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第44回木村伊兵衛写真賞授賞式が開催 岩根愛さんが作品を語る
ハワイ日系移民の歴史を写す 受賞作品展も開催中
2019年4月25日 14:19
第44回木村伊兵衛写真賞に選ばれた岩根愛さんの「KIPUKA」は約13年の歳月をかけて撮られた作品だ。4月24日、東京・一ツ橋の如水会館で開かれた受賞式には、撮影に関わったハワイ、福島などから、多くの人々が集まり、栄誉を祝った。
候補作は写真関係者270名から約40名が挙げられたが、岩根さんの「KIPUKA」は最も多くの人が推していて、最終選考会も数十分で終了したそうだ。
「彼女の写真集が一番存在感があった」と審査員の石内都さんは言う。
「審査では最終選考に残ったほかの5作も議論を尽くしたが、結論は変わらなかった」(審査員・平野啓一郎さん)。
岩根さんは2006年、仕事で初めてハワイを訪れた。そこで古いお寺の裏手に日系移民たちの墓を見つけた。日本からサトウキビ畑の労働者として150年ほど前、ハワイに渡った人たちがいた。
「その痕跡が忘れられつつあり、そうした墓地が無数にあることを知り、そこから私の旅は始まりました」と岩根さんは話す。
ハワイの各地で先祖供養のため、夏には盆踊りが盛大に催される。なかでも福島からの移民が伝えたフクシマオンドは一番の人気で、そこから岩根さんは震災後の福島にも通い始めた。
また岩根さんはハワイの記念写真で使われていた古いパノラマプリントを目にした。そこから写真館が使っていたコダックのパノラマカメラ「サーカット」を見つけ、今回の撮影に使った。カメラがゼンマイ仕掛けで、360度回転するものだ。ちなみにカメラの重量は14kgほどだそうだ。
石内さんはこの写真集で自分の知らない歴史を教えられたと話す。そうした歴史を目に見える形にしたことはとても意味のあることだとも指摘する。
「パノラマで撮られた墓は、移民の歴史がきちっと現わされていて、胸が詰まる。現地の人たちときちんとコミュニケーションをとりながら撮影してきたことも、とても評価したい点です」と石内さん。
時間や労力をかけたから、良いものが作れることには必ずしもならないと平野さんは言う。「写真家の身体(しんたい)と、そこに写し取られた身体が力強く均衡していて、死者のカタチのようなものを手繰り寄せるような力強い作品です」
2018年5月、キラウエア火山が大規模な噴火を起こした。岩根さんは写真集を制作中だったが、急遽、ハワイに向かい、その様子を収め、写真集の表紙にも使った。
岩根さんは、近いうちに噴火後の様子を撮りに行きたいと話す。
また福島では帰宅困難区域の様子が変わりつつあるので、その風景もパノラマカメラなどで収めていく。
「KIPUKAのコンプリート版ができるまで、撮影は続けていきます」
またそれと同時に新たなテーマを見つけ、リサーチを始めたそうだ。
第44回木村伊兵衛写真賞受賞作品展
岩根愛写真展「KIPUKA」
会場
ニコンプラザ新宿 THE GALLERY 新宿1
東京都新宿区西新宿1-6-1 新宿エルタワー28F
開催期間
2019年4月23日(火)〜2019年5月2日(木)
開催時間
10時30分〜18時30分
最終日は15時00分まで
休館
日曜
入場料
無料