吉村永の「ホントに使える動画グッズを探せ!」

2品目:ワイヤレスマイクで“録音問題”を解決

DJI「DJI MIC」

一眼レフ、ミラーレスを問わず、最近のカメラにはもれなくと言っていいほど備わっているのが「動画撮影機能」。写真撮影については一家言あるけれども、動画についてはまだ未知の領域……、という読者も多いはず。
この連載では“スチルカメラ愛好家”に向けて、動画畑出身のカメラマン 吉村永がレンズ交換式デジタルカメラで動画を撮る際に便利なグッズを見つけて紹介していく。時にプロ向けの高価な機材から、馴染みのないメーカーの製品まで積極的に試して紹介できたらと思う。

今回紹介するのはワイヤレスのマイク。ドローンで有名な中国の「DJI」製というのだからちょっと意外な感じがするかもしれない。実勢価格は税込4万700円前後。

DJI「DJI MIC」

役立ち度:★★★★★
コスパ:★★★★★
マニアック度:★★★

ポイントは音源との距離。音声収録時の問題点

写真撮影の経験を持って動画撮影を始めた人が最初につまづくのが「音声」の問題だ。

まず、気になってしまうのがタッチノイズ。カメラの内蔵マイクで収録すると、カメラのボタンを押す音やちょっと手を持ち替えた時の音などが直接録音されてしまってとても聞き苦しい。また、カメラのAFの駆動によるモーターやギア音なども大きく録音されてしまうものだ。

そこで、多くの人が試したくなるのがショットガンマイクを購入し、カメラのシューに載せて収録する方法。これは定番で、それなりに効果のある方法と言えるのだが、「期待していたほど音が鮮明になったり、タッチノイズが減ってくれなかったな……」と感じている人が多いのではないだろうか?

OLYMPUSのE-M1 Mark IIにレシーバーユニットを装着したところ。本当に小さなユニットなのでどのカメラでも違和感なく装着可能

これの理由は2つ。1つ目は、そもそもガンマイクの指向性は思ったほど高くないから。写真的な考え方ではどうしても望遠レンズのように、遠くのものがスパッと切り出せると思いがちだが、音声はそこまで指向性を高められないし、音の周波数によっても指向性が変わる。例えば低音域はマイクの真後ろのものでも収録されてしまう。ガンマイクの多くが低音をあまり拾わないように設計されているのもそれが理由だ。

また、カメラシューに乗せる際に優秀なショックアブソーバーを使っても、カメラの振動は音以上にマイクに伝わりやすいものなのだ。

これらの音声の問題に対する解決策は、実は音源とマイクとの距離にある。要は、マイクがノイズ源から遠く、音源に近ければいいわけだ。この鉄則は絶対的なもので、皆さんもテレビや映画の収録現場写真などで見たことがあると思うが、人物の喋り声は、必ず口に近い位置のラベリアマイク(通称ピンマイク)か、物干し竿のような長いブームで演者の近くにマイクを差し出して行っているはずだ。

マイク単体で数十万円の高性能ガンマイクですら、棒で音源に近づけるのがセオリーなのだから、民生用のガンマイクをカメラに装着してもなかなか思ったように音声が録れないのも理解できることだろう。

カメラ上面から見たところ。付属の音声ケーブルは針金状の硬さになっており、カメラに合わせて好きな形で固定しやすい点も使いやすい

ワイヤレスマイク“2波”を装備した「DJI MIC」

前置きが長くなったが、ここでようやく今回の本題「DJI MIC」の紹介をしていきたい。同機はワイヤレスのマイクシステムで、送信機(マイク)が2組と、その2つのマイク電波を1台で受信できる受信機がセットになり、1つのコンパクトなケースに収納されている。

充電ケースを開けたところ。ハードウェアユニットがすっきり収まり、充電管理も簡単。ワイヤレスイヤフォンと同等の使い勝手だ

つい数年前までワイヤレスマイクはかなり高価なもので、しかも通常は受信機と送信機は一対だった。例えばインタビューの収録をしようとした場合、2組のシステムと、それをカメラに入力するためにポータブルの音声ミキサーを用意するのが普通だった。

業務用ではマイク2系統を同時受信するシステムもあったが、それもシステムで揃えると30万円以上のコストがかかるもの。今年になってようやく、このDJI MICとRODEのWIRERESS GO IIが2波受信システムをお手頃価格で用意してくれ、一気に手に入りやすくなったといえる。

こう書いてしまうと「ワイヤレスの2波マイクが、ただ単に低価格化しただけ」と思われがちなので、これまでのワイヤレスマイクの不満からこの製品の優位点を炙り出していこう。

商品セットの全貌。充電ケースに本体ユニットが三つとスマホコネクター2つ、付属のポーチにはウィンドジャマーとケーブル類が収まる
ウィンドジャマーを装着した様子

持ち運びに便利なサイズ

まずは、「セッティングと持ち運びの大変さ」の解消だ。従来のものは送信機と受信機共にタバコの箱をひと回り小さくしたようなサイズであったが、DJI MICはどれも見た目で1/4以下の極小サイズ。

