インタビュー
「ライカQ2」ハンズオン&開発責任者インタビュー
"ライカの歴史上でも大きなヒット作"の続編
2019年3月19日 07:00
ライカカメラ社が3月に発売する「ライカQ2」の実機レポートをお届けする。
本機は35mmフルサイズ・4,730万画素のイメージセンサーと、28mm F1.7の単焦点レンズを搭載したレンズ一体型のデジタルカメラ。いわゆる"フルサイズコンパクト"と呼ばれる製品だ。前モデルは2,400万画素センサーを搭載した「ライカQ」で、2015年6月に登場した。
ライカといえばレンジファインダーカメラのM型が有名だが、マニュアル操作が基本なため思い通りに撮れるようになるまでにはいくらか練習が必要だ(今となっては、それが人気の理由でもある)。そこに登場したライカQはM型にないAFや近接撮影も可能で、買ったその日から不自由なく撮れる。実際、その手軽さに慣れてしまってM型に戻ってこないライカユーザーも少なくない。ライカいわく、ライカQは現在の製品ラインナップにおいて最もポピュラーな1台で、ライカの歴史上でも大きなヒット作なのだという。
続くライカQ2の開発にあたっては、こうして人気を得たライカQのコンセプトをそのままに、使い勝手などに関する細かなリファインを施したのが特徴。ライカQでは見送られていた4K動画記録にも対応する。
外観上は、防塵防滴のシーリングを追加しながら、ライカQのサイズ感をキープしているのがポイント。本体サイズは縦横が同寸で、レンズの長さ方向に少し増えたのみ。重量はシーリングに加えてバッテリーの大型化なども影響しており、バッテリーとSDカードを含めて640gから718gに増えている。
開発責任者インタビュー
ドイツのライカカメラ本社で写真製品部門のグローバルディレクターを務めるステファン・ダニエル氏に、ライカQ2に関するアップデートの詳細を聞いた。
—— 4,730万画素という高解像度を選んだ背景を教えてください。以前のライカQやライカM10が登場した頃は「35mmフルサイズで2,400万画素が画質的にベストバランス」という話でした。
確かに、当時はよいバランスでした。しかしライカQから4年ほどが経過していて、その間に半導体のプロセスも改良されたため、ダイナミックレンジやS/N比を犠牲にすることなく4,730万画素にできました。画質的にデメリットがないのであれば、クロップなどの撮影自由度が高まる高解像度センサーを採用する意味があります。
ライカQ2であれば、28mmのレンズを35mmの画角にクロップしても3,000万画素が残ります。私自身、50mmの画角にクロップして撮影したJPEG画像を見て、クロップしていたことを忘れてしまっていたぐらい解像感が高く、画質も良いです。
—— JPEGの画質も良くなっていますか?
ライカのカメラ内で生成するJPEGは割とニュートラルな絵作りでしたが、ライカM10の開発時に行った調査では、ライカM9の鮮やかな絵作りが好評だったため、最近はその方向に振っています。
以前のライカユーザーはコンパクトカメラであってもRAWを活用する人が多かったのですが、最近はスマートフォンなどを経由して撮って出しのJPEG画像を活用する人も増えたので、そのまま使えるような絵作りを意識しました。
—— レンズはライカQと同じですか?
光学設計は同じです。バランスが良く、4,730万画素の高解像度でも問題のない性能です。変わっているのは鏡筒内に防塵防滴のためのパッキンが入っていることで、それによってレンズ鏡筒が少し長くなり、径もわずかに太くなっています。
—— バッテリーはライカSL用の大きなものに変わりました。
新しいプロセッサーや高解像度のデータを扱うには高い処理能力が必要で、従来のライカQのバッテリーでは撮影枚数が減ってしまいます。ライカSL用の大きなバッテリーを採用したことで、撮影可能枚数は従来の270枚から350枚に向上しました。
このバッテリーの変更や防塵防滴シーリングの影響もあるため、ボディの内部構造はライカQと比べて完全に新しいものです。しかし、レンズ鏡筒を除いた本体部分のサイズはライカQと全く同じです。
—— USB PDで高速充電はできますか?
大型化を避けるためにUSBポートを設けていないため、USB充電はできません。
—— Bluetooth LEを新搭載しました。
スマートフォンと常時接続でき、カメラの電源がオフの状態でも電源を入れたり、画像転送などを行う場合にはWi-Fi機能を起動できます。
Wi-Fi通信はとても電力消費が大きいですが、Bluetooth LEで常時接続していると、必要時だけWi-Fiがオンになります。Bluetooth LEの消費電力は小さいため、基本的にBluetoothは繋ぎっぱなしで使われることを想定しています。
—— プロ用カメラとして位置づけられているライカSやライカSLと並んで、ライカQ2も防塵防滴になりました。
ライカQ2の企画時に顧客の要望を調査したところ、トップにあったのが防塵防滴でした。また、ライカQがプロのツールとしても受け入れられていることを認識していたため、ライカQ2にはウェザーシーリングを施しました。
—— ライカSLやライカM10も防塵防滴を謳っていますが、その度合いは違いますか?
