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ニコンサロン年度賞:44回伊奈信男賞・21回三木淳賞授賞式が開催

受賞者それぞれの現在とこれからの活動は?

ニコンサロン写真展年度賞の授賞式が12月4日、東京・ニコンプラザ新宿で開かれた。

伊奈信男賞は岩根愛写真展「KIPUKA」に

第44回伊奈信男賞に決まった岩根愛写真展「KIPUKA」(2018年10月24日~11月6日開催、銀座ニコンサロン)は「ハワイと福島の二部構成が緊密に練り上げられ、一つ抜きん出た展示だった」(選考委員・飯沢耕太郎氏)と高く評価された。

受賞理由についてコメントする飯沢氏

岩根さんは仕事で2006年にハワイへ行き、偶然、日系移民の墓地を眼にした。知らなかった歴史に驚き、通い始めた。たくさんの書籍を読み、日系人へのインタビューから始めたそうだ。

ハワイへ移住した人のポートレートと風景、インタビューで構成した十文字美信氏の「蘭の舟」は繰り返し読んだ本の一つ。この写真展は第5回(1980年度)伊奈信男賞に選ばれている。

またハワイで日系三世の写真家BRIAN Y. SATO氏とも知り合った。氏も日系二世のポートレートをまとめた「ごくろうさま:ハワイの日系二世」で第37回(2012年度)伊奈信男賞を受賞している。

「その授賞式には私もお邪魔しました。今、同じ場所に立っている驚きと縁を感じるとともに、深い喜びが湧いてきます」

受賞の喜びをコメントする岩根さん

その後、ハワイのボンダンスに出会う。その源が福島にあったことを知り、二つの地を行き来するようになった。

「先人たちがやっていないことは何かを考え続けていました。ハワイと福島のつながりに立つことで自分の居場所と、自分が撮るべき写真を見つけました」

受賞の副賞はニコンのフラッグシップ機が予定されていたが、岩根さんの希望でミラーレス機の「Z 7」となった。

「360度撮影できるサーカットカメラを使っていて、この重量が20kgほどあります。これ以上、機材を重くしたくないので、わがままを言わせていただきました」

サーカットカメラで撮影された作品

木村伊兵衛写真賞の受賞後は多くのメディアなどのインタビューを受けた。

「自分の内面や行為を何度も反芻することになり、考えてもいなかったことや考えようとしていなかったことを気づかされました」

先日、シカゴのアーチスト・イン・レジデンスで8mの大型プリントなどを制作してきた。その作品は2020年2月、愛知県小牧市の一般財団法人こまき市民文化財団主催による作品展で展示される。

[2019年12月11日修正]記事初出時に2020年2月の作品展示を「愛知県小牧市の美術館」としておりましたが、正しくは「一般財団法人こまき市民文化財団主催による作品展」でした。お詫びして訂正・追記いたします。

今もハワイ、福島に通う。特にこれまで通った福島の帰宅困難区域を再度撮影しているそうだ。

「海外での展示の計画があり、今の情報も伝えたくて撮影を続けています」

三木淳賞は山下裕写真展「Cosmetic」に

第21回三木淳賞の山下裕写真展「Cosmetic」(2018年10月10日~23日開催、銀座ニコンサロン)は、過酷な場所をも美しさを感じさせる映像に変換し、見る人の心に深く訴えかける表現力が受賞の決め手になったようだ。選考委員の今森光彦氏は「作者の静かな眼差しを感じ、写真の光景が目の前で起きているような錯覚に陥る」と評している。

山下さんの受賞理由についてコメントする今森氏

「Cosmetic」の撮影現場はインドネシアのジャワ島東部にある。スキンクリームの原料となる硫黄の採掘現場と都市部へ出荷されるまでを取材したものだ。

山下氏は小学校6年生の時、テレビでこの現実を知り、15年ほど経って本で改めて読んだ。

「私たちが日常使う多くのものは知らない人たちの代償の上で成り立っている。都市部に住んでいては分からないことを伝えたいと思った」

作品についてコメントする山下さん

写真は小学生の頃から始め、大学に入り、現代が抱える課題をテーマに撮り始めた。近年は汚染、労働環境に関心があるという。

ジャワ島には一度行き、現地の人に会い、その後、SNSなどで連絡を続け、採掘現場の管理者から撮影の許諾を得た。撮影は2017年の終わりに1週間ほど滞在して進めた。

山下氏は筑波大学で工学を学び、現在は下水プラントの現場を管理する会社に出向中だ。撮影は休日を使って行なっている。

「Cosmetic」の撮影後は、同じインドネシアにある村にシフトした。その村は外部との交流を一切持たなかったが、6年前からその扉を開いた。

「数々の物が入り、生活がどんどん変わり始めた。その変化を記録しています」

三木淳賞の受賞で与えられる2年以内の新作展はこのテーマで行なう計画だ。

第44回伊奈信男賞受賞作品展「岩根 愛 写真展『KIPUKA』」および第21回三木淳賞受賞作品展「山下 裕 写真展『Cosmetic』」は、東京および大阪のTHE GALLERY(ニコンプラザ内)で見ることができる。東京会場では両作品展が同時開催となっており、会期は2019年12月16日まで。

大阪会場は開催期間が異なっており、「岩根 愛 写真展『KIPUKA』」は2020年1月16日~1月22日まで。「山下 裕 写真展『Cosmetic』」は、2020年1月23日~1月29日となっている。

ニコンサロン写真展年度賞受賞作品展(東京)

会場

ニコンプラザ新宿 THE GALLERY 新宿1、2
東京都新宿区西新宿1-6-1 新宿エルタワー28階

開催期間

2019年12月3日(火)~2019年12月16日(月)

開催時間

10時30分~18時30分(最終日は15時00分まで)

休館

日曜日

ニコンサロン写真展年度賞受賞作品展(大阪)

会場

ニコンプラザ大阪 THE GALLERY
大阪市北区梅田2-2-2 ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階

開催期間

岩根愛写真展「KIPUKA」:2020年1月16日~1月22日
山下裕写真展「Cosmetic」:2020年1月23日~1月29日

開催時間

10時30分~18時30分(最終日は15時00分まで)

休館

日曜日

市井康延

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。ここ数年で、新しいギャラリーが随分と増えてきた。若手写真家の自主ギャラリー、アート志向の画廊系ギャラリーなど、そのカラーもさまざまだ。必見の写真展を見落とさないように、東京フォト散歩でギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。