交換レンズレビュー

ソニー FE 35mm F1.4 GM

コンパクトで高画質。近距離撮影も得意な大口径単焦点レンズ

ソニーが2021年3月に発売した「FE 35mm F1.4 GM」は、同社のミラーレスカメラが採用するEマウントに対応した大口径単焦点レンズ。名称の「FE」から35mm判フルサイズ用であること、「GM」から同社の高性能レンズブランドの中でも最高峰に位置する「G Master」のレンズであることが分かります。

ちょっぴりいまさら感ありますけど、実はこのレンズ、最近ソニーが攻勢をかけている「小型軽量な高性能レンズ」が登場し始めた頃のレンズなのですよね。ある意味、ソニーが得意とする小型軽量高性能レンズの先駆けとなったレンズとも言えるかもしれません。

「ボディが小さくなったのはイイけどレンズが大きい」といった、フルサイズミラーレスカメラあるある、な悩みを見事に解消してくれています。

本体サイズ

本レンズの最大径×長さ・質量は、76×96mm・524gとなっています。

同じくソニーから発売されているカールツァイスブランドの「Distagon T* FE 35mm F1.4 ZA」が、78.5×112mm・630gであることを考えると、いかに本レンズが小型軽量化に成功しているかがお分かりいただけるでしょう。

使用レンズ・構成

レンズ構成は10群14枚。超高度非球面XAレンズ2枚と特殊低分散EDガラスを1枚使用した贅沢な仕様です。

標準的な広角レンズとか準標準レンズと呼ばれる、焦点距離35mmのレンズに特殊低分散ガラスを採用するのも、最近ではそれほど珍しくなくなりましたが、色収差をはじめとする諸収差を高度に抑えるためにも、高性能レンズとしては何としても採用しておくべきところでしょう。

それにも増して、注目したいのが「超高度非球面(XA)レンズ」を2枚採用しているところ。高精度な金型を使うなど、0.01ミクロン単位で精度を管理していることが特徴の非球面レンズで、この存在こそがG Masterレンズの「圧倒的な解像力と美しいぼけ味」を高次元で両立する要となっています。もちろん、それだけとは言いませんが、この超高度非球面レンズが採用されていてこそ、G Masterレンズらしいといって間違いありません。

あと、フィルター径が67mmなのも嬉しいところです。PLフィルターやNDフィルターは、径が大きくなるほど高価になるので、径が抑えられていればそれだけ出費も抑えられるというものです。

操作系

他の多くのG Masterレンズと同様、絞りリングを搭載しています。

絞りリングで絞り値を設定するのは、往年の銀塩カメラ用レンズを操作するのに似た喜びを感じられるものですが、そうでなくてもコマンドダイヤルで設定するより、直感的であると言った実用性の高さも得られます。視覚的にも分かりやすい。

さらに、絞りリングはクリックの有無をON/OFFスイッチで切り換え可能です。

静止画撮影では、クリックONで1/3段ごとにどこまで絞りを設定したかを感触で確かめながら、動画撮影ではクリックOFFでクリック音を抑制するとともに自然なイメージでシームレスに絞り変化による明るさをコントロールできます。

ボタン・スイッチ類ついては、鏡筒側面に「フォーカスホールドボタン」と「フォーカスモードスイッチ」が並んで装備されています。

フォーカスホールドボタンは、初期設定のようにフォーカスホールドとしてピント位置を固定させる一般的な使い方の他、好みで別の設定を割り当てることも可能です、ソニーのWebサイトには「グリッドラインを割り当てることで、すばやく構図の確認をすることができる」などと例があり「あー、なるほどー」と思いました。

フォーカスモードスイッチは、オートフォーカス(AF)とマニュアルフォーカス(MF)を、スイッチで切り換えるためのもの。ボディ側でも設定できますが、物理的にあった方が分かりやすいですね。好みで使いましょう。

