イベントレポート
【CP+2019】新興レンズメーカー編:マウントアダプター & MFレンズのマニアックな世界
キヤノンRF、ニコンZへの対応が進む カメラ業界以外への進出も
2019年3月4日 12:47
EOS R、Nikon Z 6/7、そしてLマウントアライアンス……本格的なフルサイズミラーレス時代を迎え、マウントアダプター、MFレンズといったマニアックなカテゴリーが大きな盛り上がりを見せている。
久しぶりの新マウント登場を、どのような製品で迎え撃つのか。大手メーカーの王道的な展開と一線を画し、斜め上を行く製品の数々をご覧あれ。
Kent Faith International Limited/焦点工房
TECHART TZE-01
焦点工房とK&F Conceptの合同ブースは、世界初公開となる製品が3つ展示されていた。中でもCP+2019の開催前から噂になっていたのが、TECHART TZE-01である。
ソニーEマウントレンズをニコンZマウントのボディに装着でき、AFレンズについてはニコンZボディでもAF動作を実現する。
これまでこの手のスマートアダプター(AFレンズを他マウントでAF動作されるマウントアダプター)は一眼レフ用レンズをミラーレスでAF動作させていたが、ついにミラーレス to ミラーレスのスマートアダプターが登場したのだ。
展示されていたTZE-01は未塗装のプロトタイプで、真鍮の地金が剥き出しだった。これにSonnar T* FE 55mm F1.8 ZAを装着して試写したところ、中近距離ではスピーディーかつ高精度に合焦していた。焦点工房の代表によると、製品版ではファームアップが行われ、動作はより高精度になるとの話だった。
ただし、TZE-01の真骨頂は別にある。実はこの製品、TECHART LM-EA7に対応しているのだ。
LM-EA7はライカMマウントレンズをソニーEマウントボディでAF動作させる。このLM-EA7とTZE-01を二段重ねすると、ニコンZボディでライカMマウントレンズのAF動作が可能になるわけだ。
オールドレンズ用途に関しては、TZE-01の登場により、ニコンZとα7 IIIがほぼタメを張ることになる。オールドレンズ好きにとっては気になる製品だろう。発売は本年6月の予定だという。
7Artisans 60mm F2.8 Macro
七工匠からはAPS-C向けの等倍マクロ、7Artisans 60mm F2.8 Macroが初公開となっていた。
極端に長いエクステンションチューブが用意され、これによって最大撮影倍率5倍での超マクロ撮影を実現する。
デモ機ではレンズの先に小さな模型の人形が置いてあるのだが、ライブビュー画面を見ると、その人形の口だけが超クローズアップされていた。
Speedmaster 50mm F0.95 III
中一光学のSpeedmaster 50mm F0.95 IIIも新製品。第2世代からの変更点は、光学系の見直し、およびニコンZマウントおよびキヤノンRFマウントへの対応となっている。価格据え置きのアンダー10万円がうれしい。本年に4月に発売だという。
レンズ先端にシルバーのバヨネットが付き、デザイン面でも洗練された印象を受けた。
SHOTENマウントアダプター
SHOTENのキヤノンRFマウント用ライカMマウントアダプターも展示されていた。高品位版のEXタイプ、ヘリコイド搭載のMタイプをラインアップする。
同じくSHOTENのニコンZマウント用ライカMマウントアダプター。写真はEXタイプで、ヘリコイド搭載のMタイプも製品化の予定だという。
上海传视摄影器材有限公司(KIPON)
CANIKON
KIPONブースではCANIKONと描かれた大きなパネルが注目を集めていた。
CP+2019の直前、KIPON代表のFacebookにCANIKONのイラスト画像が投稿され、マウントアダプター愛好家の注目を集めていた。その名からも想起できるように、キヤノンEFマウントレンズをニコンZマウントボディに装着し、AF動作を可能にするスマートアダプターだ。キヤノンEFマウントレンズをニコンZマウントボディでAF動作させる製品は、世界初となる。
展示はモックアップで動作の確認はできなかったが、基板上に多数のチップが載り、シンプルなフォーカスエイドのアダプターと異なり、手の込んだ製品であることが伝わってくる。KIPON代表に取材すると、動作面に相当の自信がある様子だった。
Elegant
レンズ方面は、ミラーレス向けのMFレンズElegantシリーズをリリースした。既存のIberitシリーズの光学系をそのまま利用し、キヤノンRFマウント、ニコンZマウントに対応させた製品だ。
