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シグマ本社新社屋が落成。緑に囲まれたオフィスの内部をレポート

“dp0 Quattroの合理性に着想”

シグマ本社新社屋(神奈川県川崎市麻生区栗木2-8-15)

神奈川県川崎市に所在する株式会社シグマの本社新社屋(神奈川県川崎市麻生区栗木2-8-15)が落成。5月18日からの本運用に先駆け、関係者向けに披露会が行われた。

シグマ代表取締役社長の山木和人氏

披露会の冒頭では、同社代表取締役社長の山木和人氏が新社屋のコンセプトや、そこに込めた願いについて説明した。同社はこれまで「スモールオフィス、ビッグファクトリー」を掲げて工場をメインに投資してきたが、エンジニアが増えたことで従来のオフィスが手狭になり、4年前から“東京の西側”の広い範囲で立地選定を行っていたという。その中で、「東京近郊で働くのにこれほど良い場所はないのでは」と栗木地区の良さを再発見したそうだ。

設計のコンセプトには、会社という長い時間を過ごす場所だからこそ、快適でワクワクしながら出社できること、1日の時間や季節の移り変わりを感じられること、社員同士が豊かなコミュニケーションを生むような環境になるよう願いを込めたという。

新社屋は、既存の本社社屋と同じ川崎市のマイコンシティ内に立地しており、両社は徒歩3分の距離だという。従業員の執務エリアがメインとなる「高層棟」(地上4階)、来客も含めた社内外のパブリックスペースを備える「低層棟」(地上2階)、この2棟を繋ぐ「レンズセラー棟」(地上1階)から構成される。なお、ユーザー向けのカスタマーサポート窓口は引き続き従来の社屋(神奈川県川崎市麻生区栗木2-4-16)で継続するという。

新社屋の設計は「dp0 Quattro」のユニークさと合理性に着想

鹿島建設株式会社 横浜支店 建築設計部 建築設計グループ 設計主査の中村義人氏。dp0 Quattroの写真を示してコンセプトを説明した

新社屋の設計・施工は、鹿島建設株式会社 横浜支店が担当。同社建築設計部の中村義人氏は初めて手にしたシグマ製品が「dp0 Quattro」で、第一印象としてユニークな外観だと感じたが、シグマ担当者の説明を聞くうちにその合理性を知ったという。

具体的には、ボディが薄く横に長いのは放熱のためであり、レンズ部分が大きいのは高画質の超広角レンズを実現するため、といった点だ。シグマがデザイン思想として掲げる「機能がそのまま外観に表れる」の例であり、シグマ本社新社屋もこうした発想で設計できないかと考えたそうだ。

川崎市マイコンシティには、建物の高さは20mまで、外装は白またはライトグレー、敷地の60%は緑と土に囲まれる、という要件があり、地形の事情も踏まえて新社屋は2棟に分けることにしたという。それぞれを森に対して適した距離感で作り、繋げるというアイデアだ。リラックスする食堂は森に近く、執務エリアはほどよく森から距離を取っている。

新社屋のレイアウト(模型を撮影)。左上が高層棟(執務フロアなど)、手前が低層棟(食堂など)、2棟を繋ぐ中央右の通路状の建物がレンズセラー棟。写真の手前側が森に面している

高層棟

1階にはロビーや大会議室のほか、約160席のカンファレンスルームを用意。今後はユーザーイベントや発表会の開催も予定しているという。

カンファレンスルーム。座席数は約160

2階はレンズ、3階はカメラの開発チームの席が並ぶ。上下階の繋がりを感じられるようにとの考えから、フロア内側の大階段には吹き抜け空間を設けた。

2階と3階を繋ぐ吹き抜け
3階、カメラ開発チームのフロア。社内の主な家具や什器はイタリア家具メーカーのアルペール製で統一したという。右奥に見えるのは低層棟の屋上庭園

