交換レンズレビュー

EF-S 10-18mm F4.5-5.6 IS STM

小形軽量で使いやすい超広角ズーム

 キヤノンから発売されている交換レンズには、フィルム一眼レフ、フルサイズデジタル一眼レフも含めすべてのEOSに対応するEFレンズと、APS-CサイズのEOSデジタルに対応するEF-Sレンズ、ミラーレスEOS専用のEF-Mレンズの3種類がある。

 今回取り上げる「EF-S 10-18mm F4.5-5.6 IS STM」はAPS-Cサイズの撮像素子を持つEOSデジタル専用の超広角ズームレンズである(EOS Mにはマウントアダプター併用で使用可能)。

今回はEOS 70Dで試用した。発売は6月。実勢価格は税込3万9,870円前後

 焦点距離は35mm判換算でおよそ16-29mm相当となりEF-Sレンズのなかでは、同じく広角端が10mmの「EF-S 10-22mm F3.5-4.5 USM」と並び最も広角域の撮影が可能なレンズとなる。レンズ構成は非球面レンズ、UD(Ultra Low Dispersion)レンズを含む11群14枚。EF-Sの広角ズームレンズとしては初めて、シャッター速度に換算して約4段分のレンズ内手ブレ補正機構(IS)が搭載された。

デザインと操作性

 レンズのサイズは最大径74.6mm、長さは72mm、質量は240gとなる。一方「EF-S 10-22mm F3.5-4.5 USM」が最大径83.5mm、長さ89.8mm、質量385gであるのと較べると、焦点距離の違いや開放絞り値の違いはあるものの、全体的により小さく軽くなった印象を受ける。

より軽量小型となった超広角ズームレンズ。デザインは「EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS STM」に似通っている
レンズ単体の質量は240g。APS-Cセンサーサイズに合わせたイメージサークルとすることで、フルサイズ対応のレンズに比べ小型軽量化できるのがEF-Sレンズの特徴

 また「EF-S 10-22mm F3.5-4.5 USM」ではレンズの前玉枠が大きく、カメラに装着して手にした際にレンズの存在感を強く感じることがあったが、この「EF-S 10-22mm F3.5-4.5 USM」はそういったこともない。どちらかというとデザインも含め標準ズームレンズ「EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS STM」に近い印象だ。

EOS 70Dに装着。もっともレンズ鏡筒が伸びる焦点距離10mmに合わせた状態。フィルター径は67mmなので、EOS 70Dボディの底面よりレンズ前枠が大きくなることもなく机の上にも安定して置ける
EF-S広角ズームレンズとしては初の手ブレ補正機構を搭載。約4段分のシャッター速度に相当する効き目があるという
マウントは樹脂製。金属マウントではないが、レンズ自体が軽量なため、マウント部へかかる荷重もそれほど大きくはないと思えるので、あまり気にする必要もないだろう。それよりも軽量化への貢献が大きい

遠景の描写は?

 まず広角端だが画面中央部、周辺部ともに開放絞りF4.5からよく解像している。解像力のピークはF5.6~8辺り。F11より絞り込むと回折現象によって解像力が若干低下する。色収差も見当たるが大きな補正は必要ないだろう。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。

広角端

【中央部】以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F4.5
F5.6
F8
F11
F16
【周辺部】以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F4.5
F5.6
F8
F11
F16
共通設定:EOS 70D / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 10mm

 望遠端は画面中央部、周辺部ともには開放絞りF5.6から優れているが、F11より絞ると解像力の低下が著しい。また開放絞りから周辺部の色収差は少し多めだ。

望遠端

【中央部】以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F5.6
F8
F11
F16
【周辺部】以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F5.6
F8
F11
F16
共通設定:EOS 70D / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 18mm

ボケ味は?

 超広角レンズという性格上あまりボケを期待するレンズではないが、最短撮影距離がズーム全域で0.22mととても短いので、被写体に近づいて撮影することで背景をぼかした撮影を行うこともできる。

 最短撮影距離かつ開放絞りでの撮影では、たとえ10mmの超広角といえどもピントを合わせた箇所以外は、ボカして写すこともできるが、やはり大きなボケとはならない。それよりも超広角ならではの独特な臨場感となるのが面白い。また被写体と距離を取り開放絞りより1~2段も絞り込めば、被写界深度も深くなりほぼ全域にピントが合うようになる。

広角端

絞り開放・最短撮影距離(約22cm)で撮影。EOS 70D / 1/500秒 / F4.5 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE / 10mm
絞り開放・少し離れて撮影。EOS 70D / 1/40秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 10mm
絞りF6.3・距離数mで撮影。EOS 70D / 1/60秒 / F6.3 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 10mm
絞りF9・距離数mで撮影。EOS 70D / 1/60秒 / F9 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 10mm