レンズフード

同梱のレンズフード「ALC-SH164」を装着したイメージ。

シッカリした造りの良さ、先端部を覆う傷つきにくいソフト樹脂の採用、カチッと止まるロックボタンの搭載、ブラインドでも取り付け位置が分かりやすい親切設計などなど、非常に実用性の高いレンズフードです。ここにもG Masterならではの上質感を感じ取ることができます。

ゆきとどいた上質感、こう言ったところは、高性能なだけでなく高級でもあるレンズの醍醐味と言えるでしょう。

解像性能

外面(外観デザイン)だけでなく内面(描写性能)もしっかり見ていきたいと思います。まずは解像性能から。

F1.4
α7 IV/FE 35mm F1.4 GM/絞り優先(1/1,000秒・F1.4・-0.3EV)/ISO 100

いくらなんでも、絞りF1.4で平面的なものを撮るのは酷だろうと思いましたが、そこはさすがのG Masterレンズ。若干の軸上色収差のためか、完璧とは言わないまでも、画面中央から周辺まで安定して高い解像感を示してくれています。

F5.6
α7 IV/FE 35mm F1.4 GM/絞り優先(1/1,000秒・F5.6・-0.7EV)/ISO 100

若干の像の甘さは、2段も絞ったF2.8にすればほぼ解消。さらにF5.6以上にまで絞れば、上の画像のように、高性能レンズらしい完璧な画質となり、目の覚めるような高解像を得ることができます。

軸上色収差などけしからん! と思われるかもしれませんが、実用的にはF1.4で究極の解像性能を望むシーンなど、ほとんどありませんので、それなら多少の収差を残存させてでもボケ味を優先してくれた方がありがたい。むしろ、案外これは“美しいボケ味”を実現するためにわざと残しているのではないかなあ? とすら思えてきます。

と言っても高い解像感がありますので、そこはご安心を。

ちなみにここまでの撮影画像は、すべてレンズ補正の項目を「オート」にして撮影しています。

周辺光量

「しかし、ここまで細い鏡筒で十分な周辺光量を確保できるものなのか?」と思って撮影したのがこの画像です。

周辺光量補正「入り」
α7 IV/FE 35mm F1.4 GM/絞り優先(1/1,000秒・F5.6・-0.7EV)/ISO 100

わざと周辺光量落ちが確認しやすいシーンで撮影したとはいえ、やはりレンズ補正「オート」でも、周辺光量はいくらか落ちていますね。

そして、こちらがレンズ補正の「周辺光量補正」を「切」にして撮った画像。

周辺光量補正「切」
α7 IV/FE 35mm F1.4 GM/絞り優先(1/1,000秒・F5.6・-0.7EV)/ISO 100

うん、やっぱり盛大に周辺が暗くなっています。

なのですが、先の軸上色収差と同じく、これもわざとなんじゃないかな? と思います。レンズ補正はボディ側のデジタル的な補正ですので、やろうと思えば周辺光量落ちは完全に修正することだってできるでしょう。しかし、被写界深度が極薄のF1.4の場合、主要被写体は中央かその周辺に配置するのが一般的。そうなると適度な周辺光量落ちは、良い作画効果となってくれるわけです。

しかも、レンズ補正はいくらか周辺光量落ちを残した「オート」か、レンズ本来の性能を表現した「切」を選ぶことができる。周辺光量落ちをあえて狙う写真愛好家からは好まれる調整ではないでしょうか。もちろん絞れば周辺光量落ちは起きません。

最短撮影距離とボケ味

本レンズの最短撮影距離と最大撮影倍率は、それぞれAF時で27cm/0.23倍、MF時で25cm/0.26倍。

この画像は、フォーカスモードをMFにした、最短撮影距離で撮影したものです。

α7 IV/FE 35mm F1.4 GM/絞り優先(1/125秒・F1.4・±0.0EV)/ISO 100

近接撮影に特化したマクロレンズを除けば、フルサイズ用の35mm単焦点レンズでこの近接撮影能力は革新的と言って良いと思います。

しかも、単に最短撮影距離が短いだけでなく、それに伴って最大撮影倍率も大きくなっているところが立派。被写体には寄れても撮影倍率はあまり大きくないレンズ、結構あります。

