、これまで存在したものがなくなると、少し不安になります。ブライトフレームの採光窓がなくなった時と同様の喪失感があります。

話題のボディ底面です。ライカQ2みたいですね。右にはUSB Type-Cの端子が見えます。左にあるガイド穴はハンドグリップの位置決め用でしょうか。

で、ここからが今回の本題となりますが、とりあえず触って、撮りましたよライカM11。プロトタイプ、しかもお帰りもお急ぎで滞在は2泊3日。お相手するのが難しかったので、最小限のお手合わせになりました。もう少し時間をかけ、ツッコんで撮影できたらよかったのですが。今後、落ち着いたところで、まじめな識者の方がしっかりとした検証をされることでしょうから少しお待ちください。ここからはプロローグという感覚でご覧いただければと。

記念すべきM11での最初の一コマは新宿でした。ハイライトの階調の再現が美しいです。6bitコード付きのレンズがうちには2本しかなく、うち一本のズマリットM 35mm F2.5で撮影しました。
ライカM11 ズマリットM F2.5/35mm(F5.6・1/500秒)ISO 64
※試用個体のファームウェアはベータ版のため、画質は最終版と異なります。

うちにいらしていただいたのは、マットなペイントが施されたブラックモデルでした。ライカカメラ社も強力にアナウンスしていますが、従来より軽量化されたモデルということです。

材質はマグネシウムとアルミニウムからできており重量は530gですが、筆者はぼーっと生きているためか、軽量化にはほとんど気づかなかったのです。これは今もなお(もともと軽量な)フィルムMやスクリューマウントライカと日々戯れていることが主な理由だと思います。ですので口が裂けても「衝撃!ライカM11は驚きの軽量化を達成」みたいなことは言うことができません。

ただ、ひたすら心配しているのは、ライカM11をしばらく使用したのちに、このブラックの塗装が剥げたらどのような地金の色が出現するのかということだけであります。もうこれだけで夜も眠れません。ちなみにシルバークロームボディは真鍮製なので、伝統的素材にこだわるライカマンであれば、従来と同様の重量でもこちらを選ばねばなりませんね。まあ、それでも今のバカデカい35mmフルサイズミラーレス機と比較すれば小さいものです。

シャッターダイヤル周り。ボディ表面で機種名を表示してあるのは、アクセサリーシューのレールのところだけだという。これでは見せびらかす時にわかりづらくて困りますね。

そういえばライカMレンズのシルバーモデルも素材は真鍮製で重いものが多いですね。これはアルミだとメッキの乗りが悪いというこだわりからと聞いていました。筆者はカメラ、レンズの軽量化は間違いなく正義だと信じていますが、ライカの場合は少し異なる価値観で考える必要があります。お約束のLeica赤バッジもつけられています。これも2年後に登場する“ライカM11-P”では省略される可能性がありますね。わからないけど。でもシルバーが真鍮製ならば、ブラックも真鍮製にする余地が残されているわけですね。

最新のライカM11でも、風化した家の木の壁とかを撮影してしまいます。木目や土の質感など素晴らしい再現でとても驚きますが、ライカM11でこういう地味な被写体を撮影するのは法律で禁止されています。
ライカM11 ズマリットM F2.5/35mm(F8・1/125秒)ISO 400
それではというのでアポ・ズミクロンM 50mm F2 ASPH.で筆者に似つかわしくない、かろうじて残っていた紅葉を撮影したわけですが、描写にはまったくツッコミどころありません。逆光でも階調が豊富で色再現もとてもよいですねえ。
ライカM11 アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.(F4・1/200秒)ISO 64

さて、まずライカM11を使うにはバッテリーを入れねばなりませんが、これが従来と比較すると結構デカく、容量も64%アップの1,800mAhと大きいそうなのです。今回はまだ予備バッテリーがないので、ドキドキしながら撮影に出かけましたが、よほどの大量コマ数を撮影しないかぎり、筆者程度のスナップ撮影量ならば一日中持ちそうなイメージです。なお底部のUSB Type-C端子に電源アダプターやモバイルバッテリーを接続して、充電・給電することも可能です。

