交換レンズレビュー
タムロン 70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD(Model A047)ニコンZ用
手軽さが魅力のZマウント望遠レンズ
2022年10月13日 07:00
タムロンの「70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD」は、35mmフルサイズ対応の望遠ズームレンズ。こちらのレンズ自体は約2年前の2020年10月にソニーEマウント用が発売されているのですが、今回紹介するのはニコンZマウント用になります。
ただ既存レンズをマウント違いで出しただけと思われるかもしれませんが、よくよく考えてみると、AFを始めとした実用的な機能を備えたサードパーティー製レンズが、正式に登場するのはZマウントでは初めてのことだったりします。しかもこのレンズは「株式会社ニコンとのライセンス契約の下で、開発・製造・販売」された製品。近頃ミラーレスカメラ市場で注目を集めているニコンのZマウントだけにこれは見過ごせません。
なお、タムロンの交換レンズには、種類ごとにモデル名がつけられています。「70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD」は、少し名称が長いため、以下「Model A047」と表記します。
クラス世界最小最軽量の望遠レンズ
本レンズの最大径×長さは77×150.3mm。重量は580gとなっていて、これは「300mmクラスのフルサイズミラーレス用望遠ズームレンズにおいて」世界最小最軽量だそうです。実際に小型軽量なミラーレスカメラに装着してみても、それほどサイズによる圧迫感を感じることはありません。いわゆるダブルズームキットの望遠ズームより少し大きいかな?と言った印象です。
焦点距離300mmと言えば、かつては超望遠の入り口と言われていましたが、ここまで小さく軽くなると、望遠300mmもけっこう身近な存在になったことを実感できます。
ちなみにソニーEマウント用のModel A047の最大径×長さは77×148mm。重量は545gとなっており、ニコンZマウント用よりわずかに短く軽くなっています。この少しの差は、単純にカメラのフランジバックとマウント径に合わせたことが主な原因だと思われます。
ソニーEマウント用とニコンZマウント用で少しサイズが異なりますが、Model A047は現状でクラス世界最小最軽量であることに変わりはありません。
シンプルで馴染みやすいデザイン
外観のデザインはと言うと、凹凸がほとんどなく非常にシンプルに仕上げられています。ニコンZマウントは、ソニーEマウントよりもマウントの径が大きいので、その分、レンズ後端は太くなり、結果的に全体の寸胴感が高くなるイメージです。
ただ、凹凸が少ないからファインダーを覗きながらの操作が分かりにくいかというと、そんなことは全くありません。手のひらにイイ感じで鏡筒が収まり、ちょうどイイところでズームリングとフォーカスリングが指に接触してくれるため、違和感を覚えることなくスムーズに操作することができます。シンプルなように見えて、実際の撮影行為をよく考えて設計されているようです。
ニコンZマウントは、超大口径レンズの「NIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noct」との組み合わせでも、画面の隅々まで効率よく光が届くように作られたマウント。もちろん、本レンズと直接比べられるものでありませんが、それでも光学性能ありきのニコンZマウント用と言われると期待したくなるのが人情と言うものです。
操作系も思い切りよくシンプル
専用ソフトウェア「TAMRON Lens Utility」をインストールしたPCと接続することで、レンズ単体でのファームウェアアップデートが可能になります。ソニーEマウント用はUSB端子がありませんが、カメラに装着した状態でのファームウェアアップデートはできます。
ただ、「TAMRON Lens Utility」はファームウェアアップデートだけでなく、レンズの各種機能をカスタマイズできるところがウリなのですが、Model A047はフォーカスセットボタンを始めとしたスイッチやボタンを一切搭載していないので、カスタマイズは行えません。
潔いほどのシンプルさをここにも垣間見ることができますが、逆に考えれば、面倒なレンズの操作を考えることなく撮影を楽しめるということでもあります。何しろ本レンズのコンセプトは「気軽に楽しむ、望遠300mm」なのです。
満足できる解像感
「気軽に楽しむ、望遠300mm」というコンセプトから、Model A047はどちらかと言えば入門者向けのレンズのように感じ取れます。では高性能レンズのような高い解像感は得られないのでしょうか?