そして、G Masterならではなのが、美しすぎるくらいに柔らかく溶け込んでいくボケ味。

α7 IV/FE 35mm F1.4 GM/絞り優先(1/400秒・F1.4・-0.3EV)/ISO 200

解像性能のところで、開放F1.4だとさすがに多少は解像感が落ちるということを述べましたが、この画像を見るとピント面の解像感にまったく問題を感じません。ビシッとあったピントからスムーズに溶けていく大きな前後のボケ、これは堪りません。

α7 IV/FE 35mm F1.4 GM/絞り優先(1/100秒・F1.4・±0.0EV)/ISO 200

F1.4の大口径と言うと、ミラーレスカメラの性能が向上する以前は、AFでもピントを合わせるのはかなり難しいことでしたが、像面での測距性能やAFモーターの進化、被写体認識機能の搭載などによって、動く被写体であっても苦も無く合わせられるようになりました。いまこそ、大口径レンズを使い倒す時なのかもしれません。

その他作例を交えながら

α7 IV/FE 35mm F1.4 GM/絞り優先(1/10秒・F1.4・-1.0EV)/ISO 800

わずかな光があれば写真を撮れる、それが大口径単焦点レンズのチカラです。とは言っても、実際にはレンズの明るさ+ボディ側の手ブレ補正機能+高い高感度性能があってのことでした。優れたレンズとボディの合わせ技ですね。


α7 IV/FE 35mm F1.4 GM/絞り優先(1/640秒・F2.0・-0.3EV)/ISO 100

大口径レンズを使うと、面白くてついつい開放F値ばかりで撮りがちですが、それではイカンと絞りF2で撮影。手前の電灯がイイ感じで被写界深度に入り、まだ大きな背景ボケと上手くまとまりを見せてくれました。


α7 IV/FE 35mm F1.4 GM/絞り優先(1/50秒・F4.0・-0.3EV)/ISO 200

個人的にスナップ撮影でよく使う絞りF4で撮影。形を残した自然な背景ボケを味わえるとともに、被写界深度内の被写体はキリリと克明に表現されるようになるため、その対比が何とも言えずハマります。G Masterの「解像感と美しいボケ味の両立」は、何も絞り開放時だけのものではありません。


α7 IV/FE 35mm F1.4 GM/絞り優先(1/50秒・F4.0・-0.3EV)/ISO 200

同じく絞りF4で撮影。「ナノARコーティングII」が採用されているので、逆光耐性はすこぶる高いものがあります。

ただ、作例のように、条件によって光芒のように見える独特な光のスジが発生することが良くありました。不思議な現象ですが欠点というわけでなく、これも作画に活用したくなります。


α7 IV/FE 35mm F1.4 GM/絞り優先(1/15秒・F8.0・-0.3EV)/ISO 100

絞り込んでのF8で撮影です。強風のため一部に被写体ブレを起こした葉もありますが、この絞り値にもなると、画面全体で素晴らしく高い解像感を見てとれるようになります。絞り込んでも微妙な階調性を維持しているところは、さすがソニー最高ランクの高性能レンズです。幅広く設定できる絞り値によって、様々な表現を楽しめるところが大口径レンズの良いところですね。

まとめ

ところで、古くから銀塩の一眼レフやレンジファインダーカメラを愛好し、往年の35mm F1.4レンズを使ってきた方なら、「小さい小さいと言うけど、比べてみたら結構大きいんじゃないか?」と思われるかもしれません。

それはその通りなのですが、デジタル一眼レフカメラの普及がピークを迎える頃、単焦点レンズの大きさ・重さが増大し続けたことをみなさんご存知かと思います。さらに高画素化が進んだ今となっては、求められる高性能を確保するための大型化は仕方がないでしょう。

その上でミラーレスカメラ用のレンズは、やはり軽くて小さいことが望まれます。それでいて、描写性能はデジタル一眼レフ時代と同等どころでなく、向上しているのが当たり前とされる過酷さ。それを実現してしまったのが本レンズ「FE 35mm F1.4 GM」というわけです。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。