送信機は通常、演者のベルトなどに取り付け、そこからピンマイクを有線で胸元に着けるものだった。しかし、DJI MICは小さな送信機にマイクが内蔵されているので送信機そのものを付属クリップで胸に取り付けられるようになっている。もちろん、さらに目立たないように、別売のピンマイクを挿して使えるマイク端子も用意されている。マイクケーブルが必要ない上に、送信機2台と受信機は、手のひらに収まるサイズの付属ケースに丸ごと収納できて持ち運びにもとても便利だ。

外形寸法・重量は、送信機が47.32×30.43×20.01mm・30g、受信機が47.44×32.21×17.35mm・24.9g、充電ケースが103.06×61.87×41.50mm・162.2g。

バッテリー内蔵で電池交換不要

次に、電源の管理。これまでのワイヤレスマイクは単3型乾電池×2本での駆動が主流で、送信機と受信機で計6本の電池を要した。これを収録の度に充電したり入れ替えたりしていたのだが、DJI MICは内蔵のリチウムイオンバッテリーで電池の入れ替えは不要。

さらに付属ケースはバッテリー内蔵充電仕様なので、ケースにしまうだけで充電できる。約70分で満充電、5時間ほど利用が可能だ。充電ケースも満充電にしておけば、3つのモジュールを約1.8回、フル充電できる。モジュールはUSB充電も可能なので出先で電源関係でのトラブルはほぼ解消されることだろう。流行りのワイヤレスイヤホンと同等の使い勝手で充電と収納が管理できるのだ。

レシーバーの操作部は、タッチ表示パネルになっており、さまざまなメニューを指でスライドしながら設定ができてわかりやすい

マイクはマグネットで取付可能

マイクの取り付けだが、演者の衣装がシャツ系の場合、胸の合わせ部分にクリップで取り付けるのが一般的。だが、演者がTシャツを着ている場合などはマイクを取り付ける安全ピン的なアクセサリーをひとつ数千円も出して調達するのが普通だった。一方、DJI MICでは付属の1.5cm角ほどのマグネットでシャツを挟むように取り付ければ、どんな衣装でも簡単に好きな位置に仕込むことができる。

トランスミッターマイクユニット。赤いLEDは録音、緑は電源の表示。スイッチを押し、オンになると本体がブルっと震えて知らせ、確実な操作を可能にしている

マイク本体に直接録音

また、DJI MICは送信機となっているマイク本体内に録音機能を搭載。これは業務用マイクでもなかなかない機能で嬉しいポイントだ。ワイヤレスマイクはどうしても一時的な電波干渉により、ノイズが入ったり音声が途切れたりのトラブルをゼロにできないもの。しかし、DJI MICは本体内のメモリーに最大15時間の録音が可能になっているのだ。

通常の音声録音時は、ワイヤレスレシーバーの音声をカメラに入力して同時録音しておけばよい。しかし、万が一の電波トラブルの際には、マイクをUSBケーブルでパソコンに繋げば外付けディスクとして認識され、音声ファイルが特別なアプリやソフトを介することなく取り出せる。

また、この内蔵メモリーは容量いっぱいまで録音すると最初のファイルから自動的に上書きするようになっている。このため、音声ファイルを管理するという煩わしさはほぼなく、万が一の時だけすぐに音声を取り出して使えるというわけだ。

ステレオ録音にも活用。十分に高音質なマイク

この手のマイクはインタビュー専用と捉えられがちだが、マイクを2系統でそれぞれ別チャンネルとして使えるので、通常のステレオマイク的な利用法も可能。マグネット式なのでさまざまな場所にくっつけて使えるため、カメラから離し、ステレオ音声収録に使うのも良い。

肝心の音質だが、ノイズが少なく、クリアな音声でセリフも聞き取りやすい。ハイエンドの業務用マイクと比べると若干、鼻詰まり気味というかくぐもっている印象だが、十分に高音質と言えるだろう。

音声のクオリティが気になり出した動画撮影者は、まず試して欲しい逸品だ。

レシーバーの底面は着脱式のクリップとスマートフォン用のダイレクトプラグの交換式。ダイレクトプラグを装着すれば、iPhoneなどのスマートフォンに直接繋げて録音が楽しめる
レシーバーにiOS端末用のLightning端子を取り付けたところ
クリップは、そのままカメラなどのアクセサリーシューにも差し込める

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吉村永

東京生まれ。高校生の頃から映像制作に目覚め、テレビ番組制作会社と雑誌編集を経て現在、動画と写真のフリーランスに。ミュージックビデオクリップの撮影から雑誌、新聞などの取材、芸能誌でのタレント、アーティストなどの撮影を中心とする人物写真メインのカメラマン。2017年~2020年カメラグランプリ外部選考委員。