 22cmという短い最短撮影距離での撮影では、被写界深度も浅くなり背景をボカした撮影が可能だ。なによりここまで近づいて撮影できるというのは、画作りにもとても面白い効果を与えることができる。

 一方、被写体との距離を数mとすれば大きく絞らずとも背景をボカすことなく撮影することもできる。35mm判換算で約29mmとなる画角と併せてスナップ撮影に扱いやすい。

望遠端

絞り開放・最短撮影距離(約22cm)で撮影。EOS 70D / 1/50秒 / F5.6 / +2EV / ISO100 / 絞り優先AE / 18mm
絞り開放・少し離れて撮影。EOS 70D / 1/30秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 18mm
絞りF8・距離数mで撮影。EOS 70D / 1/6秒 / F8 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 18mm
絞りF11・距離数mで撮影。EOS 70D / 1/50秒 / F11 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 18mm

逆光耐性は?

 10mmおよび18mmいずれも逆光での撮影でもコントラストも高くフレアも少ない。ただ広角レンズであるだけに画面内に太陽を入れるとゴーストの発生は免れない。また色収差も目立つ。光源を画面に入れての撮影ではある程度の割り切りが必要だ。

広角端

太陽が画面内に入る逆光で撮影。EOS 70D / 1/500秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 10mm
太陽が画面外にある逆光で撮影。EOS 70D / 1/400秒 / F4.5 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 10mm

望遠端

太陽が画面内に入る逆光で撮影。EOS 70D / 1/320秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 18mm
太陽が画面外にある逆光で撮影。EOS 70D / 1/200秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 18mm

作品

広角端10mmで撮影。木の根元から枝の先に広がる葉までを超広角レンズ特有の強い遠近感を活かそて撮影。葉と葉の間から漏れる光でもコントラストは低下せず力強い。強い生気が感じられる写真となった。EOS 70D / 1/3秒 / F8 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 10mm
望遠端18mmで木と地面が同化する様に近づく。色乗りも深く木の表面に生えた苔の深い緑が、森の瑞々しさを伝えてくれる。開放絞りにおいての緩やかなぼけ具合も心地よい。EOS 70D / 1/5秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 18mm
10mmの広々とした画角は室内空間の撮影にも最適。F8まで絞り部屋全体にピントを合わせる。照明の直射光でゴーストが発生しているが、この広がりには代えられない。EOS 70D / 1.6秒 / F8 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 10mm
小学校の旧校舎。かつて子どもたちが学んだ教室に並ぶ使い込まれた机と椅子の質感をしっかりと描写。開放絞りだが急激なぼけ方ではなく、手前から奥までなだらかにボケているのがわかる。手持ち撮影でのスローシャッターだが、強力な手ぶれ補正機構のおかげで手ブレもしていない。EOS 70D / 1/15秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 18mm
今も引き継がれる旧家にて初夏の強い陽射しを一時しのぐ。このレンズは歪曲も少なく建物などの撮影でも気持ちよい程まっすぐに捉えることができる。とても優秀だ。EOS 70D / 1/1.7秒 / F5 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / 12mm

まとめ

 キヤノンのEF-SレンズはAPS-CセンサーのEOSデジタル専用レンズとして設計されている。そのためフルサイズ機では使用ができず、フルサイズ機との併用や将来的にフルサイズ機へのステップアップを想定しているユーザーは購入を躊躇することもあるだろう。

 ただ、今回紹介した「EF-S 10-18mm F4.5-5.6 IS STM」は専用設計だからこそ画質を下げること無く、軽量かつコンパクトなレンズとすることができた良い例だと言える。それに、なにしろ10mm(16mm相当)という超広角は撮影していてとても面白く実用的な画角でもある。実勢価格も4万円前後とコストパフォーマンスは非常に高い。

 AFも高速で静粛性の高いSTM(ステッピングモーター)を採用しているので、写真のみならずムービーでの使用でもストレスが無く使える。APS-CセンサーサイズのEOSをメイン機としているユーザーにとっては積極的に選択する価値のあるレンズといえるだろう。

礒村浩一

(いそむらこういち)1967年福岡県生まれ。東京写真専門学校(現ビジュアルアーツ)卒。広告プロダクションを経たのちに独立。人物ポートレートから商品、建築、舞台、風景など幅広く撮影。撮影に関するセミナーやワークショップの講師としても全国に赴く。近著「マイクロフォーサーズレンズ完全ガイド(玄光社)」「今すぐ使えるかんたんmini オリンパスOM-D E-M10基本&応用撮影ガイド(技術評論社)」Webサイトはisopy.jp Twitter ID:k_isopy