レバーを操作するとバッテリーが少し顔を出します。バッテリーの頭を再度つつくと取り出せます。落下防止ですね。
SDカードスロットはシングルですね。バッテリー室と同じところにあります。そしてバッテリーを抜かないとカード交換できません。つまりバッテリーが蓋の代わりをしているわけです。以前から思うのですが、この方式はコンデジみたいで少しイヤなわけです。
バッテリーですね。デカいです。ライカM11のボディ内空間は、この大きさを収めるためにも苦労しているのでしょう。中身のデバイスを動かさないといけませんし。でも満充電して、レンジファインダーだけで撮影すると一日くらいなら余裕でもつ印象でした。

くどいようですが、先に申し上げたベースプレート省略問題について、バッテリーのもちが良いのならベースプレートが存在しても着脱の頻度が低くなり問題ないのではという考え方もあります。問題はその存在です。実際に使っているときはもちろん、そんなものなくても気にならないのですが、カメラ仲間の飲み会でライカM11を見せびらかすとき、ベースプレートを外すパフォーマンスができないのは残念ですね。テーブルにこぼしたビールの上にうっかりライカM11を置いてしまうようなようなことにも、今後は注意が必要になるでしょう。ああ、ベースプレート問題だけで多くの字数を使いました。次、行きます。

ファインダーはライカM10から変化がないようです。ということは1958年登場のライカM2の頃から、光学系の基本的な仕組みには変わりがない、もう改良の余地がない完成度が高いものであるということです。見やすく二重像のコントラストも高く、二重像周りも明確ですから、上下像合致で素早く正確にフォーカシングできます。ただし、画面中央でしかフォーカシングはできないという伝統も守られています。と、いうことは、大口径レンズなどを使用する場合、フォーカシングした後に構図を変えるとコサイン誤差の発生の恐れがあり、狙ったところのフォーカシングから外れる心配はあいかわらず存在します。もっとも、こんなことを恐れていては、ライカMシリーズを使う意味がありません。

ただ、ライブビューが可能になったライカM(Typ240)からは、ライカカメラ社として「ビゾフレックス」と呼ぶ着脱式のEVFを用意し、ライカM11にも新型の「ビゾフレックス2」が用意されています。今回はこのビゾフレックスを試すことができませんでした。ライカの公式PVではラルフ・ギブソンがビゾフレックスを装着したライカM11+アポ・ズミクロンM 35mm F2 ASPH.でレンジファインダーの最短撮影距離よりも短い距離設定を行い、テーブルフォトを撮影するというパフォーマンスをみせてくれました。これは見ただけでもビゾフレックスが欲しくなります。

Ralph Gibson - The Leica Aesthetic

このビゾフレックスという外付けEVFの存在については、否定的な人もいるようです。これはおそらくデザイン面についてが主なところです。わからなくもありませんが、見せびらかすときは取り外せば済むことです。新型のビソフレックスは角形で大きくなった印象ですが、表示画像は鮮鋭になっているようです。「Mシリーズカメラを便利にしてどうするのだ」という意見も古くからのライカユーザーの共通した認識ですが、基本機能を変えることなく、付加するわけですから、この考え方はかつての光学式のビゾフレックスと同様の思想性があると考えてよいのではないでしょうか。往時から、「M型ライカを一眼レフ化」する素直ではない行為については論議があったものです。

レンズの種類や撮影条件によって、レンジファインダー、背面モニターのライブビュー、ビゾフレックスEVFを使い分けることができること、筆者はこのことが、Mシリーズのデジタル化の最大の恩恵ではないかと考えているくらいです。アポ・ズミクロン M 35mm F2 ASPH.のように、距離計連動範囲を超えた至近距離設定が可能なMレンズは今後増えるのではないかと予想しています。ビゾフレックスがあることで、レンジファインダーカメラの“寄れない”というウィークポイントをうまくカバーしたわけで、筆者としてはポイントは高いのです。

さてライカM11を実際に使います。まずはISO感度を合わせますが、ISO 64がベース感度です。これは良いのですがダイヤルには「100」が見当たりません。100に設定したい場合はメニューから選ぶ必要があります。もちろんISOオートのために「A」ポジションもあります。最高感度はISO 50000まで設定可能です。メニュー画面からあらかじめ記録画素数を60MP、36MP、18MPの3種から選びます。RAW(DNG)とJPEGで画像を記録することが可能です。RAWの記録画素数を減らしても画角は変わりません。