2階と3階にはそれぞれ、背の高いイスを備えた席が用意あった。シグマには伝統的に社長室がないそうで、山木社長が各フロアを訪れた際に座る場所だという。各社員の席はフリーアドレスではなく、個別の席が割り当てられている。鍵の掛かる収納スペースやフロア内の打ち合わせスペースも充実していた。

背の高いイスが備わるのは社長席

とても広々とした空間は、天井に梁を設けて柱が目に付かない設計。窓が大きく森に繋がるようなイメージになっており、すぐ近くの森や低層棟の屋上庭園が目に入る。長い時間を過ごすオフィスゆえに、仕事に没頭しても昼夜や四季の感覚がなくならないようにとの考えだそうだ。

圧巻だったのは、1階から2階に繋がる階段部分のライブラリー。シグマが所蔵していた4,000冊の写真集が並び、社員が自由に手に取れるようになっている。

中央階段のライブラリー。写真文化史で重要な作品集を時代ごとに陳列しているという

レンズセラー棟

レンズセラーの内部。黒一色の箱のような空間に、画素に見立てた製品が浮かび上がる。天井の高さは4m

基本的には一般公開されない新社屋だが、もし訪れる機会があれば間違いなくハイライトとなるのがレンズセラー棟だろう。レンズセラーの“セラー”は、ワインセラーと同じで“収蔵庫”のような意味を持つ。このコンセプトとデザインは、新社屋全体をスーパーバイザーとして監修・助言したプロダクトデザイナーの岩崎一郎氏によるもの。

ここは「SIGMAの思想を熟成させる場」だといい、レンズやカメラの内部を想起させる要素で構成した。展示棚を背にした壁面下部には窓を設け、ファインダーやレンズ越しに見える世界に。展示棚の発光面はイメージセンサー、グリッド状に並んだ製品は画素に、それぞれを見立てているという。製品は2012年のSGV(SIGMA GLOBAL VISION)発表以来のものが並ぶ。森に通じる明るく開放感たっぷりの新社屋の中で、ここだけは黒ずくめの特別な空間だ。

各製品を「画素」に見立てた
カメラやレンズが並ぶ
渡り通路から中庭とレンズセラー棟(黒い部分)を見たところ

低層棟

社員食堂で食事をしたり、外部から来客があった際のミーティング場所となる建物。1階にはカフェテリア(社員食堂)、4つの小会議室などがある。

1階のカフェテリア。いつでも温かい食事を取れるようにと用意された、本社で初という自社食堂

2階には複数の会議室とラウンジがある。各会議室は、ダゲールやガウス、ザイデルといった光学に縁のある名前が付けられている。

ダゲールにちなんだ会議室名
会議室の名前一覧。こうしたサインやピクトグラムは、同社製品のアートワーク監修を手がけるアートディレクターの佐藤卓氏が担当

森に面する開放感あるラウンジ。ため息の出るようなオシャレ空間で、ここからライブ配信される「SIGMA STAGE ONLINE」を見てみたい。

ラウンジ。三方向が大きなガラス窓

栗木緑地と屋上庭園

新社屋は、栗木緑地の森を真横に見る立地。緑道が整備されており、出勤時のショートカットや、休憩時のリフレッシュ、今後のタッチアンドトライなどのイベントに使えるような敷地計画だという。また、新社屋が面する一部緑地の維持管理もシグマとして行っていく。

新社屋の候補地として視察した際の写真と、現在の写真

屋上庭園は低層棟にあり、従業員のリフレッシュのみならず、シグマのカメラやレンズで写真を撮りたくなる空間を目指している。66種の宿根草が植えられ、数週間ごとに異なる顔を見せるという。設計した株式会社グリーン・ワイズがメンテナンスを続け、約3年をかけて完成予定とのこと。

屋上庭園。右の白い建物が高層棟
建物の中も外も、開放感たっぷりの豊かな空間だった
本誌:鈴木誠