絞りを開放のF4.5にして撮影しました。「普及価格帯のレンズだから……」などという心配はまったく不必要なくらい、シャープでハイコントラストな高い解像感を得ることができます。画面の四隅では「よく見ると」気づく程度の甘さがありますが、風景写真などで綿密な均質性を求めない限りは、それも問題になることはほとんどないでしょう。F8まで絞り込めば四隅の甘さも完璧に解消されますが、そもそも風景写真は三脚を使い絞り込んで撮影することが多いと思います。
絞りを開放のF6.3にして撮影しました。広角端と同じように普及クラスとは思えない素晴らしい解像感があります。広角端で見られた四隅のわずかな甘さは、望遠端ではかなり軽減され、画像全体の安定感は相当に高くなっています。本レンズの場合、主に300mmという焦点距離に期待したいところですので、この結果は嬉しいことです。
マウントの径が大きいことが影響しているかどうかを、残念ながらここで確認することはできませんが、少なくとも、ニコンの画作りとModel A047の描写性能は相性が良いようで、広角端から望遠端まで十分に満足のできる解像感を得ることができました。
ボケ味を活かした作品が作りやすい
中望遠から望遠までズームできるModel A047ですので、背景の大きなボケを活かした写真を撮りたいところです。
広角端70mmで撮った画像は下のような感じ。クセのない綺麗なボケ味です。開放F値がやや暗めなので、ボケの大きさに過剰な期待をすることはできません。
ところが望遠端300mmで撮影すると、下の写真のようにとても大きなボケが得られるようになります。70mmでは少し分かりにくかったボケの質も、大きくなったことで柔らかく素直に溶けていく様が良く分かります。前ボケが綺麗なところもイイですね。
普及価格帯のレンズは、どうしても開放F値が暗くなりがちですが、300mmまで伸ばせることで大きなボケ味を活用した写真を楽しみやすくなりました。花壇などあまり近づけないような条件でも、被写体を大きく写しながら背景を大きくボカすことができる、といった利点もあります。
その他作例を交えながら
AF駆動にはタムロン独自のステッピングモーターユニットRXD(Rapid eXtra-silent stepping Drive)が搭載されています。ステッピングモーターは、高速・高精度・静粛性を特徴としており、昨今のミラーレスカメラ用交換レンズのAFモーターとしてスタンダードになっています。画面中央付近の鳥を、ニコン Z6 IIの「ターゲット追尾AF」で撮影しましたが、見事に正確な追尾を続けてくれました。
タムロンのコーティング技術は大変優秀なものがあり、個人的には「どのレンズも凄く逆光に強い」と思っていますが、BBARコーティングを採用したこのレンズもご多分に漏れずです。ただ、画面の隅などかなり厳しい位置に強い光源を入れて、オーバー露出で撮影すると、多少のゴーストやフレアが出ることもあります。その場合でも、画面全体が破綻するようなことはなく、光源周辺にイイ感じのフレアが発生するため、逆に作画に活かしたくなります。
先に紹介した、300mmでの前後ボケを活かした写真を撮るのが楽しかったので、シロバナヒガンバナを被写体に撮ってみました。300mmともなると肉眼では想像できないような圧縮効果を写真にすることができ、しかもそれをファインダーやモニターで撮る前に確認できるため、なかなかハマるものです。
300mmのもうひとつの特徴が、遠くのものを大きく写せる引き寄せ効果。というわけで、意外に近づかせてくれないシラサギをアップで撮りました。やはり200mmくらいの望遠レンズとは効果の度合いがハッキリ違っていて、「シラサギってこんなにアップで写せる鳥だったかな?」となりました。
Model A047が70mmスタートで良かったな、と思えるのが、こうした何気ない身近なものをパシパシ切り撮れるところ。ちょうどよい距離感で被写体に接することができ、レンズも軽いので、スナップ的な撮影スタイルも結構得意だったりします。感覚的な問題かもしれませんが、100mmスタートの望遠ズームだとなかなかこれは難しいと感じます。
さらに、70mmくらいだと室内の撮影でも重宝します。猫と意思疎通できる距離を保ちながら画面いっぱいに撮ってみました。ニコン Z 6IIの動物AFで撮影したものですが、ボディ側の機能は本レンズでも問題なく作動します。
まとめ
比較的穏当な価格で、軽く小さく、本格的な300mmの望遠撮影が楽しめるのがModel A047の醍醐味と言えるでしょう。普及価格帯のレンズでありながら、画質も間違いなく本格的なのだから「気軽に楽しむ、望遠300mm」というコンセプトは非常に的を射ていると思います。
もともとはソニーEマウント用だったレンズを、ニコンZマウント用として新たに発売した本レンズですが、近頃タムロンのラインアップとよく似たスペックの、純正Zマウントレンズが発売されていたり、本レンズが「株式会社ニコンとのライセンス契約の下で、開発・製造・販売」された製品であったりすることを考えると、実は単なるサードパーティー製レンズにとどまらない、素性のよろしいレンズではないのかと思えてきます。実際に画質もかなりよろしいですし。
ともかくも、Model A047が、初めて本格的な望遠レンズにチャレンジしたい人や、すでにハイスペックなZマウントの望遠レンズをもっているけど、もっと普段使いできる気軽な望遠レンズを求めていた人、などにとっては最適な選択肢になるに違いありません。
ミラーレスカメラの特性を踏まえた素晴らしいZマウント用レンズが、いよいよサードパーティーからも登場したというのは、実に喜ばしいことです。これからの展開も楽しみになりますね。