ISO感度ダイヤルは「100」の代わりに「64」となりました。

また、60MPの高解像度を生かし、ライブビューモードでデジタルズーム撮影が可能です。倍率を1.3倍または1.8倍から選択し、こちらもDNGとJPEGで記録できます。DNGではセンサー全域を使って記録された画像データがすべて残されますから、画像処理時にデジタルズームを解除した写真制作も可能になります。こういうフレキシビリティも良いかと思います。

ハイライトからシャドーまでの階調の繋がりに優れている印象を持ちます。色再現もヌケがよくクリアでクセがありません。ただ、高画素のためか、被写界深度内に入っているであろう被写体でも、合焦点の描写と比較しますと差が出てきます。
ライカM11 ズマリットM F2.5/35mm(F8・1/100秒)ISO 64
合焦点の目の細かなディテール再現に感動しますね。デフォルトのままで問題なく使えてしまいます。ズマリットM 35mmは廉価版的な位置付けなのですが、問題のない描写をします。すみません、所有レンズはF2.4でなく旧タイプのものです。
ライカM11 ズマリットM F2.5/35mm(F8・1/125秒)ISO 64
遠方の風景ではアポ・ズミクロンなど超高性能のレンズを使用した方が、鑑賞も楽しいですね。ガラスとかビルの質感とか細かく検証してゆくと思わぬものを見つけたり。もっとも写真で求めるところはそこでないのですが。
ライカM11 アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.(F8・1/320秒)ISO 64

電源を入れますと、コトリと小さな音がして、メカシャッターが開きます。これが基本状態です。電子シャッターにも対応し、無音撮影が可能になりました。ブレッソンや木村伊兵衛なら泣いて喜んだかもしれません。しかし、電子シャッターでは動体が被写体の場合にはローリング歪み発生の可能性はあります。これは今回時間的な問題でしっかりと検証できませんでした。

それでも1/16,000秒の高速シャッターを使えば、みなさん大好きノクティルックス50mm F1.2を明るい昼間に開放絞りで使用できるかもしれません。ファインダーと同様に、シャッターも撮影条件や目的によりメカと電子を使い分ければ良いという考え方でいいと思います。メカシャッターでの動作音も静粛で、筆者はけっこう気に入っています。

シャッターはメカニカルと電子シャッターとハイブリッドから選ぶことができます。電子シャッターでは最高速1/16,000秒ですから、ライカレンズの開放での味わいが日中晴天下で楽しめそうです。しかも無音撮影もできます。ノクティルックスをいつでも開放撮影しないと気が済まないあなたのために用意されました。

ライカM11からはセンサー像面での測光になっているので、メカシャッター幕の反射率を考慮する必要がないため、シャッター幕面は黒色です。センサー像面での測光はより正確な露光が得られるとされていますが、この恩恵はありそうです。筆者が使用しているライカM9やライカM10-Pも時として不自然にAE設定時の露出が暴れるという経験をしていますが、ライカM11は試用中にそうした現象は起こりませんでした。もっとも気に食わないことが起きたとしても、ライカではなく使用者の思い違いかもしれないので、すぐに怒ったりしてはいけません。これがライカユーザーに共通した資質でありますね。

電源を入れると、メカシャッターの幕が上がりセンサーが出てきます。これが基本状態になります。ここで測光も賄おうというわけですね。メカシャッターの幕はこのために黒いですね。
AE撮影時のLCDの露出補正値は“-2/3EV”のように表示されます。数字というより直感的にグラフを見ればわかりますからいいですね。

さてと、画質面ですね。60MPという高画素を生かすには、最新のライカMレンズを使うべしとアナウンスされています。もちろん理屈ではそうです。超高性能のアポ・ズミクロンシリーズを使うなどして、ライカM11のポテンシャルを生かしきる方向も正しいかと思います。