ElegantシリーズをEOS RとNikon Zに装着したところ。ともにMFレンズで、電子接点は未搭載だ。
以前は上海工場だけでレンズ製造していたが、現在は台湾の工場も利用し、加工および組み立て精度を高めているという。
最初期のIberitシリーズはシャドウの締まりが弱く、好みの分かれる絵作りだった。昨年末に最新ロットのIberitを試写したところ、明らかに画質向上を見て取れた。販売価格も従来よりこなれ、改めてKIPONのMFレンズに注目してみるとおもしろそうだ。
ちなみに、同社は以前HandeVisionというブランド名でレンズを展開していたが、現在はマウントアダプターと同じKIPONでレンズを展開している。
Elegantシリーズは欧米で人気が高く、現在は生産が追い付かないほどだという。そのためマウントアダプターの生産ラインが圧迫され、ニコンZマウントやキヤノンRFマウントのティルトシフトマウントアダプターに着手できないとKIPON代表はぼやいていた。マウントアダプターメーカーからレンズメーカーへ、KIPONというブランドが軸足をシフトしはじめた証かもしれない。
KamLan
KamLanは2015年に登場した台湾のレンズメーカーだ。台湾で設計を行い、深圳の工場で製造しているという。主な出荷先は欧米で、日本国内についてはサイトロンジャパンが代理店になる。
製品ラインアップはAPS-Cならびにマイクロフォーサーズ向けの大口径MFレンズが中心だ。50mm F1.1、28mm F1.4など、APS-C向けの大口径MFレンズが2万円程度で販売されるという。言わば、おこづかいで買える大口径MFレンズである。
会場には新型の50mm F1.1が展示されていた。写真左が既存の50mm F1.1で、右の太い鏡胴が新型の50mm F1.1 IIだ。改良点の詳細は不明だったが、レンズ直径が明らかに大きくなっている。
APS-C向けのレンズということもあり、どの製品も小型軽量だ。鏡胴の作りは思いの外しっかりしている。
50mm F1.1 IIをα7 III(APS-Cモード)で試したところ、絞り開放からシャープに写る一方で、アウトフォーカスしかけた部分がうっすらと滲む。APS-Cでこれだけボケを稼げるのはうれしい。
ボケはわずかにざわつきがあり、どちらかといえば味わい派のレンズと言えそうだ。オールドレンズやトイレンズが好きな人はチェックしておきたいメーカーだ。
最新製品のKamLan 21mm F1.8(APS-C)。CP+2019開幕前日に届いたとのことで、詳情報細どころかネームプレートすら用意されていなかった。開発ロードマップでは2019年第2四半期に登場となっている。
左のKamLan 7.5mm F3.2はマイクロフォーサーズ用のフィッシュアイレンズ。右のKamLan 28mm F1.4はAPS-C対応の大口径広角レンズだ。
APS-C向けのフィッシュアイレンズ、KamLan 8mm F3も用意。レンズラインアップはかなり充実している。
Irix Lens
CP+初出展となるIrix Lensは2016年創業の新しいレンズブランドだ。スイス、ポートランド、韓国の国際チームで、ポーランドに研究開発センターを建設中だという。
すでに欧米、中国、オーストラリアなどに製品を出荷しており、このCP+で日本進出の足がかりを作りたいとのことだ。11mm F4、15mm F2.4、150mm F2.8と3本のMFレンズを展示していた。
Irix Lensの特徴は、ひとつの光学システムに2つのハウジングを用意している点だ。
写真はどちらも11mm F4レンズ。左はモダンデザインのFirefly、左がプレミア仕上げのBlackstoneだ。
モダンデザインのFireflyは、軽量化と操作性を重視し、旅行や日常的なスナップに適している。
一方、プレミア仕上げのBlackstoneは、アルミニウムとマグネシウムの合金を採用し、高級感と防塵防滴の強化が特徴だ。ハードなアウトドアシーンにも耐えうるという。11mm F4と15mm F2.4がこのスタイルを採用していた。
15mm F2.4も2種類のハウジングを用意している。写真の個体はFireflyで、実にデザインリッチな外観だ。
150mm F2.8はフルサイズ用の等倍マクロだ。ハウジングのデザインはFireflyと呼ばれる1種類のみ。
マウントはキヤノンEF、ニコンF、ペンタックスKに対応する。ミラーレスについてはマウントアダプターを介して使ってほしいとのことだ。
