吉村永の「ホントに使える動画グッズを探せ!」

13品目:小型ミラーレス機に最適な“高コスパ”本格派三脚

Libec「三脚システムHS-150MC」

脚の開脚角度を決めるスプレッダー(ステー)が三脚最下部につく「グランドスプレッダー」ではなく、脚の中間にある「ミッドスプレッダー」を今回はチョイス。狭い設置面積で使いやすいのは前者だが、発表会の会場など段差のある客席からの撮影や屋外での撮影には、今回のミッドスプレッダータイプがお勧め。本モデルはどちらも用意されているので好みに合わせてチョイスしたい

この連載では“スチルカメラ愛好家”に向けて、動画畑出身のカメラマン 吉村永がレンズ交換式デジタルカメラで動画を撮る際に便利なグッズを見つけて紹介していく。時にプロ向けの高価な機材から、馴染みのないメーカーの製品まで積極的に試して紹介できたらと思う。

今回紹介するのは、安価ながら業務用の使い勝手と性能を実現している動画用三脚。国産メーカーの平和精機工業が展開する「Libec(リーベック)」ブランドの製品だ。

Libec「三脚システムHS-150MC」

役立ち度:★★★★★
コスパ:★★★★★
マニアック度:★★★

本格的な三脚までラインナップするLibec

Libecというブランドの三脚は、長らく映像プロダクションの世界において、3万円前後のグレー色を採用した簡易型三脚がベストセラー&ロングセラーで定着していた。軽量な割に使いやすかったので大ヒットしたのだが、それも手伝って業界では「ああ、あの簡易三脚のブランドね」的に捉えられてしまっている場合も多い。

固定ネジを緩めたままでもカメラの向きを自由に上下させ、好きな位置で手を離せばスッと止まる「カウンターバランス調整機構」が搭載されていなかったこともその原因と言える。だが、Libecは本格的な放送用三脚までをラインナップしたメーカーだということは知っておきたい。

その中でこのモデルは、放送用クラスの性能とフィーリングをハンディカメラやミラーレスカメラ向け雲台にもたらしたモデルと言える。HS-150MCというのはシステムセットの名称で、雲台部の「H15」と、カーボンの脚「RT-20C」、ミッドスプレッダーの「BR-2B」を組み合わせたものとなる。

完全なるカウンターバランス

なんといってもこの製品の一番の特徴は、「Perfect Balance」というカウンターバランスの無段階調整機能にある。

例えば動画三脚で人気のSachtler(ザハトラー)は、カウンターバランス調整が機種によって5~10数段階。カチカチと鳴るダイヤルのクリック位置で調節する。そのためカメラの機種によっては、そのクリック位置の強さがぴったり重量バランスと合わない場合がある。少々のバランスずれは諦めたり、カメラと雲台の間にスペーサーを挟み、カメラの重心点を高くしたりしてバランスを微調整する必要があるのだ。

だが、本機種のPerfect Balance機構では無段階での調節ができるため、まさに“完全な調節”が可能なのだ。

実際に使ってみたフィーリングで言えば、しっかりとバランスをとった上での操作はまさに極上。思った動きが滑らかに実現でき、海外製の20万円を超えるクラスの雲台と同等以上のフィーリングが得られた。

この無段階のカウンターバランスは油圧式の雲台に採用されていることが多いのだが、本モデルは機械式のドラッグを備えた製品。温度変化や油漏れなどのトラブルに強い構造なところも頼もしいと感じられる。

雲台後部の金色のダイヤルがPerfect Balance調節ノブ。その左下の切り欠き窓から見える数字を目安として覚えておけば、次回カメラセット時にも調節の目安となって便利

ただ一点、残念だと感じたのは適応カメラ重量のレンジが小さめであること。本モデルは0.8~2.2kgまでがカウンターバランス調整範囲なので、ミラーレスカメラであってもフルサイズのハイエンドモデルにF2.8クラスのズームレンズをつけた場合などはバランスが取りきれなくなってしまう。その場合、カメラ重量に合わせて各種ヘッドが用意されており、1.7~4.5kgの「H25」を選択するのがフルサイズカメラユーザーには適していると言えるだろう。

本格三脚の入門用にも

総じて本格的な動画三脚の入門用としてぴったりな低価格と、クラスを超えた雲台の操作フィーリングを備えたとても好感の持てるモデルに仕上がっている。

4.7kgのシステム重量は性能から考えるとかなり軽量なのだが、ワンオペのキャメラマンが常に持ち歩く三脚としてはまだ重量が重い、と感じる人は多いと思う。

とはいえ、動画三脚の「基準」となりうる性能と、古くからの動画三脚の使い方、ルールを勉強するのにも最適な一台。小型ミラーレス機で撮影するのであれば現状でいちばんコスパと雲台部の操作フィーリングが優れた一台だとお勧めできる。

ちょっとしたことなのだが良いアイディアだと感心させられるのが「DUAL HEAD」機能。業務用動画三脚なので、雲台取り付け部は当然、「お釜」と呼ばれるボール式だ。しかし底面がフラットに削られ、ボールレベラー締め付けハンドルの取り付けネジが、ヘッド側でなくハンドル側についている設計になっている。写真右は標準的なヘッド側からネジが生えているSachtlerのACE L雲台
ヘッドの下部分が平らで、3/8サイズの大ネジ穴が切ってあるので、脚から外してスライダーレールに載せて使う、といった使い回しがとても楽でスムーズに行える
雲台部分の先進性に比べて、極めてオーソドックスな本セットの脚部分。内蔵のケーブルフックを引き出して他の脚にかければ持ち歩きの時にもばらけることなくスマートに持ち運べる
吉村永

東京生まれ。高校生の頃から映像制作に目覚め、テレビ番組制作会社と雑誌編集を経て現在、動画と写真のフリーランスに。ミュージックビデオクリップの撮影から雑誌、新聞などの取材、芸能誌でのタレント、アーティストなどの撮影を中心とする人物写真メインのカメラマン。2017年~2020年カメラグランプリ外部選考委員。