ジジイになったので最近はお地蔵さんとか撮影するのが楽しいわけです。この距離で顔にフォーカシングして絞りはF4なんですが、画素数が多いことと、レンズの性能が高いので通常よりも被写界深度が浅く感じますね。60MPの設定では面倒くさがらずにちゃんとフォーカシングしましょう。
ライカM11 アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.(F4・1/350秒)ISO 400
開放絞りにして、至近距離で撮りましたが、撮影者はユルく人生を歩んでいるためでしょうか、合焦点をみると目がイタイほど強力でシャープな再現です。かわいい女の子を撮る場合は高画素+高性能レンズの組み合わせで撮影しない方がいいと思いますよ。老婆心ながら。
ライカM11 アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.(F2・1/1,000秒)ISO 800
無限遠で少し遠めから都市風景を狙ったのですが、一部だけを拡大しても線が細すぎるほどの再現で、きわめて鮮鋭な写真を制作することができます。航空写真に使用すればテキの秘密基地をすぐに見つけ出すことができるでしょう。
ライカM11 アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.(F5.6・1/1,000秒)ISO 200

逆にクラシックなライカレンズを使う場合は18MPの設定が良いとされていますが、こうした画素数と新旧レンズの関係による組み合わせは、筆者の印象ではあまり気にしなくて良いという印象を持ちました。むしろ、古いライカレンズやサードパーティの交換レンズを使って60MPで撮影しても、素晴らしくよく写るという印象を抱きました。

一番小さな18MPという画素数はライカM9と同じですが、私はこの時点で画素数的には満足していましたし、画素数選択も表現や撮影条件、目的により使い分けたいところで、これもまた使いこなしの妙というやつですね。

古いエルマリートM 21mm F2.8で撮影しました。本当はスーパーアンギュロン21mm F3.4あたりで撮りたかったのですが、試作機なので説明書がなく、まだ装着して良いかどうかわからなかったので仕方なく。でもね、こんなによく写るレンズでしたか。フィルムの時は分かりませんでした。
ライカM11 エルマリートM F2.8/21mm(F8・1/500秒)ISO 100
これもエルマリートM 21mm F2.8で太陽を写し込みました。完全なシルエットになるイメージを持っていたのですが、こういう難条件で撮影してもシャドーのディテールが分かります。
ライカM11 エルマリートM F2.8/21mm(F8・1/1,000秒)ISO 100
感動してしまったので、もういっちょエルマリートM 21mm F2.8で撮影した写真を載せますけどね、これも高画質ですねえ。非球面レンズ入りとかアポクロマートでもないのに素晴らしくよく写りますね。ライカカメラジャパンにお願いして6bitコード改造をしようかなあ。昔のニコンみたいに、新品ボディを購入するとレンズのAi改造は1本タダのような6bit改造サービスとかやってくれないですかねえ。
ライカM11 エルマリートM F2.8/21mm(F8・1/500秒)ISO 100
古いズマリット50mm F1.5レンズを使いました。このレンズは絞り込まずに開放値近辺のヘンなフレアやボケを楽しむレンズと言われます。筆者はそうした使い方に関心は低く、フツーの撮影にも使います。絞り込んでも画面中央と周辺域には差があり、周囲の金網がブレたように写りますが写真表現としては問題ないですね。
ライカM11 ズマリット F1.5/50mm(F5.6・1/1,000秒)ISO 200
この写真もズマリット50mm F1.5です。ディテールを仔細に観察すると中央以外は“捨てた”印象です。が、だからどうしたのだという気分になります。筆者も撮影時の体調によって見え方が変わることがあるように、どこかしら人間くさい描写をする珍しいレンズです。複写目的でもない限り、鏡筒はちょっと重たいんですが普段使いします。
ライカM11 ズマリット F1.5/50mm(F8・1/250秒)ISO 200
検証:RAW画素数を変えると画質は変わる?

18M、36M、60Mそれぞれで同条件で撮影し比較してみました。モニター上で拡大していけばそれぞれの違いはわかりますけれど、A3ノビ程度のプリントでは画素数の違いはわからないと思います。それより画調の良さ、それぞれの違いのなさの方に注目すべきで、個人的にはハイライト部分の再現性がとても良い印象を持ちました。(アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.・F4・ISO 64。サムネイルをクリックで等倍データを表示)

18MP
36MP
60MP

超高感度での再現性の違いを見るために、18MPと60MPで同じものを撮影しました。ISO 6400程度では判別がつかなかったのでISO 25000設定にしたところ、シャドーの再現が18MPでは少しだけ優れるのではないかという結論を得ました。高感度のノイズの違いは両者ともに違いがわかりません。(アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.・F5.6。サムネイルをクリックで等倍データを表示)