取材中、α7 IIIで試写したいと申し出ると、メタボーンズ製のスマートアダプターを貸してくれた。これらの組み合わせで、α7 IIIのボディ側で絞りコントロールが可能だった。電磁絞りのMFレンズというスタイルはなかなかめずらしいだろう。
α7 IIIにIrix 11mm F4を付けて絞り開放で撮影した。歪曲や周辺光量落ちはさほど気にならない。
このレンズは無限遠位置で一旦ピントリングが止まり、そこからすこしだけオーバーインフ方向に回る。マウントアダプターによって微妙な誤差があるので、このようなオーバーインフのピントリングになっているのだろう。
また、フォーカスロック機能を搭載しており、ピントリングを任意の位置でロックできる。打ち上げ花火や鉄道など、置きピンを要するシーンで役に立ちそうだ。
LAOWA/サイトロンジャパン
サイトロンジャパンのブースでは、同社が代理店となるLAOWAの参考出品レンズが大量に展示されていた。
LAOWAというと、歪曲ゼロを謳った超広角を筆頭に、総じて尖ったレンズが印象的なメーカーだ。今回の参考出品も、その印象を裏切らない先進的なレンズが多い。
360度VR、シネ用、ドローン用など、写真以外の分野に対応したレンズが多数展示されていた。レンズが活躍できるシーンに積極的に取り組む姿勢が印象的である。
Laowa 4mm F2.8はマイクロフォーサーズ向けのフィッシュアイレンズだ。パノラマ合成することで、360度VRなどでの利用を想定しているという。
Laowa 17mm F4 Zero-Dは富士フイルムGFX用の超広角レンズだ。同社が得意とする歪曲をかぎりなくゼロに近付けた仕様だ。
Laowa 100mm F2.8 2:1 Ultra-Macro APOはフルサイズ向けの2倍マクロだ。アポクロマート仕様の高画質モデルである。
Laowa 15mm F2 Zero-DにキヤノンRFマウントとニコンZマウント仕様が登場する。
超広角ズームのLaowa 10-18mm F4.5-5.6 Zoom。こちらもキヤノンRFマウントとニコンZマウント仕様が発売される予定。
シネ用ズームが参考出品されていた。アリフレックスPLマウントを採用している。
単焦点広角のシネ用レンズ。これらも参考出品という形で展示されていた。
Laowa 17mm F1.8はマイクロフォーサーズ用の広角レンズだ。小型軽量に特化し、ドローンでの使用を想定しているという。
Lomography
Lomogon 32mm F2.5 Art Lens
ロモグラフィーのブースでは、クラウドファンディング中のLomogon 32mm F2.5 Art Lensを新製品として展示していた。展示品は真鍮ゴールドの筐体で、これ以外に真鍮ブラック、アルミニウムブラックをラインアップする。
ダイヤル式の絞りリングを採用し、どの絞り値でも絞り穴が円形になる。マウントはキヤノンEFとニコンFで、展示品はマウントアダプターを介してα7に装着してあった。
試写してみたところ、広角ということもあり、同社のペッツバールほどのクセはない。
絞り開放で周辺光量落ちがあるものの、1段絞れば四隅も明るくなる。レトロスタイルを楽しみつつ、ナチュラルな描写を満喫できる広角レンズという印象だった。
YONGNUO
長春日辰光電技術有限公司
Kapkur MFレンズ
同社は2000年に設立された中国のレンズメーカーだ。Kapkurというブランド名でカメラ用レンズ、動画用のアナモルフィックレンズ、スマートフォーン用レンズなどを製造している。
今回の出展ではキヤノンEFマウントのMFレンズを展示していた。マウント形状こそキヤノンEFマウントだが、電磁絞りではなく、絞りリングを搭載している。
大口径中望遠の85mm F1.4。キヤノン製品に似た外観だが、絞りリングを搭載している。
マウントに電子接点はない。オーソドックスなMFレンズという位置付けだ。
6.5mm F3.5のフィッシュアイレンズ。これもキヤノンEFマウントを採用している。
まとめ
マウントアダプターとMFレンズを中心に、マニアックな製品をピックアップしてみた。マウントアダプター業界はニコンZマウントが大きな軸となり、特にスマートアダプターの躍進が印象的だ。これまでマウントアダプターはオールドレンズを謳歌するためのアイテムだったが、今後はAFレンズにも圧倒的な自由をもたらすだろう。
MFレンズはIrix Lens、KamLanというニューフェイスが加わり、今後の展開に期待がかかる。また、Laowaがドローン、シネ、360度VRなど、新たな活躍の場を求めた点も注目したい。新興メーカーだからこそ、写真を撮る新たなシステムにも積極的なのだろう。マウントアダプターせよMFレンズにせよ、既存のカメラという枠組みを超えようとする勢いを感じた。