ライカQ2には初めて「IP52」という保護等級を記しました。実際の防塵防滴性能は、ライカSLと同じぐらいです。ライカM10はカメラボディだけが防塵防滴です。ちなみにMレンズには電気部品が使われていません。
—— EVFが良くなっていますね。クリアで色割れがなく、目を置く位置にも寛容になりました。これはライカCLなどと同等ですか?
解像度だけ見れば従来のライカQと同じですが、パネルが液晶から有機ELに替わりクリアになりました。アイピースの光学系を新しくして、倍率も0.7倍から0.76倍に高まっています。ライカSLやライカCLと同様のEVFテクノロジーを、このライカQ2のサイズ感に収めるのが挑戦でした。
—— 従来のライカQは本体内にゴミが入り込んでセンサーに乗ってしまうと取り除くのが大変でしたが、今回その対策はありますか?
ライカQ2にウェザーシーリングを施したもう一つの狙いは、外からゴミが入らないようにすることでした。センサーにゴミが付着して写り込んでしまうことは、ライカQにて寄せられた不満点でした。
—— ライカSLのように超音波式のゴミ取り機構を搭載しようとすると、カメラは大きくなりますか?M型にも欲しいという声があります。
まず、ライカQ2にはシーリングがあるので、そうしたゴミ取り機構は不要でしょう。
M型はギリギリのサイズで設計しているので、もしゴミ取り機構を付けるとしたら、またライカM(Typ240)のように本体が厚くなってしまいます。ライカM10ではその代わりとして、イメージセンサーのカバーガラスを撮像面から少し前に離して設置することで、以前よりゴミが乗っても目立ちにくくしています。
—— 手ブレ補正に「オート」が加わりました。どのような挙動になりますか?
シャッター速度が1/60秒より速いと、手ブレ補正が自動的にオフになります。手ブレ補正で光学系を動かすということは、どうしても光学性能的に若干のロスがあるため、ライカQでは議論の末にデフォルトを「光学式手ブレ補正:オフ」にしていました。しかしスローシャッターでの撮影時には手ブレ補正が働くメリットが大きいので、ライカQ2では新たに「光学式手ブレ補正:オート」という選択肢を設けました。
—— シャッターボタンの近くにあった録画ボタンはどこへ行きましたか?
撮影画面で十字キー中央のボタンを押すと、動画モードに切り替わります。そのままシャッターボタンを押せば動画記録が開始されます。
—— ライカQが人気を博したことを、どのように分析していますか?
誰がどう見ても「ライカ」であるスタイリングに、ライカのDNAとも言うべき造りの良さと高いレンズ性能がありました。そこに素早いAFが加わっています。
ライカではM型も大きな存在ですが、その良さをそのまま受け継いで改善したおかげでライカQは成功したと考えています。その良さとは、全てのパラメーターがダイヤルとして表に出ているという操作性や、持ち心地が優れている点です。
—— これでライカQ2は4,730万画素という高解像度になったわけですが、LマウントのライカSLなども今後その方向に進みそうですか?
業界のトレンドなので、あえて抗うことはないと思いますが、今は何とも言えません。
ライカストアで展示中
3月中に発売予定のライカQ2は、発表翌日からライカストアで実機を展示している。ライカQユーザーにとって進化が実感しやすいこともあり、予約は好調だという。発表会などで実機を試した方々の感想を聞くと、やはり各部の改善で完成度が高まったと評価する声が多く聞かれた。
動画機能に関しては、横幅の広いシネマ4Kにも対応する点が歓迎されているが、今のところフルオート撮影に限定されているため、アップデートによる機能拡張を待ち望む声があった。ちなみにインタビューで話を聞いたステファン・ダニエル氏いわく、発売後のファームウェアアップデートによる改良はライカQ2でも続けていくという。
筆者の感覚としても、スペック以外の部分でライカQに感じていた細かな不満点が軒並み解消されており好印象だった。具体的には、ファインダーの品位や電源レバー/シャッターボタン周りの操作感など、スペック以外に所有感や満足度に影響する質感が底上げされている。税別65万円という価格はカメラ業界の常識で見れば決して手頃ではないが、ライカのブランドイメージなどを踏まえて理解・納得できるのであれば、妥協のない画質を気安く持ち歩けるデジタルカメラとして、安心して勧められる仕上がりになったと言えるだろう。