吉村永の「ホントに使える動画グッズを探せ!」
3品目:動画&写真ハイブリッドカラーチャート
Calibrite「ColorChecker Passport DUO」
2022年11月30日 12:00
一眼レフ、ミラーレスを問わず、最近のカメラにはもれなくと言っていいほど備わっているのが「動画撮影機能」。写真撮影については一家言あるけれども、動画についてはまだ未知の領域……、という読者も多いはず。
この連載では“スチルカメラ愛好家”に向けて、動画畑出身のカメラマン 吉村永がレンズ交換式デジタルカメラで動画を撮る際に便利なグッズを見つけて紹介していく。時にプロ向けの高価な機材から、馴染みのないメーカーの製品まで積極的に試して紹介できたらと思う。
今回紹介するのはカラーチャート。Calibrite(キャリブライト)という会社の製品だが、もしかするとあまり聞き馴染みがないかもしれない。この分野では有名な米X-rite社が業務用機器に特化することになり、民生品を含むカラー調整製品を製造販売する会社として新たに2021年に立ち上がったのがCalibrite。つまり、聞きなれない社名ではあっても、製品のクオリティと信頼性はこれまでの定評あるX-rite社のそれと同等であり、安心できるというわけだ。
日本国内では、株式会社ヴィンチェロが総代理店として同社製品を取り扱う。販売価格は税込4万150円。
役立ち度:★★★★★
コスパ:★★★
マニアック度:★★★★★
動画撮影時の色合わせとは
撮影時の色合わせというと、写真の世界と動画の世界では主流となるやり方が少々異なるものだ。写真の場合、撮影時のホワイトバランスは太陽光や電灯光などのプリセットされたアイコンで合わせて撮影するか、直接数字でK(ケルビン)値を入力するのが一般的。
それに対して動画の世界では、白かグレーの紙をレンズ前にかざし、セットボタンを押してその場の光に対してホワイトバランスをニュートラルにする。
もちろん、これらの方法で実用上にも十分な色再現が期待できる。しかし、商品を撮影したり、違う場所で撮影しても「同じ人物や同じ商品は色再現を統一したい」というときにはカラーチャートを用い、現像時に色を厳密に合わせるのがおすすめ。広告写真の世界などではこうした運用が一般的とさえ言える。
そこでようやく、今回の優れものとして紹介したいのがこの「ColorChecker Passport DUO」。カラーチャートといえばA4サイズぐらいのボール紙にカラーが並んだものが一般的だった。しかしこの製品は「PASSPORT」の名前にも表される通り、パスポートサイズに近い125×90mmサイズの折りたたみ式プラスティックケースにチャートが内蔵されている。そのため、持ち運びにもとても便利なのだ。
写真を見ていただければわかる通り、化粧用コンパクトのような作りで4面分のチャートが内蔵されており、ケースを開くと好きな角度で自立させることができる。ここにはこれまで通りの写真用カラーチャートはもちろん、ビデオ用のチャートが用意されているのが「DUO」たる所以。まさにこの連載を読んでいる読者にぴったりと言えるだろう。
“面倒な微調整は必要ない”
使い方は簡単。撮影する被写体の位置にこのチャートを置き、撮影しておく。そして編集時に編集アプリの画面上でチャートを元に補正する。
例として編集アプリの「DaVinci Resolve Studio」を使ってみるが、目で見ながら面倒な微調整は必要ない。カラー画面でチャートを選択し、あとはチャートのマス目と画面にスーパーインポーズされる格子模様をマウスで重ね合わせるだけ。
白一色で合わせる従来のホワイトバランスの取り方は、白い紙を使うときにその紙の黄ばみや蛍光材の含有などで微妙に色が変わるし、光を当てる角度で紙をテカらせてしまっても変わりがち。さらに、色のバランスは取れてもコントラストなどは補正できないが、カラーチャートならこれらの問題もかなり高精度に解決してくれる。
とはいえ、あくまでも編集時のカラーコレクトで補正する必要があるため、撮って出し映像を使いたい場合や、編集アプリに頼りたくない場合などは従来のホワイトバランスを取る必要もある。この場合にも、標準グレーカードが用意されているので高精度なホワイトバランス取りが撮影時にも行える。表面がテカりにくいマットな質感になっているのも使いやすいと感じられた。
また、ColorCheckerを紹介するにあたって忘れてはならないのが「発色を最後までマネージメントして作品を作る」という基本的な考え方。これを実現するためには編集時に使うモニターのカラーマネージメントも重要になる。同じくCalibriteから発売されている「ColorChecker Display Plus」は、この種の製品の中では安価でありながら最近のLED照明によるディスプレイもサポートし、モニターの発色を標準状態に近づけてくれる。正しい色でモニターできるからこそ、視聴者に思い通りの色を届けることができるというわけだ。
“工芸品に近い性質の製品”
最後になるが、こんなちょっとした印刷物にしては高価すぎるのでは? と考える人も多いと思うが、実はこれは単なる印刷物ではない。PANTONEカラー準拠の高精度な顔料を吹きつけ塗装したパネルを1枚1枚、張り込んで作られた工芸品に近い性質の製品なのだ。
色精度を極限までに高めたカラーチャートは従来、褪色による劣化の関係で2年ほどで買い換えるのが常識だったが、本製品はきっちりとしたプラケースに内蔵されているため、光や湿気による褪色がかなり抑えられているので従来製品より長持ちするのも嬉しい点だ。
誰でも気軽に買える製品ではないものの、色に敏感なフォトグラファー&ビデオグラファーはバッグに忍ばせておくと安心なこと間違いなしの逸品だ。
制作協力:株式会社ヴィンチェロ(https://www.vincerojp.com)
モデル:Arly(https://twitter.com/arly0401)
状況写真撮影:デジカメ Watch編集部
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