伊達淳一のレンズが欲しいッ!
M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO
周辺まで高い解像力 画質のために絞る必要なし
Reported by 伊達淳一(2016/1/13 11:55)
35mmカメラ換算600mm相当、専用設計の1.4x Teleconverter MC-14装着時には840mm相当の画角が得られる超望遠レンズで、オリンパスの交換レンズとしては初となるレンズ内手ブレ補正機構を搭載。レンズ内手ブレ補正だけでも4段の補正性能があるのに加え、ボディ内手ブレ補正とレンズ内手ブレ補正を協調動作させる「5軸シンクロ手ぶれ補正」(Sync IS)に対応しているボディと組み合わせれば、世界最強の6段分の手ブレ補正性能が得られるのが特徴だ。
ちなみに、5軸シンクロ手ぶれ補正に対応しているボディは、本稿執筆時点で、OLYMPUS OM-D E-M1(ファームウェアVer.4.0以降)とE-M5 Mark II(同2.0以降)のみ。これ以外のオリンパス製ボディに装着した場合には、レンズISかボディISのどちらか一方を選択可能、パナソニックなど他社製ボディとの組み合わせではレンズISのみ選択できる。
三脚座を含んだレンズ重量は約1,475g、三脚座を外すと1,270g。十分手持ち撮影できる大きさ、重さだ。三脚座を外した際のビスを覆い隠し、見映えや手の当たりを良くするデコレーションリングDR-79も標準で付属している。フィルター径は77mm。スライド式の内蔵フードがレンズ本体に組み込まれていて、引き出した状態でフードを回せばロックがかかる仕様だ。
オリンパスとしては、“600mm F4の超望遠レンズ”と比較して、同じ画角と開放F値のレンズとして圧倒的に小型軽量、とアピールしているが、他社のフルサイズ対応300mm F4(いわゆるサンヨン)よりも重くなるとは正直予想外。価格設定の高さも想定外だ。
ただ、サイズや価格で性能に妥協したくはなかったのだろう。スーパーEDレンズ3枚、E-HR(特殊高屈折率)レンズ1枚、HR(高屈折率)レンズ3枚と特殊レンズを贅沢に使った設計により、オリンパス史上最高レベルの解像力を実現。なんとフォーサーズシステムのスーパーハイグレード(SHG)レンズ、ZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8をF4まで絞って撮影しても、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROのF4開放のほうがコントラスト、解像力ともに高く、周辺でも高い解像性能を維持しているという。
最短撮影距離も1.4mと短く、最大撮影倍率0.48倍(35mmフルサイズ換算)のテレマクロ撮影も可能なので、遠くの被写体だけでなく、近くの被写体も超望遠の狭い画角で切り取れる。フォーカスリミッターは、4m~∞/FULL/1.4~4mの3ポジション。他のPROレンズ同様、マニュアルフォーカスクラッチ機構を装備していて、フォーカスリングを手前に引いてMFに切り換えると、あらかじめ距離目盛りで設定した位置に即座にフォーカス位置が移動する。
これを利用すれば、フォーカスポイントから被写体をロストして、フォーカスが無限遠や至近に迷ってしまった場合でも、いったんマニュアルフォーカスクラッチ機構でMFに切り換え、再びAFに戻すことで、レンズのムダな動きを最小限に抑えられる。また、側面のL-Fnボタンに[AF停止]を割り当てておけば、フォーカスが迷いそうなケースで一時的にAFの動きを止められる。超望遠撮影ではぜひ活用したい機能だ。
一目瞭然の高解像力!
さて、画質についてだが、実写を見ればもはやコメントは不要だろう。オリンパス史上最高レベルの解像力を謳うだけあって、絞り開放から周辺まで安定した解像が得られ、被写界深度や動感コントロール以外では、絞って撮影する必要性をまったく感じないレンズだ。周辺光量低下もほとんど目立たないので、空ヌケのヒコーキや鳥も安心して絞り開放で狙うことができる。
絞り別(LUMIX DMC-GX8)
※共通設定:0EV / ISO200 / 絞り優先AE
・レンズ単体
・MC-14使用
1.4x Teleconverterを装着すると、レンズ単体に比べ、ごくわずかにキレ味が低下したような印象も感じられるが、それ以上に840mm相当の超望遠ともなれば空気の揺らぎの影響も大きいので、そのことも関係しているのだろう。テレコンを使用しても軸上色収差や倍率色収差は感じられず、20MピクセルのパナソニックLUMIX DMC-GX8との組み合わせでも、周辺までクリアで安定した描写を得ることができた。
また、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROには、「Z Coating Nano」という新しいコーティングが採用されていて、夕陽を画面内に入れて撮影してみても、フレアやゴーストはなく、シャドー部が黒浮きしないヌケの良い描写が得られた。EVFなので超望遠で太陽を画面内に入れても目を痛める心配はないが、日中の強い太陽を長時間画面内に入れるのはセンサーを傷める可能性があるので気を付けたい。
ボディの強化も望まれる
問題はレンズ性能の高さをボディがどれだけ引き出せるかだ。特にこのレンズは、野鳥やヒコーキ、鉄道、スポーツ、ネイチャーなど、超望遠で動体撮影したいと思っているカメラマンが大いに注目しているだけに、C-AF撮影でどこまで動体にAF追従できるかがポイントとなる。
オリンパス製ボディの場合、動体撮影にもっとも強いと思われるのは、唯一、像面位相差AFを搭載しているE-M1だろう。一方、パナソニック製ボディには、像面位相差AFを採用する機種はないものの、マイクロフォーサーズ最多の20Mピクセル(E-M1は16メガピクセル)でどこまでの描写が得られるか、気になっている人も多いと考え、GX8でも実写を行ってみた。