18MP
60MP

筆者が今回短い時間ながら軽く試写しただけでも、ライカM11の画質からは、これまでのMシリーズライカにないチカラのある品格を感じ取ることができました。これは不思議なことで、レンズの性能や画素数だけの問題ではないようです。60MPでも36MPでも18MPでも同様の共通した艶っぽい印象を持ったからです。画像処理エンジン「LEICA MAESTRO III」のおかげもあるのでしょうし、品格を感じさせるのは階調再現の豊富さかと思います。

公式発表では、ISO 64設定で15ストップの広ダイナミックレンジを実現とあります。これはライカM11のDNGファイルをPhotoshopで開き、露光量やレベル補正を大きく動かしたことだけでもすぐにわかってきます。大袈裟にいうと露光量を大きく変えても「いずれのコマでもお好みで使えてしまう」という印象です。これは情報量が増えていることを意味しているわけで、60MPの高画素によって、ただひたすら鮮鋭さだけをウリにしているというわけではないわけです。

ライカMマウントレンズには、サードパーティからマウントアダプターが多数用意され、昨今ではユニバーサルマウント的な存在となり、ライカMシリーズ以外のカメラで楽しまれている例も珍しくありません。けれど、ライカで撮影した場合と画質が異なって感じることもありますね。これはライカMシリーズが他社のカメラよりもセンサー前のカバーガラスを極薄にすることで、レンズの特性を活かしているからということもありそうです。純正同士の組み合わせが絶対であるとはいいませんが、ライカMシリーズの画質の評価の裏づけには、そうした理由もあるということです。

レンズを外してみます。Mマウントには6bitコードの読み取り窓があります。センサー面での測光になりましたので、内部は余計な出っ張りがありません。そういえばマウント12時位置のネジがなくなったのはいつからなんだろう。

伝統のスタイリングや大きさを踏襲したまま、かつ他の最新デジタルカメラに並ぶかそれ以上の高画質を追求することは、ライカカメラ社にはカメラを一から新設計するより難しい縛りがあると想像されます。レンジファインダーが収まるスペースも変えようがありません。

ライカM11でも、伝統のMシリーズから大きく道が外れるということはありませんでした。これには安堵したところもあります。もっともライカM11では電子シャッターでの撮影も可能となり、かつ撮像面での測光も行うことができます。高性能のビゾフレックスが用意されたことも気になります。

筆者の勝手な予想では、レンジファインダーを省き、EVFを内蔵、あるいは着脱式にしたMマウント互換のミラーレスカメラが兄弟機として用意されてもおかしくはない段階に入ったようにも思うわけです。ベースプレートを省いたのは、情緒性に傾くことのない合理的な考え方を持ったプロの要望によるものかもしれません。同様に今後、利便性の高いEVFを最大限に応用しようと考えてもおかしくはありません。

また、すでにサードパーティ製のマウントアダプターではMマウントレンズをAF化する試みも普通に行われ、製品化されています。機能面での発展の余地が少ないとされるMシリーズライカですが、やることはたくさんあるわけで、ライカM11のお披露目では“M11はライカのマイルストーン”と述べた社主カウフマン氏の言葉が印象に残りました。

絞り開放で公園の遊具を撮影してみました、ズミクロン、じゃなくてオミクロン株でまた自由に遊べなくなったことを表現してみました。嘘です。合焦点はキンキンな描写ですね。
ライカM11 アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.(F2・1/3,000秒)ISO 200
好物の青空に錆びたトタンですね。この組み合わせは、カメラや状況によらず筆者の中では撮らねばならない筆頭格の被写体になっています。でもシャドーの描写に注目ですね。何もしないのにそこまで写るんですかという印象です。
ライカM11 アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.(F5.6・1/1,000秒)ISO 200
高画素機を使えば中判カメラは要らないというような論評を見ることがありますが、35mm判独自の再現特性がありながら、中判カメラ並みのディテール再現を持つという考え方の方が良いと思いますね。
ライカM11 アポ・ズミクロンM F2/50mm ASPH.(F5.6・1/500秒)ISO 100
赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)