イベントレポート

マップカメラのトークイベント「ライカQの世界」

萩庭桂太さん・松田忠雄さんが語る、ライカQの美点と使いこなし

マップカメラが主催するトークイベント「ライカQの世界〜プロカメラマンが伝授するQワールド〜」が12月17日に東京・新宿で開催された。本稿ではその模様をお届けする。

ライカQは、2015年6月に発売されたコンパクトカメラ。35mmフルサイズCMOSセンサーと手ブレ補正機構付きのズミルックス28mm F1.7レンズを搭載する。同イベントでは、プロカメラマンの萩庭桂太さんと松田忠雄さんの2名が、ライカQで撮影した作品や使いこなしを紹介した。

ライカQ

萩庭さんはライカM9の時代から、雑誌や広告写真など全ての仕事をMデジタルのみで行っている。しかし画質以外の部分でデジタルカメラとして未熟と感じていた点もあったため、半信半疑で触ったライカQの完成度には驚き、思わず購入してしまったという。発売から1年半が経過してようやく店頭在庫が出てきたため、こうして良さを伝えるイベントを開催できることになった。

松田さんは、仕事用のメインシステムとしてデジタル一眼レフを使いつつ、ライカQを"普段持ちカメラ"として愛用。画質と使い勝手の良さから、すぐに仕事でも使うようになったそうだ。日頃は一眼レフでマニュアルフォーカス撮影をしているが、ライカQでは顔認識AFなども積極的に試したという。フィルム時代にもカラーフィルムで仕事をする傍ら、モノクロフィルムを詰めたライカM6も携行していたそうで、それに近い感覚だという。

萩庭桂太さん、松田忠雄さん。愛機ライカQを手に

大胆なトリミングにも耐える画質

ライカQは有効約2,400万画素のCMOSセンサーを搭載。2人とも画質への評価が高く、松田さんは「35mm相当のクロップぐらいまでは、雑誌や写真での見開きページに対応できる」と印象を語る。ライブ会場の様子を引きで撮影して、観客の髪の毛の質感まで写っているところに驚いたという。暗所にも強いため、ブレないように頑張ってホールドするより、迷わずシャッタースピードを上げてしまえるのも利点。

レンズ一体型のライカQで撮ってトリミングする場合、他のカメラでズームレンズを使ってフレームいっぱいに撮るより、結果的によい画質を得られるケースがあるという萩庭さん。検証として、28mmレンズのライカQで撮った写真を75mm〜80mmぐらいの画角にトリミングしても、会場の大きなスクリーンに映し出して違和感がないことを確かめた。トリミングすると画素数は減るが、画質自体は変わらないと強調する。

松田さんの作品。引きのカットだが髪の毛の質感が残り、輝度差のあるシーンにも強い

レンズの描写傾向は、松田さんいわく「少し硬いかな?と思うぐらいのシャープさ」で、これも後からシャープネスを掛けるより、硬めの描写を後処理で柔らかくする方が仕上がりがよいため、好都合だと話す。絞り開放+逆光の条件でもハイライトにフリンジが出ず、レタッチの手間が省けるのもプロとして嬉しいポイントだそうだ。

また、パースの付き方が自然で、28mmという広角で撮っても周辺部に違和感がないため、メインの被写体に目がいきやすいという話も出た。萩庭さんいわく、撮影時に余計なことを気にせずに撮れるのが、こうした「いいカメラ」を使う理由だとのこと。

こちらも松田さんの作品。広角レンズだが周辺描写が自然と高評価

「本来のライカに戻ってきた」(萩庭さん)

小型軽量という特徴も、ライカQの美点として話題に上った。一眼レフをメインとする松田さんは、ポートレート撮影の終了間際にライカQを取り出して、不意打ちにように自然な表情を切り取ることがやりやすいと経験を語る。

また、レンズシャッター機ゆえの静かさも、ライブ撮影において静かなバラード曲でもシャッターを切れるなど、撮影シーンを広げてくれるという。萩庭さんは、ライカMより小型軽量で静かに撮れるライカQを手にして、「本来のライカ(=静かな場所でも撮れる小型カメラ)に戻ってきた」と思ったという。

趣味の写真撮影では無編集やノートリミングを美と考える向きもあるが、プロの考え方として「撮った後で(RAW現像などを通じて)自分のものにすればよい。撮れなければどうにもならない」と、シーンを問わず撮れるカメラのメリットを解説した。

萩庭流ライブビューカメラの撮影術「スポット測光+親指AF」

萩庭さんの作品。トリミングではなくマクロモードで撮られた1枚。レンジファインダーカメラのライカMでは難しい、寄りの表現も可能

トークの後半では、萩庭流のカメラ設定が披露された。ポイントは「スポット測光」と「親指AF」だ。

"親指AF"とは一眼レフカメラでよく使われる撮り方であり、本来はクロップ操作などが割り当てられているライカQの背面ボタンにAF作動を割り当てて、シャッターボタンの半押しではAFを動作しないようにする。

スポット測光にするとフレーム内中央部分の明るさだけを測るため、暗い部分に向ければライブビュー全体が明るく、明るすぎる部分に向ければ逆になる。ファインダーとしてのEVFをより便利に使うアイデアだ。

この場合の撮影の流れとしては、まず親指AFで被写体にピントを合わせ、カメラの向きを動かして好みの明るさになる場所を探し、そこでシャッターボタンを半押し(AEロック)する。再度フレーミングしてシャッターを全押しれば、露出補正の操作なく好みの明るさで撮影できる。

また、ファームウェアVer.2.0ではAFターゲットの大きさを変更できるようになり、よりAFで狙い通りのピント合わせを行うために「小」がオススメとされた。

最後は買い方アドバイス

イベントの冒頭で来場者に挙手を求めると、なんと半数近くが既にライカQのユーザーだった。これには登壇した2名も驚いていたが、まだ購入していない来場者に向けて、最後にデジタルカメラの買い方アドバイスもあった。

シンプル操作で高画質なライカQは"初心者にこそ使ってほしいカメラ"だというが、60万円という購入価格のハードルは高い。しかし、「定価販売のライカは買い取り価格が下がりにくい」という傾向を踏まえると、印象は変わってくるかもしれない。

具体的には、ライカQブラックの場合、本稿執筆時点でのマップカメラ価格が税込57万4,500円で、ワンプライス買取(動作に問題なく欠品がなければ定額)の買取価格が現在33万円。この価格で買って手放せば負担は25万円弱となり、漠然と「60万円!」と考えるよりは気持ちの上で現実的に見えてくる。

萩庭さんはトークの締めくくりに、「カメラは手元からなくなっても、撮った写真は手元に残ります。カメラは写真を作るための"工場"ですから、そのカメラでしか撮れない写真ができるのであれば、買ったほうがいいでしょう」と意見を述べた。