動体撮影におけるC-AFの追従性という点では、やはり像面位相差AFを搭載しているE-M1が総合的には安定しているものの、最新のLUMIX GX8やG7は、他社製レンズ装着時にも同社の「空間認識AF」の技術を応用し、コントラストAFの動体追従性能が高められているので、歩留まりは劣るものの、期待していたよりも動体を捉えやすかった。
E-M1は80~90点レベルのピントが7割以上得られるのに対し、GX8は3割程度の歩留まりながら、ピントが合っているカットは95点以上の合焦といった感じ。また、GX8のEVFのほうが動体が追いやすく、しかも、「タッチパッドAF」により、ファインダー撮影時に液晶モニターを指でなぞるだけですばやくフォーカスポイントを移動したり、前ダイヤルを回すだけでフォーカスエリアの大きさを楽に変えられるのは実に快適。
オリンパスもOM-D E-M10 Mark IIで「AFターゲットパッド」という同様のタッチパッド操作を採用しているが、E-M10 Mark IIは像面位相差AF非搭載で、AFエリアの変更も冗長で、ファインダーから目を離さず、瞬時にAFエリアの広さを変更するのは困難だ。
確かに、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROのレンズ性能はすばらしく、フォーカス駆動も高速だが、その性能を余さず引き出せる高い動体追従性能を持ったAFシステムと、フォーカスエリアやフォーカスポイントを瞬時に変えられる快適な操作性を備えたボディの登場が望まれる。
「ドットサイト」のススメ
ところで、ミラーレスカメラで超望遠レンズを使った動体撮影がむずかしいのは、ピントが外れた状態では、被写体がどこにいるのか、まったくわからなくなってしまう点だ。一眼レフのファインダーなら空中像成分が多いので、多少アウトフォーカスでも被写体の存在はおぼろげに感じられる。
しかし、EVFは、アウトフォーカスでは像が大きくボケてカメラを振って被写体を探してもまったくわからないことが多い。そのため、被写体の動きを追いきれず、フォーカスフレームやファインダーから被写体をロストしてしまうと、再びファインダー内に被写体を捉え直すのは困難だ。しかも、換算600mmという超望遠の狭い画角ともなればなおさらだ。
そこで、重宝するアイテムがドットサイト照準器EE-1というオリンパス純正のアクセサリーだ。あらかじめ照準器のなかに見える赤い光点(ターゲットマーク)がファインダー画面の中央と一致するように照準器の取り付け角度を調整しておき、素通しで広い範囲が見える照準器を見ながらカメラを振って被写体を追うのである。
できれば、照準器をホットシューに装着するよりも、エツミのドットサイトブラケット(E-6672)など市販のブラケットを利用して、左目で照準器、右目でファインダーを覗く“両眼視スタイル”で使うのが理想だ。照準器で被写体の動きを捉えながらカメラを振り、同時に右目でファインダーをチェックして、フォーカスが合ったと思ったらひたすら連写する。蝶やカモメの飛翔シーンの作例は、照準器を使って両眼視で撮影したものだ。
動体撮影のベテランなら照準器を使わなくても、左目で被写体の動きを追いながら、ファインダーのど真ん中に被写体を導入できるそうだが、あいにくボクにはそんなスキルはない。EVFでの超望遠撮影ともなれば、さらに難易度は高くなる。
照準器を使ったからといって、劇的に動体撮影の歩留まりが良くなるとまではいえないが、ファインダーにすら捉えることが難しかった被写体をファインダーに導入できるチャンスは確実に増える。できれば、レンズの三脚座の取り付け部を利用した照準器取り付け用台座を純正で用意してくれれば、もっと便利で快適に照準器を使った撮影が楽しめるようになると思う。
値段はもうすこし……
このレンズの大手量販店での予約価格は税込32万円弱。E-M1ボディと合わせた実売価格は税込約44万6,000円だ。
これに対して、ニコンD500+AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR は税込約42万9,000円で、DXフォーマットなら750mm相当、対DX1.3倍クロップなら1,000mm相当の超望遠撮影が可能。キヤノンEOS7D MarkII+EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMだと税込約43万6,000円で、APS-Cで640mm相当で撮影できる。
最新のAPS-C高速連写モデルと超望遠ズームの組み合わせよりも、オリンパスのほうが高価になってしまう計算だ。
ボディとレンズを合わせた重さは、オリンパスが1,972g、ニコンが3,160g、キヤノンが約2,550gで、ズームと単焦点という違いはあるものの、ヒコーキや野鳥撮影で定番のシステムを組んだ場合、やはりオリンパスがもっとも軽量なシステムとなる。
ちなみに、ニコンD500+AF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VRにすると、対DX1.3倍クロップ時で600mm相当の画角が得られ、総重量は1,635gとオリンパスよりも軽くなるが、トータルの実売価格は税込48万円を超えてしまう。
絞り開放から周辺まで安心した高画質が得られ、換算600mmの画角が得られるシステムとしては軽量コンパクト、静物撮影においては約6段分の手ブレ補正性能が得られる、という特徴を考えれば、必ずしも高価とはいえないかもしれないが、APS-C高速連写モデルと組み合わせた超望遠撮影システムと比較すると、できればもう少しお手頃価格にして欲しかった、というのが本音だ。